図解雑学 構造主義

読んだ本の感想。

小野功生監修。2004年10月6日発行。



第1章 構造主義の登場
構造主義を巡る議論は、レヴィ=ストロースが1962年に出版された『野生の思考』でサルトルを批判した事から始まった。

野生の思考:
文化人類学の研究所で、未開人の思考と文明人の思考を「構造主義」によって対比した。

<サルトル>
人間の自由と主体性を重んじる実存主義を提唱。各人の意見が対立する中で、新しい意見に到達する「弁証法」によって歴史が進歩するとした。

<レヴィ=ストロース>
人間は、不可視の思考的枠組み = 構造によって規定されるとした。主体性を持った人間というサルトルの意見への批判。

レヴィ=ストロースは、未開人と呼ばれた人々の社会を研究し、未開人が昔からの習慣を無批判に受容しているとした。歴史の中で変化し続ける文明を「熱い社会」とすると、未開人の文明は変化を拒む「冷たい社会」とする。

⇒未開人の社会は、個人ではなく社会全体として熱くなる事を拒んでおり、そうした社会全体の考えを「構造」とする物事を考える時のパターン。

構造は、複数を認識した時に共通のパターンを見つけた時に発見出来る。置き換えを変換と呼ぶ。例えば、種族Aが自分達の先祖を梟と主張し、種族Bが自分達の先祖を鼠とすると、「自らの先祖が動物である」 = トーテミズムというパターンを発見出来る。

レヴィ=ストロースは、人間社会を交換する社会と定義する。

・「もの」の交換:経済活動
・言葉の交換:意思疎通
・女性の交換:結婚制度

未開人の神話的思考は、思考に抽象的な言葉を用いず、具体物を使用して成り立つ。「愛」や「憎悪」のような抽象的な言葉を用いると能率は良いが一つの意味しか考えられない。具体物を使用する思考は能率が悪いが場面の中で具体的に考える事が出来る。

⇒文明人の独善への批判。

自由な個人が集まって社会を作り、人間の力で進歩するのでなく、個人の思考、行動は社会の中で決定され、社会の根底には同じ構造があるとする。

第2章 主体性の系譜
構造主義が批判する「人間」とは、近代文明が定義する人間であり、進歩する人間という概念を批判した。

<実存主義>
主体性の哲学。本質(○○である)と実存(◆◆がある)を分け、人間にとっては実存が本質に先立ち、「である事」よりも、「ある事」が先とした。勇敢な人間が勇敢「である事」は、その人自身が決めた事であり、自分自身を本質を決定出来るとする。

子供の立場から見た人間観であり、親は子供が生まれる前から自分の子供「である事」を期待するが、子供の側では知らない。現実に生まれてから、自分「がある事」を理解して、自分の本質を決める。実存主義は、親の立場からは客観性に欠けるため、社会の現実を客観的に考える哲学と結び付く必要がある。

<マルクス主義>
自然界に自然法則があるように、人間社会にも客観的法則があるとする。歴史は法則に従って進歩し、個人の力では変えられない。

<西欧マルクス主義>
ソヴィエト連邦が歴史法則の名の下に個人の自由を圧殺している事から、人間の主体性と自由を重視。人間が主体的に歴史を作るとする。

サルトルは、実存主義の客観性欠如を埋めるためにマルクス主義に歩み寄る。『弁証法的理性批判』では、マルクス主義の弁証法を受容し、歴史の意味は人間の理性によって決まり、理性は個人のものとであると同時に、歴史を推し進める弁証法的なものとした。マルクス主義を実存主義と結びつけ、人間中心の思想に読み替えた。

実存主義と構造主義が、フランス革命を起こしたフランスで生まれた事には意味がある?理性を武器に歴史を切り開く人間という思想が強かったからこそ、その系譜を受け継ぐ実存主義と、批判する構造主義が生まれたのかもしれない。

第3章 近代哲学の発展
人間中心主義の背景には、産業革命による生産力向上と資本主義経済による売買を個人が決定する経済システム成立があるとする。王族が独占していた富が普及し、人間には物事を決める能力があるという思想 = 啓蒙主義が広まった。

