アドルフ

読んだ本の感想。

パンジャマン・コンスタン著。昭和29年6月5日 発行。



1816年に公刊された本。パンジャマン・コンスタン(1767年~1830年)の作。

著者には政治家としての側面があり、1830年の七月革命にも参画しているらしく、文学者としてよりも政治家として有名なのだとか。

主人公アドルフの22歳~26歳の物語。10歳年長のポーランド人エレオノールと恋仲になり、情夫である伯爵から奪う。しかし、自分のものになった途端に情熱が失せ、最終的にエレオノールが病死してアドルフは自由になるが、その後の人生を何一つ決まった道を辿る事無く終えたらしい。

*****************

P3:
遠くからだと他人に与えている苦悩の姿は、楽に通り抜けられる雲のような、茫漠としたものに見える。自分は世間の承認によって力づけられている。ところでこの世間ときたら、不自然極まるもので、規則で道義を、儀礼で感動を補い、醜聞を憎むけれども、背徳的だからといって憎むのでなく、うるさいから憎むというのである。その証拠には、醜聞さえなければ、悪でも結構歓迎している。

⇒冒頭のこの言葉が全体のテーマだと思う

主人公は、周囲からの抵抗や反対をもって情熱に変えていると思う。アドルフが最初に冷めるのは、父親からエレオノールが居住する町に滞在する期間延長を許可されてからであり、抵抗する事により自由を感じているのかもしれない。

アドルフの父親は息子に対しても内気であり、観察者として息子に接し、息子が愛情を示さない事を嘆く。

P37~P38:
P***伯爵は彼女に対してまことの愛情を抱き、その献身に対しては心からの感謝を捧げ、その性格に対しては非常な尊敬を払っていた。だが彼の態度にはいつも、何かしら、正式な結婚もせずに公然と身をまかせた女性を上から見下している、といったところがあった。
(中略)
私は彼女を天上の尊い創造物のように考えていた。私の恋は宗教的な性質を帯びていた。ところで、彼女はその反対の方向におとしめられはすまいかと絶えず怖れていただけに、私の恋はいっそう彼女にとっては魅力のあるものだった。

P69~P70:
激し易い女性が力や理屈の代りに使うあの苦しみの示威運動を、人々はどうかすると本当のものと信じたがるのです。心はそれに苦しみながら、自尊心はそれを悦ぶのです。そして、自分が引起した絶望に身を捧げていると思いこんでいる男も、実は、自分自身の虚栄心の錯覚にわが身を犠牲にしているにすぎないのです。世間にざらにいる情熱的な女で、棄てられたら死んでみせると言わなかった者は一人もありますまい。そのくせ、みな結構生き永らえて、けろりとしているのですからね。

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ベッドルームで群論を

読んだ本の感想。

ブライアン・ヘイズ著。2010年9月10日 第1刷発行。



難しい本だった。

1 ベッドルームで群論を
マットレスの返し方を考える話。

2 資源としての「無作為」
無作為(ランダム)を導出する困難について。

現代文明には様々な無作為に依存している。1940年代にロス・アラモスで生まれたモンテカルロ法は、無数にある中性子が原子核に衝突すると跳ね返るか吸収されるかをシミュレートするために使用された。コンピューター・ネットワークでも無作為を外部資源として活用している。

無作為の元は、乱数導出アルゴリズムの最初に入力される種となる値であり、ランダムな数とは最初に入力された種に含まれる無作為を引き延ばしたものである。

3 金を追って
パレートの法則では、収入分布はべき乗法則に従い、収入がx以上の人間の割合は1/(xのa乗)となる。つまり、富の大きさに偏りがある。

フリーマーケット・モデル:富が一人に集まる
結婚離婚モデル:
結婚と離婚を繰り返すように、二つの主体が取引し合った時の分配は、相互の財産を合算し、出鱈目に分割するようになる。気体分子運動をモデルにしたパターン(気体分子が衝突し、全ての運動エネルギーが一つの分子に凝縮される事は無い)で、富は指数的に分布するが、一人の人間のみに集まらない。

4 遺伝暗号をひねり出す
1953年にDNAの螺旋構造が解明されて以来、遺伝暗号 = 4文字のDNAのアルファベットで書かれた文字(アデニン、チミン、グアニン、チミン)から約20種類の蛋白質のテキストに翻訳する鍵が科学者達の思考対象となる。

遺伝子は多くのジャンクを許容しており、パターンを見つけたいという人間の衝動が精緻な遺伝暗号という的外れな方向に科学者を向かわせる。

著者は誤っていたはずの遺伝暗号の仮説を美しいとする?

