バルカン

読んだ本の感想。

マーク・マゾワー著。2017年6月25日発行。



多民族が入り乱れるバルカン半島に、西欧からロマン主義的ナショナリズムが流入し、多くの暴力が生まれる。それは多くの移民が流入する西欧の未来かもしれない。

プロローグ バルカンという呼称
バルカンという呼称は十九世紀後半から地域一帯を指すものとして広まる。欧州とアジアの境目にあり、近代的な外観と伝統的な中身を持つとする。

第一章 国土と住民
バルカン半島の山脈は侵入を阻む障害物とはならず、不規則な配置が内部の移動を妨げる。ために、半島内の意思疎通よりも外部との意思疎通が容易であり、例えばアドリア海に面したドゥブロヴニクは内陸にあるベオグラードよりヴェネツィアと緊密な関係を持った。

山脈は降水も妨げ、モンテネグロのスコピエの年間降水量は平均約2640㎜だが、東にあるスコピエは約460㎜。山脈東部の年間降水量は西部よりも250㎜~500㎜ほど少ないため、エーゲ海のキクラデス諸島は自給自足不可能。ただし、川が流れるロドピ山脈やアルバニア高地、旧ユーゴスラヴィア、ルーマニア、ブルガリア北部は中央欧州の気候に近い。

山脈は運河や鉄道、道路の敷設も妨げ、オスマン帝国支配時には駱駝が重宝された。

バルカン半島の人口は、オスマン帝国が初めて人口調査を行った1831年に約一千万人で、セルビアやルーマニア等を加えると二千万人弱と推定される。1920年には約4250万人で、過剰人口による不完全就業の問題は第二次世界大戦後に解消された。

第二章 ネイション以前
オスマン帝国支配下のバルカン半島では、個人の自己同一性は民族でなく、宗教で示された。

山がちなバルカン半島では宗教や言語の均一化は困難であり、十三世紀頃からのオスマン帝国の勢力伸長によってイスラム化も進んでいる。アルバニアのイスラム教化は十八世紀からだが、オスマン帝国支配下でも全体の八割はキリスト教徒だった。キリスト教は保護され、西欧で教育を受けたギリシャ系一族はファナリオティスと呼ばれキリスト教総主教座を支配した。

オスマン帝国の統治機構は複数の宗教組織が基盤になっており、農村では理論的な教義よりも実践的な呪いが好まれる傾向があったとする。

西欧的な無神論や平等主義が広まり、1830年以降にバルカンに国民国家が出現すると、宗教的価値観は崩壊し、国民の宗教と呼ぶべきものになった。

第三章 東方問題
十九世紀にオスマン帝国が衰退していくと、欧州の列強はバルカンの独立運動を支援し、キリスト教徒が支配する帝国を構想するようになる。

ナショナリズムは自然発生的でなく、1830年代になっても『国家』は一部の知識人の概念だった。民族意識の萌芽は、例えばプロテスタントの宣教師達がブルガリアの農民が理解出来るように新約聖書を翻訳する等して、ギリシャ人聖職者の牙城を崩す事で生まれた。

しかし、民族が入り乱れるバルカン半島では、新国家には自国外に存在する未回収の同胞や歴史的領土を取り戻す領土拡張の使命感があり、多くの争いが発生した。

第四章 国民国家の建設
国民国家と少数派民族の権利両立は困難であり、1923年にはトルコとギリシャで強制的な住民交換が実施され、総計で二百万人以上の人員が宗教によって交換されたとする。後発のバルカン諸国では強力な中央権力による社会権力が志向され、少数派抑圧は近代化の一側面だった。

大量の国民に仕事や食糧を供給する課題があり、小規模自作農を育成すると、農民が小分けした土地で市場要因に依存する商品作物を販売するようになり、世界市場における農産物価格低下に苦しめられた。

農民の大半は無学であり、自由主義的議会制度を実施しても王室や軍、都市選良の影響が大きく、農民の税負担軽減や信用組合普及促進だけでは、人口過剰と工業化推進は実現出来ない。

1929年の世界恐慌以後は、国王による権威主義的右翼独裁が民主主義を代替し、第二次世界大戦後は共産主義が覇権を握った。例外であるギリシャは西側諸国から援助され、1963年までに米国から30億ドル以上援助されている。

エピローグ 暴力について
多民族が入り乱れるバルカン半島は、多くの移民を受け入れる欧州の未来を暗示する。

西欧では1820年~1860年に死罪の数が急減し、拷問等の処罰が廃止される等の人道的概念が普及した。農村共同体が集団としての責任を担い制裁を受ける社会では、個人の自制心という思想は広まり難い。

警察力が貧弱な社会では、斬首が死亡証明であり、権力を明示するものになる。

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ハーバード集中力革命

読んだ本の感想。

エドワード・M・ハロウェル著。2016年10月20日 初版印刷。



以下は、評価テストへのリンク。

https://hbr.org/web/assessment/2014/11/why-cant-you-focus-at-work

以下は、著者のWebサイトへのリンク。

http://www.drhallowell.com/crazy-busy/

以下は、集中力に欠ける六つの型。

①デジタル依存症
インターネット接続中毒になっている。電子機器に電源を入れた時間、切った時間をメモする等して電子機器の使用時間を把握し、使い過ぎの場合は時間を定めて電子機器を使うようにする。

