ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた

読んだ本の感想。

パット・シップマン著。2015年12月3日 第1刷。



犬を飼う事でクロマニヨン人がネアンデルタールより優位になったとしたいのかな?著者は自説を確定出来なかったようだ。

第1章 わたしたちは「侵入」した
以下は、Wikipediaの「グローバル侵入種データベース」の記事へのリンク。

https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_globally_invasive_species

著者は、現生人類を生物史上最も危険な侵入的生物とする。人類が侵入した地では例外無く動物相崩壊等の生態学的変化が生じている。

第2章 出発
以下の定義等。

<侵入生物>
生息域と異なる地理的領域に移動した生物。生息域の拡大とは以下の相違がある。

①タイムスケール
②移動距離
③影響力

米国では、500年という期間が在来種と外来種を分かつ境界線として使用される。哺乳類の最小存続個体数(MVP)は約1000個体とされ、それ以下になると遺伝的多様性が消失し、短期間で消滅する可能性がある。

<1/10の法則>
全生物の10%が原生地を超えて分散し(移動生物)、その内の約10%が野生種となり、さらに約10%が野生種として定着し、最終的にその約10%が生態系を破壊する。



<オーストラリア>
現生人類のオーストラリアへの定住は、紀元前4万6000年~紀元前4万4000年頃に発生したとされる。

オーストラリア国立大学アラン・ウィリアムズは、オーストラリアの考古学的遺跡数を個体数の代理指標として、オーストラリア創始者集団の個体数を類推した。

1788年のオーストラリア先住民の人口は77万人~120万人であり、それと整合性のある創始者集団は1000人~3000人程度。オーストラリアは隣接する最も近い陸地から80㎞も外洋で隔てられており、輸送用の船を持つ計画性がある集団であった事が伺える。

<ネアンデルタール人との交配>
現生人類にはおいては、ミトコンドリアDNA(母親由来)にはネアンデルタール人の影響が無いが、核DNA(父母に由来)には1%~4%はネアンデルタール人の影響がある。

その影響は特定領域に偏っており、皮膚や爪、毛髪に関係する蛋白質ケラチンに関係している。これらは寒冷な気候に適応するか、感染予防につながる効果があったとする。

ネアンデルタール人の遺伝子は精巣には全く関係無く、ネアンデルタール人と現生人類の混血男性が不妊であった事を示唆する。

第3章 年代測定を超えて
年代測定が誤っている可能性について。

放射性炭素同位体測定の根拠は、大気中の炭素放射性同位体(炭素14)が、時間とともに崩壊して炭素12に変化するので、試料に含まれる炭素放射性同位体の割合から年代測定が可能とする。

しかし、大気中に含まれる炭素14は数千年以上の期間では一致せず誤差が生じる。他に試料の汚染(5万年前の試料が1%汚染されただけで、3万7000年前と評価される)や劣悪な保存等の問題がある。

著者は、紀元前2万3000年頃までネアンデルタール人が生存していたという説を疑問とし、年代を信頼出来る試料から再測定した結果である紀元前4万年頃をネアンデルタール人が生存した限界とする?

<ネアンデルタール人の特徴>
眼窩上隆起が大きく、頭蓋が細長い。高等部には束髪状隆起と呼ばれる骨が突起した部分がある。男性の平均体重は78kg(初期現生人類は69kg)、女性の平均体重は66kg(初期現生人類は59kg)。

第4章 侵入の勝利者は誰か
現生人類の分散過程について。

<海洋酸素同位体ステージ:MIS>
有孔虫等に保存されている酸素18と酸素16の含有比率から古代の気温を推定する。寒冷期には質料の少ない酸素16を含む水分子が気化し易く、温暖期はその逆。MISに振られた数が偶数だと寒冷期、奇数だと温暖期になる。

MIS1:紀元前9000年~現代
現生人類のみが生存する温暖期。

MIS2:紀元前2万2000年~紀元前9000年
最後の氷河期。ホモ・フロレシエンシス以外は現生人類のみが生存する。

MIS3:紀元前6万年頃~紀元前2万2000年
現生人類がユーラシア平原に入る。数百年で温暖期と短期的寒冷期が入れ替わる「ハインリッヒ・イヴェント」が発生していた。紀元前3万7300年頃には、ナポリ近郊で火山が噴火し、中東欧がカンパニアン・イグニンブライト(CI)と呼ばれる火山灰で覆われた。

ネアンデルタール人の遺跡はCIの下にあり、火山が噴火する前にはネアンデルタール人は絶滅していたと予想する。

MIS4:紀元前7万年頃~紀元前6万年頃
現生人類は、アフリカと中東の地中海地域(レヴァンド)に生息していた。初期人類は寒冷化により地中海地域(レヴァンド)を去り、ネアンデルタール人はMIS3中期まで生存していたらしい。

MIS5:紀元前13万年前~紀元前6万年頃
温暖期。現生人類がアフリカから地中海地域(レヴァンド)に進んだ。

******************

MIS3におけるネアンデルタール人から現生人類への交替は急激であったらしい。地中海沿岸の森林生息地が75%程度収縮した結果、接触型狩猟者(植物に身を隠しながら狩りを行う)であるネアンデルタール人には不利な状況があった。

投擲型狩猟具を用いる現生人類は草原を好んだらしい。

第5章 仮説を検証する
ネアンデルタール人絶滅に関する以下の2つの意見。

①気候変動
②現生人類との競合

上記を検証するために、初期現生人類とネアンデルタール人の食事内容を調べるべきとする(食物をめぐる競合はあったか?)。

第6章 食物をめぐる競争
初期現生人類とネアンデルタール人の食事内容は大きく変わらない。

ただし、大型哺乳類を中心に捕食したネアンデルタール人に対し、初期現生人類は小動物や魚類、軟体動物等も捕食していた。

ネアンデルタール人の摂食スタイルは肉中心で柔軟性が無く、初期現生人類とは競合状態にあったと思われる。

⇒現生人類が侵入する以前からネアンデルタール人は環境収容力の限界に近かった可能壊死があり、ネアンデルタール人の化石には栄養失調等を示す身体的特徴が高い確率で見つかる

***************

紀元前3万年頃~紀元前1万3000年頃に、現生人類のマンモス捕殺数が急増する時期があるらしい(グラヴェット文化期)。

第7章 「侵入」とはなにか
イエローストーン国立公園を例に侵入生物の影響について考える。

<イエローストーン国立公園>
大イエローストーン生態系(総面積7万2800㎢。アイルランド共和国と同程度の広さ)の一部で8991㎢。

1930年代までにタイリクオオカミを絶滅させた事で、被捕食動物であるワピチと、競合関係にあるコヨーテが増殖していた。

1995年~1996年に31頭のタイリクオオカミを導入する(2002年には216頭まで増殖)と、生態系に変化が生じ、2002年までワピチは7%減少し、コヨーテも減少した(3年間で平均6個体の群が12群あったのが、平均4個体の群が9群に)。

以下の影響。

①選択的排除
狼は競争者であるコヨーテを選択的に殺した。
②競争者の密度低下
コヨーテの生息密度が全体で50%、狼の行動中心域で90%減少した。

⇒現生人類がネアンデルタール人に与えた影響も同様だった可能性がある

気候変動の影響を初期現生人類が増幅し、競合者であるネアンデルタール人が絶滅した可能性。

第8章 消滅
ネアンデルタール人の個体群規模と生息域について。

<フランスのドルドーニュ県>
200カ所以上の考古遺跡がある。

この地における現生人類の遺跡はネアンデルタール人より多く、現生人類が到着後、ヒト族の人口は約2.5倍に増加している。

1000当たりの1㎡の石器密度では、ネアンデルタール人の遺跡では1㎡当たり7個~10個であるが、現生人類は0個から18個に増加しており、この指標からは現生人類の増加速度はネアンデルタール人の1.8倍になる。

そして、ネアンデルタール人の人口は現生人類侵入前から少なかったらしい。遺跡に、考古学的遺物が存在しない無遺物層がある事から、初期現生人類はネアンデルタール人がいない地理的領域に入り込んだのかもしれない。

ネアンデルタール人の骨にはヒト族による攻撃を受けた事を示す証拠は殆んど無い。食人の証拠や歯のエナメル質形成不全が高頻度である事から、ユーラシアに現生人類が登場する前からネアンデルタール人は生存困難な状況に直面していたと思われる。

第9章 捕食者
繁殖するための獲物の量や質について。

<基礎代謝率:BMR>
特定の気候で生物が成長し生命を維持するために必要なエネルギー量。

ネアンデルタール人は現生人類と比較して体重が重いため(男性で13%、女性で12%)、BMRが大きかった。そのため、ネアンデルタール人に必要なエネルギー必要量は現生人類より7%~9%大きくなる(毎日275㎉を余分に必要とした?)。

寒冷気候では男性は1200㎉、女性は800㎉が余分に必要であるらしい。哺乳類では、妊娠期に20%~30%、授乳期に35%~145%のエネルギーを余計に必要とする。

ネアンデルタール人の妊婦は一日5500㎉を必要とした。一日にチーズバーガーのラージサイズ10個、またはチキンナゲット17セットを食べる事になる。獲物を取得するための生息密度は、一人当たり3㎢?

これほどのエネルギーを陸上哺乳類のみから取得すると栄養のバランスが悪いとする。

******************

以下は、紀元前5万年頃~紀元前2万3000年頃のユーラシアにおける捕食者。

①ホラアナグマ
雑食動物であり、現生人類と生息地が重なった地域では獲物を変える事で競合を回避出来たらしい。

②ホラアナライオン
現生のライオンより25%程度大きい。ノウマ、大型の鹿、バイソン等を狩っていたと思われ、ネアンデルタール人と競合関係にあっと予想される。

③剣歯虎
現生の虎位の大きさ。現生人類が到着する頃には絶滅していたらしい。

④ホラアナハイエナ
現生のブチハイエナより10%~15%大きい。

他にヒョウやタイリクオオカミ、ドール等。

ネアンデルタール人は中型の大きさであり、上記の捕食者の中で優位な立場になかったとする。

第10章 競争
現生人類の影響について。

紀元前5万年~紀元前4万5000年頃に現生人類がユーラシアに侵入した事により、ホラアナグマの個体数が有意に減少している。ネアンデルタール人がいた頃の動物遺物の55%はホラアナグマだが、現生人類の時代には20%~32%まで減少している。

それと同時に、ドイツでは考古遺物の密度が10倍~15倍になっており、現生人類の乱獲の影響が伺える。

逆にヒグマは草食的になる事で現生人類との競合を回避した?

他の動植物にも甚るの影響が大きく、マンモスや狼を選択的に仕留めていたらしい。

第11章 マンモスの骨は語る
マンモスの骨(遺伝子)による調査。

紀元前4万年頃~紀元前3万3000年頃に、マンモス狩猟に関して大きなブレイクスルーがあった事が伺えるが、マンモスが極端に減少したのは気候変動の影響が大きいらしい。

<クレイド>
共通の祖先を持つ一群の生物を指す用語。

ベルギーからシベリア、米国北西部における320頭のマンモス標本のミトコンドリアDNAを分析した結果、マンモスを以下に分類。

①クレイドⅠ:アメリカ大陸個体群
紀元前12万年頃に、北米で進化し、その後ユーラシアへ広がった。
②クレイドⅡ:シベリア個体群
紀元前12万年頃に、シベリアに残った。
③クレイドⅢ:西部ヨーロッパ個体群
西欧州で孤立していた集団。

