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紙の世界史

読んだ本の感想。

マーク・カーランスキー著。第1刷 2016年11月30日。



序章 テクノロジーの歴史から学ぶほんとうのこと
社会的な必要性が技術を生み出す事について。

第一章 記録するという人間だけの特質
文字は、紀元前3500年頃のシュメール、紀元前3000年頃のエジプト、紀元前1400年頃の中国、紀元前600年頃のメキシコ等で誕生した。

粘土板を記録媒体として使用したシュメールに対して、エジプトではパピルスを使用。

〇パピルス
ナイル川に群生する植物(書写素材として最適な太さ約6㎝に育つ)。茎は玉葱のように皮を剥ける。皮を剥がして、表皮を剥いた髄の薄片と直角に交わるように置いたものを湿らせて槌で叩く等して書写素材として使用された。樹液が糊の役割を果たし、小麦粉を練ったものが接着剤として用いられた。発見された最古のパピルスは紀元前2900年頃に作られたもの。

〇羊皮紙
小アジアの都市ベルガモンで発明されたとする。獣皮を十日間、石灰水に浸して表面を擦り、乾かす。

第二章 中国の書字発達と紙の発見
紀元前16世紀頃に始まる殷王朝から、文字が占いに用いられ、亀甲や獣骨が書写媒体として使用された。やがて帛(薄い絹織物)や竹も使用され、官僚制と文書主義の基礎となる。

漢代に紙が入手出来るようになっても画家は300年頃までは紙でなく、絹に描いたらしい。ベトナムに漢字が伝わったのは186年だが、紙も作るようになり、三世紀頃から中国に輸出するようになる。284年には蜜香樹から作ったとされる蜜香紙が三万巻、中国に渡っており、ベトナムが独立した十世紀以降も紙製品は中国へ輸出されている。

漢字、仏教、儒教、書、絵、官僚制等の中華文化は紙とセットになっており、アジア各地に文化とともに紙製造も伝えられた。

〇紙
セルロース繊維(C6H10O5)を叩き解して水と混て作る。75年に後漢の蔡倫が発見されたと記録されるが、それ以前に出土した物があり、多くの人物が長い年月をかけて試行錯誤して発明したらしい。

布等のセルロース繊維を叩いて解し、水を満たした桶の上部に置いた型枠に流し込む方法で作られ、型枠が網目状に並べた竹の二段重ねになる等の工夫が凝らされ、三世紀には墨の吸い込み過ぎを防ぐために石膏を用いたり、澱粉粉を混ぜて強度を増す等の改善が為された。

第三章 イスラム世界で開花した写本
アラブ社会では、当初、パピルスや羊皮紙が用いられた。794年にバグダードに製紙場が作られ、水車を利用した製紙が行われる。大麻糸や亜麻糸(ぼろ布や縄)を原料にして、900年頃にはカイロで製紙が行われるようになる。

しかし、コーランは1000年頃まで羊皮紙で書かれ、ユダヤ教のトーラーは今でも羊皮紙が使用される。

第四章 美しい紙の都市ハティバ
711年にイベリア半島に侵攻したイスラム教徒によって、欧州に製紙が伝えられる。十世紀のコルドバの図書館は蔵書40万冊を超えたとされる(ヴァチカンの蔵書が5000冊を超えるのは1455年)。

イベリア半島(アル・アンダルス)産の紙についての最初の記述は、1056年のハティバのもので、やはり、水力で石臼を回して紙の原料を磨り潰したらしい。

しかし、欧州での紙の信頼性は低く、初代シチリア王ルッジェーロ二世は、1145年に全ての行政文書を羊皮紙にするよう命じ、紙に書かれた証文は権限を持たないと規定した。

第五章 ふたつのフェルトに挟まれたヨーロッパ
イタリアで11世紀頃に製紙が始まったという説があるが、検証可能な製紙の記録は1264年からのもので、ファブリアーノから紙を購入した記録である。

以下の改良。

①糊の不使用
湿潤な欧州で長持ちさせるために、滲み止めに使用する穀物原料の糊を使用しないようにした。羊の皮の切れ端を煮ると抽出されるゼラチンから作った膠を滲み止めにした。

②型枠
金網を張った型枠を使用するようにした。

③透かし模様
職人が自分の仕事に署名出来るようになった。

************

アルプス以北に製紙場が出来たのは、1390年のドイツ ニュルンベルクで、15世紀半ばにはフランスにも出来た。法律、会計、音楽、地図製作等で紙の需要は高かった。

第六章 言葉を量産する技術
現存する最古の印刷書籍は、868年に印刷された仏教経典『金剛般若経』で、12世紀頃の中国では金属活字を使用した印刷が行われた。朝鮮の訓民正音は、可動活字を使った印刷に合わせて1446年に開発されたのかもしれない。

ただし、中華における印刷は大部数を刷る事でなく、仏教の写本に由来し、一巻の写本に功徳があるのだから、印刷ならば功徳がもっと多いという思想だったのかもしれない(印刷部数は百部程度)。

欧州では聖書を大量に印刷する需要があり、1440年頃のグーテンベルクの金属印刷に繋がる。

第七章 芸術における衝撃
レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロが紙を大量に創作に使用した事について。

15世紀には木版画のアルブレヒト・デューラーが有名になる。

第八章 マインツの外から
1462年にマインツ大司教を解任されたアドルフ・フォン・ナッサワが、勢力擁護に努めてマインツが破壊されたため、印刷系の技術を持つ職人が欧州各地に流出した。

