世界史の極意

読んだ本の感想。

佐藤優著。2015年1月10日 第1刷発行。



著者の主張は選良主義なのだと思う。国家を主導する選良が「物語」を作り、それに大衆が従う。選良が支配するのは自国民のみであり、領域外の事象は所与と見做す。インターネットが普及した現代には合わないかもしれない。

著者は資本主義は必然的にグローバル化を伴って帝国主義に発展するとする。共産主義は資本主義のブレーキ役となったが、ソヴィエト連邦崩壊によって資本主義が加速し、新・帝国主義が生まれたとする。

帝国主義下では、排外主義的なナショナリズムが盛んになる一方で、小さな民族に主権を持たせる事で危機を乗り越えようとする動きが出て来るとする。

〇アナロジーによる理解
神学ではアナロジー(類比)を用いる事を特徴とする。類比によって論理を超えた複雑を理解出来るとする。

類比とメタファー(隠喩)は次のように違う。

類比:神には知恵がある
隠喩:神は獅子である(神は獅子のように怒る)

隠喩は神と獅子のように違いがあるものを比較する事で差異を際立たせる。類比では類似性の要素が強い。神という見えない存在について考える事を可能にする(著者は隠喩を類比に含めて構わない立場)。





第一章 多極化する世界を読み解く極意
社会経済史から時代状況を読み解く。

1870年代はスエズ運河買収やアフリカ植民地化等の帝国主義が盛んになった時代。1873年~1896年の大不況が原因となり、巨大企業が国家と海外植民地を求めたとする。

そこに至るまでには16世紀以降の資本主義の歴史がある。

〇重商主義
国家が商工業を育成し、貿易を振興する。16世紀前半にスペインがアメリカ大陸から金銀を収奪した事から始まり、17世紀には貿易差額主義として国家が輸出入を規制するようになり(1600年の東インド会社等)、国内産業を保護する産業保護主義に至る。

〇自由主義
産業革命が起こり、資本家が強くなると国家規制を無くすように主張する。19世紀初頭の英国は覇権国であり、余計な規制が無い方が競争に有利。1870年代に英国の優位が脅かされる事で、帝国主義が始まる。

〇帝国主義(独占資本主義)
レーニンは『帝国主義』で以下の定義をする。

・資本集中によって独占が出現
・金融資本(銀行など)の優位
レーニンは株式発行が金融分野における寡占を強めるとした。
・資本輸出(投資)が重要になる
・多国籍企業形成
・主要国による勢力圏分割の終了

〇国家独占資本主義
国家が資本に介入し、労働者の利益になるようにする。1950年代~1970年代は福祉国家の時代だった。

〇新自由主義
1991年以降は米国覇権が確立し、あらゆるモノが国境を超えるグローバル化が加速する。政府規制を排し、競争を推進する思想。

現代は、米国の弱体化により新帝国主義の時代になったとする。英国が覇権国家だった時代は自由貿易の時代だったが、英国が弱くなった1870年代に帝国主義が主流になったのと同じ流れ。

国家機能が強化され暴力性が高まる。

19世紀末から20世紀にかけて社会が、金融資本主義の問題に対処した方法は以下の通り。

①帝国主義
外部から収奪する。
②共産主義
③ファシズム
社会問題を国家介入で解決する。



<資本主義の本質>
マルクス経済学では、資本主義の本質を労働の自由化とする。

・契約の自由
身分制や土地の拘束から離れて自由に移動出来る労働者
・生産手段からの自由
土地と生産手段を持たない労働者

労働力の価値(賃金)は、①労働者の体力維持、②再生産(家族の維持)、③教育費用、等によって決まるとする。

恐慌は資本の過剰によって起こるとする(宇野弘蔵)。生産を増やすために労働力の価値が高まると、賃金が上がって生産しても儲からなくなった状況。イノベーションによって少ない労働力で生産する事で問題は解決する。

<物語>
ゲシヒテ(歴史上の出来事の連鎖には意味がある)とヒストリー(年代順に出来事を客観的に記述する)という二つの概念があり、歴史を他の知識と結び付けて理解するにはゲシヒテが有効とする。





第二章 民族問題を読み解く極意
民族とナショナリズムの関係。

中世欧州では教会と社会が一体化しており、現代のような民族意識は無かった。

西欧では百年戦争(1339年~1453年)の頃に中央集権化が進み、国家が成立する。対して15世紀末の神聖ローマ帝国(中東欧)は混沌としていた。

そして宗教戦争である三十年戦争(1618年~1648年)の終戦処理であるウェストファリア条約で、内政権と外交権を有する主権国家がの概念が生まれる。この時の神聖ローマ帝国の領邦国家は300程度。

こうした生まれた主権国家システムの概念は、フランス革命後のナポレオン遠征によって欧州の民衆にも広まっていく。

以下のナショナリズム論

〇ベネディクト・アンダーソン
道具主義として、民族は選良によって統治のために創られるとする(公定ナショナリズム)。原初主義として、民族には根拠となる源(言語や地域等)が具体的にあるとする説とは異なる。

出版により標準語が広まった影響があり、多くの読者を想定した媒体が我々意識を生み出したとする。

〇アーネスト・ゲルナー
道具資本主義を提唱。ナショナリズムという運動から民族が生じるとした。産業社会になり文化的同質性が身分制から解放された人々に広まった影響とする。社会が流動化し、広範囲に教育を実行する国家が必要とされた。

〇アントニー・D・スミス
エトニ(共通の祖先を持つ内的連帯感を持った集団)の提唱。エトニを持つ集団でなければ民族を形成出来ないとした。





ネイションの語源はラテン語の「ナチオ」であり、中世の大学で出身地を同じくするサークルを意味する。

ヤン・フス(1369年?~1415年)は、カレル大学にてボヘミアのナチオに参加し、聖書をチェコ語訳したフスが異端として処刑された後に発生したフス戦争にてカレル大学のボヘミアのナチオからチェコのエトニという思想が出たとする。

<ハプスブルク帝国の事例>
18世紀においてヨーゼフ二世がドイツ語公用語化政策を進めるが、ハンガリーのマジャール人の反発を受ける。ハンガリーでは民衆的ナショナリズムも育ち、マジャール語による出版物の普及により想像の共同体の素地が出来ていた。

1867年にオーストリア=ハンガリー二重帝国としてハンガリーは自治を認められるが、ハンガリー王国はマジャール語化政策によって他民族に公定ナショナリズムを突き付ける。

やがて第一次世界大戦敗北によって二重帝国は分離し、各民族が自立していく。

<中央アジアの事例>
帝政ロシアまでは国家が存在しない。血縁や地縁による部族意識やムスリムによる宗教意識等。

1920年代~1930年代にスターリンが恣意的に分割線を引き、ムスリム系の自治共和国が生まれる。人為的に作られた民族であるあるため、ウズベキスタンに属するサマルカンド、ブハラという都市にペルシャ語を話す人々が過半数を占める等の問題が発生する。

スターリンはイスラムの慣習を尊重すると同時に、イスラム系諸民族のエトニを刺激し、民族意識を刺激する事でイスラム原理主義が浸透する土壌を無くそうとしたとする。

ソヴィエト連邦崩壊後は、部族を中心とする選良が権力を握り、イスラム原理主義が拡大。







第三章 宗教紛争を読み解く極意
キリスト教とイスラム教の歴史。

イスラム原理主義は単一カリフによる世界帝国樹立を目指す。イスラムにはキリストという媒介が無く、神が命じればすべてを破壊して良いとする。

原罪を想定するキリスト教の世界観は人間社会の苦しみを当然とするが、イスラム教では悪となり暴力が肯定される。

カトリック教会はイスラム過激派への対応を目指しており、2013年のローマ教皇ベネディクト一六世の生前退位はそのための準備とする。

イスラムもカトリックも価値が全て金銭によって換算され、金の増殖が自己目的化する資本主義に対し、見えない世界(超越的なもの)への想像力が欠落する事象を埋め合わせる事を目指すとする。

キリスト教は啓蒙思想が席巻した18世紀を経て変化したとしており、ケプラー以降の天文学と整合性を取るために、神の居場所を天上でなく心とした(シュライエルマッハー:1768年~1834年)。これは主観的な心理作用と神を区別出来なくなる危険性を示す。

そこで現代神学の父カール・バルト(1886年~1968年)は、神は物理的には天上にいないが、上にいる神とした。神学は不可能の可能性に挑む事と主張。

1914年の第一次世界大戦で神無しに理性で人間社会を解釈する啓蒙主義が崩壊し、非合理な情念が人間を動かすとされた。

**************

欧州共同体とイスラム国は、ナショナリズムを超えるベクトルがある点で似ている。

コルプス・クリスティアヌム(キリスト教共同体:一神教、ギリシャ古典哲学、ローマ法という三つの要素から構成された文化総合体)に沿って勢力を拡張しようとする欧州共同体に対し、イスラム国はネットワークによって世界中が結び付く。

アーネスト・ゲルナーは、『民族とナショナリズム』のP136~P137でイスラム原理主義として以下を指摘。

・儒教と異なり、哲学的思弁を駆使しないために簡単で
 近代化の中でも生き残った
・強力な超越観念を持つために儒教より強い
・信仰の仲介者がいないため、道徳的言説の幅が広い。
 それ故に広域で影響を発揮する
・唯一神を極端に強調すれば知的整合性を無視可能
・論理を無視して「大きな物語」を作る事が出来る





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