この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた

読んだ本の感想。

ルイス・ダートネル著。2015年6月20日 初版印刷。



人間社会崩壊後に、文明を再起動する方法を考える。そこから、人間の歴史を概観出来ると思う。

以下は、「The-Knowledge.org」へのリンク。

http://the-knowledge.org/en-gb/

◎物理学者リチャード・ファインマンへの質問
Q:
大惨事後の知的生命体に最も少ない単語数で最も多くの情報を伝えられる文章は何か?
A:
原子仮説。全ての物質は原子から構成されており、永久に動き回る粒子は、離れている時は引き合うが、押し付けると反発する。

第1章 僕らの知る世界の終焉
人間社会が崩壊し、社会契約が破棄される状況について。

著者が想定するのは、疫病の流行等によって急激な人口減少が発生し、技術文明の基盤が残置された状況?

第2章 猶予期間
人間社会が崩壊した場合、都市は人間が住めない環境になると予想する。

都市を資源発掘場と考えれば、知識やヨウ素錠(浄水用)、食料、医薬品、発電機等。

1990年代のボスニア戦争にて、三年間をセルビア人勢力に包囲されたゴラジュデ市が独自の水力発電装置を建設した例。ドリナ川にバドル型水車を取り付け、自動車のオルタネーターを動かした。

第3章 農業
現代農業で栽培される作物の多くはハイブリッドであり、二つの近傍系を交配させる事で生産される。純種を生む事が無いために、在来作物の種子を確保しなければならない(ロンドンのミレニアム・シード・バンクやノルウェーのスワールバル世界種子貯蔵庫等)。

農業を同一の農地で継続すると、人間の消費用に栄養素が土地から取り除かれていくため、窒素(蛋白質を形成する)、リン(エネルギー移動)、カリウム(水分損失を減らす)等を定期的に補充しなくてはならない。

現代農業は20世紀初頭と比較し、一エーカー当たりで二倍~四倍の食糧を生産するが、石油を多量に消費している(食料一カロリーについき、10カロリー分の化石燃料)。

〇ローム
耕作最適地。40%の砂、40%のシルト、20%の粘土が混ざる。粘土土壌を簡単に砕ける状態に維持するためには石灰を撒く必要がある。

〇耕耘
硬い土壌を軟らかくして、表土を均らす等の機械的作業。耕す事で雑草を除去し、肥料をすきこむ。種まき機等で種を一定間隔で植えておけば土地を無駄にしない。

〇ノーフォークの四輪作法
窒素を土中に注入する植物(エンドウ、クローバー、大豆、ピーナッツ等)を利用する農法。

以下を輪作する。

①豆類
土壌の肥沃度を高める。
②小麦
土壌の肥沃度を利用する。
③根菜(蕪、飼料ビート等)
畝の間の雑草を抜く事が出来る。
④大麦

根菜導入以後の欧州では、大量の家畜を飼育可能になった。スウェーデン・カブ等は二年生植物なので、冬季まで土中に残しておき、家畜の栄養補助に活用した。

〇肥し
一人の人間は年間50kg程度の便を出し、その10倍の尿を排出する。これは約200kgの穀類を生産するために必要な窒素やリン、カリウムを含むとする(有機廃棄物一トンを密封した状態で保存すれば、嫌気性細菌により50㎥のメタンガスを生産出来る。石油40lに相当)。

病原となる菌等は65℃以上で熱すれば死ぬため、低温殺菌が必要になる。それは葉以外の植物部分を糞便に混ぜ込み、定期的に攪拌する状態を数ヶ月続ける事で発生するらしい。

他に、リンは骨に多く含まれ(1841年に建設された世界初の肥料工場では、硫酸を食肉工場からの骨粉と反応させた過リン酸を販売した)、カリは木灰から抽出可能(1870年代にはカナダの森が欧州肥料の主要原産地となった)。

第4章 食糧と衣服
〇調理
調理を可能にしたのは、土器による技術革新だったとする。土器は外部から追加された「胃」として食物を事前消化する。

〇保存
最も簡単な食料保存法は乾燥させる事である。乾燥食品とは考えられなくとも、砂糖が微生物から水を引き出す事で繁殖を抑えるジャム等も乾燥食品と言える。塩漬けした食品も同様。

燻製は、木材を不完全燃焼させる事で得られるクレオソートを食物に染み込ませる手法。酸性代謝物を排出する細菌の繁殖を促す方法もある。

現代的な冷却技術では、冷媒(蒸発させるのに熱エネルギーが必要)の蒸発と放出を繰り返す方法。簡単なのは、アンモニア等の冷媒と水と混合し、熱する事で分離させ冷却サイクルに入れる。熱を利用した冷却方法。

