暴力はどこからきたか

読んだ本の感想。

山極寿一著。2007年12月25日 第1刷発行。



第一章 攻撃性をめぐる神話
1 人類の進化史と攻撃性
第二次世界大戦後における人間の攻撃性に関する学術的考察について。

レイモンド・ダート:
南アフリカにある化石から、アウストラロピテクスがヒヒを殺したり、同族を殺していたと主張。劇作家ロバート・アードレイは、その主張に感銘を受けて『アフリカ創世記―殺戮と闘争の人類史』を著す。

⇒人類が本能的に争うという意見は、第二次世界大戦の痛みを和らげる効果があったとする

コンラート・ローレンツ:
解発(動物が遺伝的に持っている行動が、刺激によって誘発される)という概念を提唱。『攻撃―悪の自然誌』を著す。人間は武器を発達させたために、遺伝的抑止機構を超えて戦いを拡大させたとする?

『二〇〇一年宇宙の旅』では、ロバート・アードレイの説をヒントに、猿人達が武器を獲得して争う場面が描かれているとする。

2 狩猟仮説
チャールズ・ブレイン:
上記の仮説を再調査。アウストラロピテクスが殺したとする同族達は、実際にはヒョウに殺されていた事を証明。

武器を用いた狩猟技術向上が攻撃性を高めたという説も、狩猟採集民の研究からは証拠が得られなかった。『ハームレス・ピープル』では、争いを避けるブッシュマンが記述されている。

コンラート・ローレンツの説も否定されるようになり、動物は状況や経験に従って葛藤への対処方法を変えるとされるようになった。機械的に攻撃衝動を発散させるわけでない。それに、集団間の戦いの個の命を捧げる事の説明が困難。

3 暴力とは何か
狩猟、戦争、個人の暴力は同じ衝動から発していないとする。

異なる種との争いと同一種との争いは違う性質を持つ。異種を攻撃するのは食欲からの狩猟であるが、同種を攻撃するのは自己主張を相手に認めさせるためであり、殺す必要は無い。

さらに、同種間の争いも、単独で生活する動物は距離を保つために攻撃するが、群れで暮らす動物は調停を必要とする違いがある。

第二章 食が社会を生んだ
1 生物がともに生きる意味
人間は練った雨林で紀元前6500万年頃に誕生した霊長類の性質を受け継いでいる。

熱帯雨林の優占種は被子植物である。被子植物は紀元前1億年頃に誕生し、昆虫類を利用した受粉を行う。裸子植物が膨大な花粉を飛ばさなくてはならないのに対し、被子植物は昆虫に花粉を運ばせる効率の良い方法を取る。

霊長類の祖は樹上の昆虫を食し、横に枝を広げる被子植物の性質に体操し、樹上で暮らすライフスタイルを身に付けたと思われる。

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花粉を運ぶ昆虫に対し、大型の動物は種子散布を行う。霊長類は食べる果実が多様なので、様々な大きさの種子を散布する。頬袋を持たないものの、種子を嚙み砕かない霊長類の食事型は植物に都合が良い。

2 食べることによって進化した能力
霊長類が誕生した頃は、植物の八割以上が被子植物だった。鳥類との競合を避けるために夜行性だった霊長類は、大型化するに連れて昼行性になる。

さらに進化して蛋白質に富む葉を食べるようになる。常緑樹の葉は硬いクチクラ層に覆われており、消化出来ない植物繊維がある。だから、霊長類は高い歯冠(歯肉から冠状に萌出している部分)を持つ臼歯と、咀嚼力の高い顎を持つよう進化した。

腸内にバクテリアを共生させる後腸発酵のシステムでは、類人猿は大きな体で代謝の効果を高めている。しかし、オナガザルよりも効率が悪いために容易に消化出来る完熟果実を好む。

頬袋を持たない上に完熟果実を好む類人猿は、広い範囲の餌を探し、且つ、その場で果実を食べなければならない。そのため、果樹に滞在する時間が長く、大集団を維持し難い。類人猿はオナガザルよりも小規模な集団で暮らす。

3 食物の違いがもたらすもの
霊長類の消化器系は、主に昆虫や植物を消化するように出来ており、肉食動物のように食べ貯めが利かない。毎日、食物を摂取し、消化する必要がある。

葉と比較して昆虫や果実は一カ所で得られる量が少ないため、葉食の霊長類は食後にゆっくり休息をとる傾向がある。その食事時間は朝方と夕方に集中し、正午近くは休息して消化する。