啓蒙主義:
全ての人間には理性があり、正しく教育すれば理性的に考えるようになるとする。人間には理性を使って生きる権利があり、理性がある点で人間は平等と考える。

中世までの欧州では、人間は神に支配されていたが、近代以降は、人間は自由であり神から独立しなくてはならないという人間中心の世界観が出来上がった。

<カント>
啓蒙主義を哲学的に完成させる。批判哲学とされ、人間理性に可能な事を定義した。世界と現象(人間が経験出来る範囲の世界)を区別し、現象が学問の対象とする。

死後の世界は死なないと分からない。しかし、生きて経験出来る事ならば正しく認識出来るはず。人間にとっての世界という理性の限界を示し、同時にその範囲内での理性の正当性を保証した。

理性によって正しく知る目的は、正しく生きる事である。理性の力で考え、自らに責任を持つ人間観。そして、人間が生きる目的のためには理性を超えた道徳的判断が必要であり、道徳のような理性的には分からない事を分かった事にするために、死後の天国や地獄の存在を認める事が好都合とする。これを要請と呼ぶ。死後の天国や地獄の実在を道徳のために要請する。

<ドイツ観念論>
理性と実践の橋渡しを課題にする。カントの哲学では、理性的認識と生きるために要請される事は別になってしまう。生きる事の実践に繋がる理性。

・フィヒテ
理性がありのままの世界を作り替える事を強調。

・シェリング
人間理性の彼方にある自然の力を強調。

・ヘーゲル
人間全体の理性が歴史を動かすとする。理性自身の運動を弁証法として、対話によって異なる意見を統一する意見が作り出され、徐々に全ての意見を総合した結論に辿り着くと考える。歴史はその過程とする。

カントは現実を「見る」哲学であるが、ヘーゲルは現実を「作る」哲学である。理性が実現していく過程を歴史と捉え、個人は理性の持主でなく、社会全体の理性の道具と言える。

サルトルは、カント(自らを吟味する人間理性)とヘーゲル(個人を超えた弁証法的理性)を統合し、理性的で自ら歴史を作る人間の在り方を提唱したが、レヴィ=ストロースの構造主義による批判が行われたとする。

第4章 近代哲学の彼方
ドイツ観念論に対する批判は、19世紀当時から存在した。

<ショーペンハウエル>
カントと同様に、理性で分かる現象の世界と意志の世界を区別。カントは意志を道徳的に生きようとする人間の崇高さとしたが、意志を生命への衝動とした。理性ではなく生存への欲求に支えられた?貪欲な意志によって生きるとする。ドイツ観念論の主流にはならなかったがニーチェに影響を与えた。

<フォイエルバッハ>
ヘーゲル哲学を継承。ヘーゲル哲学の本質を神学(人間の全てが神に起因していると考える思考パターン)の哲学化だと考える。歴史が人類全体の理性を実現していく過程という思想は、ユダヤ・キリスト教に由来し、神の意志が実現していく過程が歴史と捉える思想と似ている。

歴史の終点では、人間が神になる。個人では無力でも人類全体では全知全能であり、個人の無力故に偉大を外部に見出したものが神と考える。

<マルクス>
歴史を重視し、人間性は社会が変化する度に変化してきたとする。人間という理念の虚構性。

<ニーチェ>
ショーペンハウエルが否定的に認識した生命への意志を肯定的に評価。人間は自然の存在であり、自然に従う事が当然。近代では、生命への意志ではなく、理念を目標に掲げて目標に引っ張って貰う事で生きようとするが、理念が空しいものと気付く事によって生きる事が重荷になってしまう。生命の力に目覚めるべきとする。

<フロイト>
一人の人間を集団のように解釈する。個人の中には多くの意見があり、衝突しながら纏まるのが意識である。自分は○○であると考え、相応しく行動する事が主体性であるが、実際には自分が知らない多くの意見の結果として個人の行動は決まる。自分自身の主人であるべきというカントの思想を拒否し、自分の行動の意味は分からず、決定も出来ないとする。

