彼女がエスパーだったころ

読んだ本の感想。

宮内悠介著。第1刷発行 2016年4月19日。



少数の変化が大変化を引き起こすSFなのかな?

百匹目の火神
S県 歌島の猿が火を起こす方法を覚え、それが他の猿にも伝播してパニックになる。猿達は餌を手にするために民家に放火するが、それは宗教の萌芽かもしれない。

火起こしを伝える猿アグニを殺した事で騒動は終結する。

猿の芋洗いも一つの文化にまでなったが、やがて廃れていった。

P25~P26:
猿は前頭前野が小さいため、時間の概念に弱い。
(中略)
ある目的地に向かって数時間歩きつづける、といった行動も取れない。
「猿には、過去も未来もない。猿とは、ただ現在のみを生きる生物なのです」

P40:
猿たちが火を忘れたのは、とどのつまりは、彼らが火を必要としないからです。逆に、わたしたちは壊れた本能の上に文明を築きました。
(中略)
未来を考える人類は、未来を考えない動物よりも、はるかに脆弱だと言えるのです

彼女がエスパーだったころ
超能力者 及川千晴への取材。

物理学者 秋槻義郎と結婚するが、秋槻は投身で死亡している。秋槻は悪戯で、スプーン曲げのように鍵を曲げられて、屋上から家に入ろうとしたところで死んだようだ。

P67:
超能力ビジネスと宗教団体には大きな違いがあります。それは、母体となる団体の有無です。宗教団体は、信者のその後の人生をケアすることができる。団体がその後を引き受けるからこそ、世間は信仰の自由に対して寛容になれる
(中略)
彼らはわたしたちの共同体の認識や価値観に罅を入れる。それでいて、新たな共同体を創出しようとはしない。
(中略)
超能力者とは、畢竟、個人を志向するからこそ、人に厭われるのではないですか

ムイシュキンの脳髄
オーギトミーという人格を変える手術について。

網岡無為という暴力衝動を理由にオーギトミーを受けた人間への取材。網岡は自分を取材したジャーナリスト古谷圭二を殺害した。

網岡無為は、孤独になる事で暴力のリハビリテーションを行った。独自のリハビリによって暴力性を取り戻し、殺害によって逮捕された後、自分は暴力的行為を取れないと主張して無罪を目指す。元に戻る事によって、昔の自分を望む恋人である秋月かなえと寄りを戻せる可能性があった。

古谷圭二は網岡無為を廃人と言った。

P111:
シナリオの基本形に成長譚があります
(中略)
まず葛藤や軋轢がある。そして、価値観を変えるような事件が起きる。主人公は変化し、障壁を超え、そして成長する。……わたしは、こうした物語にこそ暴力を感じる
(中略)
人間が変わることなんかない。ちょっとした出来事や小さな変化のたび、変わったかもしれないと希望を持つ。そいて翌日には、また元通りになっている

水神計画
水に「ありがとう」と語りかける事で、原子力発電所の事故によって汚染された水を浄化する計画。

品川水質研究所 初長の黒木祥一郎が提唱する。

研究所スタッフである時坂くないの提案で、ジャーナリストである主人公は原子力事故を起こした海上原子力発電所「浮島」に水を持ち運ぶが、それはテロリスト「グリーン・ソラリス」が爆発物を持ち込むための方便だった。その計画は失敗する。

薄ければ薄いほど
死にゆく人々が暮らす「白樺荘」への取材。

量子結晶水という食塩水を薄めた水を用いる。薄いほど効果がある。自己存在を薄めた最果てに、自己の不滅がある。

ポルノ女優であった結城かずはは「薄っぺらいんだよ」という言葉を残す。

P177:
残された者たちに、記憶されればいいという人もいます
(中略)
記憶というものは、人のなかで劇画化され、歪めれていくものです。死者の心のありようを正しく見て、記憶するなど、まずもってありえません。生者は死者のことを、見たいように見て、憶えたいように憶えるものです
(中略)
成長とは、消滅を受け入れることにほかなりません

沸点
聖ペテルブルクに勤務する話。

かつて取材した及川千晴から連絡があり、アルコール依存症匿名会に通う友人Mを心配しているとする。主催者のアルセン・ホロシロフと称するロシア人が教祖のように振る舞う。

人間社会には、集団の性質が一斉に塗り替わる沸点があり、それを齎すのは少数者であるという主張。だから、人類を変えるには、自分達が変われば良い。人間は生まれつき、自分以外の何者かに委ねる能力を持つ。

自らの無力に耐えられない人間には現状を受け入れようとする心の動きがある。だからこそ沸点は幾度も訪れる。神を否定して作られた社会には何も無かった。

結局、警察に追い詰められたホロシロフは集団自殺を図り死亡する。

P212:
神なき国で、霊性を取り戻すにはどうしたらいいか
(中略)
性だ。どれだけ合理的で賢明な人間だろうと、性が絡めば狂う。だが、それのどこに問題がある?不合理な本能に身を委ねろ

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