サイロ・エフェクト

読んだ本の感想。

ジリアン・テット著。2016年2月25日 第一刷。



序章 ブルームバーグ市長の特命事項
ニューヨーク市にて、多数の部署の情報を集約する事で、火事を予報出来るようになった話。

住宅火災や違法改修絡みの苦情、過去の税金や住宅ローン未払い等を統計モデルにまとめたところ、それまで検査官が問題を発見出来たのが13%だったのが、70%で問題が発見出来るようになった。

サイロ:
世界が単一のシステムとして結び付いても、大規模組織の多くは縦割りで、多くの部署に枝分かれしており、相互の意思疎通が出来ない。隔絶された心理的、社会的ゲットーに住んで、自分と似たような人々だけ交わる。

人間が複雑に対処するには体系化が必要であり、整理する簡単な方法は、人間を物理的、社会的、心理的に仕分けるする事であり、社会は分業によって支えられている。

サイロによって人間は秩序を手にするが、組織の細分化は情報を俯瞰的に見れない状況を作り出す。

第一章 人類学はサイロをあぶり出す
人類学の視点。

人間は無自覚に文化的伝統や規則、象徴によって規定されている。物事を種類別に分類しないと、現実の複雑に対処出来ない。無自覚的なパターンはアウトサイダーにのみ認識可能。

〇ピエール・ブルデュー
近代人類学創始者。ディスタンクシオン:社会的判断力批判。

〇ブロニスワフ・マリノフスキ
パプアニューギニア近くのトロブリアンド諸島で、クラという貝殻を交換する儀式などを研究。

〇レヴィ=ストロース
人間の脳は二項対立を特徴とする型によって情報を整理し、神話や宗教儀式によって表現されるとした。

〇ケイト・フォックス
英国社会の研究。イギリス人を観察する。

〇カレン・ホー
人類学でウォール街の銀鉱を研究。

〇ケイトリン・ザルーム
シカゴとロンドンの金融トレーダーを研究。

〇アレクサンドラ・オロソフ
信用格付け期間を研究。

〇ダグラス・ホルムズ
中央銀行を分析。

〇アンリス・ライルズ
弁護士の金融に対する態度を研究。

〇ジェラウディン・ベル
コンピューティング文化を研究。

〇ダナ・ボイド
SNSが米国の若者に与える影響を考察。

<ブルデュー、五つの理論>
①ハビトゥス
人々が暮らす物理的、社会的環境。そのパターンは人間のメンタルマップ、分類システムを反映し強化する。

②エリート層
文化的地図や規範、分類法はエリート層の地位再生産を助長する。

③文化的環境
文化的メンタルマップは無自覚的に生まれ、自然で必然的に感じられる。

④ドグサ
許容される議論という範疇の外側。社会的沈黙はメンタルマップを理解するために重要。議論されない事柄に、現状と権力構造を維持するものがある。

⑤解放
人間には文化的規範を見直す選択肢がある。

第二章 ソニーのたこつぼ
1999年にウォークマンの後継機として、同じ機能の三つの互換性の無い商品を発表。

1990年代に社長になった出井は、ソニーが抱える大規模化、複雑化という問題に対処するため、会社を独立した専門家集団(サイロ)に分割する事にした。

1994年のカンパニー制で、19の事業本部を独立した8つのカンパニーに再編。カンパニーの経営トップの評価は、カンパニーの損益で決まった。

短期的には上手くいったが、コンシューマー・エレクトロニクス部門とVAIOコンピューティング・グループが同じような製品を別に開発するようになる。

アップルのジョブズの経営スタイルはワンマンで、社内にサイロを作らなかった。製品群は少数で時代遅れになった商品は廃止された。

*****************

ソニーは2005年夏に、米国のメディア事業を率いてサイロに属していなかったストリンガーをCEOに選んだ。ストリンガーは、IBMのガースナーを手本に改革を実行しようとするが、改革は進まない。

2005年秋の組織再編計画では、18万人の社員を一割削減、ビジネスモデルの20%を削減、製造拠点を65ヵ所から54ヵ所に減らす事でスリム化を図ったが、言葉の壁によって上手くいかない。

部下は期待される事でなく、監視される事をする(ガースナー)。

社内の様々な階層の人間が何を言っているか知る事がストリンガーには出来ない。

米国のモノ言う株主として知られるダニエル・ローブはソニーを解体し、エンターテイメント部門をスピンオフする事を提唱。これほどバラバラなサイロを一つにする合理性は無い。

第三章 UBSはなぜ危機を理解できなかったのか?
2007年の経済危機でスイスの銀行UBSが経営危機に陥った話。

債務担保証券(CDO)に関する以下の認識。

①トリプルAの格付けがあるCDOのみ購入する
②CDOはすぐに転売する

UBSの経営陣は、トリプルAの債券が本当に安全か知らず、売れないまま銀行の帳簿に残ったCDOを知らなかった。

投資銀行の分類システムでは、トリプルAの資産は、トルプルB以下の資産とは違うものと考えられ、顧客のための取引は自己売買業務とは別物と見られていた。

また、各部門で情報の相互交換が為されなかったため、経営幹部は全体像を把握していなかった。

第四章 経済学者たちはなぜ間違えたのか?
経済学者達が2007年の金融危機を予測出来なかった理由。

経済学者という部族集団の問題。19世紀末に経済学は社会科学と独立した学問分野となり、20世紀半ばには、ロバート・ルーカス等のシカゴ大学の経済学者により、人間は普遍的法則によって行動し、経済は数学的にモデル化出来るという思想が一般的になった。

20世紀半ばまではFRBは法律や科学の学位保持者を採用していたが、20世紀末には経済学の学位保持者のみが期待されるようになる。

英国では、1997年にイングランド銀行が金融政策を決定する独立性を与えられて専門化が進み、国債売却業務(国債管理局)、監督業務(金融サービス機構)は別組織に移管された。さらにモデル化を信望する思想は、マネーを単なる伝送手段として、経済を普遍的法則と見做す気風が広まっていた。

20世紀半ばには、『貨幣・利子および価格―貨幣理論と価値理論の統合(ドン・パティンキン)』や『貨幣、情報および不確実性(チャールズ・グッドハート)』がイングランド銀行で読まれたものだが、21世紀初頭には『利子と物価(マイケル・ウッドフォード)』に代わっていた(マネーという語が消える)。

市場を観測するチームと、マクロ経済を研究するチームが分かれる。しかし、20世紀後半から、従来の金融システムの中枢とされた範囲外にヘッジファンドやCDO、コンデュイット、特別目的会社等の新たな組織や金融商品が誕生していった。

経済学者達は、既存の統計モデルに執着し、その外部を把握出来なかった。2007年にアセットマネージャーのポール・マカリーが「シャドーバンク」という語を使用する事で、経済学者が使用出来る表現が誕生した。

金融関係者にはシャドーバンクの仕組みに精通する者もいたが、中央銀行中枢にいる経済学者とは交流が無かった。そして、2014年にイングランド銀行は組織の再編を実施し、経済分析と金融分析を一体化させる事にした。

第五章 殺人予報地図の作成
2001年に26歳だったゴールドスタインがネット起業家からシカゴの警察官に転職し、情報を利用した殺人予報地図を作る話。

2009年に作ったシステムは、ギャングの移動状況と殺人事件発生率をクロスし、治安向上に寄与した(現在では使用されていない?)。

第六章 フェイスブックがソニーにならなかった理由
フェイスブックにて行わているサイロを防ぐ社会的実験について。

150人というダンバー数に着目し、150人までなら人間の脳は社会的グルーミングを通じて絆を維持出来るが、それ以上になると強制か官僚機構に頼る事になるとした。

以下の方策。

①ブートキャンプ
六週間の新人研修において、少人数のグループ単位で同じ研修を受けさせると、共通の経験によって持続的絆が生れる。それは別のチームに配属された後も続く。

②ハッカー期間
同じ仕事に12ヶ月~18ヶ月携わっている社員に、別の仕事を薦めてみる。社員を異動させる事で各チームが硬直した集団になる事を防ぐ。

③ハッカソン
六週間毎に、広場に数百人の技術者が集まり、新たなアイデアに取り組む。

さらにフィイスブック自体を使用する。メールを主体とする大企業型のコミュニケーション・パターンでは、情報が階層を伝って上下に移動するため停滞が生じ易い。

フェイスブックの管理職は、互いについて語る時に具体名を挙げる事、特に本名を使用するように言われており、非人格化した呼称(部署名等)を使用しないようにしている。

フェイフブックの課題は、規模拡大によって1000人に有効な方法が10万人にも有効か考え続ける事と、社員の多くが20代~30代前半でコンピュータを学び、スニーカーにジーンズという制服で似通っている事にある。

皆が似ているために社内共通のアイデンティティを醸成し、サイロを打破する事も容易だが、フェイスブック自体が巨大なサイロになるかもしれない。

第七章 病院の専門を廃止する
オハイオ州の医療機関クリーブランド・クリニックの話。

外科と内科を廃止し、4万3000人のスタッフを医師、看護師という分類法で区別するのを止めて全員を医療提供者とした。

疾患や体組織毎に異なる専門分野を集めたチームを作り、様々な専門医が協力する仕組み。

それが出来たのは、成果報酬型のシステムでなく、固定給のシステムであるために、医師達が過剰治療するインセンティブが低いためと説明している。

第八章 サイロを利用して儲ける
200億ドル規模のヘッジファンド ブルーマウンテンが、大手金融機関のサイロを利用して儲けた話。

金融機関に硬直的分類が生じると価格に歪みが生じる。人間が世界を整理する分類システムが現実世界と完全に合致する事は無く、曖昧や重複、欠落が生じる。

例えば、ある銀行のチームはインデックスファンドに投資する事は許可されていても、個々の投資商品を購入する事が禁じられていたりする。すると、インデックスファンドが割高になる。

金融関係者が歪みに気付いても、彼等は個々の取引が自分の部門(サイロ)の利益を増やすかのみ関心があり、システム全体には関心が無い。

2011年秋には、デリバティブ・インデックスの価格が、そこに含まれるデリバティブと異常に乖離しており、その理由がJPモルガンのチームによる大規模なインデックスの購入にあると判明した。

彼等は安全な取引しかしない事になっていたので、個々のデリバティブを購入出来なかった。

<ヘインズブンド>
カリフォルニア州北部の衣料品会社に投資した例。アナリストの多くは、ヘインズブランドを「レバレッジの大きい景気循環型の小売業者」に分類したが、実際には米国下着市場で支配的立場にあり、消費者は一定のペースで下着を消費するため、「安定した消費財企業」に分類した方が適切。

さらに債券でなく株式を購入し、2012年~2013年で株価は二倍になった。

終章 点と点をつなげる
以下は、サイロを緩和するアイデア。

①部門の境界を柔軟、流動的に
②報酬制度について熟慮
各自の所属するグループの業績だけに基づいて報酬が決まり、グループ同士が競争関係にあるとグループ同士が協力しない。
③情報の流れ
全員が多くの情報を共有するようにする。組織の10%くらいは複数の専門領域に通じた専門家が必要。
④分類法の見直し
定期的に組織が使用する分類法を見直す。
⑤ハイテク活用
蓄積された情報を活用。

以下は、想像力を得る方法論。人類学の考え方。

①ボトムアップの視点
現場で生活してミクロレベルのパターンを理解し、マクロ的全体像を掴む。
②オープンマインド
③語らない部分(社会的沈黙)に注目
④建前と現実のギャップを比較
⑤異なる文化の比較
⑥正しい生き方は複数あるという態度

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