<ダーウィン>
進化論の思想では、全ての生物は連続している事になる。理性の有る人間と、理性の無い動物の区別という前提を覆す。新しい人間観の誕生。

*****************

構造主義では、人間を理性的で道徳的な主体とする思想を批判した。それは人間を自然と認識する事である。カントやヘーゲルは「人間はどうあるか」を提示したが、構造主義は「人間の事実」を考える。

自然とは、人為の対義で人間の意図を超えた物事の全体である。

第5章 構造主義前史
構造とは、物事の仕組みである。全体でも部分でもない部分同士の関係が最初にあるとする。例えば、会社組織では役職や階級が最初に決まっていて、その中に個人が入る。

・全体論(全体を分割して部分が出来た)
・要素論(部分が集まり全体になった)
・構造論(部分同士の関係が先にあった)

これは数学の思考に基づいており、以下のような式を前提にする。

Y = 1000 - X

上記の式は、YとXの関係を示しただけであり、具体的な数値は決まっていない。物事の関係を物事自体とは別に考える。具体的な物事に先立つ関係。

<ソシュール>
共時言語学。言語とは、パロール(人間が語る個々の発言)と、ラング(発言を可能にする規則体系)の複合とした。ラングはパロールのように実在しないが、個々の言葉を規定する。数学の構造と似た思想。

言語とは差異の体系であり、言葉が差異によって「もの」を作り出す。犬であるとは狼でないという事であり、そうした相違を差異とする。犬と狼の他に山犬という言葉を作ると、差異が増加する。言葉によって世界は分けられている。

**************

フランスでは、構造主義以前から未開社会研究が盛んであり、社会での決め事は社会的事実として自然法則のように個人を束縛するとした。こうした思想は構造主義に影響を与えており、また、交換の重要性という思想も影響を与えた。贈り物にはお返しをしなくてはならない。

レヴィ=ストロースは、構造主義は以下の3つからの影響されたとする。

・地質学
・マルクス主義
・精神分析

上記の3つの共通点は、表面から認識出来ない深層に決定要因があるという思想である。さらに、言語学の差異の体系に影響を受けた?個々の発言は、多くの差異の中から適切な語句を選択する事で成立する。そのためには選択肢が同時に提供されなくてはならない。つまり差異には時間的変化が無いという事であり、この時間制を無視する方法論を社会全体を読む方法とした捉え直した時に構造主義という思考法が確立した。

第6章 構造主義の展開
以下は、構造主義の特徴。

①構造
社会の深層には変化しない構造がある。近代哲学では、歴史の進歩を信じる。

②規定
人間は深層構造によって規定される。近代哲学は、人間の主体性を強調する。

③言葉
世界は言葉によって作り出された文化的形成物とする。近代哲学では、人間が世界にどのように関わるかを考える。

④差異
「もの」は言語という差異の体系によって生み出されたと考える。近代哲学では、「もの」はそれ自体として存在する。

上記の内、歴史の進歩と主体性を否定した事が問題になった。人間の努力や責任を否定するという理屈だが、構造主義は「人間」という理念を否定しただけである。

<フーコー>
過去の社会は異文化であり、人間の思想は特定の時代の権力によって作り出されたものとする。各時代の思想の特徴をエピステーメーと呼ぶ。近代的な人間理念を生み出したモデルとして、刑務所で囚人を監視する塔 = パノプティコンを例とする。囚人からは、自分が監視されているかどうか分からないが、その可能性があるだけで緊張し、自らを監視してしまう。

同じように権力に支配される人々は存在しても、権力者は必要無い仕組みが現出している。自分で自分を律する人間という仕組み。人間は、権力者の時代から次の時代への過渡期に現れた特殊な理念的存在とする。

<ロラン・バルト>
記号論。文学作品の読解という場面で権力者不在の現代社会を示す。文学作品には、全てを支配する作者は存在しないとする。作者は言語の制約を受けており、依然読んだ作品の呪縛から逃れられない。

