知能のパラドックス

読んだ本の感想。

サトシ・カナザワ著。2015年8月16日 第1版第1刷発行。



以下は、著者のブログ『科学原理主義者』のページへのリンク。

https://www.psychologytoday.com/blog/the-scientific-fundamentalist

本書における以下の2つのテーマ。

①知能とは何か
②個人の価値観の源

本書では、以下の3つのデータを利用している

①総合的社会調査(GSS)
言語性知能測定結果。計10問の類義語テストを使用。米国民から抽出した18歳以上の成人への聞き取り調査による1972年~2008年での5万3043人の情報を使用。

②青少年の健康に関する縦断的研究(Add Health)
思春期や成人初期者への言語性知能測定結果。ピーボディ絵画語彙検査を使用。1994年~1995年度に中・高生だった2万人に対して、これまでに4回(1994年~1995年、1996年、2001年~2002年、2008年)に訪問調査を行っている。

③幼児発達に関する調査(NCDS)
11種類の知能テストにより、一般知能を測定。1958年3月3日~1958年3月9日に英国で生まれた子供全員(約1万7000人)を対象に、これまでに8度(7歳、11歳、16歳、23歳、33歳、42歳、47歳、51歳)の継続的調査を行っている。

1章 進化心理学とは何か?
進化によって形成された心理メカニズムを探求する学問。

以下の4つの基本原則。

①人間も動物である
他の動物種に当て嵌まる生物学の法則は人間にも当て嵌まる
②脳を特別扱いしない
進化の法則を、人体の他の器官と同様に脳にも適用する
③人間の本性は生まれつき
人間には生まれつき、人間の本性が備わっている
④人間の行動は、本性と環境で決まる

以下は、人間科学における誤謬。

①自然主義の誤謬(保守主義者に多い)
「~である」から「~であるべき」への飛躍。
具体例:
自然は善であるから、原始時代の生活に戻るべき

②道徳主義の誤謬(リベラルに多い)
「~であるべき」から「~である」への飛躍。
具体例:
人間は平等であるべきだから、遺伝子は同じである

2章 人間の脳の本質と限界
サバンナ原則:
人間の脳は、祖先の環境に存在しなかった状況を良く理解出来ない。

具体例としては、テレビ番組を現実のように認識してしまう事がある。意識のレベルでは演技と分かっていても感動し恐怖し興奮する。男性の脳は、ポルノ写真で見る女性と性交出来ない事を本当には分かっていない。

囚人のジレンマを適用した実験では、半数の人間は一回限りのゲームでも協力を選び、匿名取引という祖先の環境に無かった事を理解出来ない。

fMRIを使用した研究では、人間は仲間外れにされた時、肉体的苦痛を感じたのと同じ領域が反応する。

○イリャ・ヴァン・ビースト、キプリング・D・ウィリアムズの実験
複数のプレイヤーが参加するゲーム「サイバーボール」を使用。
3人のプレイヤーがボールを投げ合う。この時、「ボールに触る度に50セントを失う」という条件を設定し、被験者が他の2人からボールを投げて貰えない状況を作ると、金銭的に得をしているのに、被験者の心は痛む。

3章 知能とは何か?
一般知能は存在するとしている。

多数の知能テスト―語彙、言語理解、計算、数唱、視空間能力を組み合わせると、あらゆる知能テストには正の相関がある。言語理解が高い人間は、一般的に計算の成績も良い。

NCDSでは、言語理解力と数学的理解力の相関は0.654であり、血圧計で計測した血圧と真の血圧の相関関係である0.5より正確。ただし、数学的理解力のばらつき具合の43%しか言語理解力では説明出来ない(0.654の2乗 = 0.428)。

各種知能テストに共通する部分を一般知能と呼ぶ。

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人間の社会的態度には「50対0対50の法則」が当て嵌まるとする。遺伝子が50%、共有環境(家庭内での子育て等)は0%、非共有環境(家庭外での出来事や体験)が50%。家庭内での子育ては、子供がどのような大人になるのかに影響しない。

例外は知能であり、一般知能の遺伝率は、子供の頃は0.4前後だが、大人になると0.8前後まで上昇する。成人になると自分の暮らす環境を決められるので、遺伝的傾向と環境が一致する。

