地政学の逆襲

読んだ本の感想。

ロバート・D・カプラン著。2014年12月30日 第1刷発行。



冷戦終結後に唱えられた理想論は、地政学的現実によって否定されたとする。

序章 失われた地理感覚を求めて
地形は永続的要素であり、次を予測する歴史的論理の拠り所となる。現在は領土変化という継続的過程の一段階である。

例えば、アラブの春がチュニジアで発生した事は偶然ではない。チュニジアは古来から文明の合流地点であり、過去2000年間に渡ってカルタゴに近い場所ほど発展した。

アラブの春が始まったのは、歴史的にアラブ世界で最も先進的な社会に近い地点だった。先進地に近いが開発が遅れた地域が暴動の発端となる。

第一部 空間をめぐる競争
第一章 ポスト冷戦の世界
冷戦崩壊後に、地理的障壁を乗り越えられると思われた時期があった。グローバリゼーションが歴史と国際安全保障体制の道徳方向性になるという思い込み。

同様の理想主義は、第一次世界大戦後にウィルソン主義として提唱されている。

当時は民主主義を求める世界的風潮と、旧オスマン帝国内での民族意識の高まりの両方が発生していた。民主主義と自由市場による自由と繁栄が信じられていた。

冷戦以後は、ベルリンの壁崩壊以前に、「中央欧州」という用語の復活と伴に始まり、地理的事実を超えた概念として普及した。

マッキンダー等の地政学では、中央欧州を海洋権益を持つ海洋欧州と大陸的なユーラシアのハートランドに挟まれたクラッシュゾーン(破砕帯)に属するとする。

第一次世界大戦と第二次世界大戦はドイツによる東方のハートランド支配という問題によって発生したとすると、冷戦はソヴィエト連邦による東欧(ハートランドの西端)支配という問題によって発生したとする。

この場合の東欧にはプロイセン王国の領土だった東ドイツが含まれ、歴史的にカトリックで商工業が盛んな西ドイツは海洋同盟であるNATOに含まれた。

東西ドイツの境界線は、中世にはフランク族とスラブ族を分けた境界であり、東西ドイツの国境線は人為的でなかったとする。ドイツ分断によって争いが沈静化したとすると、ドイツ再統一は新たな戦いを生むかもしれない。

1990年代には空軍力が脚光を浴びたが、山脈や市街での戦いにより地政学は力を取り戻しつつある。

第二章 地理の逆襲
哲学的な状況判断について?

現実主義は抽象的原理ではなく、歴史上の前例に関心を持ち、絶対善ではなく、より少ない害悪の実現を目指す。地図は、共同体を制約する環境要因を示す事で、全ての人間が平等であるという意見への反証となる。

例えば、ドイツは東西に山脈を持たず無防備であるがために軍国主義や平和主義を追求し、英国は海洋によって安全が保障されたために民主主義体制を他国に先駆けて発達させたとする。

アフリカが貧しいのは、欧州の5倍の面積を持ちながらサハラ以南の海岸線の長さが1/4しかなく、天然の良港を持たないために交易に不利なためであるとする。経済的に貧しい国は内陸国が多い。

米国は、2つの大洋を通じて欧州と東アジアに接続出来るために理想主義に耽る事が可能で、また、それ故に孤立主義思想も持つ。

著者は環境による制約と自由意志との間で揺れ動いているように思える。地理や歴史、民俗的特性は未来に影響するが決定しないという意見が暫定的結論なのかな?様々な要因が組み合わさって事象を引き起こす。

第三章 ヘロドトスとその継承者たち
以下の2人の大学教授。

①ウィリアム・H・マクニール
「西洋の台頭」により、あらゆる文明が独立的に発展したという見解に異を唱える。文明は相互作用する。

ウィリアム・H・マクニールの意見として、要害を持たないメソポタミアの文明は暴政と官僚制度によって中央権力を強化するしかなく侵略と分裂に見舞われ易い。エジプトは砂漠という防衛し易い境界があったために王朝が長続きしたとする。

ギリシアとインドは北部の山脈によって守られ、中国は砂漠や高山、距離によって隔離されたとする。この3つの文明のバランスが古代ユーラシアの文化バランスを保ったが、中世には北方ステップ民族によってバランスが崩れたとする。

