チェスへの招待

読んだ本の感想。

ジェローム・モフラ著。2007年1月10日印刷。



第1章 ゲームの歴史、世界の歴史
Ⅰ 起源から19世紀まで
チャトゥランガ:
5世紀に北インドに登場。「4人の王」の意味で、64枡の盤面で4名で行う。各自がサイコロを振り、その結果によって動かす駒が決まる。王、騎士、僧、象、戦車、歩兵がおり、女王の駒は無い。

シャトゥラン:
6世紀にペルシャに登場?チャトゥランガの変種。サイコロが無くなり、2名で行うようになる。

⇒サイコロ(神の意志)の消失

チェス:
ウマイヤ朝のスペインを通じて、8世紀には欧州に伝わっていたが、社会一般に普及するのは10世紀。ポーンは下層民であり、ナイトに従属し、ナイトは領主に従属する中世の権力関係を表す?

⇒チェスは、中世社会における封建制度によって意味を持ったとする。現実世界の反映としてのゲーム

チェスというゲーム名は、「シャー・マット」(キングは死んだ)というアラブ語の勝利の叫びから来たとされる。

14世紀には、ルネサンス等による知的影響により、チェスは大きく変化する。ビショップは対角線を動き、クイーンはルークとビショップの動きを合わせ、ポーンは初手で2枡進むようになり、キャスリングの原型が出来た。

⇒動きが緩やかな中世のチェスとの訣別

18世紀には、イタリアの理論書が英語やフランス語に翻訳され、超攻撃的スタイルから合理的対局方法への変化が発生する。基本的原理から出発し、一連の指し手は総体の中に位置付けなければならないとする。啓蒙時代の理性の優位を主張する動き。

ゲームは共和国化され、8段目に着いたポーンが昇進出来るようになる。

Ⅱ 産業革命から1914~18年の第1次世界大戦まで
産業革命の影響により、チェスは宮廷での遊びや騎士の闘いではなくなった。工業のように合理化、組織化されるようになる。

以下のような標準化の波。

チェス盤と駒:
1835年にスタウントン型のチェス駒が創られた

ルール:
1860年に、『チェスの実践』が出版され、結果を数量化する等の生産性の物差しが出来た。引分けとなる対局に0.5点を与えるようになるのは、1867年

待ち時間:
1833年にサンタマンによる待ち時間を制限しようという提案。1852年には、時間制限のある最初の対局が行われた

組織:
1838年に「グランドマスター」という称号が使用されるようになり、個人の成績や国別の力を科学的に測定する事が課題となる。プレイヤーの実力は、他のプレイヤーとの比較によって測定され、19世紀はトーナメントの世紀となる

Ⅲ 1918年からこんにちまで
国際連盟創設の影響により?1924年に国際チェス連盟(FIDE)が15ヵ国の代表によって創設される。現在では、インターネットや女性化、新興国の台頭の影響があるとする。

第2章 チェスの世界
Ⅰ ゲームのやり方
ゲームを以下の4つに分類すると、チェスにはその全ての側面があるとする。

①アゴン(競争)
競争相手が同じ道具、同じ人数で相対する
②アレア(偶然)
ビンゴや籤等
③ミミクリー(模擬)
芝居や模倣
④イリンクス(眩暈)
センセーショナルな情感を主とするサーフィンやパラシュート降下等

チェスは対等のゲームであり、ポーンを動かす事無しに50手指されると引分けになるので有限のゲームでもある。

Ⅱ 大衆的活動、プロフェッショナル・スポーツ
チェスは学生と第3次産業の知的職業のゲームとされ、極めてコスモポリタンとする。中立で抽象的なチェスは社会的、政治的問題から切り離されている。

戦闘の儀式化、誤魔化しが不可能、審判不在により、少年にとってのチェスはルール以外に限界が無い、大人の主観的判断から逃れる事が出来る。

Ⅲ 簡単なルールのゲーム
チェスの目的は、相手のキングを攻撃から逃れられない状態に追い込む事である。攻撃された側が脅威に対してキングを防御出来なければゲームは終了になる。