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著者の意見では、一般知能は特定の領域に対応する適応とする。

例外や偶発的事象について考える能力。

サバンナに暮らしていた時代では、一般知能は嘘を見抜いたり母語を習得する機構と重要性は変わらなかったと思われる。現代になって一般知能が重要になったのは、生活環境が変化したためとする。

よって、知能が高い人間が上手く解決出来る問題は、進化の観点からは例外的な新しい問題に限られるとする。逆に、進化の観点からは有り触れた問題については知能が低い人間の方が得意かもしれない。

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知能クラス。

知能を烏賊の5つに分類する。

非常に聡明:IQ > 125(米国人口の約5%)
聡明:110 < IQ > 125(米国人口の約20%)
普通:90 < IQ > 125(米国人口の約50%)
鈍い:75 < IQ > 125(米国人口の約20%)
非常に鈍い:IQ < 75(米国人口の約5%)

米国白人では、学士号取得者の75%は「非常に聡明」で、「非常に鈍い」は一人もいない。高校中退者の64%は「非常に鈍い」で、「非常に聡明」は一人もいない。

4章 どんなときに知能は重要なのか
   (あるいは重要でないのか)

サバンナ-IQ相互作用説:
知能の低い人ほど、祖先の環境に無かった状況を理解出来ない。しかし、祖先の環境にもあった状況に対応出来るかは一般知能と関係無い。

知能のパラドックス:
人間は理解出来る事しか好きになれない。そこで、高知能者ほど、進化の観点での新しい価値観を持ち易いとする。しかし、祖先の環境にあった価値観を持つかは一般知能とは関係無い。

高知能者ほど、生物学的設計に背き、進化の過程で課された脳への制約から逃れるため、不自然な価値観を持ち易いとする。

○カリフォルニア州立大学
 ホルヘ・A・ロメロ、アーロン・T・ゲーツの研究

男性のポルノ視聴傾向と、女性がどれだけ性的に淫らであるかと考える傾向には正の相関がある。知能が低い男性ほど現実の女性とポルノ女優を混同する。

<天才の欠点>
IQ155を超える人間達への調査。米国において13歳でSATを受け、成績が上位0.01%に入る30代前半の米国民。

・進化における新しい領域
博士号取得(男性51.7%、女性54.3%:米国民全体では1%)
年収10万ドル以上(男性1/3、女性1/5)
大学教授(21.7%)

・進化における古い領域
子無し(男性64.9%、女性69.0%:米国民全体では26.4%)

米国民全体では、30歳~34歳の女性が持つ子供の数は、平均1.59人であるが、IQ155以上の場合、男性は0.61人、女性が0.44人である。

知能が高い人間ほど結婚が遅く、子供が少ない。さらに、「非常に聡明」な白人女性から生まれる子供の5%は低体重児で、「聡明」な女性では1.6%、「普通」の女性は3.2%、「鈍い」女性は7.2%、「非常に鈍い」女性は5.7%。

同様に、「非常に聡明」な白人女性の子供の10%は運動神経や社交性で下位10%に入り、この割合は「聡明」な女性で5%、「普通」の女性で6%である。

「非常に聡明」な女性の出産年齢が高くなりがちである事と関係しているかもしれない。

5章 保守主義者より自由主義者のほうが
   知能が高いのはなぜか?

自由主義は、進化の歴史では新しいものだ。
保守主義者が機会の平等を支持するのに対し、自由主義者は結果の平等を目指す。

通常の人間は、遺伝的親族や友人、同じ民族集団の成員にしか利他的行動を取らない。進化による自民族中心的傾向。

知能が高い子供ほど、大人になってリベラルになり易い。20代前半で「非常に保守的」な人間の中・高時代の平均IQは94.82だが、「非常にリベラル」な人間の平均IQ106.42である。

保守派が、メディアがリベラルに牛耳られていると主張するのには、知能のパラドックスが関係しているのかもしれない。現代の暮らしでは、平均知能が高いリベラルの方が高い地位を得易い。

<リベラルが愚かである理由>
知能が高い人間は、抽象的・論理的思考を、対人関係の領域に使用している。一般知能を除く、進化により形成された心理メカニズムの総体を「常識」とする。高知能者は、当たり前の事でも、分析的・論理的に考えて失敗する傾向がある。常識に従う事を知能が邪魔する。

また、高知能者ほど自分の知能を見せるために、馬鹿げた難しい思想を抱き易い。常識で解決するという簡単な方法を嫌う傾向。

6章 神を信じる者より信じない者のほうが
   知能が高いのはなぜか?

