「棲み分け」の世界史

読んだ本の感想。

下田淳著。2014年10月25日 第1刷発行。



序章 棲み分けとは何か
世界史において欧米の優位を決定付けた要因。

〇自生的・生態学的棲み分け
権力、人口、都市(市場)、富が適度に競合して棲み分けしようというベクトル(分散)。権力の分散(封建制)が富の分散を生んだとする。

⇒近代国家が成立する事で、棲み分けは終焉する

〇能動的棲み分け
空間・時間を意図的に整理整頓(分類)する傾向。特定の時間や空間は、特定の目的のみに使用されるようになり、それ以外の目的は排除されていく。就業時間と休憩時間が厳密に区分されるようになったのは、19世紀後半の欧州だった。

⇒自生的・生態学的棲み分けが土台にあり、その上に能動的棲み分けが進められる

棲み分けが行われた時代に、サイエンスと資本主義が発達したとする。

第Ⅰ部 自生的・生態学的棲み分け-欧米の前提条件
第一章 ヨーロッパの古代-フランク王国とは何か
キリスト教がゲルマン人に幅広く浸透するのは11世紀~12世紀頃であり、現代欧州の基盤はその頃に出来たとする(権力の棲み分け = 封建制の成立)。

ヨーロッパとは最初ギリシアの事だったが、ローマ・ゲルマン社会が自らとピザンツ帝国を対比するためにヨーロッパを使用するようになる。広く使用されるようになるのは15世紀の大航海時代において他文明と接触する機会が増加したためとする。

ちなみに東欧の概念は、19世紀以降、スラヴ諸民族が独立運動を始めるようになってから西欧知識人が使い始めたとする。

〇封建制
主君と臣下の土地(封土)を媒介にした契約関係。臣下が貰った封土は世襲領となる。欧州以外のほとんどの地方では、全ての土地が原則として皇帝領だった。中央から役人が派遣され徴税する。

フランク王国のカール大帝(在位:768年~814年、800年以降はローマ皇帝)の時代の西欧は官僚制的中央集権国家であったが、恩貸地制度(主君が臣下に土地を与える制度)があり、封建制の苗床となる。

著者は、全土から徴税するシステムを構築したピザンツ帝国と比較して、フランク王国はカール大帝個人の力量に頼る部分が大きく、全土を支配するシステムを構築出来なかったとする。

第二章 封建制と人口分散
    -権力と人口・都市(市場)の棲み分け

欧州では君臣制が成立した。君主と臣下は契約で結ばれ、臣下の領土に主君の徴税・司法権は及ばなかった。

恩貸地は当初一代限りの領有だったが、877年に西フランク王国がキエルジー勅令を出し、世襲を認めるようになる。シャルル二世のイタリア遠征に協力した諸侯への援助。

臨時的措置だった臣下による領土の世襲化は、13世紀になる事には欧州全域で行われるようになる。

〇領主制
土地を所有する領主と、土地を貸与された農民との支配・被支配関係。領主制は君臣制と相互補完関係にあり、主君から封土を与えられた臣下は、領主として独立の権力者だった。

領主制の成立によって各農民はある程度、自立的経営が可能になり、都市(市場)の成立が促される事になる。

著者の引用した推計によると、1300年頃までにドイツ(人口1350万)で2000、フランス(人口1960万)で3000、英国(人口410万)で6000、イタリア(人口1350万)で2000の都市が存在したとする。都市の多くが人口5000人程度であり、こうした都市(市場)の分散が欧州の特徴とする。

アジア(東アジア、インド、中近東)の人口を1340年で2億3800万人とすると、都市の人口が欧州とは異なる。長安やバクダード、カイロやコンスタンティノープル、北京のような数十万人規模の都市は欧州には存在しない。パリとロンドンの人口が50万人を超えるのは18世紀になってから。

