ネアンデルタール・パラドックス

読んだ本の感想。

ロバート・J・ソウヤー著。

2002年~2003年頃のカナダが主な舞台。

クロマニヨン人が絶滅し、ネアンデルタール人が文明を進歩させた並行世界から、ネアンデルタール人の量子物理学者が転送されてくる話。

話のテーマは、「神無き世への絶望」だと思う。

物語の中でネアンデルタール人社会に対置されるのは、クロマニヨン人社会ではなく、キリスト教の一神教的世界観で、「神」を盲信出来ない現代の苦悩が物語の背景となる。

人間は、第三者から監視されていなければ罪を犯すという思想が根底にある。現代社会では「神」が脳科学や人文学上、客観的に分析されつつあり、全てを監視する絶対者に位置付ける事が困難。

ネアンデルタール人の社会では、ほとんどの社会構成員に電子媒体(コンパニオン・プラント)を埋め込み、日常生活の全てを監視・記録する事で犯罪を防ぐ建前になっている。

それは「科学」による「神」の代替を意味する。

しかし、物語が進行するに連れて、二つの世界は鏡像のように似てしまう。

ネアンデルタール人がクロマニヨン人世界に接続するには、監視を振り切らなければならず、社会が求める行動が必ずしも正しくない事を示す。

加害者を罰すると断種等の重い刑罰があり、また、直接的には罪を犯していない血縁者まで刑罰の対象となるため、訴える事を諦める事例が出てくる。

物語の序盤では、主人公のメアリ・ヴォーンが女性故の被害や差別、少数者への差別等の問題を語るが、終盤になるに連れて主人公を強姦したコーネリアス・ラスキンが、自らが多数派の白人男性である故に、少数者特権によって社会的に排除されていると主張する。

二人は鏡像のように似てしまう。男性性が憎悪の根源としても、メアリ・ヴォーンは男への憎悪を捨てる事が出来ず、それは女性を憎むコーネリアス・ラスキンの姿に重なる。

著者は、コーネリアス・ラスキンに感情移入してしまったのではないか?

最後にネアンデルタール世界が、クロマニヨン人の男性のみを対象とするウィルスに汚染され、クロマニヨン人男性のみが侵入不可能になるのは、著者が自らの仮想天国を守るためであったのかもしれない。

〇ネアンデルタール人(バラスト)
クロマニヨン人の約二倍の筋肉量を持ち、「イー」の発話が出来ない。鼻が大きく、優れた嗅覚を持つ設定。脳の構造上、神や宗教を信じる事が出来ない。

〇並行世界転移の方法
量子コンピューターにて厖大な計算を行うと、並行世界の計算資源を活用しようとするため、二つの異世界が接続される。

〇ネアンデルタール人の社会
狩猟文化が発展した社会。暦は太陰暦で世界人口は1億8500万人ほど。男女は月に四日間しか一緒に過ごさず、人口を急増させないよう、繁殖は十年に一度の定められた期間に行われる。

1923年頃から、電子媒体(コンパニオン・プランツ)を人体に埋め込み、アリバイ履歴(行動記録)を第三者的に監視する事で犯罪を防ごうとする社会が実現している。

罪と認定される行為を犯した場合、最も厳しい罰で、犯人と、犯人と遺伝情報を50%以上共有する人物が断種される。

ホミニッド―原人―
2005年2月20日 印刷。



ネアンデルタール人の量子物理学者ポンター・ボディット(38歳)が量子コンピューターの実験中に、並行世界へ転移する。転移した世界は、絶滅したはずのクロマニヨン人(グリクシン)の支配する世界だった。

〇クロマニヨン人社会
ポンター・ボディットの遺伝子を解析したメアリ・ヴォーン(38歳)が強姦される。メアリ・ヴォーンは敬虔なカトリックであるが、神が犯人を罰すると信じる事が出来ない。

ポンター・ボディットは、宗教と迷妄がクロマニヨン人社会に争いを生んでいると主張する。

P338:
神がいないのなら―死んだあとで褒美や罰があると信じていないのなら―あなたたちはどうやって道徳性をつちかっているの?
(中略)
ぼくの同胞たちの基準です

