マスタリー

読んだ本の感想。

ロバート・グリーン著。2015年6月25日 発行。



歴史人物に関するトリビアを楽しむ本だと思う。

著者のスタイルの特徴は、歴史上の人物の思考をシミュレートし、我が事のように語る事であるように感じる。特定人物について調査し、想像力を働かせ、その人物になり切る。

外部(科学)と内部(共感)の2つの概念がある。言語学習に例えると、「外部」とは書物で単語や文法を学ぶ事であり、「内部」とは習得対象の言語を使用する人々と交流して実施で学ぶ事である。

見かけ(物の形状)と仕組み(構造や組成)という二つの世界があり、それを結合するべき。

マスタリー:
奥義を極める事。現実、他人、自分を広範に掌握している感覚。

以下の学習段階。

①修業期
基本要素とルールを学ぶ。

②創造的活動期
各部門の関連性に注目し、包括的理解を深める。

⇒実験や自由な発想という能力が生まれる

③マスタリー
知識、経験、認識が深まり、全体像を把握出来る(直感)。

<衝動について>
生まれつきの性質に合ったライフワークを探す事について。人生は曲がりくねった旅路であり、真っ直ぐに大きな目的を達する事は出来ない。

以下の方法論。

・幼少期の気持ちを思い出す
・自分の居場所を選択し適応する
・過去を手放す

<修業期について>
以下の3段階がある。

①受動的姿勢(観察)
全ての職場に独自の慣例、行動規則、作業基準、個人間の力関係がある。それらの現実を観察して理解する。初期に注目を集める必要は無い。

②技術修得(実習期)
観察に徹して数ヶ月後には技術修得を行う。修得対象は基礎技術一点に絞るべきであり、初期には退屈を感じるはず。

③積極的姿勢(実験)
積極に転じる。独立するか別の修業場所を見つける。

人間は困難を避ける傾向があり、不得手な部分には触れずに練習してしまう場合がある。達人になるには抵抗練習に取り組まなくてはならない。そのためには苦手を認識しなくてはならない。

<師匠について>
効率的に学ぶには師が必要。師は不必要な横道に逸れないよう誘導してくれる。

師の方では、大量の仕事と情報を抱えているはずであり、彼等の負担を減らす能力があると証明出来れば自分をアピール出来る。

師から学ぶには心を開き、師の魅力の虜にならなくてはいけないが、師の影響が大き過ぎると自分自身を育む内的スペースが無くなってしまう。師の意見を自分の事情に応用し、自分の流儀に合わせて変える必要がある。

師弟関係において最初の情熱を持続させる事は困難で、師と弟子の差が縮まると、弟子は師の権威を疎ましく思い、異なる世代に属する事による価値観の違いが見えてきてしまう。そうならないためには徐々に、師との相互関係を構築しなくてはならない。

<創造的活動期について>
以下の段階で創造力を解き放つとする。

①創造的作業
強く執着出来る作業を選択する。現実に即し、自分よりも少し上の作業。

②創造的戦略
精神は緊張するほど集中出来る範囲が狭まるため、創造的になるほど考慮する可能性が少なくなる。それを防ぐための以下の方法。
・消極的受容力
自分の最も大切な意見が現実と矛盾する事実を知る覚悟。
・セレンディピティ
調査の幅を広げ、余裕を維持する事で予期せぬ何かを取り込めるようにする。
・流れ
推測と観察を繰り返す事で、思考と現実の対話を実現出来る。
・見方を変える
型に嵌った思考は細部に注目するのでなく、パターンを探す傾向がある。自らの親しんでいるパターンを知り、その外部から考えるようにする。
・知性の最初の形態(言語を使わない思考)
イメージや図、模型を使用して考える。

③創造力の壁を超える
緊張が高まった時点で作業を中断する。一時的に別の事に取り組むと名案が浮かぶ。自分の作業に熱気を感じている内には、自分の仕事を客観視出来ない。

〇ロゼッタストーン解読の逸話
1798年にエジプトを侵略したナポレオンが持ち帰った石。同じ文章が、ヒエログリフ、民衆文字、古代ギリシア語の三種類の文字で書いてある。
以下の2人の解読を比較。

・トーマス・ヤング
ヒエログリフを表意文字と推定。特定の単語がギリシア語で使用される確率を調べ、ロゼッタストーンにて同じ確率で出現する単語を見つけ、その二つが同じ意味と推定した。

・ジャン・フランソワ・シャンポリオン(1790年~1832年)
ギリシア語(486語)とヒエログリフ(1419語)の語数を比較。文字数の違いから、ヒエログリフを表意文字、象形文字、表音文字の混合と推定。さらに、記号の形に着目し、形が似ている民衆文字とヒエログリフから解読に取り掛かる。

⇒トーマス・ヤングは外部から考えたとする。古代エジプト語を単純化(表意文字と仮定)して数式化し解読に失敗。シャンポリオンは複雑を仮定し、文字の形状に着目するという全体的思考によって解読に成功したとする

複雑な問題を数式化、抽象化して単純にする事には問題がある。

<マスタリーについて>
マスタリーは合理的思考(現象から原因を推測し反応を予測する)とは異なり、全体像を直観的に把握し、ダイナミックを感じる能力である。

マスタリーのためには、一定期間を修業に費やし、脳を変容させる必要がある。長期間の修業は脳内の記憶ネットワークを複雑化させ、意識下で様々な領域に接続出来る。

****************

著者は、以下の2名から影響を受けているように思えた。

◎ベンジャミン・フランクリン(1706年~1790年)
1722年に兄がニューイングランド新報を創設した際、サイレント・ドゥーグッドという架空の人物に成り済まし、兄の新聞に文章を投稿した。

自分が創り出した女性の内面を考えたように、他者の心を洞察する方法を会得していく。他人と接する時に、客観的になる効果があるとする。

米国の代議員アイザック・ノリスと対立した時は、彼が稀覯本を含む蔵書を所有している事を知り、アイザック・ノリスの蔵書を称賛する作戦に出る。本の貸借をする等して信用を勝ち得たとする。

他人の行動の意味を内面から探ろうとすると、自分の感情を他人に投影してしまう。自分の感情に執着せず、外に目を向け、観察する。個々の人間を知り、一般的な人間性を知る。

他人の見方で世界を見るには、共通の感情体験(トラウマや苦境)を探し、その人になり切る。

人心を読むために口調や身振りから感情を表すシグナルを見る。特に権力者を相手にする時には、不安や追従等の精神構造の本質が漏れる。度を越した振る舞いは、それとは反対の心理を隠すためである。虚勢を張るのは不安だからであり、冗談は悪意を隠す。

以下は、一般的人間性。

①嫉妬
人間は自分と他人を比較する。特に自信が無い人間は嫉妬深い。だから才能ある人間は別分野で弱点を見せ、他者に助言を求めるようにする。
②迎合主義
集団の考え方があり、異質な人々が異議を唱えると集団の構成員は不安になる。修業期には集団の基準に従う態度を見せるべき。
③頑迷
人間は複雑を嫌うため、習慣を作って対応する。
④自分勝手
自分の利益を隠して、道徳心を振り撒きながら行動する。
⑤怠惰
簡単な道を進みたがる。
⑥気紛れ
感情の影響が無い理解は無い。そのため、言動ではなく首尾一貫している行動に注目するべき。
⑦消極的攻撃性
直接対決を嫌がり、分かり難い方法で戦う。

◎マルセル・プルースト(1871年~1922年)
1886年にオーギュスタン・ティエリが著した『ノルマン人のイギリス征服史』を読み、人間性の法則を物語の中で明らかにする目標を持つ。

1888年にはロール・アイマンという37歳の高級娼婦と知り合う。彼女の主催するサロン(文学や哲学について話し合う場)の常連となる。

マルセルはフランス上流階層の社交生活を観測すると決め、彼自身が直接体験した事を小説にする。恋愛が上手く描けない時は、興味を持った女性の恋人と友人になり、その信頼を得て二人の関係を探った。

しかし、1896年に出版した『楽しみと日々』は売れず、英国の美術批評家ジョン・ラスキンの作品をフランス語訳して生活するようになる。この時がマルセルの修業期間としている。

1903年には父親が死に、1905年には母親が死ぬ。それを契機に、フランス社会に関する膨大な知識を小説化する事になる。

『失われし時を求めて』は、自我を確立出来ない若者を中心にフランスの歴史が盛り込まれた傑作だった。マルセルは実生活と小説を結び付け、新たな登場人物が必要になると、それに匹敵する人物を探して観察し、そのまま小説にした。

単なる写実小説でなく、自らの論考も含める。

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