烏に単は似合わない/烏は主を選ばない

読んだ本の感想。

阿部智里著。2012年6月25日 第一刷発行、2013年7月10日 第一刷発行。





2冊で一冊になる本。やや説明不足な所がある。以下、ネタバレ含む。

以下は、「八咫烏シリーズwiki」へのリンク。

http://yatagarasu.memo.wiki/

この本を読んでいて、妹の以下のような雄叫びを思い出した。

「凄いムカツク女がいるんだよ。青森県を知らないって言うんだよ。オサカナの名前ですかー?とか言っちゃてさ。でも、男はそんな馬鹿な女が好きだから、お姫様みたいにチヤホヤされてるんだよ。フォー。チクショー」

男性的な感覚では、動かしがたい論理やシステムを好むところがあり、地縁や血縁、位階を尊重すると思う。女性的な感覚では移ろい易い感情を重視するところがあり、本書における主従関係に違和感があるのは、そうした感覚の違いなのかもしれない。

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平安時代風の異世界 山内が舞台。この地を司る族長一家 宗家があり、東西南北を有力四貴族である東家(楽人を多く輩出)、西家(文化レベルが高い)、南家(経済的に豊か)、北家(武人が多い)がそれぞれ統治する。

皇太子である若宮の后を決めるべく、四貴族から四人の姫が后候補として桜花宮に集められ、后が決定するまでを描く。『烏に単は似合わない』は后候補達の視点から話が進められ、『烏は主を選ばない』はその間の若宮の行動が記述される。

【烏大夫の伝説】
①貴族に伝わる話
若宮に求婚された姫に横恋慕した烏が、若宮や姫に化けて悪い噂を流すが信じてもらえない。烏大夫は烏が姫に化けた時の呼び名。見た目が美しくとも、宮中の常識を知らない事で馬脚を露す。

②民間に広まる話
高貴な姫と恋に落ちた兄鳥と、若宮に見初められた妹鳥の物語。姫は若宮に心変わりし、若宮も姫の求愛になびく。邪魔になった兄妹は愛していた者達によって殺される。

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以下は、后候補の紹介?

〇あせび
東家の二の姫。姉姫が体を壊したために代理で后候補となる。珍しい薄茶の髪をしている。世間知らずではあるが、音楽の才がある。

〇浜木綿(はまゆう)
婚活パーティーに、化粧無し・ジャージ着用で現れ、「私は男に媚びない」と絶叫する40代独身女性のイメージ。若宮とは昔馴染みであり、若宮に相応しい姫を選ぶつもり。自分が本気を出すと他の姫に勝利してしまうと思い、意図的に無作法に振る舞った自信家。

〇真赭の薄(ますほのすすき)
『ジョジョの奇妙な冒険』4部に登場する山岸由花子さんのイメージ。一晩で手編みのセーター。若宮に恋しているはずが、実際に会ってイメージと違ったので尼になると宣言して断髪する。

〇白珠
若宮の后になれぬなら自殺すると言っているが、実は下男と恋愛関係にある。「私は嫌なのに下男があまりに強引なの」というような悩みに説得力が無い。

后候補が重い人ばかりなので、あせびが選ばれるかと思っていたら、あせびが最も重い女だったという話。説明が足りないので、最後まで読んでも伏線に気付かない読者が多いと思う。シリーズ2巻目以降、あせびが登場しなくなってしまうので、これなら別の姫を主人公にした方が収まりが良かったのではないか。

『烏に単は似合わない』では、后選定中に起こる様々な事件がテーマとなる。届かない若宮からの手紙、女房の死等。それらは、あせびの仕業であり、他の人間が自分の意図通りに動くように操作していたらしい。

『烏は主を選ばない』では、同期間中の若宮暗殺未遂事件がテーマとなる。この巻は若宮が后選定中の事件を捜査する過程を描いた方が良かった気がする。

それと若宮が遊学していた期間を10年としているため、妹の関係や幼馴染との関係が変になっている気がする。5年では駄目だったのか?

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2巻目以降、あせびが登場しなくなってしまうので、作品の伏線に気付き難い。

あせびは、后候補だった母親が下男に手籠めにされて出来た子供なのだと思う。

あせびの母 浮雲は生まれつきの位が下でありながら、当時の若宮に最も寵愛された后候補だったという。他の姫が出し抜く形で帝の子を身籠って宿下がりしたものの、側室として入内出来る筈だった。

しかし、入内前に別の男の子を孕んだために入内資格を失い、東家当主の側室となる。浮雲は殺されたらしいが、犯人である下男は珍しい薄茶の髪をしており、あせびの父親はその下男である事が暗示されている。

東家当主は、あせびが下男の子と知っていた事になる。

その前提で、『烏に単は似合わない』を読み返すと印象が変わる。例えば、冒頭の東家当主とあせびの会話。

「(前略)お前はとてもこの父の子とは思えないよねえ。才能にあふれていて、しかも、とびっきりのべっぴんさんだ。お母さまに似て良かったよねえ」
「(前略)私はお父さま似だと、もっぱらの噂ですのに」
「おやまあ、どこがなのだろうね」
「(前略)『おっとりし過ぎていて、はらはらして見ていられない』のだそうで」

この場面を血縁関係の無い父娘の会話として解釈すると、父の嫌味に対して、娘が自分達は無邪気を装う狡猾であると返している事になる。

さらに、あせぎの姉が体を壊したのは、あせびが下男に姉を襲わせた事が原因だが、東家当主はその事に気付いている。次のやり取りで「余計なことなどせず、さっさと帰っておいで」と東家当主が言うのは、后候補として成果を出せない場合、相応の制裁がある事を暗示している。

桜花宮に向かう車中で、あせびが姉の事を思い、姉と代わりたいと思う場面があるが、これは制裁の苛烈を示してるのだと思う。

后候補として桜花宮に到着した後も、あせびは異様だ。

他の姫達が当たり前のように知っている常識や教養を教えてもらっていない。粗末な雛人形。何よりも普段使用される呼び名である仮名が無く、族長の正妻である大紫の御前にあせび(馬酔木)という名を付けられる。馬は下賤の者を意味し、大紫の御前があせびの出自を知っている事を示す。

白珠はあせびに対し、「自分は汚いことなんてなぁんにも知りません、自分はいつまでも綺麗ですって信じ込んでいる顔が、あたくしは心底嫌いなのです!」と言うが、最初から汚れた者であるあせびは、この言葉をどのように聞くのだろう。

姉妹同然に育った藤波があせびに執着するのは、あせびの東家での立場を知っているからかもしれない。

あせびは、他のどの姫よりも后となる動機があるが、幽閉されて育ち、音楽修業以外をやらせてもらえなかった者の知る奸計は、幼い頃の寝物語に聞かされ続けたであろう「賤しい男に身体を汚されたために入内資格を失った逸話」しかない。他は親しい人間に頼る事になる。

下男に襲わせる行為を繰り返すのは、そのためか?

最後の謎解きの場面で、あせびに対して若宮が以下のように言う。

「私は、悪意が無ければ、全てが許されるのだと知っている者を決して許す事は出来ない」

しかし、他の后候補達も刹那的な感情で主家との契約を破ったり、尼になったり、下男と密会している。『烏は主を選ばない』での若宮の行動は、人間を何人か殺したり障害者にするもので、当人が最も悪意無く他人を傷つけていると思う。

若宮や姫達は純粋な貴族であるので、気分で行動して尼になり野に降っても、その気になれば元の優雅な生活に戻る事が出来る。そうした者達が居場所の無いあせびを一方的に批判して良いのだろうか?

しかし、作者はそこに踏み込まない。作者は、美しい女性が嫌われ、性的魅力に乏しい女性が好かれる展開を書かずにいられなかったのだと思う。そのため、あせびの動機がぼやけてしまい、話が分かり難くなっている。

綺麗に着飾ったすみを見て、笑ってやるのだ。そんなもの着ても着なくても、何も変わっていない、と。お前はいつだって、一番強くて素敵だった、と。

⇒最後のこの言葉がどうしても書きたかったんだろう

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説明不足を補うために、八咫烏シリーズの3巻目では、あせびの母親 浮雲の話を書いて欲しかった。幾つかの疑問が残ったままだ。エピソード0が無ければ分からない事がある。

まず、東家当主が下男の子であるあせぎを実子として育てた理由。

浮雲が下男に襲われたのは、入内を阻止したい大紫の御前の意図とも思われるが、東家当主の意図も関係していると思われる。浮雲の娘の利用価値は何か?

次に今上帝の側室が殺された事件の不可解。公式には南家に帰属する浜木綿の母親が犯人とされ罰せられているが、真犯人は浮雲と若宮は主張する。その根拠は、側室殺害に使用された毒薬 伽乱は南領でしか取れず非常に希少であるため南家の者が犯人となったが、浮雲が伽乱を贈られているためとしている。

これは辻褄が合わない。作中で、大紫の御前が伽乱を用いて幾度も暗殺をしたような記述がある。最も怪しいのは大紫の御前のはずだ。

浮雲の策として、まず側室を殺害し、その罪を正室である大紫の御前に被せる事で、自らが乳母として宮廷に君臨する構想があったとしてみる。大紫の御前が疑いを晴らす物語が必要になる。

第3巻『黄金の鳥』から、侵略者 猿の要素を取り除くと「娘を愛せない母親」の話になる。

あせびは望まれない子供として母親から愛されない生活をしたはずであり、薄茶色の髪をした下男が浮雲を殺したのは、あせびを守るためであった。

このような感じの話に出来なかったのは、作者が若宮と雪哉の話を書きたいからなのだろう。

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