作者は読み方を指定出来ないので、作者を離れた作品は無限の読み方が可能であり、それをテクストと呼ぶ。文学テクストを規定しているのは作者の意志でなく、作者も知らないテクストの構造とする。

人間の文化も大きなテクストであり、読解されていないメッセージが多く発せられている。会社員が真面目を示すために背広を着る等。現代文化の中にも意識されない神話的要素が潜む。

例として、P144、P166にミルトンの『失楽園』が提示されている。ミルトンは熱心なキリスト教信者だったので、宗教信念を叙事詩として謳い上げたが、作者の意図以外 = 権力によって主体が形成されていく17世紀の近代初期の時代相が読み取れるらしい。19世紀以降、神に逆らう事で自らの主体性を形成するサタンを重視する読み方が盛んになる。これは作者の意図とは合わないだろうが、近代化が進展する中で、サタンの強烈な自己意識が人々の気持ちを引き付けた?

サタンは神に逆らう事で主体となったため、神の意志が無ければ主体になれなかった事になる。サタンは主体として神の意図通りに動き、神に服従してしまったという解釈が作者の意図を離れて読み取れてしまうとする。

<ラカン>
人間が自分と思っているものは、他者によって作られた作り物とする。赤ん坊は自分という纏まりを実感する前に外界を認識し、胸像段階 = 鏡に映る自分を見る事で「自分」を理解する。自分とは鏡に映った虚像に過ぎない。

鏡像と自分が一致している状態を想像界と呼び?、やがて言語によって秩序付けられた象徴界を知る。人間は、言語によって作られた象徴界に住み、現実界(ありのままの世界)とは無縁。

<アルチュセール>
新しいマルクス解釈の提示。社会の仕組みを様々な要因が組み合わさる重層的決定とした。社会は複雑で、原因と結果を特定する事は出来ない。観測者自身も複雑の中にいるので、全体を一つの視点から見渡す事は不可能。

構造主義は、異なる社会の根底に一つの構造を見い出すが、アルチュセールは複雑を複雑のまま捉えようとする。

第7章 構造主義を超えて
構造とは、現実の単純化であり、構造の外を把握する哲学としてポスト構造主義が提唱されるようになる。

構造主義では、構造を安定した仕組みとするため、変化を説明出来ない。構造と時間の関係を説明する思想が必要になる。哲学は永遠の真理を求めてきたので、変化するものは真理ではないとする?不変の構造は古典的哲学概念であり、ポスト構造主義は生成変化を肯定する事から始まった。

<デリダ>
言語で整理しきれない部分に着目。安定している「もの」でも、自分自身との時間的ズレがあり空間的差異と時間的遅延の2つの意味を合わせた差延といおう造語で表現する。

「世界の現実は○○である」と認識した時点で現実は変化している。「もの」が安定して目前にあると見なす態度を現前の形而上学と読んだ。世界を偽りの安定で抑え込むとする。

構造主義が各要素が同時に置かれている事を前提にしている事への批判?

偽りの安定を壊すために、意味の内側に入り込んで世界の意味を書き換える事を「脱構築」と呼ぶ。構造とは、複数の要素の関係であり、対比をなしている。対比が揺らげば構造は自壊するため、脱構築は二項対立に揺さぶりをかけるとする。批判すべき価値観が正しい前提で考える事??

・グラマトロジー
書き物の学の意。
現前の形而上学は、複雑に動いている現実を一つの型にはめて理解する。自分自身の言葉 = 当人に意味が明確な言葉を聞くという言語観をモデルにするが、デリダは、既に書かれた物を読むという別のモデルを提示。他人の言葉だから解り難く、物事の意味を明晰に把握可能という姿勢を批判した。

<ドゥルーズ>
動くものを動くままに捉えようとする。近代資本主義社会は変化し続ける社会であり、資本主義は自然に触れているとする。多種多様な差異を肯定する事で統一の束縛を逃れる。文化に染まっていない幼児は人格の首尾一貫性に欠けており、精神の分裂は必ずしも不幸でないとする。