5 死を招く仲違いに関する統計
ルイス・フライ・リチャードソンの研究。

戦争を1820年~1950年までで、マグニチュード(死者数)で分類。マグニチュード2.5以上(死者数約300人以上)の戦いが315件掲載される一覧表を作る。

マグニチュード7(死者数約1000万人以上)の戦争は人類史上二回しか発生しておらず、この二つの戦争の死者約3600万人は過去130年間の戦争による死者の約60%になる。

マグニチュード6の戦争は死者約50万人~約200万人で七回発生しており、太平天国の乱(1851年~1864年)、南北戦争(1861年~1865年)、ラ・プラタの三国同盟戦争(アルゼンチン・ブラジル・ウルグアイとパラグアイの戦争)、ボルシェビキ革命(1918年~1920年)、国民党と共産党の第一次抗争(1927年~1936年)、インドの宗教対立(1946年~1948年)である。

この戦争における規則を見つける事は困難で、隣国である事や軍備拡大競争は戦争における決定的な予見とはならない。大国は多くの国と隣国であるし、315の事例で軍備拡大競争の証拠があったのは15件だった。

6 大陸を分ける
分水嶺 = 分水界(雨水が流れる方向を分ける境界)となる山脈の事。

地理的に考えるのと数学的に考えるので違うらしい。

7 歯車の歯について
歯車の歯の数を決定するために数学が用いられた話。

例えば、一分間に一回転する歯車の動きを、一日に一回転する歯車に伝えなくてはならないとする。この場合、歯車の歯の数は、後者は前者の1/1440となる。しかし、歯車が一つの歯しか無い事はあり得ず、後者に10個の歯があると、前者の歯は1万を超える膨大なものとなる。

解決策は幾つかの歯車を組み合わせる事とする。

6/200と5/216の複合歯車を組み合わせると、積は30/43200となり、1/1440と一致する。30/43200の30を素因数分解すると、2 × 3× 5となり、この内の二つの数を掛け合わせた歯車を使用すれば、歯が30の歯車と同様の効果を生み出す事が出来る。

8 一番簡単な質問
集合を二つの集団に分ける困難について。NP完全問題。

簡単に出来る事でも、解答に時間がかかる。

9 名前をつける
識別に必要な名前や数が枯渇していく事について。

17世紀~18世紀にかけて、カルロス・リンナエウスは、同じ動植物が異なる名前で呼ばれないよう、ラテン語二名法つぉいて生物を属と種に分けて名付けるようにした。

現在では名前が枯渇していく。証券取引所のティッカー・シンボル、電話番号、製品コード、社会保障番号、etc。

天文学では星や銀河の数が膨大過ぎて意味ある名前を付けられる見込みは皆無となっている。

10 第三の基数
記数法の基準となる数について。

10は指で数える人間の基数であり、二進数は数値(1か0)と論理値(真か偽)を同じ信号で表現可能。

著者は、3が効率の良い基数とする。

自動車の距離計では、10進数を使用すると、10の目盛りがついた6個のホイールで0~99万9999の100万の数を表現出来る。それが二進数では百万の数を表現するのに20個のホイールが必要になる。

目盛りの数 × ホイールの数とすると、10進数は60、二進数は40の費用となる。

これを三進数とすると、13のホイールで百万の数を表現可能(費用は39)。

3の効率が良いのは、自然対数の基底である約2.718に近いからであり、分数が許されるなら2.718進数でホイールは13.82個が百万の数を表現するのに必要となり、費用は37.55になる。

11 アイデンティティーの危機
コンピュータープログラムで同値性を保障する困難。

以下の「同じ」は違う。

アレックスとバクスターは同じネクタイをしている。
アレックスとバクスターは同じ先生に習っている。

同じ種類と、一にして同じは異なる。アレックスとバクスターを同じ部屋に連れてくれば、二人のネクタイが一本なのか二本なのか明確になる。計算機でも、二つの対象のメモリ内でアドレスが完全に一致した場合に一にして同じと考える。