第三章 サイエンスの誕生
    -富の棲み分けと職人たちの欲望

17世紀前後の欧州において多くの科学的成果が生み出された(ケプラー、ニュートン、ライプニッツ等)。

科学者(サイエンティスト)という用語が社会的に認知されたのは19世紀であり、それ以前は文理の区別は無かった。多くの文明圏では、抽象的思考や議論を展開する思想家が学者とされ、実験や観察等の実践活動を通じて物理法則を発見する自然科学者はいなかった。

〇19世紀以前の欧州の大学
専門学部として、法学、神学、医学等の文系科目を教えた。ギリシア・ローマの学問(文法、修辞学、弁証術、算術、幾何、天文、音楽)の下位に哲学等があったという。
基本的に文献購読、注釈、討論が授業内容であり、ユスティニアヌス法典やイスラム圏から逆輸入された文献等を使用したという。

〇人体解剖
16世紀以降、欧州の大学では他文明圏では禁忌とされる人体解剖が頻繁に行われるようになった。当時、高位聖職者等は大聖堂内にミイラとして安置されたが、そのミイラ化を行う外科職人がいた。
そうした下地がある所に、ルネサンス期の芸術家達が、自らの作品を精緻にするために人体解剖を行うようになったとする。16世紀以降の欧州は資本主義の時代であり、公開解剖が恒常的に見世物として行われるようになったという。

知識欲よりも金銭欲が頻繁な解剖を実現した。

欧州の科学知識は、大学の外で人体解剖を行う職人達が生み出した?当時の職人達は都市に帰属し、ギルドの階層的秩序の中にあったが、都市間での競争があり、また、農村にはギルド外の職人達がいた。

⇒小規模都市が乱立する事による競争が技術競争の源?

富が一部に集中していると、その人々が興味を持たなければ商品が売れず、それ以上に技術が進歩しない。

〇特許
欧州の特許制度は富の分散が原因とする。良い製品を作っても皇帝に献上するだけなら、自分の技術を防衛する必要が無い。特許制度は1474年のヴェネツィアで初めて導入されている。

大航海時代には、さらに様々職人の技能が必要とされるようになる。

********************

19世紀以降、科学者の社会的地位は向上した。資本主義と科学は一心同体であり、現代人の思考パターンにも全てを数値化する等の影響を及ぼしている。

第四章 貨幣関係のネットワーク
    -資本主義はなぜ浸透したか

資本主義:
貨幣(資本)を持つ資本家が、生産手段を持たない労働者を工場に集合させ、商品を生産し販売して利潤を上げるシステム。

著者は以下の3つの資本主義を定義する。

①レヴェル1:
「移動の自由、生業・職業選択の自由、自由主義市場」が展開された経済システム。

⇒欧州では封建制によって成立が邪魔したが、イスラム圏や中国では成立していた

②レヴェル2:
賃金労働者や機械を使用して大量の工業製品を持続的に生産・販売するシステム。

上記レヴェル2の資本主義は、一国内に収まらない。原料調達地や販売市場を必要とする。工業国が儲かる理由をマルクスで説明する。マルクスは物価を労働力で説明している。一台の機械が百人分の労働者の仕事をする場合、それを購入するには差し引きで九十九人分の労働者分の資源を提供しなければならない。

⇒僅かな工業製品で莫大な資源を引き出す事が出来る

⇒工業製品は資源や農産物よりは手間がかからないため、工業国は少数になる

⇒近代世界で資本主義化に成功するとは、少数の工業国になる事である

③レヴェル1.5:
貨幣による商取引が当たり前になった状態。

欧州では、以下により富農(大商人)と貧農の二極分解が発生したとする。

・都市(市場)の数が多く、余剰生産物を販売する機会が
 多かった
・農村にギルド外の職人が多く、手工業者と農民間で
 貨幣を媒介にした取引が行われた(農村内分業)

⇒非欧州では都市の数が少ないため、農民まで貨幣取引が普及しなかったとする。そのため貨幣によって雇用される大量の労働者は欧州にのみ発生したとする

16世紀~18世紀の欧州は金儲けを賛美する社会 = 資本主義社会となり、それまでの社会にあった贈与互酬の文化が廃れたとする。そのため、国家による福祉や社会保障制度が強調されていく事になる。

第五章 ソ連と日本-欧米資本主義の変種
社会主義:
国内経済を国家が全面管理し、富を平等に国民に配分する。また、権力も全ての国民に配分する事を目指す。

社会保障制度を極限まで徹底したのが社会主義とする。

ソヴィエト連邦の工業化の限界は、競争が発生しなかったためとする。限られた国内の富を補う収奪地は、1949年に形成された経済相互援助会議(COMECON:東欧をソヴィエト連邦の販路とする)があったが、社会保障を極限まで追求する政体では競争原理が働かない。

〇日本の特質
江戸後期の日本では欧州同様レヴェル1.5の資本主義が浸透していたとする。

江戸時代の日本には、17世紀初に約185の諸藩があり、幕府の司法、徴税権が及ばなかった。欧州同様に権力の棲み分けがあり、城下町(人口1万人~3万人)が多く成立していた。

そのため、農民が日帰りで都市(市場)に行って余剰生産物を販売し、都市商人が農村を訪れる事が可能だった。さらに、農村内分業が進展し、貨幣で物品を購入する傾向があったとする。

⇒貨幣関係ネットワークと資本主義の精神の浸透

第Ⅱ部 能動的棲み分け-欧米を飛躍させた真因
第六章 キリスト教の変質-聖俗の棲み分け
封建制の成立時期(11世紀~13世紀)とキリスト教が西欧に浸透する時期が重なる。

ローマ・カトリック教会の典礼や教義の起源は、この時期とする。

・グラティアヌスによる教会法令集編纂
・煉獄(天国と地獄の中間)概念の誕生
・修道会の設立
・教皇権強化・聖職売買、や聖職者のの婚姻禁止

封建主義の流れにのり、教会には封土が寄進されたとする。

****************

〇聖と俗の分別
欧州キリスト教社会のみが、時間と空間を聖俗に分離出来たとする。

「聖」は宗教儀式全般を意味し、「俗」は宗教儀式以外と定義する。他の文明圏では宗教施設が地域のコミュニティセンターになるが、16世紀の宗教改革以降、ルター(1483年~1546年)やカルヴァン(1509年~1564年)は、教会を純粋に礼拝や説教だけの空間にしようとした。礼拝の時間も厳粛なものにしようと試みたとする。

こうした異物排除の発想は、早い時期から見られ、キリスト教会によるユダヤ人排撃は11世紀末から始まる十字軍が契機になったとする。ユダヤ人排斥は全て西欧で発生しており、ローマ・ゲルマン・カトリック社会の現象とする。

************

キリスト教自体が不寛容なのでなく(ピザンツ帝国やロシアでは他宗派への不寛容政策は採られていない)、キリスト教化したローマ・ゲルマン社会が不寛容とする。

それはローマ・ゲルマン社会の知識人聖職者による行為であったとする。キリスト教は来世信仰であるが、民衆は現生での奇跡を求める。民間信仰は俗的世界の現象だから、知識人聖職者による啓蒙活動は聖俗の棲み分けを進行させたとする。

そして、聖俗の棲み分け(特定空間、特定時間には一つの事しか出来ないという発想)の達成は、資本主義的発想の広がりに支えられたとしている。

工業化が始まると、仕事場は仕事をするだけの空間となり、就業時間が正確に規定されるようになる。

第七章 ナショナリズムの隆盛と時計の発達
    -空間・時間の棲み分け

19世紀以降の能動的棲み分けについて。

ナショナリズム:
一民族 = 一言語 = 一国家を基本とする思想で、同質空間から異民族を排除しようとする。近現代国家は、この思想(能動的棲み分け)で作られているとする。