⇒文明が地理によって規定されたという発想

地形によって生み出された文明が他の文明と交わり、混合文明を形成する。

②マーシャル・G・S・ホジソン
イスラムを地理的、文化的に把握。エクメーネ(北アフリカから中国西部まで広がるアフリカ・アジア陸塊の温帯域)というイスラムが普及した地域について言及。

イスラム文化が形成されたのは、ギリシアとサンスクリットの伝統を外れた地域であり、アラビア半島の乾燥した気象は農業による富でなく交易による富を志向させる事になり、倫理的な行動と公正な取引が重視された。砂漠の宗教、商人の宗教としてのイスラム。

中東諸国は一般に考えられているほど人為的な国ではなく、人為的な国境線で区切られてはいるが、前身である文明の後継であるとする。

現代におけるイスラム教は伝統的土着宗教としての特徴が薄れ、親族から離れて暮らすスラムの人々の行動を統制するために厳格で観念的な信仰になったとしている。

<オスマン帝国の限界>
オスマン帝国は単一の軍事カースト制度を敷いていたために支配可能地域に限界があったとする。皇帝が地中海北東部の官僚機構本部があるコンスタンチノープルから指揮を取るため、大遠征の範囲は一季節をかけて行進出来る距離に限られた。北西はウィーン、南東はイラクまでが領土拡大の限界。
官僚機構と個人の権力が首都に集中する。そして、帝国が地理的限界に到達すると戦争が不可能になるため兵士は報酬を得られなくなり、士気が低下する。
海軍も同様の理由で黒海と地中海に集中していたため、インド洋でポルトガルに対抗出来なかった。

<ヘロドトスの意見>
紀元前490年~紀元前484年頃にペルシアの臣民として生まれたヘロドトスは、ギリシア・ペルシア戦争の起源と遂行を地理と人間の決断がバランスしたものとして語る。
部分的決定論。地理的要因も重要だが、人間の私利私欲も要因となる。

第四章 ユーラシア回転軸理論
マッキンダーの地政学について。11世紀から20世紀にかけて世界史に影響を与えたモンゴルの遊牧民の役割を拡大ロシアが担い始めたとする。

さらに中国がロシア領土を征服する可能性に言及し、その場合には中国が主要な地政学的勢力になるとする。

マッキンダーが第一次世界大戦後に出発点としたのは、地球上の全ての陸地の政治的所有権が明らかになった世界であり、そこから世界島の概念が生じた。

自己完結的社会であるインドと中国は平和的発展が可能だが、欧州と中東はハートランドに大きな影響を受けるため、未来はインドと中国のモンスーン地帯によって左右されるとした。

マッキンダーの地政学は決定論的とされるが、彼自身は環境は克服可能とした。そのためには最大の知識と敬意をもって地理と向き合わなくてはならない。

第五章 ナチスによる歪曲
ドイツにおける地政学について。

ドイツは欧州の中央に位置し、ランドパワーでもありシーパワーでもある。ナチスの地政学者 ハウスホーファーは、マッキンダーの理論をドイツの視点に当て嵌め、ドイツが世界大国になるためにドイツとロシアの広域圏を統合すべきとした。

ドイツ中部から満州、極東ロシアに至る地域を支配すれば、軍需工場を内陸に避難させ、陸海軍であらゆる方向を攻撃可能とした。

マッキンダーが東欧に独立国家からなる緩衝地帯を設ける事を提唱したのとは逆に、ハウスホーファーはそうした諸国の消滅を主張した。

第六章 リムランド理論
ニコラス・J・スパイクマンの思想。

地理の重視。地理の非情さに由来する空間をめぐる闘争からは逃れられない。世界は無法状態であり、全ての国が自衛のために戦わなくてはならない。

米国は大西洋と太平洋に面している地理的に恵まれた国とする。争乱に巻き込まれることなくアジアと欧州に影響力を行使出来る。戦略的中心地はメキシコ湾を含むカリブ海であり、パナマ運河の建設により大国となった。

アメリカ大陸は北米と南米に分かれているのでなく、アマゾンを中心とする赤道ジャングル以北と以南に分かれているとする。コロンビア、ベネズエラ、ギアナ地方は南米の北岸にあるが、北米とカリブ海の一部を成している。