〇ネアンデルタール人社会
ポンター・ポディットが行方不明になったため、同僚のアディカー・ハルドが殺人と死体遺棄の疑いで裁判にかけられる。ポンター・ボディットの身体が無いため、無罪を証明する事は困難。

ポンター・ボディットの亡妻の女配偶者ダグラー・ボルベイは、自らの男配偶者ペルボンが犯罪者の親族がいた事で断種させられた事を憎み、犯罪者であるはずのアディカー・ハルドも断種すべきと主張する。

アディカー・ハルドは、自分の女配偶者ラート・フラドロに頼み、自らのアリバイ履歴(行動記録)を再生する名目で、履歴館に混乱を引き起こしてもらい、電子媒体による監視を緩めた隙に量子コンピューターを作動させ、ポンター・ボディットをネアンデルタール人社会に帰還させる

ヒューマン―人類―
2005年6月20日 印刷。



ネアンデルタール人世界とクロマニヨン世界を接続するトンネルが作られ、幾人かのネアンデルタール人がクロマニヨン人世界に現われる。

ポンター・ボディットは、証拠品の臭いが一致する事から、メアリ・ヴォーンを強姦したのは元同僚のコーネリアス・ラスキンと見抜き、コーネリアス・ラスキンを去勢する事で私的に復讐する。

P225:
グリクシンは、彼らが“大いなる疑問”と呼ぶものに心を奪われているのです。すなわち―われわれはなぜここにいるのか?これらすべてにはどんな目的があるのか?

P341:
メアリが自分を導くために参照してきた原則は、その多くが、行動を起こさないことを勧めていた。<十戒>の大半は、やってはいけないことを教える

P510:
メアがぼくに惹かれたのは、ぼくが人間に見えなかったせいかもしれません―彼女を傷つけた連中とはちがうのだと

P512:
グリクシンは、死者はほんとうは死んでいないと信じている。人間の意識は肉体を離れた後も生きつづけるのだと
(中略)
きみは、クラストが亡くなったときに受けたような心の傷から、自分を守ろうとしているのかもしれない

ハイブリッド―新種―
2005年10月20日 印刷。



メアリ・ヴォーンは、ポンター・ポディットと結婚する事とし、二人の子を作り出す事の出来る遺伝子改変装置コドン・ライタを入手する。

断種された者でも子を作る事が出来るコドン・ライタは禁制品であり、クロマニヨン人世界に持ち込まれたコドン・ライタがネアンデルタール人世界侵略を目論むジョック・クリーガーによって、ネアンデルタール人のみに作用するウィルスを作る事に使用される。

ウィルス計画に参加していたコーネリアス・ラスキンはメアリ・ヴォーンを強姦した事を後悔しており、ウィルスをクロマニヨン人男性のみに作用するよう書き換える。

ウィルスが巻き散らされたネアンデルタール人世界は、クロマニヨン人男性の侵入を許さない世界となる。

終盤で、メアリ・ヴォーンは、新年に発生した地軸の乱れにより、多くのクロマニヨン人が神を感じる事を目撃する。「神」が電磁波等による物理的現象にすぎない事を悟ったメアリ・ヴォーンは、自分の娘が宗教を信じないネアンデルタール人と同様の脳構造となるよう遺伝子を選択する。

P110~P111:
ソーンヒルとパーマーの『レイプの自然史』を呼んでいた
(中略)
レイプとは、権力や地位が弱いために通常の方法では繁殖ができない男性のための戦略なのだ

P111:
遠いむかしに死んだ先祖の悪行のために多額の現金の支払いを要求されるなんて。なぜコーネリアスが、何世代もまえの性差別的雇用方針によって被害を受けなければならないのだ?

P210~P211:
メアリは『財産家』を取りあげて、角を折ったページをひらいた
(中略)
“財産家”のソームズ・フォーサイトは、妻のアイリーンを所有物のひとつとしか考えていない

人気ブログランキングへ
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ABCDEFG

Author:ABCDEFG
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード