エドワード・ルトワックの戦略論

読んだ本の感想。

エドワード・ルトワック著。2014年4月30日 第1刷。



国家の発展や戦争における勝利、技術開発等でも、成功の極限点があるとする。一定のレベルを超えて成功し過ぎると、影響力を減少させる結果を招く事になる。

以下の5つの戦略レベル。下にいくほど上位になる。

①技術レベル
②戦術レベル
③作戦レベル
④戦域戦略
⑤大戦略

戦略の以下の2つの側面。

①垂直の側面
各戦略レベルの相互作用
②水平の側面
独立した各戦略レベルにおける作用と反作用

⇒大戦略においては、各戦略レベルが垂直的に相互作用し、且つ、国家間の外交を水平的に収斂させていく

第一部 戦略の論理
<逆説的論理>
戦争においては、生活にて適用される「直線的論理」とは異なる、相手の思考を外すための「逆説的論理」が重視される。敵を欺くために様々な逆説的論理(不完全な準備や悪天候での行動等)が正当化される。

逆説的行動は一定の自軍戦力を確実に喪失させる。そして、現実の戦果は期待値でしかない。喪失は計算可能であるが、敵被害は計算出来ない。

そのような戦闘リスク以外に、自軍が非論理的な行動をする事による組織リスクもある。複雑な計画通りに組織が機能しない可能性。そのため、事前に組織が許容出来る複雑を考量しておかなければならない。

⇒相手を欺くための逆説的行動は、必ず一定の損害を伴う。しかし、利用可能な資源を全て効率的に活用する直線的論理に基づく軍事行動は戦史上一般的でない

例外は、敵に対して圧倒的に優位な戦力を保持している場合で、組織的リスクを最小化するために全戦力を効率的に活用するべきである。

<極限点と逆転>
通常の戦争や技術導入において、勝利や普及が一定の均衡を超えて、最終的には逆転する事がある。

勝利の極限点を超えて敵領内に攻め込んだ軍隊は、補給困難から劣勢に陥る。効果的な兵器であっても普及し過ぎれば対抗措置の発展を生む。

その本質は、敵の反応である。直線的論理においては、有用な同質武器を大量調達した方が効率的であるが、敵は特定武器の特徴や弱点に対応するはずで、軍隊は一定の多様性を許容せざるを得ない。

極限点を超えた場合の成功は、全体的には大損害を発生させる。第一次世界大戦におけるヴェルダンの戦いでは、フランス軍がヴェルダン要塞防衛に成功してしまったため、要塞防衛に過大な軍事力を投入せざるを得なくなった。

*************

著者の意見として、外部介入により戦争が極限点を超えない事で戦争が長期化する事があるとする。

小規模で限定された規模の内戦は何十年も継続する事がある。戦争が安定した平和を導くのは、戦力を使い果たし、多大な犠牲を払った場合のみかもしれない。

インド・パキスタン、韓国・北朝鮮の休戦は、軍備拡大を無限に継続させる要因になっている。国連パレスチナ難民救済事業機関の活動は、難民を拡大再生産している。人命重視時代においては、遠方からの爆撃だけで行われる戦闘のみが許容されるのかもしれない。

第二部 戦略のレベル
上位の戦略レベルは、下位の戦略レベルを包括する。

戦術的に劣る軍でも、全体的に優れた作戦があれば勝つ事が出来るし、作戦は全ての戦域の相互作用によって制約される。さらに戦域は、国内政治や外交、経済活動を含む大戦略の一部である。

<技術レベル>
高い性能の武器等?

〇ミトライユーズ
1869年にフランス陸軍が導入した機関銃。一分間に300発が発射可能で有効射程距離500mであったが、大砲のように後方で扱われたため、普仏戦争では真価を発揮出来なかった。
1870年8月18日のグラヴロットの戦いでは、プロシア兵がフランス軍陣内に深入りし、ミトライユーズの射程距離内に入った結果、その日のプロシア軍の死者2万163人の多くはミトライユーズによるものとされる。しかし、戦争の帰趨に影響する事は無かった。

⇒技術レベルの優位が戦術レベルで無効化された例

<戦術レベル>
地形や植生、集団としての戦術技能、部隊の結束力等。

<作戦レベル>
関係する全ての軍に関する戦闘を含む。以下の2つの様式。

①消耗
火力と物量による累積的な破壊を通じて勝利する事を目指す。

⇒費やした質量に比例した結果を予想する

②相対的機動
敵の物理的、心理的、技術的、組織的な弱点に対し攻勢をかける。

⇒敵の長所、短所を判断する正確性に左右される

自軍が物量面で勝っていると判断した国家は、一般的には消耗という手段を選択する。逆に劣っている側は相対的機動により敵の脆弱性を攻撃しようとする。

消耗と相対的機動は、研究開発においても当て嵌まる。単純に兵器を改善する事を目標とする消耗のアプローチと、敵の特定の脆弱性を攻撃する事を目標とする相対的機動のアプローチ。