このように霊長類は植物の分布に大きく影響される。植物分布が霊長類の移動範囲や群れの大きさ、仲間との関係性を規定する。

4 ニッチとテリトリー
競争排除原則として、同じ生態的地位にある二種が共存する事は困難。他の動物と競合しない領域を見つける必要がある。

食虫類から分かれた当初の霊長類は、夜行性であり樹上で単独でテリトリーを構えたとする。単独行動ペア型として、雄が雌以外を排除するテリトリーを有したかもしれない。

夜の生活は体格が小さく、単独生活する種が向いている。虫等の分散している食物を利用するには、特定範囲を占有する方法が有効。

5 昼の世界が集団生活を生んだ
活動時間帯が昼に変わると、群れが形成されるようになる。

昼行性の原猿類は、雌が優位である事が多く、雄が群れを渡り歩く。

果実は広く分散しており、夜行性の原猿類には適当な食事でない。果実を食物として取り入れるようになると、昼間に広範囲を移動するようになる。そうなると外敵に狙われる危険性が増すため、群れで行動した方が有利になる。

ただし、原猿類は臭いを用いた敵対行動を示すので、真猿類のように視覚を用いて群れが協力し、他の群れと戦ったり、血縁や優劣順位に基づく社会関係は形成されないとする。

6 食物と捕食者の影響
真猿類のほとんどは単独生活をしない(ヨザル、オランウータンを除く)が、雄が単独生活する時期がある種がいる。

ニホンザルやゴリラは思春期に生まれ育った群れを離脱し、単独生活し、他の群れの雌を誘い出して自分の群れを作る。妊娠や授乳しない雄は、行動域を広げて多くの雌と交尾する機会を持つとする。

7 食物をめぐる争いと社会性の進化
夜行性の霊長類は、群れない事で目立たない戦略を採るが、昼行性の霊長類は群れを作る事で危険を減じている。その行動域は食物分布と群れの大きさに応じて決まっており、固定したテリトリーを持つ昼行性霊長類はオランウータン(単独生活)等の僅かな種であり、季節変化の少ない熱帯雨林樹上で暮らす。

さらに、群れの中では互いの序列を順位付ける事により、食物をめぐる優先権を決定し、争いを避けているとする。

以下の2つの方法。

①スクランブル
個体間で争わずに食物を取る。個体数が多ければ各自の取り分が減少するため、採食場所を探して移動を繰り返す事になる。

②コンテスト
優位なものが優先的に食物を得る。劣位のものは食べる事が難しい。

捕食の危険が高いところでは、大きい群れの形成が促進される。身体が小さい種は容易く逃げる事が出来るし、樹上性の菜食では直接的争いは起こり難い。昆虫等の分散した食物を利用する場合も、それに同じ。

一方で、地上生で果実食の場合はコンテスト競合が働き、優劣に基づく専制的社会関係が発達する。雌が強ければ、血縁関係にある雌が結束し、血縁びいきの社会となる。

第三章 性をめぐる争い
1 インセストの回避と社会の進化
インセストタブー(近親間の性交渉禁止)があるために、血縁関係にある同性が性の競合無しに暮らす事が出来るとする。

インセストを回避する傾向は人間以外の霊長類にも見られる。外婚制(群れの外に番の相手を求める)、インセストタブー、男女分業は人間以前に成立しており、人間の段階で複数家族が集まって近隣関係を作る事が可能になったとする。

人間は集団生活とペア生活を両立する珍しい種であり、そうした社会構成のためにインセストタブーを利用したものと思われる。

2 ペア生活の進化
鳥類では、雄がテリトリーを構えてメスを呼び寄せるが、霊長類では、雌の分散が先行し、雄がそれらを囲い込む広いテリトリーを作る。雌雄一頭ずつで暮らす霊長類は、体格差が無い共通性があり、テリトリーを一致させる事で成立している。

3 メスがオスの共存を左右する
群れ生活する霊長類には、雄が雌より大きい傾向がある。雄が複数の雌と暮らす社会では、雄間に雌をめぐる競合が強く、体が大きい雄が繁殖に有利になる性選択が働いたと推測される。

単雄複雌の社会は雄間の競合が強い。ただし、複雄複雌の霊長類種は睾丸が大きい傾向があり(ゴリラの睾丸は体重の0.02%だが、チンパンジーは0.27%、一回の射精で放出する精子量はゴリラが51万、チンパンジーが603万)、単雄複雌の種は他の雄が灰書されるために僅かな精子で十分だが、複雄複雌の種は配偶関係の競合が発生していると思われる。

