聲の形 再考

発達障害者が登場するフィクション。

以下は、『聲の形』に関する僕の勝手な考察。中傷するつもりは無い。

今まで読んだ中で最も後味の悪い漫画『聲の形』について。登場人物のほとんどが、「サリーとアンの課題」をクリア出来ない。「この漫画で感動出来る人間はアスペ」という形容がしっくりしてしまう漫画。



以下は、Wikipediaの「心の理論」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E3%81%AE%E7%90%86%E8%AB%96

「心の理論」の中で、「サリーとアンの課題」が提示される。この課題を解くためには、自分と他人が異なる信念を持つ事を理解していなくてはならない。

<サリーとアンの課題>
以下の状況で、「サリーはボールを取り出そうと、最初にどこを探すか?」と被験者に質問する。

①サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいる
②サリーはボールを、籠の中に入れて部屋を出て行く
③サリーがいない間に、
 アンがボールを別の箱の中に移す
④サリーが部屋に戻ってくる

⇒正解は、「籠の中」だが、心の理論の発達が遅れている場合は、「箱」と答える

⇒『聲の形』の登場人物は、「サリーとアンの課題」に正答出来ていない

以下は、Wikipediaの「聲の形」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%81%B2%E3%81%AE%E5%BD%A2

以下は、「聲の形」のあらすじ。

<小学生篇>
主人公 石田将也のクラスに聴覚障碍者 西宮硝子が転校してくる。耳が聞こえない西宮硝子の存在は、クラスメイト達に多大なストレスを与え、石田将也を中心に西宮硝子をいじめるようになる。

しかし、度重なる補聴器紛失を切っ掛けに、校長同伴による学級会が行われ、クラスメイト達は自分達も西宮硝子に虐めていたにも拘らず、全ての罪を石田将也に擦り付ける事になる。その後、周囲に裏切られた石田将也は、新たな虐めの標的となる。

その後、 西宮硝子が転校し、石田将也は彼女が朝に懸命に拭いていた机が、落書きされていた自分の机であった事実に気付き、深く後悔する事になる。

<高校生篇>
石田将也に対する虐めは中学生になって続き、高校に進学後、自らの報われない人生の末路を思い浮かべた石田将也は自殺を決意する。自殺前に贖罪をしようと西宮硝子を訪れた石田将也は、自殺を思い止まり人生を生き直す事にする。

石田将也は、同級生である永束友宏に巻き込まれる形で映画撮影に取り組む事になり、映画サークルのメンバーと交流を深めていく。

その過程で、小学生時代の虐め騒動が明かされ、周囲に暴言を吐いた石田将也を心配した西宮硝子が自殺を試みる。西宮硝子の自殺は石田将也に阻止されるが、代わりに石田将也は意識不明の重体となる。

石田将也がいない間に、映画サークルのメンバーは映画撮影を続行し、目覚めた石田将也は西宮硝子に謝罪する。

その後、舞台は成人式に移行し、各メンバーのその後が語られる事になる。

*********************

①サリーとアンの課題(1)
第4巻 第27話 P75~P86における西宮と植野(小学校時代のクラスメイト)の会話は、「サリーとアンの課題」だ。

遊園地の観覧車内で、西宮と植野が小学校時代の虐めについて話す。

植野は、小学校時代に西宮に対して行っていた虐めをメッセージだと主張する。「自分達に関わらないで欲しい」というメッセージ。それに対して西宮が大人を使って反撃したのだからお相子だとする。

そして、小学校時代に西宮に抱いた感情は間違っていないとして、嫌いな人間同士で仲良くなろうと主張する。

ここで、植野が西宮に対して隠している情報がある(サリーが隠したボール)。それは、第1巻 第3話 P123における小学校時代の学級裁判において、植野が石田が行っていた事で、自分は虐めに否定的だと主張している?事だ。

聴覚障碍者の西宮は、そうした情報を知る事が出来ない。だから、西宮には植野が石田を庇っていたように思えてしまうはず(アンが籠の中を探してしまうように)。ポイントは、主人公である石田が、それを考慮出来ない事だ。石田は「サリーとアンの課題」を解けない人間なのだ。

⇒奇妙な事は、多くの読者が植野について、「感情を出している」、「言いたい事を言える」と解釈する事。小学校時代の同級生達に同様の主張をしていない事を認識されなくなる。誰かを虐める事により、自分の罪を擦り付ける事が出来る。

