感情の地政学

読んだ本の感想。

ドミニク・モイジ著。2010年3月10日 初版印刷。



序章 感情の衝突
自信という概念を中心に、三つの基本感情①恐れ②希望③屈辱から国際政治を考える。

自信は課題に取り組む態度を決定付ける。

希望:やりたい、やれる、やろう
屈辱:出来るはずがない
恐れ:世界は危険な場所という認識

⇒自信の度合いを映し出すとする

信頼感指数(国民が自国に寄せる信頼を計測したもの)による地図化により、集団の感情を地図上で分析?

第一章 グローバリゼーション、アイデンティティ、
    そして感情

グローバリゼーションは世界を感情化した。

情報メディアが様々な人間に共有され、貧者は富者に無知ではないし、富者は国際的な悪意を意識的に無視しなくてはならなくなっている。

別の判断基準を持つ人々への認識は、「自分は何者であるか」という思考と結び付く。政治的信条よりも自己の本質に対する自己認識。それは自らへの自信であるし、他人からの尊敬である。

**************

かつて絶対的他者が少数であった時には、収集・展示すべき希少動物のように扱われた。やがて認識される絶対的他者の数は増加し、教化の対象となる。

さらに他者は勢いを増し、自分達に成り代わる存在であるかもしれない。

第二章 希望の文化
希望とは自らの自己同一性への自信である。

自らの国(共同体)が世界と積極的に関わっていけるとする。アジア(日本を除く)では、希望の意識が強い。

中国:
伝統的な中国文明の継続への自信。人口が多い事から、個人の論理よりも集団の論理を優先する。歴史的には、軍事力よりも人口増大圧力によって領土を拡大している(近年ではチベットや新疆への人口流入)。

一般人は西洋の音楽や映画、食事、衣服を好むが、それと東洋型全体主義が適合するかは分からない。

⇒指導者層は、世界覇権でなく国内問題への対処で手一杯とする

インド:
世界最大の民主主義国である事の誇り。それは腐敗した政治への嫌悪感と併存している。カースト制度等により、近代化が平等と必ずしも結び付かない事を示す。
経済発展が著しい事が自信の源になっている。

日本:
歴史的に他民族の侵略よりも、自然災害を恐れる気風がある。近年における日本の自己不信は1990年頃のバブル崩壊に端を発しており、自国の国際的地位が凋落した事を知っている。それは高齢化によって加速している。

第三章 屈辱の文化
アラブ・イスラム世界。

アラブ・イスラムは歴史的に常に急進主義が存在しており、人口増大によって地理的に拡大している。

17世紀末から歴史的に衰退しているという感覚があり、1967年の六日戦争におけるアラブの敗戦は、道徳的判断としても受け止められている。イスラエル国家を十字軍王国のような一時的創造物とする事が出来ず、エジプト人奴隷の精神的子孫を自称する集団に敗北した。

アラブのテロの根底にあるのは自己防衛的激怒とする。それは歴史的事件を外交上の武器として、他国の罪悪感を利用する手法にも結び付く。

文化的衰退も屈辱を助長している。アラブの文学、音楽、映画は国外にほとんど広まっていない。著者は、イスラム世界において女性の社会進出が困難である事をハンデとしている。

西洋のイスラム教徒が地域社会から疎外されている事も屈辱を生むとする。女性を虐げがちとされるイスラム教徒は、西洋文化圏では差別的な扱いを受ける?

湾岸諸国は経済的に豊かであるが、それが石油輸出に支えられた人工的なものであり、発展の基盤は脆弱とする。西洋社会と伝統的アラブ文化の板挟みにあり、帰属感の無さがあるとする。

<ベール>
西洋文化の特徴は個人の礼賛である。そして個人を区別するものが顔だ。西洋美術発展においては肖像画が重要な役割をは明日。ニカブ(顔全体を覆い隠す)やブルカ(体と顔を完全に覆い隠すベール)は西洋の価値体系と適合せず、フランスの幼稚園から高校までの女子生徒にベール着用を禁じる法律が可決されたらしい。

第四章 恐れの文化
西欧諸国。

外部からの移民への恐怖が課題になっている。民主主義的理想は力を失っている。

欧州:
第二次世界大戦後の経済復興機は希望の時期だった。国粋主義復活を防ぐため、欧州全域を含む共同体が志向された。ユーゴスラヴィアの崩壊に、米国の介入無しで対処出来なかった事は、欧州の自信に影響したとする(東欧の民族問題は解決していない)。経済停滞も欧州の恐れの原因である。

希望の無い場所にいる多数の人々が、出生率の低い豊かな我々の土地に流入しているという意識。多様性は一定以上になると不安定要因になる。中核的自己同一性に自信が無ければ、複数の文化を許容出来ない。

米国:
過去の亡霊は無いが、以下の三つの疑問があるとする。

①高い倫理観を持っているか
②独自の国家的使命感を持っているか
③超大国としての地位を維持しているか

多くの米国人は、自国に向けられる嫌悪感を説明出来ないでいる。

米国の領土征服においては、開拓者間の暴力が存在し、銃の自由な流通の背景には、暴力的で危険な過去を受け継いだ印でもある。外国人排斥は定期的に発生し、1920年頃の共産主義への恐怖や、1950年代のマッカーシー時代等がある。

1960年代には解放が標榜されたが、1980年代のレーガン支持には行き過ぎへの反発があったとする。分裂と国家衰退への恐れにより、大統領選では文化や道徳が重視されるようになっている。

⇒冷戦終結による共通の利害消失は、分裂を促進しているとする

第五章 特殊な事例
三つの感情が複雑に入り混じる事例。

ロシア:
経済面では発展しているが、政治的な自信が無い。

①自国の国境が明確でない
ウクライナやベラルーシをどのように把握するか分からない。

②規範の逆転
ソヴィエト連邦崩壊は、フランスがフランス革命から植民地喪失までに経験した2世紀を2年で経験した事象とする。様々な価値観が崩壊し、屈辱感や恐れが発生している。

著者が2000年にプーチン大統領に会った際、執務室にピョートル大帝(近代ロシア帝国の父)、プーシキン(ロシア文化の象徴的存在)、ド・ゴール(フランスの存在感を取り戻した人物)の肖像画が飾られていた話をした。ド・ゴールという選択に、プーチンが現代ロシアの課題をどのように考えているかが表れているとする。

イスラエル:
経済、軍事大国でありながらも敵対勢力に包囲されている無力感がある。アラブ人の人口増加率を考えると、将来的にはイスラエルはアラブ人が多数派の国になる。数十億人のイスラム教徒と対峙する感覚。

それでもイスラエル建国自体が論理に対する希望の勝利であるため、イスラエルには希望もある。

アフリカ:
陰鬱な印象があるが、実際には貧困や腐敗から緩やかに這い上がっている。欧州はアフリカからの難民を恐れており、エイズや貧困、人為的境界線等の問題に対処しなければならない。

ラテンアメリカ:
暴力の蔓延等の問題があるが、希望もある。周期的に軍事政権と民主主義が交錯するとしている。米国はラテンアメリカのバランサーとして干渉する事により恨まれている。

第六章 二〇二五年の世界
著者の考える2024年の楽観シナリオと悲観シナリオ。

素晴らしい未来のためには、普遍的価値観を維持するための努力が必要とする。未来はアジアを中心に動く。屈辱の文化を克服するには自信が必要である。

グローバリゼーションによって認識出来る他者が増加した現代では、文化や歴史の観点から他者を知る態度が不可欠。それは自分自身を知る過程でもある。

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