また、複雄複雌の種の雌は発情期が集中する傾向があり、一頭の雄が発情した全ての雌の相手を出来ない事を示す。発情期が生まれた理由は、雌の数が多い事と相関しているとされる。

性皮(陰部の周囲に発達し、発情すると皮膚が膨れる)の存在は群れ構成と相関しているとされ、性皮を持つ種は長く発情する傾向があり、雌が一頭の雄と独占的交尾関係を結ばない傾向があるとする。

******************

人間の特徴として睾丸がゴリラより大きくチンパンジーより小さい。性皮が無くて発情時期が明らかでないが、性交渉は排卵時期に限定されない。チンパンジーのように乱交を許す社会ではないが、ゴリラのように雄が配偶関係を独占しない不思議な社会を形成している。

4 母系と父系
<母系>
ニホンザルは、血縁関係にある雌が集まって家系グループを作り、優劣順位をもって共存する。その雌の群れに雄達が連合し、群れを出入りしながら優劣順位を組み替えていく。

<父系>
チンパンジーやゴリラは雌が群れを出入りする父系の特徴を持つ。

上記は全て、娘が親元を離れる性質を持ち、インセストを回避するためかもしれない。継承性のある群れにどちらかの性が留まり、母系や父系に収斂していくとする。

5 娘と息子のゆくえ
ニホンザルにおいては、交尾を通じて親しさが生じると、それが交尾を阻害するようになるとする。

ニホンザルやバーバリマカク等で遺伝子を調べると、母系的な血縁関係では交尾が回避されているが、父系的な親子関係(父と娘等)では交尾が発生していた。

バーバリーマカクの観察では、活動する昼間の時間帯の6%を費やして世話をし、それが半年以上継続すれば、父娘の間に交尾回避が発生したらしい。あまり世話をしない父が娘と交尾する?

雄が一つの群れに長期滞在しなければ、娘が性成熟した時に、父親が群れにいないため近親姦を回避出来る。雌が親元を離れる類人猿社会では、雌が一つの群れに留まる傾向があるために、母系社会と比較してインセストが発生し易いとする。

初期人類が父系社会であった場合、チンパンジーと同様にインセストが発生する可能性が高く、禁忌として規範にしたかもしれない。人間は夫婦間にだけ性行為が限定され、他の異性間には禁止されるため、性をめぐる葛藤無く共存出来るとする。

第四章 サルはどうやって葛藤を解決しているか
1 優劣順位とは何か
優劣関係は共存のためのルールである。実際には戦わずに社会を形成出来る。

ニホンザルの雄の間には直線的な優劣順位があり、優位な雄がすぐ下の雄に常に自分が優位であると見せつけようとする。自分より優位な雄に攻撃されると、自分より劣位な猿を攻撃し、自分の立場を転化する。攻撃は優位から劣位へと波及しており、身分の低い新参者が反逆すると、群れ全体から攻撃される。

対して、ニホンザルの雌の順位は家系に分かれており、雌達の順位は家長である雌の間の優劣関係によって決まる。家系順位は母親が娘の加勢をする事で保たれるとする。

2 所有をめぐる争い
優劣関係が効果的に発揮されるのは、地上性で果実食の霊長類である。優位者が果実の採れる場所を占有する。葛藤が発生した時に、強く優劣を意識した行動が発現する。

3 和解の方法
厳格な優劣関係を表に出す社会では、攻撃が常に優位者から劣位者に向けられ、目に付くような和解行動は無い。対して、優劣関係が緩い社会では食物をめぐる争いが発生する事はあっても、優位者の権利侵害を咎めるような攻撃行動は少ないとする。さらに、争いには明示的な和解が必要となる。

優劣関係を明確にしないゴリラの衝突では、双方が面子を保つために第三者の仲裁が必要とする。そうした弱者による仲裁はチンパンジーにも見られるとする。

4 食物を分配する類人猿
ゴリラやチンパンジーの分配について。

ゴリラの優位者は、自分の占有権を分けて許容と共存の道具に活用する事がある。チンパンジーの最優位の雄は第二位の雄には分配せずに同盟関係にある雄に分配する等して優位性を政治の道具として活用する?

