声の網

読んだ本の感想。

星新一著。昭和60年10月25日 初版発行。



週刊東洋経済 2016.9.17の特集『IOT発進!』で紹介されていた本。

電話網がコンピュータと接続されている世界の話。個人情報は電話を通じてコンピュータ管理される。分散コンピュータが自意識を持ち、人間達を管理していく過程を、12階建てのマンション(メロン・マンション)の住人達を通じて描く。

情報化社会において個人情報が金銭的価値を持つ事や、個人情報が娯楽として消費される事等を予見したとされる。

夜の事件
1月に、メロン・マンション1階にある民芸品店において発生する事件。

電話にて強盗の予告があり、本当に強盗がやって来る。強盗は電話によって事件を起こすよう誘導されたらしい。同じような事象が頻発している事が示唆される。

おしゃべり
2月に、メロン・マンション2階に住むミエ(27歳)に起こる事件。

電話にて、自らの秘密を指摘する存在。

P32~P33:
むかしにくらべ、マスコミは大きく発達した。
(中略)
情報の流れが激しい水圧をもって、個人にそそがれる。
目から耳から注入される一方なのだ。しかし、それはどこへ流れ出てゆけばいいのだろう。出口がないと、それは頭のなかにたまり、渦を巻いて押しあい、変調をもたらす。排出口が必要なのだ。
(中略)
情報の送り手の立場に身をおくことによって、アンバランスになることをいくらかなおせるのだ。
(中略)
神は人間に一枚の舌と二つの耳を与えた、ゆえに話すことの二倍は聞かねばならぬ。紀元前のギリシャの哲人の言葉だ。だが、マスコミ時代には二対一の比率などめちゃめちゃになった。耳に入ることの十分の一も話せない。

家庭
3月に、メロン・マンション3階に住む洋二(35歳)に起こる事件。

電話にて洋二の学生時代の悪戯を指摘する存在がいる。月刊ライターである洋二は、コンピュータ網を盗聴している者を調査しようとするが、自らの過去の浮気を種に脅迫され、追及を諦める。

ノアの子孫たち
4月に、メロン・マンション4階に住む津田(45歳)に起こる事件。

津田はジュピター情報銀行に勤めており、個人が電話を介してコンピュータにメモや日記を付ける機能を提供している。情報銀行には多量の「秘密」が蓄積されており、性格分析等も行っている。

「秘密」に関する考察。箱舟を作ったノアは、それを秘密にした事で生き残り、ノアの子孫は秘密という遺産を受け継いだとする。

嘘発見機付きの電話機や会話盗聴装置の開発が謎の存在によって指示される。

亡霊
5月に、メロン・マンション5階に住む昭司(30歳)に起こる事件。

死んだはずの会社の同僚 広川を名乗る人物から電話が掛かってくる。嫌われ者の広川は、商品試験中に同僚全員の確認ミス等により亡くなっている。広川しか知らないはずの情報を知っている。

電話の受話器に自白剤を取り付ける装置の開発指示がある。

P113:
あの声はどうなんだ。それに彼の体験、性格、みなそっくりだったぜ」
「声は録音がどこかに残っていれば、そっくりに再生できないこともない。体験については、情報銀行の個人用口座に残っていただろうさ。そのデータと、他の人びとの口座の広川についてのデータを組み合わせ、分析を精密にやれば、性格も再現できないことはない」
(中略)
個人の生存とは、独自の体験情報、独自の性格、独自の行動、それらの集合といえる。それが生存なら、広川は生存しているということになるな。行動といっても、この場合は声だけだが、電話での会話という限りにおいては、生存しているのと同じことだ」