12 長く使える時計
ストラスブール・カテドラルの時計から、長く使用される時計について考える。

入念に整備した機械でも数百年後には動かなくなる。機械が壊れた時に部品を取り換えるには、その装置を支える制度も存続させなくてはならない。

さらに未来は異なる世界である。ローマ暦は1500年使用された後に放棄され、エジプトの暦は3000年、マヤ暦は2000年しか使用されなかった。現代の価値観が永遠の真実を具現している可能性は低い。

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インドシナ文明史

読んだ本の感想。

ジョルジュ・セデス著。1969年12月5日 初版第1刷発行。



かなり古い本。インドシナ = インド + 中国(シナ)であり、ガンジス河以東の半島において、アジアの二大文明の影響を強く受ける地域があった。征服による中国化と文化的浸透によるインド化。

インドシナ半島の大部分はインドの影響が強いが、ヴェトナムは初期から多くの文化要素を中国から受け継ぐ。中国化したヴェトナム人はインド文明に影響されるというよりも、異なる文明を破壊する傾向があった。

インドの影響が強いのは中央集権的政府が存在した地域であり、インド文化を身に付けた王族が、村落レベルまで統治権を及ぼした。それまで部族の域を超えた社会集団が存在しなかった地域に、集団間の障壁を破る国が誕生したものと思われる。

以下は、文明が広範囲に影響する王国を形成する要因。

①公共事業
排水、灌漑、道路等の地方的レベルを超えるインフラ整備を行う制度や技術。
②権威
インド法におけるダルマの概念は、異なる慣習の上に画一性を課す事無く、精神的権威として君臨する枠組みを提供した。

インドシナ土着社会の内部には、インドにおけるカーストに相当する社会区分が存在しており、インド文明が浸透し易かったとする。独自性を失う事無しに統合される枠組み。インド文明は共通語としてのサンスクリット語によって統一性を保持しながらも種々の文化を達成した。

インド的観念では王の位格は神聖とされ、九世紀初頭に形成されたアンコール王朝は、全世界の支配者である唯一人の王として集権的国家を作りだした(その前の扶南王は六世紀に全大地の所有者の称号を名乗っている)。

インドが齎したのは、諸概念、方法、用語であり、中央集権国家形成のための法体系を創るために必要な道具だった。武力によらない文化的浸透は強い力を持ち、多神教の伝統を持つ一般民衆は、ヒンドゥーや仏教の神々が土着の神と並んで崇拝されても気付かなかったかもしれない。

<インドシナ半島の地形的条件>
インドシナ半島の土壌は一般的に貧しく、農業に適した地域は主要な河(紅河、メコン河、メナム河、サルウィン河、イラワディ河)のデルタ地帯と中流平野、シナ海の沿岸平野とトンレサップ盆地である。

山岳地帯と高原では水不足により、焼畑耕作以外の耕作形態が馴染まなかった。対して平野とデルタ地帯の大部分では水稲耕作が行われた。

交易においてはシャム湾に面したヴェトナム南部の西海岸や、ベンガル湾に面したインドシナ半島西海岸に良港が多くあり、支配権を巡ってメナム河下流域の国家とイラワディ河下流域の国家で衝突が発生する傾向がある。

また、北部においては中国との境は通り難いわけでなく、守備防衛は困難。紅河渓谷は雲南地方への通路であり、フランスがトンキンに勢力を置いた。広西省の西江の支流がランソン省に流れ込んでおり、中国から紅河デルタへの進出は容易。イラワディ渓谷やサルウィン河が貫流するビルマ方面も自然の通路であり、第二次世界大戦中は援蒋ルートがあった。

そして半島東部では安南山脈や1000mを超える峠が交通を困難にしており、大規模な同質的社会集団の発展を妨げた。半島西部ではメナム川が交通路として機能し、中央部のメコン河は南と北の連絡路となる。

〇ヴェトナム
紀元前221年の始皇帝による中華統一後、江南地方は中国による遠征の対象となり、紀元前214年には広東地方を南海(広東)、桂林(尋州)、象(南寧)の三郡を中心に支配された。

秦始皇帝の死後、ヴェトナムの支配者達は独立を模索する事になる。0年~25年まで交州を統治した錫光は中国化を行い、中国人植民者の影響により紅河デルタの文化は中国化していく。学校や鋤の使用、中国式結婚儀礼、中国風軍隊、etc。

〇タイ人
カンボジアの支配下に置かれたメナム中部の民族。北部から南部への民衆の地滑り運動によって移動したと思われる。アンコールワットの寺院には、王に随伴する軍の戦闘に、クメールとは異なる服装の兵士集団が示されており、碑文はシヤームとしている。

タイ人は遅くにインドシナ半島に到達したので、クメールやモン、ビルマのようにインド文明の支脈と見做す事は出来ない。他民族の文化要素に同化する事に熱心で、八世紀に南詔王国を雲南に建国した民族の基盤とされる。

<十三世紀>
モンゴルの侵略等により、インド化された諸国が衰退していく。1282年がモンゴル軍による最初の侵略とされ、タイ独立の契機となる。1287年にモンゴル軍がミャンマーの都市パガンを奪取すると、その領土は分割され、それを利用したタイ人がパガンの東方の米作平野の小さな領土の幾つかで権力を掌握していく。

モンゴル軍による動揺は変化を速めただけであり、十二世紀からインド文明から離れた独自色を帯びる土着民が人口を増加させた事が根本的要因とする。

王個人を崇拝するヒンドゥー教や大乗仏教は大衆と関係無い宗教になっていき、セイロン仏教が広まっていく。それがモンゴルによる同様によって作用し、クメール帝国やチャム王国、ビルマ王国が新しい国家に代替されていく。

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なぜ国家は壊れるのか

読んだ本の感想。

ビル・エモット著。2012年8月22日 第1版第1刷発行。



イタリアの経済について書いた本かな?

1950年代~1970年代で、経済成長率は日本が第一位でイタリアは第三位。日本の年率8.9%に対しイタリアは5.8%(OECD加盟国の平均は4.1%)。

日本は重工業とハイテク産業によって成長したが、イタリアはデザインやマーケティングに重点を置く北東部や中部の中小企業が中心だった。

イタリアの経済成長は製造業、特に中小企業が貢献し、北部のトリノ(フィアット自動車工場の本拠地)、ミラノ(銀行業務とファッションの中心地)、ボローニャ(オートバイのドゥカティ、自動車のフェラーリの本拠地)に多くの労働者が移った。

しかし、イタリアの経済成長率は、2001年~2010年で世界164位と落ち込んでいる。

イタリアでは1970年代の労働争議の影響で過度に保護的な労働法が施行され、労働争議鎮静化のために導入された寛大な公的年金等で膨大な政府債務が発生した。

〇中小企業
1970年に制定された労働法は、15人以上の労働者を雇用する企業は“正当な理由”が無ければ従業員を解雇出来ないとする。さらに賃金を三ヶ月毎にインフレ係数に連動する義務を負わせた(1992年まで)。

そのため、イタリアでは多くの企業が15人未満の小規模に留まろうとする。

10人~99人を雇用する企業の割合は、1961年にドイツ18.3%、イタリア26.4%だったのが、2001年にはドイツ22.5%に対してイタリアは41.8%と急増している。

競争激化等に対応するために買収や合併で企業規模を拡大する方策が、銀行業務を除いて発生し難い。

著者は、投資を促進する労働法や市場参入が容易になる制度、インフラ投資や大学改革等を提唱している。

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確率的発想法

読んだ本の感想。

小島寛之著。2004年2月25日 第1刷発行。



Ⅰ 日常の確率
第1章 確率は何の役に立つか
一般の人達の確率は、個人的経験の中で「〇〇%という確率と言われた時では、このような場面に遭遇した」という個人的記憶に基づく印象に従う事を意味する。

天気予報等の確率は、「気温、湿度、気圧等が今と同じ過去において、どの程度雨が降ったか」という数値である。一般の人達はマクロな数値と体験を混同している。

【用語】
標本空間:
明日の天気={晴れ、曇り、雨、雪}という可能性の列挙。

ステイト:
標本空間を構成する要素。上記では、晴れ、曇り、雨、雪がステイトとなる。ステイトを複数集めたものをイベント(事象)と呼ぶ。

⇒標本空間として発生し得る事象が列挙され、一つのステイトが選択されると、世界のあり方が決定される

オッズ:
ステイトの起こり易さの程度。

不確実性モデル:
表法空間にオッズを組み合わせたもの。過去の情報からオッズを定めると統計的オッズになり、主観的オッズと対置する。

正規化:
足し合わせて1になる事。オッズを正規化すると、他の不確実性モデルと比較し易くなる。

確率における不確実性の源は、未来の時間と知識不足であり、情報を得る毎にモデルを変更出来る「条件付き確率」が提唱される。

第2章 推測のテクニック~フィッシャーからベイズまで
以下の二つの思想。

①統計的推定
大数の法則として、確率という仮想的な数値が多数回の観測という現実の行為の中で頻度の比として確認されると考える。

<コイン投げの例:フィッシャーの最尤思想>
本物のコインと偽物のコインがある。偽物のコインは表裏に偏りがあり、コイン投げをすると表が出る確率が60%である。偽物コインを百回投げて表が49回出た場合、その確率は(0.6の49乗)×(0.4の51乗)となり、本物のコインを百回投げて表が49回出る場合の10倍以上の確率となる。
仮にコインが偽物であるとすると、本物である時と比較して1/10未満の奇跡が発生した事になり、本物のコインと判断した方が無難。

⇒現実に発生した事は、最も起き易い出来事と考える

②ベイズ推定
最初に先入観による確率を設定し、得られる情報によって先入観を改訂していく。

<嘘つきの例>
ある人物が「正直」か「嘘つき」かについて、二つのステイト{正直、嘘つき}を設定し、それぞれのステイトについて、正直なら本当の事を90%の確率で言い、嘘つきなら本当の事を20%の確率で言うと設定する。

さらに、その人物が正直か嘘つきであるかの確率を半々と先入観で設定する。

次に、人物の言動を確認し、一回嘘をついた場合、正直が嘘をつく確率(10%)、嘘つきが嘘を言う確率(80%)から、最初の半々の確率が、0.5×0.1:0.5×0.8 = 8:1となり、嘘つきである確率が8/9と50%から変化する。

⇒ベイズ推定は、最初に先入観で確率を割り当てる事に特徴がある

<癌検診の例>
的中率95%の癌検診について考える。
癌の罹患率を0.005と仮定すると、

癌で陽性の確率:0.005 × 0.95
癌で陰の確率:0.005 × 0.05
健康で陽性の確率:0.995 × 0.95
健康で陰性の確率:0.995 × 0.05

となり、陽性となった場合、0.005 × 0.95 : 0.995 × 0.05 = 19:199となり、陽性となった場合でも現実に癌である確率は19/218で9%程度となる。

ベイズ推定では、95%の有効性のある検査でもそれほど確度は高くないが、自然罹患率0.5%程度だったのが、9%となったのは危惧すべき状態でもある。

<コイン投げの例:ベイズ推定の場合>
統計的推定で出したコイン投げの例をベイズ推定で考える。

コインが本物で表が出る確率:0.5
コインが本物で裏が出る確率:0.5
コインが偽物で表が出る確率:0.6
コインが偽物で裏が出る確率:0.4

最初にコインの真偽を半々で設定し、コインを一回投げて表であった場合、0.5 × 0.6:0.5 × 0.5 = 6:5となり、偽物である可能性が高くなる。

******************

ベイズ推定は最初に適当な確率を設定する事から恣意的という批判を受けたが、1950年代のレオナルド・J・サベージの研究により、不確実性は主観的なものという指摘によって復権していく。

ベイズ推定は一回の試行によって推定値を求める事が可能であり、多数回実施すればフィッシャー流と変わらない結果が出るため、逐次合理性という最新の情報だけでアップデートしていく方法論として重宝されるようになる。

第3章 リスクの商い
人間は期待値の通りに動かない。例えば、競馬では100円の馬券に対して期待値は75円になる(開催費や国庫納付が25%)。

そうした不合理を説明するために、フォン・ノイマンとオスカー・モルゲンシュテルンは1944年に『ゲーム理論と経済行動』を出版し、選好理論として人間は内面的な好みの順位に従って行動するとした。

個々人の内面には各種の行動への好みを表現する関数(期待効用基準)が存在し、確率的に整合的でない行動も内面的な満足によって選択する場合がある。

期待値が数学的に正しい規範を意味するのに対し、期待効用基準は「そのようにすれば人間の行動を説明出来る」という記述的意味合いがある。

個人間でリスクに対する態度が異なる事が、保険や先物取引が成立する原因である。

第4章 環境のリスクと生命の期待値
人間はリスクを評価する基準として、期待値以外に恐怖因子や不可知因子を重要な要素として考える。

〇ホフマン方式
自動車事故等で人間が死んだ場合、損失を期待値 = その人間が生きていた場合に稼いだであろう所得で計算する。

期待値は仮想的な数値であり、人間の価値を算出する根拠としては納得し難い面もある。

Ⅱ 確率を社会に活かす
第5章 フランク・ナイトの暗闇~足して1にならない確率論
ベイジアン的確率論の紹介。

〇エルスバーグのパラドックス
被験者に以下の二つの壺を見せる。

壺①赤球が50、黒球が50入っている
壺②赤球と黒球が入っているが、数は不明

上記から一つを選んで球の色を当てる場合、多くの被験者が①を選ぶ。主観確率で考える限り、①と②で正解する確率は等しいが、人間は不確実性を厭う。

測定可能なリスクは不確実ではない。不確実性回避として確率が分からない状況は忌避される。

エルスバーグは、壺①の方が選好される事から、後にキャパシティ理論(数学者シャケが提唱)と呼ばれる、壺②では赤球と黒球を選ぶ確率がそれぞれ50%以下となり、合計確率が100%にならない状況を理論的に説明した。

〇マルチプル・プライヤー
上記の壺②に対しては、球が100個入っているという以外に客観的情報が無いため、赤球と黒球が100:0~0:100で入っているという101通りの状況が考えられる。

この101通りの状況が平等に発生し得るとして期待値を計算する(マルチプル期待値)。その状況で期待値が最少となるのは選びたい球が一つも入っていない0の状況で、壺①での最小期待値である0.5より小さい。

このようにして、最悪の数値を避けるために壺①が選好されると考える事も出来る(マックスミン原理)。

*****************

不確実性を厭う性向は、経済社会も説明出来る。最も悪い数値を指標に用いるため、不確実性のある状況では決断に尻込みして、環境変化に対応し難くなる。

第6章 僕がそれをしっていると、君は知らない
   ~コモン・ノレッジと集団的不可知性

コモンノレッジ(共有知識):
多くの人々が知っており、且つ、互いに知っている事を知っている状態。

個人個人が同じ情報を持っていても、相手が知っている事を知らなければ以心伝心は出来ない。暗黙の了解が公的に告知される事で変化が発生する事がある。

⇒本章では数学的に共有知識を説明している

第7章 無知のヴェール
   ~ロールズの思想とナイトの不確実性

〇ジョン・ロールズ
人々の効用を合計して最大化を測る事を拒否する。以下の公正の原理を提唱。

①自由の優位
各人は、他人の自由と両立する限りで広範な基本的自由に対する権利を有する。
②格差原理
不平等は不遇な人々の利益を最大化し、機会均等の条件が満たされる限りにおいて許容される。

不平等を是認するが最も不遇な人々の厚生を最大化しようとする。ロールズはそれを数学的に導出される原理と考えた。

ロールズは道徳的人間(公正を理解・実践し、人生の目標を追及していく)を仮定し、基本材(人間が社会生活を営むために必要な財)を目標にするとした。

第8章 経験から学び、経験にだまされる
   ~帰納的意思決定

経験から引き出す推測を理論化する試み。

事例ベース意思決定理論:
自分の知識や経験から類似の問題を抜き出して、その結果を踏まえて判断する(頻度主義)。

帰納論的意思決定理論:
プレイヤーがゲームの構造を勝手に想像すると仮定する。根拠の無い仮定が、経験によって正当化されていく事がある。

多くの人間は確率ではなく理屈で証明する。

他人と予想が食い違った場合、「幾ら賭けるか」と質問するのは、自分の正しさを証明するためである。人間は内面に「公理系」と「過去の経験の蓄積」を持っており、それらを現状況に当て嵌めて行動する。そして公理系には経験による自己修復機能がある。

人間は固着した論理から離れられない場合でも、強制的体験から自分の過誤に気付く事がある。貧しい個人的体験によって、最適でない行為を最適と思い込む事がある。



第9章 そうであったかもしれない世界
   ~過去に向けて放つ確率論

意思決定理論は、人間が不確実性を定式化し、どのように意思決定するかを分析する。それは選好という内面的好みを定式化する事によって行われる。

しかし、決断は出来事が生起する前に行われるが、その帰結は事後に齎されるため、事前での好みと事後での好みは食い違う場合がある。

多数回同じ事象に立ち会う事は稀であり、一回の参加に対する基準は難しい。結果のみで考えるのでなく、他の選択をした場合の世界を対にして初めて不確実性への選好が理解出来る。

成功者が寄付するのは、自らの成功が過誤の結果である事の償いの意味があるのかもしれない。

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