人とミルクの1万年

読んだ本の感想。

平田昌弘著。2014年11月20日 第1刷発行。



世界の陸地面積の約37%を占める乾燥地帯では、水資源の制約から家畜飼育の比重が高い。

1章 動物のミルクは人類に何をもたらしてきたか
ミルクの成分の多くは乳腺で血液から合成され、牛の場合、1ℓのミルクを生産するのに、約500ℓの血液を必要とする。牛等の反芻動物は、消化し難い食物繊維も消化出来るため、栄養化の低い食物に依存してミルクを生産可能。

動物は家畜化されると管理し易いように小型化し、角も蹄も退化し、多く出産するようになる。畜産には手間がかかるため、ミルクを利用する技術が無ければ狩猟の方が効率が良い(肉利用から乳利用への転換で食料を生み出す効率は3.7倍になる)?

ケニアのトゥルカナ族やマサイ遊牧民は食料の約60%をミルクに依存している。

2章 人類はいつからミルクを利用してきたか
西アジアでの出土遺跡等から、少なくとも紀元前7000年頃には羊、山羊が重要な家畜となり、牛や豚は紀元前6400年頃に家畜化されたと推測する。

<ミルクの科学>
牛乳の構成成分は、水分87.7%、蛋白質3.0%(2.3%はカゼイン、0.7%がホエイタンパク質)、糖質4.4%、脂質3.8%であり、脂質のほとんどはトリグリセリド(グリセリンに三つの脂肪酸が結合)の脂肪。

カゼインは熱に対して安定で、酸度が増すと沈殿する。チーズを造ると、ホエイ(乳清)という黄色い水が出るが、それにホエイタンパク質が含まれる。

スイギュウの乳脂肪率は7.4%、羊は7.2%あり、馬は1.9%と脂肪分が少ないが、乳糖が6.2%と高く(牛4.6%、水牛4.8%、羊4.8%)、微生物が発酵し易いため乳酒の原料となる。

乳脂肪はミルクの中に脂肪球膜に包まれて存在しており、静置して表面に浮上したものがクリームで、攪拌して脂肪球膜を破壊し、脂肪のみを集めたのがバターになる。チーズは、有機酸を加えてカゼインを凝集させ、塊にしたもの。

以下の四つの乳加工の系列群。

①発酵乳系列群:発酵乳のヨーグルトにしてから加工
②クリーム分離系列群:クリームを取り出し加工
③凝固剤使用系列群:凝固剤を入れてチーズにする
④加熱濃縮系列群:過熱して濃縮

3章 ミルクの利用は西アジアの乾燥地で始まった
乾燥した西アジアで、草原に自生する植物を利用出来る牧畜が発達した。

シリア内陸部のバッガーラ牧畜民は、ミルクをそのまま飲む事はほとんどせずにヨーグルト等に加工する。さらにヨーグルトからバターやチーズを作る(発酵乳系列)。

ヨーグルトにするだけで、夏場の炎天下で50℃近くなる気温でも数日は腐らなくなる。そのヨーグルトを羊の革袋に入れて揺らすとバターになる。バターを煮詰めたバターオイルは水分は少ないため数年間の長期保存に耐えるという。

攪拌したヨーグルトから、バターを掬い取った後に残るバターミルクを加熱して乾燥させるとチーズになる。バッガーラ牧畜民のチーズは熟成させない。

4章 都市文化がひらいた豊かな乳文化-インドを中心に
西アジアから南アジアに伝わった乳文化は、インドで発展した。

インドのミルク生産量は、1998年に米国を抜き、2012年で年間一億二0000万tと世界第一位。水牛(一日の乳量約15ℓ、乳脂肪率約7%)と在来種のゼブー(一日の乳量約10ℓ、乳脂肪率約4%)では水牛の方が多く飼育されるようになっている。

<チャイ>
沸騰した湯に、茶葉、ミルク(水牛)、砂糖、チャイ・マサラ(香辛料)、生姜を加えて出来る。インドの紅茶は、1839年に英国がインド北東部で野生の茶を発見し、アッサム種の紅茶を生産し手から始まる。ダージリン種の紅茶は19世紀中頃に中国から茶の木を持ち込んでから栽培される。

赤道に近いインドでは、家畜は季節的な繁殖をしないため、一年中搾乳する事が可能。さらに、熱い気候はミルクにヨーグルトの種菌を加え、一晩放置するだけで発酵させる事を可能にする。