南米の南半分は太平洋とアンデス山脈に押し潰されており、利用可能な河川も少ないため、歴史的に重要な連絡路には成り得ないとする。

⇒米国はカリブ海を支配し、熱帯林や山脈によって南米の中心部から切り離されているため、西半球には挑戦する国が無いとする

仮にアメリカ大陸が自由な北米と枢軸国に支配された南米に分裂すれば米国の優位に終止符が打たれるとした。第二次世界大戦において仮に米国が欧州支配をめぐるドイツとの争いを避けても、南米の覇権をめぐる争いが生じたはずとする。

<リムランド>
ユーラシアの周辺地帯、特に沿岸地帯。海洋志向のリムランドは、ユーラシアを支配するだけでなく、外部世界と接触するための重要な地域である。リムランドが世界的勢力になるために重要な地域とする。

欧州の周辺地帯、中東、インド亜大陸、極東が莫大な人口、経済開発、炭化水素資源によってインド洋と太平洋の沿岸地域を支配する。ロシアが北極海海域の温暖化に助けられても、これらの地域に抑え込まれるとする。

第七章 シーパワーの魅惑
マッキンダーがランドパワーに重点を置いたのは、鉄道や道路交通における新技術を考慮したからである。同様に、アルフレッド・セイヤー・マハンはシーパワーの重要性を説いた。海洋を支配する事は、富を蓄積する手段の一環である。

海軍戦略に重要な地として、アラピアとインドに挟まれた地域を指す用語として、1902年に「中東」という言葉を初めて用いたのはマハンである。

インドは、インド洋沿岸帯の中央に位置し、後方をヒマラヤ山脈に保護されており、海から中国に侵入するうえで極めて重要な地である。

インド洋と太平洋が世界の地政学的運命を握るとした。ロシアはインド洋から離れているために脆弱とする。富の蓄積に不利な位置。

マハンの意見の欠陥として、ランドパワー国家がイベリアからウラル山脈までの欧州を素早く包囲出来る事を考慮していなかったとする。

ユーラシアの現状は、米国海軍が縮小傾向にはあるが同盟国と貿易環境保護のために海を警備する一方で、中国やインドがマハンの思想に基づいて軍事力を増強させている。さらに北極海航路の利用可能性が拡大しており、覇権争いの激しさが増すとする。

第八章 空間の危機
かつては人口が希薄な地理空間が、軍事進出や技術進歩に対する安全装置の役割を果たしたが、技術進歩によって地政学的に距離が圧縮される中、限られた地球の規模が不安定要因になる可能性。

戦争技術と富の創出は密接に結び付き、アジアの経済力の高まりは、軍事力の高まりを齎している。

アジアにおける米国の力が低下し、中国のインドが軍事力を伸ばす中で、地理的緊張が高まる。かつては長い距離やヒマラヤ山脈が安全を担保していたが、技術進歩は距離を圧縮する。

人口爆発も同様であり、旧第三世界では人口の半数以上が都市部で暮らし、2025年には2/3に高まるらしい。将来の都市部の人口増は発展途上国に集中する。マッキンダーの活躍した20世紀初頭には、都市生活者が世界人口に占める割合は14%だった。

イブン・ハルドゥーンは、『歴史序説』の中で、都市化過程を説明している。連帯意識の強い遊牧民が物質的な快適を求めて定住を始める。強力な支配者が生まれ、安全を提供する事で都市が繁栄する。しかし個人が富を蓄積し影響力を高めると連帯が失われ、また、権威を保つための贅沢が帝国の衰退を招くとする。

この過程が地球規模で進行している。

人口が多い都市を中央から統治する事は困難であり、人口密集帯は自律的な単位に分裂する。イスラム過激派も中東全体で進行している都市化の徒花であり、激しい宗教感情は他者に揉まれて暮らす都市生活から生まれるとする。

過密都市に暮らす群衆は情報技術の発達によって感情を煽られ、民族主義や過激主義が流行する。その基盤は都市生活における孤独である。

情報技術の発達は、無国籍の権力も生み出し、国家に帰属しない小規模集団が統治せずに権力を握る。国家的単位では実現出来ない宗教的熱情。

第二部 二一世紀初めの世界地図
第九章 ヨーロッパの統合
欧州連合の人口は5億人で、中国やインドに次ぐ世界第三位である。ユーラシア西部の東端に位置し、極東ロシアと南アフリカから等距離にある。