②マルチタスク
同時に複数の仕事を行って効率が悪い。二つ以上の課題に集中する事は不可能。自分の能力不足を認めて断る事を覚えるべき。

③アイデアホッピング
アイデアが沢山あり、どれも最後まで出来ない。アイデア実現を手助けしてくれる友人が有効。

④心配性
不安を解消するために時間を浪費する。

以下のヒント。

・孤独に心配しない
・事実を把握する(想像で怖がらない)
・計画を立てる
・計画が失敗したら見直す
・専門家の力を借りる
・定期的な運動
・瞑想
・全体像を掴み、どれだけの数の心配があり、
 実際に発生し得る事を考える
・自制出来ているという気分を増やす

⑤おせっかい焼き
他人の要求を優先して時間が足りない。スケジュールに自分のための時間を入れておき、他人の頼みに無条件に応答するのでなく、「少し考えさせて下さい」と応答するようにしてみる。自分の世話をする事は利己主義とは違う。

人生は混沌であり、思想は生から身を守り、現実を追い払う効果がある。幻想的な思想を捨てて、自己を迷える者と自覚するべき。

⑥ヘマばかり
本当のADHD。ADHDについて学び、瞑想、運動、食生活、睡眠等を整える。

<集中力のための基本戦略>
①エネルギー
脳はエネルギー供給が途絶えると機能しない。何もしていない時でも脳は活動しており、充分な睡眠や栄養が必要。

②感情
肯定的な感情が集中力につながる。自分の呼吸に意識を集中する瞑想には感情を整える効果がある。3分~5分の瞑想を一日に二、三回するだけで良い。

③エンゲージメント
興味や意欲に溢れた状態。気分転換に新しい事をしてみる等。即席脳トレーニングとして、25コマある表を作り、一コマに一つ、1~25までの数字をランダムに書き、素早く1~25まで叩き、逆に25~1まで数える等。

④仕組み
時間を形作る方法。計画やスケジュール、優先順位を決める。
以下は、目標を定める仕組みの作り方。

・短期目標
1日の目標を3つ立てる。

・中期目標
二週間以内の目標を3つ立てる。

・長期目標
一年以内の目標を3つ立てる。

・生涯目標
一生の目標を立てる。

・進捗評価・見直し
定期的に目標を見直して確認する。

⑤コントロール
自分で時間の使い方を決める。







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イコン

読んだ本の感想。

今野敏著。2016年11月15日第1刷発行。



以下、ネタバレ含む。

1995年に刊行された本の新装版。

読まなければ良かった。

パソコン通信を舞台に活躍する有森恵美というアイドルのライブ会場等で発生する殺人事件を警部補 宇津木真(45歳)が調査する。

1995年に刊行された本という事でインターネットでなくパソコン通信が使用される。主人公の中年男性 宇津木は家族と上手に人間関係を構築出来ず、アイドルを調べる事で家族と会話をしていく。

2016年時点で本作が書かれた場合、息子が引きこもりという設定になると思う。1995年時点で、何を考えているのか分からないとされた若者が現在では中年になっていると思うと感慨深い。

アイドルを描く事には失敗していると思う。アイドルオタクの若者が書けないので、アイドル好きの不良少年を登場させ、彼等の内面描写を挿入する事でオタク心理描写を代替している。

***************

有森恵美はパソコン通信上にのみ存在する架空の人格で、葉山由里子(17歳)がその正体。中学校時代に不良少年 相川渡、阿部輝彦、古橋洋一に人間脱衣マージャンの景品にされ、強姦された事を恨み、『有森恵美』の呼びかけで誘い出して殺していた。

葉山由里子は、強姦された後に人格がばらばらになり、相川渡に誘われるまま関係を続けていくが、アイドル活動をして別人格を作り出す事で救われたらしい。

P354:
アイドルファンは、既成の権威を認めず、自分たちの判断基準で新しい権威を作るのです
(中略)
権威社会のパロディーだ、と宇津木は思った。政治、財界、マスコミといった世の中の本当の権威を嫌い、それから逸脱したような連中が権威ごっこをしている

P390:
イコン……?
(中略)
東方正教会で使われる宗教画ですよ
(中略)
イコンは、現世と神の世界をつなぐ窓だと考えられているんです。ロシア正教の教会では、このイコン、つまり神の世界への窓を通じ神と出会うわけです

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マグネットワールド

読んだ本の感想。

吉岡安之著。1998年2月25日 初版1刷発行。



磁石の歴史に関する本。半分くらいは必要無い情報だと思った。

磁石は18世紀になって電気の研究が盛んになるに連れて欧州を中心に研究され、それ以前は真剣な考察の対象になっていないのかもしれない(羅針盤や錬金術くらい?)。

日本の文献で磁石の記述があるのは、『続日本紀』で、713年に近江国より磁石を献上したとある。1713年に刊行された百科事典『和漢三才図会』では、それ以降、日本で磁石が産出された事を聞かないと記載。