整理された思考は、本筋と枝葉を固定する(ツリー)。自在な思考(リゾーム)という複雑な地下茎のような思考を採用?自分が何者なのか考える事は自分を固定する作業であり、いつでも何者かになるように変化し続けなくてはならない。

生成変化を肯定し、自由な変化を目指す。

・器官なき身体
現実の身体だけでなく、全体の意志に服従しない自由な在り方全般を示す。身体の各部は役割によって意味付けられるが、そうした意味付けを拒否し、各部分は全体のためでなく勝手に動くとする。

・ノマドロジー
ノマドとは遊牧民の事であり、定住する農耕民が社会の仕組みを固定的と考えるのに対し、常に変化するしゃきあや人間の在り方を考える。

・欲望する機械
記憶の支配から逃れ、自由に何とでも結び付くリゾーム的、ノマド的生き方。精神が自分を支配している限り人間は主体だが、幼児のように精神の支配を受けない人間像も考えられる。

<リオタール>
近代とは誰にでも通用する普遍的な「大きな物語」が力を持った時代であり、万人に通用する普遍的なこおTばが通用しない現代をポスト・モダンと読んだ。

理性が全てを解決するという「大きな物語」が通用しない状態では、場面毎に問題解決に取り組むしかないとする。

<クリステヴァ>
間テクスト性として、テクストは他のテクストとの関係の中にしかないとした。無数のテクストが交錯して、一つの方向性が生まれる(意味生成)。

<ボードリヤール>
欲望は社会的であり、他者の承認という記号を欲しがっているとする。生活用具としての実体を失ったもの = 現実の基盤を欠いた記号をシミュラークルと呼ぶ。現代社会では、シミュラークルの交換 = 象徴交換が行われているとする。

<ジラール>
人間世界の本来の姿を相互暴力の嵐とする。秩序を生み出すために、暴力を一か所に限定し、一人に全員の暴力を向ける。一人の犠牲者によって秩序が生じ、犠牲者は秩序の原因として聖者となる。

個人の成立には他者の圧倒的な影響があり、他者を模倣して欲望を取り入れる事で人間としての纏まりを作る。

⇒構造が最初からあったのでなく、生成されたとする

⇒構造の外に渦巻く力の存在

第8章 構造主義と同時代思想
構造主義と同時代の他の思想との関わり。

近代哲学は個人の内面的理性を重視した結果、個人の心の中に閉じ籠る傾向があったので、20世紀の哲学では言語を重視する傾向があった(言語論的転回)。

言語論的転回は、英米系の哲学であり、フランス中心の構造主義とは別の系譜に属する。

<パース>
思想を人間が生きる実践との関係で考える(プラグマティズム)。言葉という記号の特徴は、単語一つでは成り立たず、一つの単語の中に多くの単語の意味が含まれるとした。ソシュールが単語同士の差異を強調したのに対し、単語の意味が協力し合っているとした(例として犬:動物、なつく、高い嗅覚、ETC)。

<ハイデガー>
存在論。世界が世界として意味を持つのは、人間ではなく言葉によるとする。西欧近代は、人間が独立した主体として外部から眺めるように世界に接するとする(世界像)。これは人間が自らの都合によって世界を作り変えようとした結果であるとして、個人を超えた言語の伝統に注目し、「もの」が人間の思惑を外れる事に着目?

人間が世界の中に住んでいる場合、個々の「もの」は人間の生活と結び付き、様々な意味を持った(例:「岩」の解釈として、これは道標であり、日除けであり、礼拝対象である)。

人間が外部から世界全体を見るようになると、「もの」は何であるか決められてしまうので一つの意味しか持たない(例:「岩」の解釈として、岩であり、岩でしかない)。

<ヴィトゲンシュタイン>
初期には科学的使用に耐える厳密な言語を打ち立てようとしたが、後には言語活動は生きる実践であるとした。言語の意味は、外側にある現実によって決まるとした。

****************

ハイデガーとヴィトゲンシュタインは、人間は言語の中でしか生きられないし、言語には人間の支配が及ばないとした。さらに、言語は完結しておらず、歴史や社会関係の中で動いている事に注目した。