封建制崩壊により、多言語使用も崩壊し、同じ民族の同じ言葉を使用しなくてはならなくなる(純化)。民族とは想像された共同体である。

ナショナリズムは空間の能動的棲み分けであるから、国境を厳密に定めないといけない。ナショナリズムは資本主義を超えた国境意識を生み出している。そして貧困がナショナリズムを増幅するとしている。

〇時計
時計の普及は、資本主義の精神の普及に伴ったとする。

一日を24時間に細分化し、タイムスケジュール化するために使用(時間の能動的棲み分け)。

機械時計は8世紀初頭の中国で発明されたが、発達したのは欧州だ。1300年頃に欧州で機械時計が製造されている。1450年頃にはゼンマイ時計が発明され小型化が可能になり、1657年に発明された振り子時計は分針、秒針がつけられるようになる。

従来は季節や緯度によって一時間の長さが異なったが、正確な時計によって太陽の運行とは無関係に時間を24等分するようになる(標準時の誕生)。

1880年には英国でグリニッジ天文台の標準時が法制化され、各国が従うようになる。それと連動するように19世紀末に時給制度が普及し、時間の能動的棲み分けが進展していく。

第八章 ナチスとアメリカの人種差別-人間の棲み分け
ナショナリズム = 人間の棲み分けを極端に実施したのがナチズムとする。

フランスのジョルジュ・キュヴィエ(1769年~1832年)は、人間を白人種(コーカソイド)、黄人種(モンゴロイド)、黒色人種(ネグロイド)に分類した。

ナチズムもこうした人種の分類に基づき、劣等人種をドイツという空間の外部へ追放しようとした。ゲットー(ユダヤ人強制収容所)が最初に作られたには1516年のヴェネツィアであり、16世紀~18世紀の過程で、浮浪者や古事記、病人等も施設に隔離されるようになっていく。

ナチスによるユダヤ人排斥はナチス独自の発想ではない。

第二次世界大戦以前で議会制民主主義を採用出来たのは植民地を持つ国家だけだった。植民地からの収奪による工業化の富が不満を抑えた。収奪された国はカリスマ的独裁者を必要とした。

〇北米
北米は人間の棲み分けが徹底された事例とする。1790年に行われた米国の人口調査では、総人口393万人の内、欧州人が317万人でアフリカ系奴隷76万人となっており、現在の欧州系白人7割の人口比率と大きく変化が無い。

中南米では白人、先住民、黒人が多様に混血したとする。そのため同じ民族という共同幻想を作るには非白人が多過ぎて、米国のように白人だけで自国民を作る事が出来なかったとする。

そのため、中南米諸国では独立後も軍事政権が選択されたとしている。

第九章 ロシアとEUのゆくえ-ヨーロッパ化の限界
ヨーロッパを一つの政治統合体にする事が出来たのはカール大帝のフランク王国だけである。
現代のEUは、加盟国を先進工業国から農業国に拡大するに連れて限界を露呈している。各国が様々な関税をめぐらして自国産業を保護するようになっている。

EUは巨大な国民国家を作る事を目標としている?が、そのためにはヨーロッパという空間を設定し、ヨーロッパ人を創出し、ヨーロッパ語という言語で均一化しなければならない。それは不可能だ。

〇ロシア
980年にギリシア正教の洗礼を受けたキエフ公のキエフ公国を初期とする。この時代には諸部族の纏まりでしかない。
1236年頃からモンゴル人が侵攻し、キプチャク・ハン国を作る。モンゴル人は東スラヴ族の居住地であるロシア北東部には間接統治を実施し、やがて東スラヴ諸公であるモスクワが強力となり、ロシア帝国へと発展していく。

イヴァン三世(在位:1462年~1505年)はロシアの全ての土地を君主の世襲領地とし、その後もロシアで封建制は展開されなかった。

⇒棲み分けの無いロシアはヨーロッパ外である

終章 サイエンス・資本主義・能動的棲み分け
   -三つ巴のゆくえ

資本主義と科学が自己増殖するに連れて、空間・時間の能動的棲み分けが厳格に行われるようになるとする。

著者は、そうした現状を不快なものとしている。

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