知能が高い子供ほど、大人になって無神論者になり易い。

知能が高いほど信仰心が薄いが、教育水準が高いほど信仰心が厚い。

⇒教育を受けるから信仰心が薄くなるわけではない

20代前半で、「信仰心が厚い」人間の中・高時代の平均IQは97.14だが、「信仰心は全く無い」人間の平均IQは103.09である。

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信仰心―人知を超えた力を信じる事

信仰心を警戒警報に例える。偶然を意図的な存在による行為と思う事は過誤を伴い被害妄想的になるが、信じなければ命の危険がある。

何も危険が無い状態でも意図的な力を見る事で、敵の存在に気付かないリスクを減らしているとする。

『世界の文化百科事典』には、約1500の文化が収められている。その中で無神論についての記述があるのは19の文化であるが、どれも人類の祖先から離れた場所にあり、元共産主義の社会とする。

グルジア(アブハジア人、アジャリア人)、アルバニア人、ブルガリア人、ロシア(チュヴァシ人、ドイツ系住民、ジプシー、イテリメン人、カルムイク人、カラカルパク人、朝鮮系住民、ガナサン人、ニヴヒ人)、チェコ人、ラトビア人、ポーランド人、トルクメン人、ウクライナの農民、ベトナム人。

現在、各地で見られる無神論は普遍的な人間の性質でなく、共産主義の産物とする。平均知能が高い集団ほど全体的に信仰心が薄くなる。平均知能が1ポイント上がる毎に、神を信じる人間の割合が1.2%下がり、信仰心が厚い人間の割合が1.8%下がる。平均知能により、国毎の神の重要度が70%程度説明出来る。

7章 知能の高い男性ほど、
   1人の相手とだけつき合う傾向が強いのはなぜか?
   そして、知能の高い女性に
   それがあてはまらないのはなぜか?

人間社会は歴史的に一夫多妻制を採用してきた。

そして、一夫多妻の傾向が強い社会ほど女性の平均身長が低くなる(雌が早く成熟した方が繁殖に有利になる?)。

伝統社会の83.39%は一夫多妻制だが、単婚制は16.14%、一妻多夫制は0.47%である。

一夫多妻制は女性の側から見ると、単婚制と変わらずに一人の男性としか結婚出来ない。

それ故、単婚は男性にとっては新しい価値観だが、女性にとっては新しくない。

配偶者選びの決定権は女性側にある事が多い。知能が高いほど地位が高いが、女性は地位が高い男性を選ぶ傾向がある。また、魅力的と判定された者の平均IQは104.2だが、魅力的でないと判定された者のIQは91.8という研究がある(男性は105.0:91.4、女性は103.6:92.3)。

また、一般知能は身長と強く相関しており、高身長者は知能が高い傾向がある。

社会的地位、魅力、身長を考慮すると、高知能者ほど浮気がし易い。

ここでも平均知能の影響は大きく、集団の平均IQが高いほど単婚が望まれるようになり、その影響は所得格差や信仰よりも強いとする。

8章 朝方人間より夜型人間のほうが
   知能が高いのはなぜか?

夜型生活は臣下の歴史では普通でない。

人類の進化の舞台は赤道近くのアフリカであり、一日の長さが一年を通じて同じ。一日の長さが変化する高緯度地域の住民程平均知能が高い傾向があるとする。

著者は、高知能者ほど夜型の傾向があるとするが、絶対差はそれほど大きくないとする。「非常に鈍い」子供は平均23時41分に寝るが、「非常に聡明」な子供は平均0時29分に寝る。

人種の影響の方が大きく、アジア系の平日夜の就寝時間は0時43分であり、他の人種(平均0時8分)よりも遅い。さらに、社会的変数(教育水準、所得、宗教、労働時間の長さ、etc)を考慮すると、アジア系と夜型の関連は消えるとする。

9章 なぜ同性愛者は異性愛者より
   知能が高いのか?