言語という制度の外側に着目する事は、ポスト構造主義の先取りと言える。

人間は本来無秩序であり、物事を分類する秩序 = 文化による安定を必要としている。人間を縛る保守性が文化の本質。

ポスト構造主義は、文化の拘束から逃れる事を目指しており、それはフェミニズムの思想でもある。男女差は文化的な人工物だから変革可能とする。

<ポール・ド・マン>
イェール学派。言葉の意味は発言者の側では決められないとした。テクストから作者の意図を推測するのでなく、テクスト自体の論理を追及する。テクストの語る事は、一つの意味には決められず、作者の意図とは正反対の事も同時に語ってしまう。

<カルチュラル・スタディーズ>
先進国の文化研究。1950年代にマルクス主義の立場から英国の労働者階級の文化を研究した事に始まる。客観的に事実を知る事よりも、現状の改革を目的とした実践的態度。高級文化と低級文化を分けず、外部から眺めるように区分を無視して研究する事で束縛を逃れらるとした。

<ニュー・ヒストリシズム>
進歩という固定観念を捨てて、過去を解釈し直す文学研究。現代文化の基になった過去を研究する事で常識を解体しようとする。歴史資料と文学作品を区別せず、人間精神を読み取ろうとする。

第9章 構造主義と神学的思想
自由で理性的な人間と言う理念には、キリスト教思想の強い影響がある。キリスト教においては、神が自由で理性的な主体であり、「人間」という理念は、神の似姿である。

<シュライエルマハー>
人間中心の神学。
感情と個性ある人間像を強調。神によって生かされている人間という依存の感情を基本とし、依存感情の表明が宗教とした。近代の人間観は、カントの理性的人間像と、シュライエルマハーの個性的人間像が複合して出来たとする。

個性ある人間という人間観は、各個人に独自の価値があるという思想は民主主義とも合致した。

<キルケゴール>
人間に対して楽天的になれない神学。
自分は自分であるという事実を実存とする。人間を他ならぬ自分とする実存は、神との関係でしかあり得ないとした。誰かとの関係で自分が自分であると決められ宇が、現実社会が規格化され、個性が感じられなくなると、現実社会の外との関係が必要になる。

世界の外に存在する神を信じる事で、自分が自分である事の独自性に賭けた。

<カール・バルト>
人間中心の考えを拒否。
人間とは全く異なる神という神観を復活させた。神は人間にとって絶対他者であり、人間中心に考えるのでなく、神の側から考えるべきとした。
人間中心的な思考を批判したハイデガーと同時代人であるが、ハイデガーと異なりナチスと対決した。現実の政治を批判する視点としての世界と断絶した神の存在。

⇒構造主義に先立ち、宗教的思考からも人間中心主義への批判が生じた

<ブルトマン>
聖書から奇跡物語のような現代人が納得し難い記述を洗い落とし、現代人が信じられるように純化する。納得出来る対象を吟味するカント的人間像。

<ティリッヒ>
宗教的精神が現実化する形式が文化とした。宗教を通じて神に接続するシュライエルマハー的人間像。

******************

上記は、ドイツ語圏を中心にするプロテスタント神学であり、中世的秩序を重んじるカトリック神学と異なり近代精神を強く発揮したとする。

20世紀の近代社会を最も明確に表したのは米国であるが、米国では保守的な宗教観が強い一方で、「神の死の神学」 = 人間が神の座に就いたという考え = ヘーゲル哲学的理念があり、ヘーゲル哲学が実現した国であるのかもしれない。

こうした人間の理念の帰結が、米国で独善的歴史理解に繋がったという意見があり、構造主義にはフランスの傲慢への内部批判に止まらない可能性がある。

<レヴィナス>
人間は人格を持ち、自分以外に対して責任を感じざるを得ないとする。他者を自分が理解し尽す事が出来ないと認める事から本当に必要な倫理的態度が始まる?という問題提起?

