確率的発想法

読んだ本の感想。

小島寛之著。2004年2月25日 第1刷発行。



Ⅰ 日常の確率
第1章 確率は何の役に立つか
一般の人達の確率は、個人的経験の中で「〇〇%という確率と言われた時では、このような場面に遭遇した」という個人的記憶に基づく印象に従う事を意味する。

天気予報等の確率は、「気温、湿度、気圧等が今と同じ過去において、どの程度雨が降ったか」という数値である。一般の人達はマクロな数値と体験を混同している。

【用語】
標本空間:
明日の天気={晴れ、曇り、雨、雪}という可能性の列挙。

ステイト:
標本空間を構成する要素。上記では、晴れ、曇り、雨、雪がステイトとなる。ステイトを複数集めたものをイベント(事象)と呼ぶ。

⇒標本空間として発生し得る事象が列挙され、一つのステイトが選択されると、世界のあり方が決定される

オッズ:
ステイトの起こり易さの程度。

不確実性モデル:
表法空間にオッズを組み合わせたもの。過去の情報からオッズを定めると統計的オッズになり、主観的オッズと対置する。

正規化:
足し合わせて1になる事。オッズを正規化すると、他の不確実性モデルと比較し易くなる。

確率における不確実性の源は、未来の時間と知識不足であり、情報を得る毎にモデルを変更出来る「条件付き確率」が提唱される。

第2章 推測のテクニック~フィッシャーからベイズまで
以下の二つの思想。

①統計的推定
大数の法則として、確率という仮想的な数値が多数回の観測という現実の行為の中で頻度の比として確認されると考える。

<コイン投げの例:フィッシャーの最尤思想>
本物のコインと偽物のコインがある。偽物のコインは表裏に偏りがあり、コイン投げをすると表が出る確率が60%である。偽物コインを百回投げて表が49回出た場合、その確率は(0.6の49乗)×(0.4の51乗)となり、本物のコインを百回投げて表が49回出る場合の10倍以上の確率となる。
仮にコインが偽物であるとすると、本物である時と比較して1/10未満の奇跡が発生した事になり、本物のコインと判断した方が無難。

⇒現実に発生した事は、最も起き易い出来事と考える

②ベイズ推定
最初に先入観による確率を設定し、得られる情報によって先入観を改訂していく。

<嘘つきの例>
ある人物が「正直」か「嘘つき」かについて、二つのステイト{正直、嘘つき}を設定し、それぞれのステイトについて、正直なら本当の事を90%の確率で言い、嘘つきなら本当の事を20%の確率で言うと設定する。

さらに、その人物が正直か嘘つきであるかの確率を半々と先入観で設定する。

次に、人物の言動を確認し、一回嘘をついた場合、正直が嘘をつく確率(10%)、嘘つきが嘘を言う確率(80%)から、最初の半々の確率が、0.5×0.1:0.5×0.8 = 8:1となり、嘘つきである確率が8/9と50%から変化する。

⇒ベイズ推定は、最初に先入観で確率を割り当てる事に特徴がある

<癌検診の例>
的中率95%の癌検診について考える。
癌の罹患率を0.005と仮定すると、

癌で陽性の確率:0.005 × 0.95
癌で陰の確率:0.005 × 0.05
健康で陽性の確率:0.995 × 0.95
健康で陰性の確率:0.995 × 0.05

となり、陽性となった場合、0.005 × 0.95 : 0.995 × 0.05 = 19:199となり、陽性となった場合でも現実に癌である確率は19/218で9%程度となる。

ベイズ推定では、95%の有効性のある検査でもそれほど確度は高くないが、自然罹患率0.5%程度だったのが、9%となったのは危惧すべき状態でもある。

<コイン投げの例:ベイズ推定の場合>
統計的推定で出したコイン投げの例をベイズ推定で考える。

コインが本物で表が出る確率:0.5
コインが本物で裏が出る確率:0.5
コインが偽物で表が出る確率:0.6
コインが偽物で裏が出る確率:0.4

最初にコインの真偽を半々で設定し、コインを一回投げて表であった場合、0.5 × 0.6:0.5 × 0.5 = 6:5となり、偽物である可能性が高くなる。

******************

ベイズ推定は最初に適当な確率を設定する事から恣意的という批判を受けたが、1950年代のレオナルド・J・サベージの研究により、不確実性は主観的なものという指摘によって復権していく。

ベイズ推定は一回の試行によって推定値を求める事が可能であり、多数回実施すればフィッシャー流と変わらない結果が出るため、逐次合理性という最新の情報だけでアップデートしていく方法論として重宝されるようになる。

第3章 リスクの商い
人間は期待値の通りに動かない。例えば、競馬では100円の馬券に対して期待値は75円になる(開催費や国庫納付が25%)。

そうした不合理を説明するために、フォン・ノイマンとオスカー・モルゲンシュテルンは1944年に『ゲーム理論と経済行動』を出版し、選好理論として人間は内面的な好みの順位に従って行動するとした。