特にフランスのリヨンに多く進出するがスペインでも印刷は行われ、1475年にバレンシアに開かれた印刷所が、1605年の『ドン・キホーテ』ヒットの一因となる。

第九章 テノチティトランと青い目の悪魔
マヤ人は西暦紀元の初めに桑の樹皮から作った紙に文字を書き、アステカでは紙に書かれた伝言を中継する伝令使がいた。それらはスペイン人の征服時にほとんどが燃やされている。

第十章 印刷と宗教改革
印刷機が誕生する前は、弁術が思想を広める手段だった。宗教改革は情報を広める新しい方法を必要とし、大量印刷の技術が確立された。

第十一章 レンブラントの発見
土地が平坦で水車に不向きなオランダでは長い間、製紙が行われなかったが、風車を利用して1586年頃から製紙が行われる。

木版印刷や銅板印刷(エッチング)が盛んになり、1642年に明暗の中間を印刷で可能にする技術が発明されると、レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レインは絵画以外でもエッチングで多くの名画を残した。

第十二章 後れをとったイングランド
英国の印刷工房は1476年、製紙は1495年に始まる。

しかし、ロンドンは1500年には印刷の中心都市となる。ヘンリー八世は、王妃アラゴンと離婚するために、離婚を禁じるローマ・カトリック教会から離脱してイングランド国教会を創設し、その広報のために小論文を出版した。

1627年にフランスでユグノーが弾圧されるようになり、1685年にプロテスタント信仰を保証するナント勅令が廃止されると、多くのユグノーがフランスから逃れ、スコットランドやアイルランドにも製紙が広まった。

シェイクスピアの『ヘンリー六世』では、ジャック・ケイドがセイ卿を製紙と印刷を奨励したとして非難する場面がある。

第十三章 紙と独立運動
米国では17世紀末まで製紙場が存在せず、欧州製の紙が使用された。

紙の初期の需要は金銀の不足による紙幣への需要であり、1690年に英国が米国植民軍にカナダのフランスを攻撃させようとした時に、軍資金としてマサチューセッツ植民地が紙幣を印刷したのが、米国最初の紙幣とされる。

同年に米国初の新聞『パブリック・オカレンシズ・ボース・フォーリン・アンド・ドメスティック』が創刊される。

1765年に英国が印紙法によって紙に課税するようにすると、新聞一部につき半ペニーの税金が課せられる事になり、広告料が三ペニーしかない場合もあるのに、広告一件につき二ペニー課税されるようになって反発を招いた。

第十四章 ディドロの約束
フランス絶対王政では、支配者が書物に脅威を感じ、バスティーユ牢獄の囚人の40%程度は書籍関連業者だったとされる。フランス革命時にも、革命の大義を伝えるために紙が大量に必要とされた。

ドゥニ・ディドロは百科事典によって一般的思考を変える革命を志向しており、『百科全書』では産業革命を論じている。社会変化が技術を推し進める予見。

〇リトグラフ
石灰岩(ゾルンフォーヘン)にクレヨンで線を描いてから、インクを塗って紙を押し付けると、クレヨンで書いた部分は紙に移るが、水で湿った部分は印刷されない。
この性質を利用して、凹凸をつけなくても印刷が出来るようになる。アロイス・ゼネフェルダーの発明で、1801年に特許が取得されている。

第十五章 スズメバチの革新
産業革命等により紙の需要が拡大すると、ぼろ布以外の原料が必要とされるようになる。

1600年代後半にフランスで生まれたルネ・アントワーヌ・フェルショー・ド・レオミュールは、スズメバチの巣が木屑で出来ている事に着目している。

ドイツでは、1840年にF・G・ケラーが砕木によって作られるパルブを製紙に活用する手法で特許を取得している。

木材パルプが商業的に最初に成功した事例は、1867年のドイツのパージェンシュテヒャー兄弟によるとされる。

〇パルブ
紙を構成するセルロースは木材成分の半分を占める(種類による)。昔から製紙の材料とされた亜麻や大麻はセルロース率が高く、綿花は90%がセルロース。セルロースは、1838年にアンセルム・ペイアンが発見し、グルコースから生じる炭水化物とされた。

1860年にバンジャミン・チュー・ティルマンが、木材を浸した二酸化硫黄(亜硝酸)水溶液を細長い回転シリンダーで蒸し煮する方法を見つけ、北アフリカの製紙を支える。

亜硝酸パルブ作成過程は1920年代に北米で年間200万tペースでパルブを生産し、凄まじい異臭を発生させたが、ぼろ布集めのために人口が多い地域に工場を立地させる必要は無かった。

水溶液は繊維が2%~4%で、大量の水を必要としたので、水源が近くに選ばれた。

第十六章 多様化する使用法
新聞や雑誌、挿絵入りの風刺画、野球カード、タイプライター等。

1960年代の米国では、使い捨ての紙製の服が考案されたが普及しなかった。

第十七章 テクノロジーの斜陽
製紙が齎す森林伐採や環境汚染について。

第十八章 アジアへの回帰
中国で大量の紙が製造される事、日本や朝鮮等の伝統紙等。

終章 変化し続ける世界
技術が進歩しても、古い物は簡単には無くならない。

今後、電子書籍普及等により紙は減少するかもしれないが、その利便性のために完全には無くならないと予想する。

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