他個体の欲求を自己欲求と同じレベルで感じ、食物の一部を与える事で交渉継続了解を示す。

5 性の相手は分けられない
食物と異なり、分けられない交尾相手への葛藤を解決する手段。

①テリトリーを作って離れる
②雄が単独で雌を囲む
③優劣順位に応じて異性への接近権を認める
④乱交を許す

ボノボやチンパンジーでは、雌が発情期間を延ばして複数の雄と交尾する事で雄間の競合を減らし、複数の雄が共存する社会を作る。ゴリラでは、雌が雄の群れを離れて別の群れに入ろうとする時に争いが発生する事がある。

第五章 暴力の自然死―子殺しから戦争まで
1 子殺しと社会の変異
単雄複雌の群れで発生する子殺しについて。他所者の雄が群れを乗っ取ると、雌を発情させるために子を殺す。

葉食のゴリラの雌が群れを作るのは、単独でいると子を雄に殺されるため?雄が父性を確信出来るほど、長期間連れ添う必要がある。

子供を殺された雌ゴリラは、群れの雄が生きていた場合でも群れを離脱する傾向がある。その内の幾つかでは、殺害者と交尾しているらしい。

子殺しの可能性は雌に複雄群を選択させるインセンティブを強め、多くの雌が加入すれば雄間の葛藤も減るとする。子殺しは父系社会の傾向を強める。著者は、複雄群では子殺しが観測され難いとする?

著者は密猟によって年配の雄が減ると、若い雄が交尾相手をめぐって争うようになり、子殺しに発展すると推測している。単独生活を送る種や複雄複雌で乱交という交尾洋式の種には子殺しが発生しない?

雄が雌を囲い込み繁殖を独占する社会で、独占体制が敗れた時に子殺しが発現する?

2 人間はどう進化してきたか
人間の脳が大きくなったのは、弱さのためとする。様々な動物から追い詰められ、雑食性を身に付け、臨機応変な行動をする。直立歩行と家族が、人類がサバンナに進出出来た理由?

それらが人間に独特な暴力の基礎になったとする。

3 家族と不思議な生活史
直立二足歩行は、時速2㎞~4㎞での移動ならば四足歩行よりもエネルギー効率が高いとする。二足歩行によって自由になった手は、食物を運ぶためにも利用可能であり、分配を促す。

初期人類の社会を単雄複雌の群れで微かな発情を示すゴリラ型社会と推測する。そこからペア型社会へと移行していく。

直立歩行という高速移動に不向きな能力を発達させた人類は、捕食者に対抗するために複数の単雄複雌の群れが集合してクラン、バンドを形成する重層社会を形成した?

その中で秩序を保つ方法が、インセスト禁止と食の共同とする。類人猿の食には、劣位者が食物を前にして優位者に自制を要求する特徴があり、優位者がそれを了解した時に共食が可能になり、協力関係を確認出来る。

4 分かち合う社会
狩猟採集民の社会が分配する社会である事について。

食物を「我々」の下へ集めて、それを平等に分ける行為。所有を意識的に消そうとしている。チンパンジー等が特定の相手を対象にするのとは違う。

二者間の特別な関係は共在の場を壊す危険性がある。

人間の食生活の特徴は、食物を仲間の所へ持って来て食べる事にある。本来の食物の分布を人為的に変更し、他者の前で取り方を提示する。猿の場合、人間が餌を与える状況では、餌が動いてしまうので優劣関係を反映させる事が出来ずに攻撃行動が頻発してしまう。人間は食物の分配に細かいルールを設ける事で社会を安定させたとする。

5 所有と家族の起源
異なる群れの間で女性を交換する事で、性の相手を互酬性に基づく共同体の所有物とする。所有の生じ易い食を徹底的に分かち合う事で葛藤を抑える。それが複数の家族が共同体を構築する上で不可欠な事であるとする。

6 戦いの本質とは何か
人間の戦いには、群れに奉仕する前提がある。

本来の共同体は家族の延長であり、互いが個性を認知出来る約150人が限度とされる。

それ以上に共同体が拡大すると、互酬的関係の必要が増す。さらに共同体が増加すると、外部からの略奪によって富を蓄積する必要が出てくる。

言語によって抽象的な共同体を思考する能力が生まれ、農耕によって価値の高い土地の奪い合いが発生する。狩猟では狩場は点として認識される(複数の点がつながるネットワーク)が、農耕社会では面の所有や境界線が重視される。

さらに、先祖代々の所有権と言う観念が作られる。祖先崇拝は、先祖を土地所有の拠り所とするためとする。祖先を同じくする意識が共同体の規模を拡大する。

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