新鮮なミルクを年中得られるために、インドの牧畜民はチーズの形で乳蛋白を保存しないらしい。豊富な豆類による蛋白質も乳蛋白保存の必要性を下げる。ヨーグルトやバターは嗜好品として作成される。

ただし、インドの都市部にはチーズ作りを含む様々な乳利用の文化があり、牛を殺せないために、有機酸として牛の胃の代りに、柑橘系の果汁を凝固剤として用いてチーズを作る伝統があったらしい(現在は酢酸等の有機酸)。

5章 ミルクで酒をつくる-寒く、乾燥した地域での乳加工
冷涼な気候を利用したモンゴルの乳文化。

大草原に暮らし、市場と頻繁に交易出来ないモンゴル遊牧民は肉を食べる割合が多く、家畜を去勢して雄でも手元に多く留めようとする。

家畜の交尾も管理しており、羊と山羊の種雄に前掛けを付けて、三月中旬から四月中旬に子畜が一斉に産まれるように、十月中旬から前掛けを外す(植物の生育は四月下旬から九月下旬であり、その期間で子畜を成長させる)。

モンゴルの乳加工の特徴は、クリームを大量に作る事にあり、それからバターを作る。ミルクを鍋で加熱してクリームを集めた後に残るスキムミルク(脱脂粉乳)はチーズにする(凝固剤としてヨーグルトを利用)。寒い気温を利用して、十月下旬から一一月下旬に搾乳したミルクを冷凍保存する技術もある。

熱い地域ではミルクを静置するとクリームが分離する前にヨーグルトになるか腐る。馬乳酒も14℃~16℃の低中温を保つ事が出来る寒冷な気温だから実現した文化かもしれない。

6章 ヨーロッパで開花した熟成チーズ
チーズの熟成が欧州の特徴。黴や酵母を利用したチーズは、最初は冷涼な冬においてのみ作られたとする。

水分が多いソフト系チーズは塩水に漬け、水分が少ないハード系チーズは湿度が70%~80%あれば熟成するので、夏でも冷涼で湿度が70%ある欧州の山岳地帯で熟成したハード系チーズの文化が発達した。

<パルメジャーノ・レッジャーノ>
13世紀末に作られ始める。パダノ・ヴェネタ平野に排水システムが調えられてから乳牛を大量に飼育出来るようになった事が契機で、レンネットを加えて凝乳とし、55℃まで加熱して水分を排出し、塩水に25日ほど漬ける。夏は暑くなり、湿度が低下するために熟成庫を建築士、湿度を保った。

<ウォッシュ系チーズ>
チーズの表面を塩水で洗うと、多種類の黴が表面に展開され、微生物の分解作用で熟成される。より高い湿度が必要で、平均気温が5℃を下回る冬に洞窟や地下室で製造されたとする。

1791年頃に誕生したカマンベールは表面に白黴を生やし、多忙な農家の副業として作られたとする?

7章 ミルクを利用してこなかった人びと
ミルクを必要としなかった文化。

①母子関係への介入
谷秦氏は、人間の管理の下で数百頭の群れを飼育すると、母子の相互認識が不安定化し、人間が哺乳を助ける必要があり、それが搾乳の切っ掛けだったとする。数百頭規模の群れを飼育しない東・東南アジアでは搾乳が発生しなかった?

②食文化
15歳~17歳の弾性のカルシウム摂取目標量は、一日当たり850㎎。ミルク以外にカルシウム供給源が無い地域と違い、海水魚や小松菜等のアブナラ科の濃緑色野菜を食す文化ではミルクの必要性がやや低い。

③アメリカ大陸
アンデス高原の人々のカロリー摂取量の約78%はジャガイモ由来で、カルシウムは石灰を穀物と煮込んで粥にしたり、穀物の灰を塊にして乾燥させたリプタを噛む事で摂取しているらしい。

日本に乳文化は、嗜好品、栄養補助食、西欧型の食文化、米との融合(チーズカレー、ドリア等)、発酵食品との融合(味噌や醤油等)という型で入り込んでいる。

8章 乳文化の一万年をたどり直す
今までのまとめ。

搾乳は難しい技術で、西アジアで発明されて周辺地域に伝播したと考える。南アジアの乳文化は、西アジア型発酵乳系列群からチーズ加工のみが欠落した体系であり、インドの都市において加熱濃縮系列群という独自の形態が発達した。

他にユーラシア北方のクリーム分離や、欧州の熟成チーズも特徴的である。

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