②虐めの背景 = 成熟拒否
作品世界における虐めの背景にあるのは、社会と対峙出来ない人間達の存在だと思う。

石田の高校の同級生 永束は、小学校時代の石田の似姿だ。

小学校時代の石田は、自分の友達である島田や広瀬が塾に通い始めたり、安全で身になる時間の使い方をしようという主張についていけない。成長しつつある友人と、成長出来ない自分の対比。

永束の映画制作も、高校三年生という進路選択の時期に開始される。小学校時代の石田が、子供の遊びに拘り、自分以外の人間を遊びに巻き込みたがるように、永束は石田を映画制作に参加させようとする。第5巻 第36話 P71で、永束は「西宮さんを(映画)制作に参加させてあげた」のだから、石田は自分に恩があるとする。

だから、小学校時代の石田による西宮虐めも、周囲に恩を売る目的があったのかもしれない。

そして、小学校時代の三人組(石田、島田、広瀬)と高校時代の三人組(石田、永束、真柴)が同一であるとすると、島田 = 真柴になる。

真柴が永束の映画制作サークルに参加した理由は、自分より変わっている石田が近くにいたら、自分が普通だと実感出来ると思えたから。小学校時代の島田の心境も似たようなものだったのかもしれない。

Wikipediaの「聲の形」の記事では、リメイク版のあらすじに、島田達は、硝子を虐めていた時から、石田に対しても机に嫌がらせを行っており、西宮が早朝に机を拭いていたために石田は気付かなかったとある。

つまり、石田に対する虐めは、西宮とは無関係に発生しており、最初から小学校時代の石田は永束のようにスクールカースト低位の人間だった可能性がある(記憶の改竄)。

③非現実的展開
第6巻から、非現実的展開が続く。その理由は、作者が登場人物達を制御出来なくなったためだと思う。

第5巻の39話で、小学校時代の虐めについて言い争いをする場面がある。ここで、植野は第4巻 第27話で西宮に主張したように、虐めはメッセージであり、自分は間違っていないと主張出来ない。

以下は、「作者・大今良時が語る『聲の形』誕生秘話 自身の不登校が創作の原動力に【インタビュー】」へのリンク。

http://ddnavi.com/news/223615/a/3/

作者は、植野を「皆が言えない事を言ってあげている、と思っているキャラ」と評しているが、実際にキャラクターを動かしてみると、自分より弱い人間にしか自己主張出来ない。その事を認めたくなかったのだと思う。

そして、物語は以下の展開を辿る。

(1)自殺
言い争いに責任を感じた西宮が、投身自殺を試みる。偶然にも石田が自殺を目撃し、自分が代わりに川に落ちる。そこに偶然にも小学校時代の同級生である島田と広瀬が通りかかり、石田を川から引き上げる。

これは作者のための展開だと思う。石田は西宮の命の恩人となり、島田と広瀬は石田の命の恩人となる。

虐めていた人間の立場がより強化されるのだから、より捻じれが悪化するはずであるが、作者視点から虐めの罪が無くなる事になる。

島田と広瀬が投身自殺の現場に居合わせた理由は、「面白そうだから追いかけた」ためであり、「石田落ちた笑」というメールを送信している事から、まともな人間ではなくなっている。

(2)暴行
自殺を試みた事により、石田を意識不明の重体とした事で、西宮は植野に暴行される。

これは倫理の問題だ。以下の状況。

状況A:
虐めによって投身自殺を試みたところ、偶然にも真下に虐めっ子がいて殺してしまう

状況B:
虐めによって自殺を試みたところ、偶然にも虐めっ子が通りかかって命を助けられたので感謝しなくてはならない

これは小学校時代の再現だ。石田は、一人で暴走して西宮を虐めて周囲に迷惑をかけた事を理由に島田達から虐められる。同様に西宮は、一人で暴走して周囲に迷惑をかけた事で暴行される。

多くの読者は、全く同じ現象が繰り返されているのに、植野による暴行を正論だと思ってしまう。

以下は、謎解き聲の形の「第46話、やはり第6巻は第2~3巻のトレースなのか?」へのリンク。

http://koenokatachi.seesaa.net/article/402357942.html

(3)籠城
第6巻 第46話から、植野は意識不明となった石田の病室に籠城し、自分が気に入らない人間を排除しようとする。病院の医師や看護婦、守衛は描写されない。このような事を行ったら警察に通報されるはず。作者は現実性を犠牲にしてまで、こうした展開を描かなくてはならなかった。

これは、物語のテーマが「成熟拒否」である事を示しているのだと思う。植野は石田が好きなのでなく、学校に通いたくない(社会と対峙したくない)事の大義名分として、石田の病室に籠城する。