デンマーク・チャンピオン、ベント・ラーセンと、世界チャンピオン、ボリス・スパスキーとの1970年に行われた対局の説明。

第3章 チェス、世界のゲーム
Ⅰ チェスを通じての人間
フロイトは、1925年にチェスの全体概念はエディプス・コンプレックスの投影としたらしい。

○駒の象徴性
キングは秩序の象徴性である。ゲームの中心であるキングは最も脆い駒であるが危険にさらしてはならない。

クイーンは絶対君主的で敵を殺害するために必要な力がある。

ポーンは子供を象徴しており、進むだけで昇進するまで後戻りや横に行く事が出来ない。成長の原則に縛りつけられている。さらに目前の駒を取れない唯一の駒であり、押し付けられた役割から逃れるように斜めに動いてしか敵の駒を取る事が出来ない。ポーンは昇進においてキング以外の駒になる事が出来る。父親の地位を奪う事は禁忌である。

ビショップとルークは男勝りの母の分身であり、ナイトは動物性と性倒錯の象徴(ラカン)とされる。

○ゲームの象徴
チェスの目的は、父の殺害、父を無力に追い込む事にあるとする。目的を追求する荒々しさは、プレイヤーが強くなるに連れて表面化しなくなる。

Ⅱ チェスと芸術
文学の素材としてのチェス。

○手ほどきの小説
自分の発見、変容。一連の出来事との対決。
ルイス・キャロルは、「鏡の国のアリス」でチェスを題材にしたとされる。

○冒険小説
相手に勝つために、状況が改善するように主導権を取ろうとする。出来事の連続。
「フラマン人のマスターの肖像画」(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ著)。

○テーマ小説
ゲームを通しての極限的描写。ゆっくりした崩壊の理解。
「ディフェンス」(ウラジミール・ナボコフ著)、「マーフィ」(サミュエル・ベケット著)。

○象徴的な小説
メカニズムを理解し、象徴を理解する。
「マスターと蠍」(パトリック・セリ著)。

○謎の小説
問題を解く。指し手は可能であり、規則に合っているか否か。
「4人」(アガサ・クリスティー著)、「僧正殺人事件」(ヴァン・ダイン著)、「高い窓」(レイモンド・チャンドラー著)。

○構造による小説
象徴的な駒を動かして相手に勝つ。
「駒さばき」(ウィリアム・フォークナー著)。「盤面の敵」(エラリー・クイーン著)、「フィリドールの盤面」(ルネ=ヴィクトール・ピレス著)、「チェス盤の町」(ジョン・プラナー著)、「人生、その使用法」(ジョルジュ・ペレック著)。

Ⅲ チェスを通してみた社会
チェスは叡智の表現とされるが、自己と対決し乗り越える中での叡智である。

チェスは貴族の遊戯であり厳密な社会階級を前面に出している。しかし、ゲームの通常の進行ではキングは無能力であり、キングの防御を目的とする強制力を際立たせる。全体の成功のために個を犠牲にする必要。

軍隊の概念のモデルとしては、以下の3つの時代?

①マテリアルを追及するロマン主義
駒の損失と時間、空間を交換するギャンビットの隆盛。

②公式化
一般原理を解析する。キングを安全地帯に置き、駒を速く展開して中央を占領する。

③防御
防御が絶対的に必要とする。塹壕戦の時代との類似。

現代では、核が局地戦やテロリズムを制止出来ない再編成の世界にあって、碁の影響があるとする。チェス盤上の空間を占領する事は束縛、責任を生じ敗北の原因となる。占領よりも操作する方が良く、決定的な点(橋、道路)に集中する。最大限の空間を最小限の駒で操作する事を目指す。

碁ではポーン(石)が全て同じであり、重兵器よりも軽兵器を好む事を示唆するのかもしれない。駒自身の価値よりも、局面での価値の方が重要。

現代の戦争においては、敵組織の指導者を殺害した後も戦闘は継続するため、チェス戦略の限界が感じられる。チェスにおいては碁のイデオロギーと同化し、対局者の破壊だけでなく、共生を知る事になるのかもしれない。

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