個々人の内面には各種の行動への好みを表現する関数(期待効用基準)が存在し、確率的に整合的でない行動も内面的な満足によって選択する場合がある。

期待値が数学的に正しい規範を意味するのに対し、期待効用基準は「そのようにすれば人間の行動を説明出来る」という記述的意味合いがある。

個人間でリスクに対する態度が異なる事が、保険や先物取引が成立する原因である。

第4章 環境のリスクと生命の期待値
人間はリスクを評価する基準として、期待値以外に恐怖因子や不可知因子を重要な要素として考える。

〇ホフマン方式
自動車事故等で人間が死んだ場合、損失を期待値 = その人間が生きていた場合に稼いだであろう所得で計算する。

期待値は仮想的な数値であり、人間の価値を算出する根拠としては納得し難い面もある。

Ⅱ 確率を社会に活かす
第5章 フランク・ナイトの暗闇~足して1にならない確率論
ベイジアン的確率論の紹介。

〇エルスバーグのパラドックス
被験者に以下の二つの壺を見せる。

壺①赤球が50、黒球が50入っている
壺②赤球と黒球が入っているが、数は不明

上記から一つを選んで球の色を当てる場合、多くの被験者が①を選ぶ。主観確率で考える限り、①と②で正解する確率は等しいが、人間は不確実性を厭う。

測定可能なリスクは不確実ではない。不確実性回避として確率が分からない状況は忌避される。

エルスバーグは、壺①の方が選好される事から、後にキャパシティ理論(数学者シャケが提唱)と呼ばれる、壺②では赤球と黒球を選ぶ確率がそれぞれ50%以下となり、合計確率が100%にならない状況を理論的に説明した。

〇マルチプル・プライヤー
上記の壺②に対しては、球が100個入っているという以外に客観的情報が無いため、赤球と黒球が100:0~0:100で入っているという101通りの状況が考えられる。

この101通りの状況が平等に発生し得るとして期待値を計算する(マルチプル期待値)。その状況で期待値が最少となるのは選びたい球が一つも入っていない0の状況で、壺①での最小期待値である0.5より小さい。

このようにして、最悪の数値を避けるために壺①が選好されると考える事も出来る(マックスミン原理)。

*****************

不確実性を厭う性向は、経済社会も説明出来る。最も悪い数値を指標に用いるため、不確実性のある状況では決断に尻込みして、環境変化に対応し難くなる。

第6章 僕がそれをしっていると、君は知らない
   ~コモン・ノレッジと集団的不可知性

コモンノレッジ(共有知識):
多くの人々が知っており、且つ、互いに知っている事を知っている状態。

個人個人が同じ情報を持っていても、相手が知っている事を知らなければ以心伝心は出来ない。暗黙の了解が公的に告知される事で変化が発生する事がある。

⇒本章では数学的に共有知識を説明している

第7章 無知のヴェール
   ~ロールズの思想とナイトの不確実性

〇ジョン・ロールズ
人々の効用を合計して最大化を測る事を拒否する。以下の公正の原理を提唱。

①自由の優位
各人は、他人の自由と両立する限りで広範な基本的自由に対する権利を有する。
②格差原理
不平等は不遇な人々の利益を最大化し、機会均等の条件が満たされる限りにおいて許容される。

不平等を是認するが最も不遇な人々の厚生を最大化しようとする。ロールズはそれを数学的に導出される原理と考えた。

ロールズは道徳的人間(公正を理解・実践し、人生の目標を追及していく)を仮定し、基本材(人間が社会生活を営むために必要な財)を目標にするとした。

第8章 経験から学び、経験にだまされる
   ~帰納的意思決定

経験から引き出す推測を理論化する試み。

事例ベース意思決定理論:
自分の知識や経験から類似の問題を抜き出して、その結果を踏まえて判断する(頻度主義)。

帰納論的意思決定理論:
プレイヤーがゲームの構造を勝手に想像すると仮定する。根拠の無い仮定が、経験によって正当化されていく事がある。

多くの人間は確率ではなく理屈で証明する。

他人と予想が食い違った場合、「幾ら賭けるか」と質問するのは、自分の正しさを証明するためである。人間は内面に「公理系」と「過去の経験の蓄積」を持っており、それらを現状況に当て嵌めて行動する。そして公理系には経験による自己修復機能がある。

人間は固着した論理から離れられない場合でも、強制的体験から自分の過誤に気付く事がある。貧しい個人的体験によって、最適でない行為を最適と思い込む事がある。



第9章 そうであったかもしれない世界
   ~過去に向けて放つ確率論

意思決定理論は、人間が不確実性を定式化し、どのように意思決定するかを分析する。それは選好という内面的好みを定式化する事によって行われる。

しかし、決断は出来事が生起する前に行われるが、その帰結は事後に齎されるため、事前での好みと事後での好みは食い違う場合がある。

多数回同じ事象に立ち会う事は稀であり、一回の参加に対する基準は難しい。結果のみで考えるのでなく、他の選択をした場合の世界を対にして初めて不確実性への選好が理解出来る。

成功者が寄付するのは、自らの成功が過誤の結果である事の償いの意味があるのかもしれない。

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