第6巻 第50話で、石田への恋愛感情と西宮への憎悪、そして島田に逆らえない事がセットになっている事が示されていると思う。

小学校時代の学級裁判の後も、裏で植野は西宮虐めを継続しており、西宮を転校に追い込んだのは植野だった。以下のように認識している。

・自分達が落書きした石田の机を、西宮が拭いているのを見る
 ↓
・西宮の行動を石田にアピールするためと解釈する
 ↓
・石田が騙されないように西宮を追い出す

植野が本当に石田を好きなのならば、小学校時代に西宮を転校に追い込んだ犯人は、石田ではなくて自分であると白状するはずであるがそうしない。しようとも思わない。

ずっと石田が好きだったという認識は捏造されたもの。自分は島田に逆らえずに、石田虐めに参加しているのに、自分より弱い西宮が石田を庇っている状況は、植野の自尊心に対する脅威となる。だから、西宮を追い出す。そうした自らの憎悪を飾るために石田を好きであると思わなくてはならない。自己欺瞞としての恋愛感情。

そして、自らの自尊心への脅威である西宮がいなくなれば、石田への執着心も無くなるため、中学校時代は傍観者になり、高校時代は音信不通となる。高校三年生の進路選択という自らの自尊心への脅威が発生すると、そこから逃避するために石田への執着心が再燃する事になる。

僕が異常だと感じてしまうのは、そうした植野の行動を献身的と感じてしまう人々が多い事。

以下は、謎解き聲の形の「第47話、将也に対する植野の思いと覚悟とは?」へのリンク。病室に籠城して、治療の邪魔をする事を好意的に解釈している。

http://koenokatachi.seesaa.net/article/403250451.html

以下は、謎解き聲の形の「第53話、口ゆすぎシーンはやはり植野回と関係している?」へのリンク。意識不明の石田にキスする植野の行為を愛情と評価する。

http://koenokatachi.seesaa.net/article/405803207.html

⇒汚い人間に優しくする事で、綺麗な自分を感じる事が出来る?

④サリーとアンの課題(2)
第7巻 第61話 P154~P160で、意識不明から回復した石田と植野の間での会話のシーンが描写される。この会話は「サリーとアンの課題」になっている。

植野は、自分も西宮に悪口を言ったり上靴を汚したりして、それでも西宮が好きになれないと語る。それに対して石田は、植野はこのままで良い、好き嫌いが全てでないと語る。そこに西宮への配慮は全く無い。

ここで、植野が石田に隠している情報がある(サリーが隠したボール)。それは、植野による虐めが学級裁判の後も裏で継続しており、西宮を転校に追い込んだのは植野である事だ。

だから、この場面において石田と植野の間には以下の見解の相違があるはず。

石田:
植野は、小学校時代の学級裁判で石田を裏切った事について謝っている

植野:
自分は、小学校時代に西宮を転校に追い込み、それを石田のせいにした事について謝っている

おそらく作者は両者の見解の相違を理解している。この場面は、作者から読者への挑戦状だ。そして、多くの読者は「サリーとアンの課題」に合格出来ない。この場面で納得している人間は、アスペルガー的感覚に同調してしまっている。

以下は、謎解き聲の形の「第61話、リフレインがてんこ盛り(1)」の記事へのリンク。

http://koenokatachi.seesaa.net/article/408816883.html

結局、作品世界において人間的成長は発生していない。石田は、西宮の命の恩人となり、それが周知された事で、社会的制裁を受ける恐怖から解放された事になる。そうした当事者意識が欠如した状態が、「嫌いな人間同士仲良く」という理論を生む。

そして、記憶の捏造。島田や広瀬達が、石田の命の恩人となり、小学校時代も石田の事が好きだったとなる。繰り返し書くと、Wikipediaの「聲の形」の記事では、リメイク版のあらすじに、島田達は、硝子を虐めていた時から、石田に対しても机に嫌がらせを行っており、西宮が早朝に机を拭いていたために石田は気付かなかったとある。

面白そうだから追いかけたところ、偶然にも投身自殺の場面に出くわし、何の危険も代償も伴わない行為によって英雄になる。作者は島田と広瀬を倒す方法を思い付かなかったのだと思う。

以下は、謎解き聲の形の「第61話、将也の「島田トラウマ」の内容とその解決が改めて明らかに」へのリンク。

http://koenokatachi.seesaa.net/article/408752265.html

この漫画の後味が悪いのは、物語を終わらせる方法が弱者への虐めしかなかった事にあるように思える。

アスペルガー的感覚の持ち主のみが違和感を感じないというより、多くの人間がアスペルガーの感覚を疑似体験出来てしまう。

アスペルガーを体験したい方はご一読を(違うかな?)。

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