〇衣服
短い繊維の塊を長い糸に変える事から始まる。粗紡をほぐして紡ぐ作業、直角に交わる二組の糸から布を作る作業、布を体に合わせる作業が必要になる。

第5章 物質
〇木炭
木材を燃やす時に、使用される酸素量を制限する。水等の気化し易い揮発性物質が取り除かれるため、重量が半分近くになるが、燃え易くなる。

燃焼時の可燃性ガスを凝縮した木酢はアセトン、メタノールで出来ている。

〇石灰
貝殻等を構成する炭酸カルシウムには、酸性土壌を中性にする作用がある。900℃で熱した炭酸カルシウムは生石灰(酸化カルシウム)となり、腐敗臭を抑える。生石灰を水と反応させた消石灰(水酸化カルシウム)は、水と混ぜる事で浄水に活用出来る。

〇石鹸
油脂が材料。油脂の分子は、三つの脂肪酸炭化水素が一つの結合物質と結び付いたものであり、アルカリで加水分解する事で石鹸となる。脂肪酸塩は、炭化水素を油中に埋め込み、他の部分は水に溶け込むため、油脂の汚れを洗い流す事が出来る。

アルカリは、灰を水に混ぜ、その水を沸騰させる事で入手出来る(カリ)。他に簡単に入手出来るアルカリはアンモニアとする。

第6章 材料
〇粘土
アルミノケイ酸塩鉱物の細かい粒子から成る。900℃以上で熱すると、ガラス状の不純物が溶け出し、ガラス状となる。釉薬(ガラス質の物質)に浸す方法や、窯の中に塩を入れて熱し、ナトリウム蒸気と粘土中のシリコンと融合させる方法等。

〇石化モルタル
消石灰を少量の砂、水と混ぜるとモルタルになり、煉瓦のつなぎや漆喰になる。ローマでは消石灰と火山灰を混ぜて強度のある建築材料(セメント)とし、水硬性材料としてアフリカ北岸の自然の港が無い地域の開発に活用したらしい。

近代のセメント製造方法は1794年に発明され、石灰岩と粘土の混合物を1450℃で焼いて製造している。

〇ガラス
ガラスは紀元前3000年頃のメソポタミアで発明された。1650℃と融点が高い二酸化ケイ素から造られ、ソーダ灰等の融剤を使用して融点を引き下げている。顕微鏡や実験器具等、科学において重要な物質。

第7章 医薬品
近代まで都市は衛生状態の悪さによる死亡率の高さのため、周辺部から移住者が流入する事で人口を維持していた。アイデアや交易促進は、そのリスクがあっても重要なものであったと思われる。

医療介入が無い場合の出産は極めて危険であり、産科鉗子等の器具は1600年代に始まっている。さらに、医療関係の実務技術を書物からのみ手にする事は極めて困難とする。

特定技術よりも「思想」を残す事が現実的?であり、公正な試験(史上初の臨床試験は1747年)により、実際に効果があるか見極めるシステムを構築するべき。

ペニシリンの発見過程を再現する事を想定すると、薬効ある黴を探すために、ペトリ皿に牛肉から抽出した栄養を入れた海藻由来の寒天で固めた培地を作り、そこに鼻から取り出したブドウ球菌をつけ、様々な真菌胞子の発生源にさらす。そして、細菌繁殖を抑制している黴を探す。

一人当たりに処方されるペニシシリンの一日分を生産するには2000lの黴汁が必要であり、高度な組織力が必要になる。

第8章 人びとに動力を―パワー・トゥ・ザ・ピープル
著者が自宅の年間エネルギー消費量を計算すると、1万4000kw弱となり、これは乾燥した木材3トン(木炭1.7トン)に換算され、入手するには2K㎡以上の雑木林が必要な計算となる。しかも、可燃性燃料は非効率なので、実際にはその何倍もの木材が必要となる。

ちなみに、米国の一人当たり年間エネルギー消費量は9万kwであり、14頭の馬を年中無休で労働させた力に匹敵する。

古代からの動力は水車や風車を活用するものであり、特に風車は高度な技術が必要になる。

〇電気
最初は電池が発明された。伝導性ある液体(ペースト)を二種類の金属で挟めば、電子が金属間で移動する事で一定の電流が発生する。ボルタ電池(1800年)は、銀と亜鉛の円盤を、塩水に浸した紙の束で挟んで、交互に重ねる事で作られた。

鉛蓄電池は、両極に鉛の板を使用し、硫酸の電解液に浸す。充電中は正極が酸化鉛、負極が鉛地金となり、放電すると逆になる。

⇒金属の化学エネルギーを使用

より大規模な電力活用には、磁石を電線の周囲で動かし、動力を電力に変換する。

第9章 輸送機関
機械化による輸送が出来ない場合、畜力を活用する?

1989年にソヴィエト連邦の勢力圏が崩壊した事を受けて、キューバでは化石燃料調達が困難になり、4万台のトラクターの代わりに40万頭の牛や馬が育成される事になった。英国や米国で農耕に動物を使用した最盛期は1915年前後であり、畜力の活用はそれほど遠い昔ではなかった。

第10章 コミュニケーション
〇筆記
木材パルプから作成する紙は近代的技術で、19世紀末まで亜麻布をリサイクルして紙を製造していた。紙を作る繊維は様々な植物で細胞同士を結ぶ構造分子(セルロース)から出来ている。

セルロースはリグニンによって補強されているため、苛性アルカリ溶液(消石灰等)に植物を数時間浸して加水分解する事でセルロースと分離させる。セルロースの白い繊維が浮かび上がるはず。

セルロース繊維を裏漉しし、篩の上でマット状にして乾かせば紙になる。

〇印刷
15世紀の印刷技術のためには、油性塗料が必要だった?それまでの没食子インク(鉄の化合物と虫こぶからの抽出物カリウムとタンニン酸の混合)は水溶性であり、煤(油を燃やした時に回収)と胡桃油、松脂等を混合した新しいインクをグーテンベルクは活用した?

第11章 応用化学
〇電気分解と周期表
例えば、塩水に電流を流すと、陰極から水素ガスが回収され、陽極からは塩素ガスが出る。このように電気分解は物質の構成要素が元素である事を示す事が出来る。さらに、原子を結び付る機構が電磁気と関係している事も示す。

そこから、元素は似たような性質の元素と一団を形成する発想が出来上がり、同様の性質を持つ元素を並べる事で周期表となる。周期表により、未だに見つかっていない物質を予測する事が出来る。

1930年代からは周期表は技術的に生み出された元素を組み込んでいくことになる。陽子と中性子で原子核が膨れ上がり、即座に崩壊する原子。

〇爆発物
黒色火薬は、木炭(燃焼、還元剤)と硝石(酸化剤)を混ぜ、元素状硫黄を振りかける事で出来た。同量の硝石と硫黄、その六倍の木炭燃料。

熟成した堆肥には窒素を硝酸塩に変える細菌が生息している。硝酸塩は水に溶け易いため、石灰水を堆肥に染み込ませると、大半の無機物は不溶性の水酸化物として堆肥内部に留まるが、カルシウムが硝酸イオンを捕らえて排出される。この液体にカリを混ぜると、炭酸カルシウムと硝酸カリウムになる。

硝酸カリウムは水に溶けないため、沈殿した炭酸カルシウムを取り除いて水分を蒸発させると硝石になる。

〇写真
銀の一部の化合物が太陽光で黒ずむ作用を利用。可溶型の銀を作り、薄いフィルムに均等に塗った後、写真媒体の外側に定着させて不溶性の銀に返還する。

紙に塩を溶かした卵白を塗り、乾燥させる。それから硝酸に少量の銀を溶かした水溶性硝酸銀を、卵白を塗っておいた紙に塗ると塩化銀となる。この紙に光が当たると、塩化銀が金属銀に還元され、光に露出されなかった部分は白いまま残る。チオ硫酸ナトリウム(苛性ソーダに二酸化硫黄のガスをくぐらせて、粉末硫黄と沸騰させる)で定着させれば写真となる。

〇炭酸ナトリウム(ソーダ灰)
18世紀にニコラ・ルブランが開発した方法として、塩を硫酸で反応させ、出来上がった物を石灰岩と木炭か石炭を使用して溶鉱炉で1000℃前後で焼き、水に浸す事で抽出出来る。

⇒欧州の森林で大規模な伐採が進んだため、アルカリを木材以外から入手する方法が望まれていた

他にソルベー法として、重炭酸アンモニウムを濃い塩水に加え、重炭酸ナトリウムにし、熱する事でソーダ灰に変える方法がある。

〇ハーバー・ボッシュ法
1908年に発見された。窒素と水素を反応器内で1:3の割合で混合し、アンモニアを生成する。

窒素に変化を促すには、触媒が必要で、窒素ガスに水酸化カリウム等を加える事になる。反応器を高温(450℃)かつ高圧(200気圧前後)に保つ必要があり、高度な技術が必要。

アンモニアと硝酸を混合して硝酸アンモニウムとして肥料になる。

21世紀初頭現在において、ハーバー・ボッシュ法は年間約1億トンの合成アンモニアを生成し、世界人口の1/3を支えている。

⇒19世紀を通じて、欧州農業は輸入したグアノとチリの硝石に依存していた

枯渇しつつある資源に依存している状態から脱するためにハーバー・ボッシュ法が必要とされたとする。人口が一定の限界に達すると、肥しを土壌に戻す方法や豆類を植える方法も限界に達し、農業ループ以外から窒素を投入するインセンティブが強まる。

第12章 時間と場所
現代の時間スケジュールは生活リズムを形式化したものである。昼夜を超える時間意識はゆっくりと感じられる。

日時計があれば、一日の長さに年間で周期性がある事を観測可能になり、一年を細分化し、季節周期をどこまで進んだか、星の変化等から計測出来るようになる。

第13章 最大の発明
文明が進歩し続けているのは歴史的には特異現象である。

産業革命当時の英国が、豊富なエネルギーと高い労働力、安い資本という特殊な条件を持っていたため、産業革命が発生したとする。

科学知識があったしても、社会経済的背景が伴わなければ技術は採用されない。

科学の根幹にあるのは、自然法則を見い出し、数値で表現し、実証する精神である。距離、時間、温度の尺度を定め状態変化を計測する方法論。

⇒この章と序盤のリチャード・ファインマンの意見が最も重要な箇所だと思う

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