以下の経過。

紀元前12万年頃:
地球温暖化による海面上昇により、2大陸が分離。米国とシベリアのマンモス個体群が分裂した。

紀元前6万3000年頃:
寒冷期に2大陸が接続し、クレイドⅠとクレイドⅡが遭遇。

紀元前4万2000年頃:
クレイドⅠが生息域を欧州まで拡大。

紀元前3万8000年頃:
クレイドⅡが絶滅。

紀元前3万2000年頃:
クレイドⅢが絶滅。

気候変動により、MIS3では、クレイドⅠのマンモスも極北地域にのみ生息したとする。

第12章 イヌを相棒にする
遺伝子調査による以下の見解。

①イエイヌの起源は欧州にある
②イエイヌの起源は紀元前3万年頃~紀元前1万6800年頃
③犬の家畜化は農耕開始(紀元前7000年頃)以前

マンモス骨が大量に出土する遺跡の出現時期と、犬の家畜化の時期が同時期とする。

第13章 なぜイヌなのか?
狼は、人間と食物が被っており、性質が穏やかでない点が家畜化に向いていない。

群れで行動し、洞察学習可能な狼は、狩りの有能なパートナーであったと思われる。



古代から犬は人間同様に埋葬されていたと思われる。1894年に発掘されたプシェドモスティ遺跡では出土したオオカミイヌの40%以上に顎や顔の傷が見られ、人間による躾によるものとされる?また犬歯が装身具に加工されている。

************

現生人類による象徴芸術で最古は紀元前3万年頃の絵だが、イヌ科動物の図象は例外的に少ない。人間が描かれる事が少ないように、イヌ科動物を描く事が禁忌になっていたのかもしれない(犬が人間同様と思われていた?)。

同様に、イヌ科動物の骨が見つかる大型遺跡でも、マンモスや馬、バイソン、熊、女性の像は見つかっているが、犬の像は見つからない。

対照的にネアンデルタール人の遺跡ではオオカミイヌの骨はほとんどなく、ネアンデルタール人はオオカミイヌが出現する前に絶滅したのかもしれない。

第14章 オオカミはいつオオカミでなくなったのか?
犬の基本は、人間との意思疎通である。

<東京工業大学 幸島司郎等の研究>
人間の眼球の一部である強膜(虹彩を囲む白い膜)を霊長類では珍しい特徴とする。他の霊長類の強膜は暗色で、視線方向を悟られないようにしている。対して人間は注視している方向が遠方からも明確に分かるとする。

それが犬との共同作業で有効に機能したと推測。25種の犬を以下の3種類に分け、その社会性を分析。

Aタイプ:視線と瞳孔が分かり易い
Bタイプ:目の位置は分かり易いが、虹彩が暗く、
     注視している対象が分かり難い
Cタイプ:視線と瞳孔が分かり難い

上記Aタイプは群れで生活するが、上記Cタイプは単独かペアで生活する。

また、イエイヌは狼よりも凝視継続時間が長く?人間と犬双方が視線による意思疎通を発達させたと推測される。

第15章 なぜ生き残り、なぜ絶滅したか
本書のまとめ。

著者自身が認めているように、初期現生人類が犬を家畜化した事でネアンデルタール人に対して優位となり、絶滅させたという仮説には不明点が多く残されている。

しかし、人類がユーラシアに侵入した事により多くの捕食動物が絶滅した事は確かなようだ。その時期は紀元前4万年頃~紀元前3万年頃と思われる。そして、絶滅の例外であるのは初期人類とオオカミイヌだ。

それ故、著者は初期人類が「家畜化」という技術を手に入れた事により、増殖したという仮説に拘る。しかし、気候変動のみでネアンデルタール人が絶滅したという仮説を完全に否定する事が出来ていない。

そのため、著者は遺伝子科学の進歩を取り入れ、新しい本を出し続けるのだと思う。

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