近代になって電気の研究と歩調を合わせて磁力の研究も進み、電磁誘導が磁力に似た力を発生させる事から、磁力は電子の公転運動によって発生する事が類推されるようになる(電子の自転という考え方が提出されるのは1925年)。

<金属>
金属においては原子が整然とした結晶格子を形成し、一部の電子が結晶格子の間を動き回る自由電子として存在し、電気伝導性の原因となる。

絶縁体では電子が結晶格子を構成する原子やイオンに束縛され、自由に動き回る事が出来ない。そのため、絶縁体に圧力が加わって収縮すると電子の運動エネルギーが増加するため、エネルギーを解放するために自由電子が発生し導体となる。

<鉄族原子>
原子核と電子の結合エネルギーは原子核から遠ざかるほど小さくなる。電子を収用する電子軌道をホテルの客室に例えると原子核に最も近い一層目はスイートルーム、二層目は一般客用、収容数の多い三層目以降は団体向けとなる。

三層目の五部屋(3d軌道)は、四層目(4s軌道)と近接しているため、熱等の微量なエネルギーによって電子が他の部屋に相互訪問する。

そのような振る舞いをするのは、鉄、コバルト、ニッケル等の3d遷移元素。通常はスピンの向きが反対の電子によって磁力は相殺されるが、3d遷移元素は同じ電子軌道上で相殺されずに磁力を生み出す。

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愛と憎しみの豚

読んだ本の感想。

中村安希著。2013年1月30日 第一刷発行。



世界各地の「豚」を取材する話。政治の話が多く出てくる。

序章 豚に会いたい―ワールド
著者が豚肉の角煮等を通じて豚に興味を持つようになる話。

第一章 豚と人間、そして神―チュニジア
イスラム世界における豚肉。

ジャスミン革命の余波が多く残っている。

イスラム教が成立した六世紀のアラビア半島では傷み易い豚肉は危険だったとする。

第二章 豚の歩いてきた道―イスラエル
第二次世界大戦後の食糧不足に対応するため、ユダヤ教の掟に背いて養豚を始めた話。

牛の妊娠期間九ヵ月半に対して、豚の妊娠期間は四ヶ月であり、最低でも一度に六匹は子を産む。餌を肉に変換する能力も高く、半年で100㎏以上の体重になる。

ソビエト連邦崩壊と前後して100万人前後のロシア系移民がイスラエルに移住し、非宗教的な人が多かったため、豚肉市場が成長した。

<ユダヤ教と豚肉>
旧約聖書では、反芻しない動物、蹄が割れていない動物、飛べない鳥、軟体動物、甲殻類、鱗の無い魚、肉食動物も禁止する。

豚肉が目立つのは、ローマ帝国の支配下にあった時に、豚肉好きなローマ人によって識別の道具となったため。豚は長距離を歩くのは苦手なため、遊牧民は豚を飼わない傾向がある。中国も定住社会故に豚肉が一般的で、モンゴルを連想させる羊肉や乳製品を避けたという説がある。

キリスト教が広まった欧州は定住社会であるために豚肉を禁止する事が無く、遊牧民中心のアラブに広まったイスラム教は豚肉を禁止出来た。

第三章 検索キーワード・豚―日本
著者が日本で一休みする。

第四章 豚になったスターリン―リトアニア
リトアニアの養豚場を取材する。

第一次世界大戦で食糧不足に陥ったドイツに保存食に適した脂身の多い豚を輸出し、1923年にドイツとの関係が悪化して輸出が禁止になると、英国へ輸出し始め、ベーコンにするために脂身の少ない豚を輸出した。

第二次世界大戦によってソビエト連邦に編入されると、豚の大量生産が行われるが、肉の良い部分はロシア本国に持っていかれるため、鼻や耳等を食べる料理が作られた。

第五章 幸福の豚、不幸の豚―バルト三国
エストニア等の養豚場の取材。

第六章 豚をナイフで殺すとき―ルーマニア
ルーマニアにおける食事で豚肉が振る舞われる。

ナイフで豚を殺すのは血抜きの意味がある。キリスト教では血を食す事は良くないとされる。生贄にした動物の血は神に返さなくてはならない。

第七章 子豚のホルマリン漬け―モルドバ
モルドバの考古学歴史博物館の取材。

ソビエト連邦末期に行われた農薬散布被害の一例として畸形豚のホルマリン漬けがある。

第八章 子豚たちの運命―ウクライナ
サーロ博物館の取材。

サーロはウクライナの国民食で豚肉を用いる。東欧における豚肉食の中心はウクライナで、豚肉を煮込むボルシチもウクライナ起源とする。

侵略者であるイスラム教徒のタタール人や遊牧民のモンゴル人は豚肉を食べないため、略奪の対象とならなかった。

終章 素足の豚―シベリア
シベリアで戦時中に豚を飼育していたとう噂を取材する。結局、真偽は明らかにならない。

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