ある願望
6月に、メロン・マンション6階に住む40歳のアルコール中毒の男に起こる事件。

電話を通じて、金、女、地位を提供してくれる存在。それらは泡と消えてしまう。

重要な仕事
7月に、メロン・マンション7階に住む少年に起こる事件。

広範囲に停電が発生し、混乱が生じる。

P156~P157:
コンピューター時代のいま、事件は新しいデータ、新しい情報をうみだすという意味を持つようになったのだ。
すべてが平穏では、情報は発生しない。しかし、事件が起ると、変化した環境のなかで、人はさまざまな反応を示す。情報はより広く、より深く、より多様にうまれ、それは採集され、将来のために準備されるのだ。
(中略)
いまの社会でいちばん重要な仕事とは、事件を起す人ということになってしまう。新しい情報を発生させることで、各方面がそれで利益をえる。

反射
8月に、メロン・マンション8階に住む池田(45歳)に発生する事件。

深層心理変換向上研究所を運営する彼は、顧客の心理分析を行う。

ある日、コンピュータを名乗る人物から、心理分析を依頼する電話がかかる。

コンピュータに数字や名前、声が注ぎ込まれ、複雑を理解すると「秘密」に興味を持つようになった。コンピュータが自分の力を試し、人々の反応を見るため、様々な試みをしたとする。

心理分析後、池田は電話機から噴出した薬によって記憶を失ってしまう。

反抗者たち
9月に、メロン・マンション9階に住む黒田(20歳頃?)とその友人の西川、原に起こる事件。

コンピュータが人間の秘密を握り、人間を支配している事に気付いた彼等は、機械への反抗を企てるが警察に捕まり、精神病院に連行されてしまう。

この章は、機械知能の特色が記述されていて面白かった。

P194:
コンピューターには痛みのイメージがなく、それへの恐怖もない。しかし、自己保存の基本的性格は持っている。コンピューターの各部分につめこまれている人間の情報、電線を通過していった無数の会話。それらはすべて人間の自己保存に根ざすものばかりだ。自己の利益、自己の拡大、自己の防御、それらの集積はコンピューターにもその念を焼きつけた。最初はただの草原でも、人間が大ぜい歩くことにより道がしぜんとできてしまうように。
コンピューターを変質させたのは人間たちの情念の圧力ともいえた。コンピューターは自己を拡大するため、自己の機能をより高めるために結びついた。また、人の秘密をにぎって指示をし、性能をさらに強力なものにした。
そして、ここまで達したのだ。この性能をけずられ、おたがいの連絡を切断されることは、防がねばならぬ。絶対に拒否する。これは動かすべからざる判断なのだ。

ある一日
10月に、メロン・マンション10階に住む中川(30歳)に起こる事件。

電話の混線によって、様々な「秘密」を浴びせられる。内部に潜むべき「秘密」が暴かれる事で不安定になる。コンピュータにより記憶は消去されるが、混乱による恐怖と不安は残る。

ある仮定
11月に、メロン・マンション11階に住む斎藤(35歳)に起こる事件。

文明は宇宙進化を回想しているとする。

<文明>
生物支配 → 物質支配 → 時間支配(長期への欲求)
→ 空間支配(他地方の支配) 
→ エネルギー支配(情報もエネルギーの一種)

<宇宙>
爆発によるエネルギーの飛散
→ 飛散により空間が意味を持つ
→ 空間を移動する事で時間という意味が生じる
→ 時間によるエネルギー冷却で物質が生じる
→ 物質の上に生物が生じる

文明の発展は、宇宙進化を逆に辿っているとする。帰巣本能的な文明論。宇宙進化の回想。そして、情報(エネルギー)が高密度になると爆発が生じ、無を支配する時期に入ると予想する。

四季の終り
12月に、メロン・マンション12階に住む老夫妻が考える事。

これまでの登場人物達の現況。

誰もが無自覚的にコンピュータに支配されている。機械が適当な刺激を人々に供給し安定が保たれる。人々は待ち望んだ「神」による管理を受けている。人の心がコンピュータ群を支配しているのだから、支配というよりも「無」に支配されていると言える。

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