人間を否定しても、主体としての責任までは否定出来ない。私という一人称からは逃れられないし、他者と接する時はあなたという二人称と向き合わなくてはならないとする。

第10章 科学と構造主義
科学的態度とは、世界と自分を切り離し、外部から世界を観測する事で仕組みを理解する試みである。数学によって科学の正しさは保証される。

数学による世界の解明は、古代ギリシアのピュタゴラス、プラトンに始まる。現実世界の曖昧を捨象した知性的モデルを現実の上位に置く。

しかし、現実の複雑と多様性は明らかだったため、数学は世界観の中心にはなり難かった。

プラトンの弟子であるアリストテレスは生物学を模範に哲学を考えたとされ、多種多様な現実に相応しい哲学を構築したとされる。現実の影に隠れる秩序でなく、変化する多様な現実を考える。

プラトン哲学は、ルネサンス期になってから、それまで権威だったアリストテレスに代わって王道になったとする。

欧州の中世社会では、教会秩序の崩壊によって共同体から解放された孤独な人々が生じ、自由と孤独、不安を抱え込んだ近代的人間像の原型となる。

縛りつけられていた世界から自由になった人間は、神のように世界を作っていく権利と責任があるとされ、近代科学に独特の世界を作り変えるという積極性が生じる。数学的思考と実験を特徴とした。

科学には、世界を外部から観測する人間精神を扱えないという問題があった。数学は、世界を単純に把握しようとするが、人間自身は単純化を受け付けないとしている。科学的に見られたどのような人間像よりも人間は複雑であるという考え。

こうした複雑な現実の単純化という批判は構造主義にも向けられる。ポスト構造主義は、複雑な生きた現実を捉えようとしており、科学も散逸構造論(無秩序に認識出来るものの中から秩序が生まれるとする、世界を生物と見る思想)等があり、近代初期とは変化して生きた現実を捉えようとしている?

第11章 実践的な知性に向けて
近代とは、世界の主人である人間が外部から世界を観察し、自らのために加工する時代だった。こうした人間中心の思想は科学として現れ、人間が向上するという進歩史観としても現れた。

人間を自由な主体と規定する実存主義や、歴史法則を信じるマルクス主義は、人間中心思考の20世紀的形態とする。

構造主義は、西洋中心の進歩史観への批判として登場したが、構造主義も数学的分析等の理性的思想から生じており、構造主義者が主体でなければ批判が出来ない等、構造主義自体が近代思想に属しているという矛盾がある。

現実を言語という制度で表現するには主語という枠が必要であるように、現実を人間的に把握するには主体と言う制度が必要になる。

実存主義は、伝統的価値観が崩壊した時代に、生きる意味を見い出すために指示された。第二次世界大戦のドイツ、フランス、日本等の混乱を経験した社会での流行。

構造主義は、第二次世界大戦の混乱を脱した1960年代以降の先進国において流行した。混乱の時代には0から出発しようという意欲が盛んだが、安定した時代には意欲と現実が噛み合わない。そうした状況で構造主義が受容された。

現実を変革しようという青年の思想に対抗する、現実を変えられないという大人の思想という役割。

構造主義は、現実の根底に安定したパターンを見い出すが、それは実在の「もの」でなく、理論的仮定である。多様な現実を構造という理念で統一しようとすると、複雑な解釈が不可能になるため、生成変化する変化を捉えようというポスト構造主義が登場する事になる。

従来は、歴史全体を眺める立場で考えたが、ポスト構造主義では誰も全体を眺める事が出来ず、個々の現場が重要とする。目標に向かって真っすぐ進歩するのでなく、多方向に変化する歴史となる。

構造主義は、マルクス主義的歴史館への決別という意味では共産圏崩壊を予告し、実存主義批判では、近代的人間観を否定した。構造主義は、近代以降に向けての知的革新のための地均しの役割を果たしたといえる。

近代社会は未開社会のような安定を失い、伝統のからの解放と同時に恐怖も生んだ。「人間」という理念も歴史の波への対処であるが、それは有効な解決策ではなくなり、構造主義による金田思想批判やポスト構造主義に至る諸々の思想の展開は、生きる道標を探す道程なのかもしれない。

人気ブログランキングへ
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ABCDEFG

Author:ABCDEFG
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード