けむたい後輩

読んだ本の感想。

柚木麻子著。2012年2月25日 第1刷発行。



この話がどのように構想され、何が書かれているのか読み終わってから暫し悩んだ。

著者が考える女性の幸福について書かれた本だと思う。その本質は主体性の喪失にあり、他人が羨望する何かを無自覚的に奪う事で成立する。

登場人物は、羽柴真美子(才能)、増村栞子(過去の栄光)、浅野美里(努力)に分けられる。

増村栞子のつまらない彼氏が、浅野美里に簡単に惚れてしまう場面が多い。意図的に行うと悪者になってしまう。無自覚でなければならない。

羽柴真美子は才能や幸運によって他人が羨望する男や地位を手に入れていくが、それらは他者の嫉妬や羨望によって記述され、羽柴真美子自身の内面は描写されないため、圧倒的な虚無が感じられる。

増村栞子に対する崇拝は、無自覚的な演技であり、ラストの「煙草消してもらえませんか」という科白は、学生時代の演技の終焉を意味しているのだと思う。

羽柴真美子は、本当には増村栞子の才能を信じておらず、無邪気の自分を演じるための舞台装置として増村栞子が必要だったのだと解釈する。

【登場人物】
増村栞子:
ヘビースモーカー。聖フェリシモ女学院に通う。翻訳家 増村栄一郎の一人娘。14歳で『けむり』という詩集を出版し、中等部時代から蓮見教授と交際しているが浮気され、卒業後はフリーターになる。
中高時代は周囲から羨望されていたため、大学時代以降は凡庸になってしまった自分を持て余している。

羽柴真美子:
肺が弱い。増村栞子の一年後輩。実家は四十五代続く大地主の家系。多方面に天性の才能を持っている設定で、卒業後は脚本家になる。

以下は、Wikipediaの「澁澤龍彦」のページへのリンク。羽柴真美子は、一ヶ月で澁澤龍彦の著作を全て読破したらしい。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BE%81%E6%BE%A4%E9%BE%8D%E5%BD%A6

浅野美里:
羽柴真美子の友人。アナウンサーを目指して努力しているが、第一志望には受からず、地方局のアナウンサーになる。

真美子、とりこになる(一年生篇)
羽柴真美子と増村栞子が出会う。

浅野美里は、羽柴真美子の心酔が気に入らず、増村栞子を見学するために他学部の講義に出席したところ、増村栞子の恋人である蓮見教授から恋文を受け取ってしまう。

浅野美里は、恋文を見せびらかして増村栞子を笑いものにするが、羽柴真美子の信望は揺るがない。

P48:
あの頃の自分は十分魅力的だったのだ。変わりたくない、という気持ちと、取り残されているのかもしれない、という不安が交互に入り交じる

真美子、とりのこされる(二年生篇)
聖フェリシモ大学の伝統行事「七夕祭」のミスコンに浅野美里が出る話。

ストーカー騒動のためにミスコンは有耶無耶になる。

この章は女性の願望が描かれていると思った。羽柴真美子は、ミスコンのMCを務める芸人コンビ『ピロートークス』の村西(22歳、長身、ハンサム)の初恋の相手であり、村西は羽柴真美子に再会するためにMCを引き受けた事になっている。そして、羽柴真美子はミスコンの最中にストーカーと戦った事で英雄になる。

P99:
都合よく妄想される。少しでも意に添わなければ、ひがまれ、糾弾される。そうした茨の道を彼女は歩んでいくのだろう

P108:
栞子の趣味ってさ、もろ『ユリイカ』読者じゃん。個性派気取るわりには、趣味が安全パイなんだよ。金で買える個性っていうの?矢川澄子とか萩原朔太郎が大好きでさ。映画はゴダールでしょ

P128:
フクゾーのシャツとスカート、ミハマ商会のローファー、化粧気のない白い頬。真美子にはまだまだ少女でいて欲しい。せめて自分が完全に大人になるまでは。いつだって、彼女を守れる自分でいたいのだ

真美子、トリコロール(三年生篇)
増村栞子と羽柴真美子が、教え子を妊娠させたためにフランスに国外逃亡した蓮見教授を探して大学主催の美術研修旅行に参加したが、蓮見教授は結婚していた。

増村栞子はフランスで黒木隆一(26歳、カメラマン志望)と出会う。

羽柴真美子は偶然撮った写真が萩尾有春監督から評価され、「水沢マリカ主演 水底に眠る街」のポスターに羽柴真美子の写真が採用される。悔しがる黒木隆一。

真美子、鳥になる(四年生篇)
増村栞子は日大大通りの書店「CANEL」でフリーターになり、男子学生ばかりの職場で姫になる。

黒木隆一はカメラマンから脚本家志望に転身しているが、『猿でも書ける!シナリオ初級編』を読んだだけの羽柴真美子がテレビドラマ青空シナリオコンクールで優勝する。

増村栞子は羽柴真美子が重たくなっていき、自分は特別な人間でないと告白する。

そして三年後、増村栞子は黒木隆一との映画シナリオ共同執筆をを羽柴真美子に持ちかけるが断られる。

P216:
彼女もまた自分だけの居場所を見つけようと必死なのだろう。それなのに、いつも真美子が出てきて台無しにする。自分を慕ってくれているだけに、そうそう邪険にも出来ない。悪気がないのが一番タチが悪い

P218:
母親を見上げる赤ん坊のような表情を見て、一瞬でも彼女を追い返そうとしたことが悔やまれた。彼女は美里とは違う。こちらのテリトリーを荒らそうなんて思っていないのだ

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ユリゴコロ

読んだ本の感想。

沼田まほかる著。2011年 3月20日 第1刷発行。



以下、ネタバレ含む。

論理的整合性を求める話ではないと思った。

ユリゴコロ = 拠りどころ

愛する人間を殺害しなければ心の安定を保てない人間が書いた手記を読み進める話。

不幸が続く主人公が、実家で連続殺人犯が書いたと思われるノートを見つける。ノートを書いたのが自分の本当の母親と思い、やがて母親(美沙子)が自分の経営する喫茶店に勤務していた事を知る。

美沙子は主人公の恋人 千絵の夫を殺害し、余命少ない主人公の父親と旅に出かける。

【登場人物】
亮介:
主人公。1984年?生まれ。作中では27歳~28歳くらい?犬の運動場付きの喫茶店を経営する。父の病気、母の交通事故死、恋人 千絵の失踪等が連続して発生している。4歳の時に母親が入れ替わった記憶を持つ。

千絵:
主人公の恋人。ギャンブル好きな夫 塩見哲治に脅されている。

(柳原)美沙子:
主人公の母親。連続殺人犯である事が家族に露見し、実父から殺害された事にして失踪していた。

幼少期から人を殺し、娼婦をしていたが、五歳年長の主人公の父親と結婚し、子供が出来た事で憑き物が落ちたようになったらしい。夫が、自分が中学生の時に犯した殺人に関する責任を感じている事から?手記を残して自殺したいと思うようになる?

P273:
子供の将来を想うなら、家族とはいっさい関わるな。今日から別の人間になって生きろ

(柳原)柳原英実子:
主人公が四歳の時に、美沙子と入れ替わる。美沙子が主人公の喫茶店に細谷と姓名を偽って勤務している事を知り、そのしばらく後に交通事故死する。姉と入れ替わる必要はあったんだろうか?

P26:
子供というのはどこかで、ほとんど生理的に神を信じている生き物です

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楼蘭

読んだ本の感想。

井上靖著。昭和43年1月25日 発行。



最初の方に収録されている歴史的な話が好き。

楼蘭
中央アジア ロブ湖の畔にあった楼蘭について。ロブ湖は、1500年の周期で南北に移動する。

紀元前124年:
張騫が、漢の武帝に砂漠地帯の多くの国の一つとして楼蘭の存在を伝える。人口1万4000人~1万5000人程度。アーリア人種のイラン系で農耕や遊牧、採塩や漁業を行う。以後、楼蘭は漢と匈奴の狭間で揺れる事になる。

紀元前77年:
楼蘭の民は、匈奴の脅威から逃れて漢の庇護下に入るため、1500哩南に移動する。鄯善国の誕生。

8年:
漢に内乱が起こり、新が成立。西域諸国を軽視する政策を取る。後漢が成立しても西域諸国を軽視する傾向は変わらず、匈奴陣営につく国が増える。

73年:
北匈奴が河西劫掠を始めた事で、漢の明帝は、班超等の使者を西域に派遣。

107年(安帝、永初元年):
漢の安帝が西域放棄を決定。楼蘭は匈奴の屯所になる。

280年代:
タリム盆地周辺の小国家群が国の数を減らしていく。

445年:
鄯善国は、魏の大武帝と戦って敗北し、魏の郡県同様に扱われるようになる。

洪水
献帝(190年~213年)の頃の漢の将軍 索勱がタクラマカン盆地東部に植民地を築くために出兵し、アシャ族の女を得る。氾濫した河を渡る際に女を生贄にする事を薦められるも拒んで、軍隊をもって河と戦う。

しかし、帰国の最中に河を渡る際に、女を生贄とし、やがて氾濫する河に呑まれてしまう。

P78:
酒泉や涼州の街々のたたずまいを頭に思い浮かべると、何となく夷狄の女をその中にしっくりと嵌め込むことのできない気持ちがあった

異域の人
班超の話。

73年(永平16年)、42歳の時に西域に使した。102年(永元14年)に帰国すると、幼童から胡人と呼ばれる。

P107:
塞外の吏志はもともと孝子順孫ではない。皆罪過の徒をもって、辺土に補せられたものである。蛮夷は鳥獣の心を抱き、養い難く破れ易い。水清ならば大魚なし。こまやかな政は下の和を得ない。よろしく小過に寛にして、大綱を統べるべき

狼災記
紀元前210年頃に、秦の将軍 蒙恬が死亡し、その話を聞いた守備隊長 陸沈康は故国に帰還する事にしたが、途中でカレ族の女と七日間交わった事により、女と一緒に狼になってしまい、後に再開した友人 張安良を殺してしまう。

P126:
われわれの種族では、昔から他種族の者と七夜契るとけだものになると言い伝えられている

羅刹女国
セイロン島付近に散在した島の一つに五百人の羅刹女が棲む島があった。羅刹女は、同棲する男が己を疎んじると男を喰らうが、千日間を無事に過ごすと人間になる。島に漂着したソウカラは、一日を残して羅刹女を捨てて島を出た。

僧伽羅国縁起
玄奘三蔵の大唐西域記に紹介される話。虎と人間の間に生まれた男が、父である虎を殺し、後に獅子国を建国する。

宦者中行説
174年頃に、漢から匈奴へ公主の附添として同行した宦官 中行説が匈奴のために知恵を出す話。

P177:
匈奴の人口を調べたり、家畜の数を調べたりして、そしてそれを箇条書きにして、老上単于のもとに差し出した。こうしたことに依って初めて諸王の兵力や財物を知ることができ、兵制を改革する上に大いに役立った

P178:
漢軍の組織や戦闘法の長所も挙げれば弱点も挙げ、老上単于をして、それに対する対策を考えしめた

P184:
大軍を動かす機会はここ数年間にあると思う。それは漢に対して、呉、楚、趙の王たちのたれかが叛旗を翻す時である

褒姒の笑い
周の幽王の妃を笑わすために、狼煙で兵を動かす事を繰り返した結果、国が滅んだ話。

幽鬼
明智光秀が織田信長に反乱を起こす時に、自らが滅ぼした豪族 波多野一族の幻影を見る話。

補陀落渡海記
熊野の補陀落寺の住職 金光坊が、即身仏のように船に閉じ込めらて餓死する話。61歳で渡海する風習があった。船が沈んで海岸に打ち上げられるが、再度、渡海させられる。

P246:
救けてくれ、と言った。何人かの僧はその金光坊の声を聞いた筈だったが、それは言葉として彼等の耳には届かななった

P247:
求観音者 不心補陀 求補陀者 不心海 

小磐梯
磐梯における噴火の記録。

北の駅路
駅路図をめぐる人生の遍歴。

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月の扉

読んだ本の感想。

石持浅海著。2006年4月20日 初版第1刷発行。

以下、ネタバレ含む。



ハイジャックされた飛行機内で起る殺人事件。

【登場人物】
石嶺孝志:
不登校児の教育キャンプを主催する40歳。誘拐の疑いで不当逮捕される。7月26日に、彼と月を見たいがために、信望者達がハイジャック事件を起こす。

《輪廻転生》
本書の中における輪廻転生では、人間は生きている事で体内に汚れが溜まり、死後、再生の世界で汚れを落としてから現世に生まれ変わる。

石嶺孝志は、死という過程を経ずに再生の世界に行けば、現世に生れ変わらずに浄化のみが行われる平和な世界で永遠に暮らせるとして、皆既日食の夜(7月26日)に沖縄の広い場所に石嶺孝志と一緒に月を見る事で、他の者達も死を経ずに再生の世界に行けると主張した。

ハイジャック犯達は、逮捕された石嶺孝志を空港(沖縄の広い場所)まで連れてこさせる事で、再生の世界に行こうとする。

<ハイジャック犯>
柿崎修:
46歳の税理士。真の目的は石嶺孝志の殺害で、自殺した自分の子供が生まれ変わった時に、子供を癒す能力を持った石嶺孝志が再生の世界に留まっては子供が救われないため、先回りして石嶺孝志を殺すつもりだった。石嶺孝志が死を経て再生の世界に行けば、石嶺孝志は現世に生まれ変わる。

真壁陽介:
37歳の翻訳家。空手を嗜む。

P334:
真壁が、再生の世界へ行こうとしたキャンプのスタッフから、目的を失った犯罪者へと変貌した瞬間だった

村上聡美:
24歳のフリーター。

<乗客>
座間味:
座間味島のTシャツを着ているから、ハイジャック犯達に座間味と命名される。ハイジャック犯達から、飛行機内で発生した殺人事件の探偵役を依頼される。

武藤和子の姉:
12年前に、不登校児キャンプに参加した武藤和子を新興宗教に嵌ったと非難し、自殺に追い込む。その後、考えが変わって石嶺孝志と再生の世界に行くために沖縄を訪れるが殺される。

P309:
常に何かに頼りたくて、何かを信じようとする
(中略)
そのときそのときで情報を得て、自分に都合のいいものだけを信じる
(中略)
妹をもう一度破壊したことなどすっかり忘れて、キャンプの『信者』になった

杉原麻里:
22歳の歌手。武藤和子を自殺に追い込んでおきながら自らは再生の世界に行こうとする武藤和子の姉に憤り、トイレ内にカッターの罠を仕掛け、『戦うための武器を見つけました。ペーパータオルホルダーの中』という落書きをする。怪我をさせて月を見せない思惑だったが、武藤和子の姉が死んでしまった事で事態は混迷する。

P315:
手首を怪我してうんうん唸っているときに、他のみんなは再生の世界へ飛ぶ。あの女性は置き去りだ

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ブック・ジャングル

読んだ本の感想。

石持浅海。2011年5月25日 第1刷発行。



以下、ネタバレ含む。

深夜の図書館に閉じ込められ、ラジコンヘリコプターの大群と戦う話。ヘリコプターに拘り過ぎだと思った。他の罠も用意しておけば良かったのに。

【綾西市立図書館】
3月22日に閉館。本の搬出が始まる直前の4月4日(日)に閉館前を偲ぶためか、除籍された本を取りに来るために、幾人かが忍び込む。

【登場人物】
<男性>
沖野国明:
22歳。関東理科大学大学院進学を控えパプアニューギニアで昆虫学のフィールドワークをしていたため、日焼けして髭も剃っていない。少年時代は図書館に通っていた。

秋元誠司:
色白で細い顎。銀縁眼鏡。工務店の跡取り。県西綾西大学出身。

<女性>
竹村真優:
長い黒髪。漫画やファンタジーを好む。ヘリコプターに襲撃され毒で死ぬ。

三砂(行田)百合香:
リムレスの眼鏡。濃い茶色のボブカット。父が図書館職員。除籍された『バオバブのルカ』を取りに図書館に忍び込む。碩徳女子大学英文科進学予定。

丹羽一実:
茶髪のツインテール。三砂(行田)百合香に劣等感を持っており、行田敏行と性的関係にあった。県西綾西大学に進学予定。

⇒不法侵入が露見すると、責任が追及されるため、行田敏行に図書館に招かれた事にする

<犯人>
シ・バン(行田敏行):
49歳?離婚した妻が元彼と再婚した事で、娘の三砂(行田)百合香が実子でない可能性に思い至り、恐怖を与えて殺す事を決意する。迷彩色のヘリコプターを操る。

終盤で救助を装い、毒針で皆を殺そうとするが、男女が一緒にいたのを怪しまなかった事から、真犯人である事を見抜かれて、逆に毒針で死ぬ。

熊さん:
対人恐怖症。30歳以下で細い目に髭の剃り残し。赤いヘリコプターを操る。

フクロウ:
痩身の目が異様に大きい若い男。青いヘリコプターを操る。毒によって死ぬ。

【ヘリコプター】
飛行時間は五分、捜査距離五m(十m?)、同時に三機を操作可能。多数のヘリコプターを用意しておき、竹串や毒、コショウ、爆竹等で攻撃する。

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