〇戦術と作戦の逆説
戦術レベルで見れば、縦深浸透攻勢は脆弱である。細長い列の側面は敵の攻撃にさらされ易い。しかし、作戦レベルで見ると、複数の縦深浸透する梯団に自軍を分断される可能性がある。防御側が、敵側も広域の攻勢作戦により前線を押し下げる事を目指していると誤認した場合、被害が拡大する。

<戦域戦略>
軍事力と領土を結び付る観点。

戦域レベルの論理によれば、特定地域を防禦しない事もあり得る。戦術レベルでは、攻撃側よりも防御側の方が有利であるが、より広い観点からは敵が防衛線を迂回する可能性がある。そして、狭い地域を集中攻撃される事も考慮しなければならない。

冷戦期における西ドイツにおいては、一部領土が非核兵器に対して脆弱な方が、都市全体が核攻撃される危険性が低下するという意見があった。

第三部 最終結果―大戦略
直接的論理において戦争は悪であるが、国家間の外交においては直接的な武力行使ではなく、武力による誘導を通じた国益確保も行われる。

逆説的論理として、武力を行使しないための武力誘導が効力を発揮するために、武力を行使する可能性が高いと思わせなければならない。

以下は、大戦略と下位レベルの戦略が不適合である例?

〇北アフリカ ドイツ遠征軍
戦術レベルの成功が大戦略の失敗によって覆された例。

エルヴィン・ロンメル中将は、1941年2月に一個師団を率いてイタリア領トリポリに派遣された。ロンメルはドイツ陸軍総司令部からイタリア軍の抵抗支援のみを命令されていたが、命令を無視してキレナイカ東部の港トブルクの英軍を攻撃。当初は勝利を収めたものの、やがては成功の極限点を超えて退却を迫られる事になる。

北アフリカ作戦全体が、東部戦線や西欧州等と違う副次的戦域だった事が大きい。各戦略レベルが垂直的に有効機能しても、ドイツの大戦略は水平的な外交の失敗によって破綻していた。

米国、英国、ソヴィエト連邦を敵にした事で、物質的資源において劣勢になり、ドイツの軍事的成功は不可能だった。

仮にロンメルがカイロとスエズ運河に到達していたとしても、英軍は上エジプトとスーダンの基地からカイロ南部やスエズ運河のシナイ半島側に新たな戦線を築き、紅海を通じて補給する事が可能だった。

さらにロンメルが勝利したとしても、英軍の抵抗は終わらず、ドイツ軍は占領地の確保に資源を割かなければならないため、勝利するほど不利になっていく。この戦略でロンメルが最終勝利するには、アフリカのケープタウンやインドを征服しなければならない。

戦争資源において連合国は優勢であり、損耗率が優越比率を上回らない限り、勝敗に関わらず交戦から利益を得る事になる。

同様の問題は日本においても発生しており、日本が対米戦に勝利する戦略はカリフォルニアへの侵攻から米国主要都市の征服しかあり得ず、それが出来ない以上は和平を求める事が最善の選択肢だった。

そのためには戦争で勝利し過ぎてはならず、滑稽な敗北をした方が、米国との和平交渉で寛大な処置を引き出せたはずである。

〇第四次中東戦争におけるエジプト軍
戦域戦略以下の失敗を大戦略の成功によって覆した例。

エジプト指導層は、イスラエルとの戦争において純粋な戦闘力 = 戦略の垂直的側面では勝利出来ない事を認識していた。

しかし、第四次中東戦争が発生した1973年の国際情勢はエジプトに有利だった。米国はベトナム戦争が終結したばかりで厭戦ムードがあり、ソヴィエト連邦は1972年の戦略兵器制限条約で米国が認めた戦略的均衡を世界政治において要求する傾向があった。

さらに石油資源を背景にしたアラブ輸出市場の魅力がイスラエルを孤立化させていた。

しかし、外交的優位は成果を齎すかは不透明であり、優位を長期的に維持出来るかは定かでない。エジプトは、軍事的勝利によって外交的優位を活性化し、ソヴィエト連邦や米国の関心を引く必要があった。そのためには全面的勝利である必要は無い。

最終的に、エジプトは反撃したイスラエルによってカイロまで70マイルの地点まで追い詰められたが、ソヴィエト連邦や米国の停戦要求によって戦争は終結し、エジプトはスエズ運河両岸地域の支配を取り戻した。

⇒エジプトの大戦略によって、イスラエルの軍事的成功を覆した

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