同性愛者としての意識は進化において新しい。

子供時代に知能が高いほど、自分を同性愛者と見做す傾向があるとする。子供時代のIQが15ポイント上がると、同性に魅力を感じる者の割合が27%増える。

その傾向は女性の方が強く、同性に魅力を感じる者の割合は、女性の方が50%以上多い。

10章 知能の高い人ほど
   クラシック音楽を好むのはなぜか?

楽器で演奏する音楽は進化上は新しい。

音楽と言語は共通の原型から発展して別形態になったという説がある。



言語の起源には以下の2説がある。

①構成的アプローチ
単語が先に出来て、文は後から出来た
②全体的アプローチ
文が先にあり、単語は後から出来た

人間以外の霊長類の発声は、例外無く全体的で分解出来ないとする。感情表現のための音楽と、情報伝達のための言語に分かれた?

一般的には楽器を演奏出来る人間よりも、歌える人間の方が多い。英国民の4%~5%は音痴とされるが、残りは歌を上手く歌える。楽器は新しい要素である。

「クラシックが大好き」な人間の平均IQは106.5であるが、「クラシックが大嫌い」な人間の平均IQは93.3である。

11章 なぜ知能の高い人ほど
   たくさん酒をのみたばこを吸うのか?

人類史における新しい嗜好品。

子供時代の知能が高いほど、酒、煙草、麻薬に関わる傾向がある。

知能が低い人間ほど犯罪者になり易い。進化の観点で新しい手段を理解出来ない。一方で、進化の観点からの新しい行為には高知能者ほど手を出す傾向がある。

ただし、英国では知能が高い子供ほど成人になって煙草を吸わない傾向があり、米国とは異なる事について調査が必要とする。

12章 なぜ知能の高い人は
   究極的には人生の敗者なのか?

進化の観点からは繁殖に成功する事が人生における成功である。

子供を欲しがらない女性の平均IQは105.5(男性:104.3)だが、欲しがる女性の平均IQは99.9(男性:100.0)である。

ただし、関連要因(結婚経験、信仰、所得、教育水準、etc)を取り除くと、知能が低いほど子供を欲しがる傾向は男性にのみ見られるという。

また、知能のパラドックスの予測に反して、生涯子供を作らなかった男性の平均IQは102.2で、親になった男性の平均IQは103.0であり、統計的に有意な差は無い。

知能が高い男性は子供を作りたがらないのに、実際には子供を作る。

******************

一般知能には遺伝性が強く、影響する遺伝子はX染色体にあるとされる(男性の同性愛を決める遺伝子と同じX染色体の領域Xq28)。男性は母親しか一般知能を受け継がず、女性は父母両方から一般知能を受け継ぐ。

そのため、高知能の女性が子供を産まないと社会全体の一般知能が低下していくと予想される。

13章 知能の影響には他にどんなものがあるか?
知能が高い事によるライフスタイルへの影響について。

コーヒー:
平日の朝食にコーヒーか紅茶を飲む人間は、そうでない人間より僅かに知能が高い(99.5対98.5)。

菜食主義:
42歳時点で比較すると、子供時代のIQで109.1対100.9の違いがある。

さらに男性の方が差が顕著であり、男性(111.0対101.1)、女性(108.0対100.7)である。これは歴史的には狩猟をする男性の方が肉を食べる傾向があったからかもしれない。

子供時代のIQが15%上がると、菜食主義者になる確率が男性で48%、女性で37%上昇する。

また、フィンランドの政治学者タトゥ・バンハネンの意見として、平均知能が高い集団ほど民主的な政体になるとする。

結論
知能が高い人間に上手く出来る事は、進化の観点から見て新しい事である。

親族との人間関係や子作り等の古い事象については必ずしも上手く出来ない。

知能とは、人間が有する特質の中の一つでしかなく、絶対的な人間価値とは結び付かない。

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