複雑な地形のため、異なる言語集団と民族国家が形成された。分裂継続を予想する。

欧州文明は当初、地中海沿岸で開花したが、技術進歩によって北方に広がり、ローマ帝国が広大な地域を支配して欧州の原型となる。その後、ステップ地帯の遊牧民からの圧力を引き金にして、ローマの権力崩壊によって生じた真空地帯に蛮族達が押し出され、様々な国家的集団が形成された。

現状の欧州は、統一ドイツの復活により、勢力均衡点がプロイセン欧州と中央欧州の合流地点の東方にシフトし、ポーランド、バルト海諸国、ドナウ川流域がドイツ経済によって活性化されており、地中海沿岸とオスマン・バルカンが遅れを取っているとする。

欧州諸国の国民人口は低迷しており、2050年頃には欧州、米国、カナダの合計人口が世界人口に占める割合は12%程度になるとされる(第一次世界大戦後は33%)。2050年には欧州の生産年齢人口は24%減少するが、60歳以上の人口は47%増加する見通しであり、若年移民の流入が進むとする。欧州主要国の人口に占めるイスラム教徒の割合は、2050年頃には10%程度になると予想。

今後の展開としては欧州中央に位置し、東欧と西欧に影響力を持つドイツと、欧州との間に緩衝地帯を設けたいロシアの対立が主軸になるとする?ドイツがロシアに屈するか否かによって、中央欧州の独立性が左右される?

ギリシアが戦略的要衝であり、マッキンダーはハートランドの大国がギリシアを手中に収めれば、世界島の支配も手に入るとした。

第十章 拡大するロシア
ロシアは地球半周分の経度170度に渡って広がるランドパワー国家である。ランドパワー国家は、海による安全保障が無いために常に拡大するか征服されるかしかない。カフカス山脈は、大中東圏に噴出する問題から安全を確保するために支配しなくてはならない障壁である。

国土が平坦で、アジアと大中東圏まで途切れなく続いているため、その地を征服する必要があった。

キエフ公国やロマノフ朝、ソヴィエト連邦までが、平坦な地形という現実に直面して同じように拡大政策を採用する。ソヴィエト連邦では共産主義の恩恵を授ける事が征服を正当化する大義名分だった。そのため共産主義の大儀が揺らぐと帝国は分裂した。

もう一つの地理的事実は厳寒であり、ロシアの大部分は北緯50度線以北にあるため、北緯43度のカフカスは魅力的である。

ロシアが1700年代初頭に大国として浮上した背景には、ウラル山脈の森林地帯の豊富な鉄鉱石資源があり、現代では1960年代半ばの北西シベリアの油田とガス田の発見が国家を支えている。

現代ロシアの拡大は、それを正当化する大義名分を生み出せるか否かにかかっており、民族的自己同一性を超えた思想が必要である。生み出せる可能性は低く、ロシアの出生率が低いため、ロシアの総人口は21世紀初頭の1億4000万人から2050年の1億1100万人に減少する見込みである。ロシア国内のイスラム社会は拡大し、2025年?までに人口の20%を占めるようになる。

ロシアの戦略としては、政治的には欧州、経済的には東アジアとの結び付きを深めるべきとする。中国が中央アジアやベラルーシ、モルドバに経済支援を行う事で勢力圏を築いた事への対抗。生活水準を高める事で旧ソヴィエト連邦諸国がロシアに魅力を感じ、カフカスや中央アジアの問題を解決出来るとする。

今後、天然資源頼りのロシアが影響圏を維持する事は困難で、帝国が出現しても、中国やインド、イランによって抑え込まれるとする。著者は、天然資源豊富でユーラシアの中央に位置するカザフスタンが真のハートランドであり、ユーラシアの命運を判断する材料とする。中国とロシアが主導権を争う中、先住民族が主導権を握っている?

第一一章 大中華圏
マッキンダーは、巨大な資源と海に接続できる中国の強味を高く評価した。

ロシアが北緯50度以北に位置し、北極圏の氷に閉ざされているのに対し、中国は温帯域に属している。

605年~611年にかけて建設された黄河と長江を結ぶ大運河は、北米初の大陸横断鉄道と同様の効果があったとする。運河によって唐宋時代に北部から南部への征服が収まり、農業地帯の一体化が進展したとする。人間の行為が地理的条件を上回った一例とする。南北間の格差を埋め、分裂が恒久化する事を防いだ。

南北の差異は農業と遊牧の対比よりも小さく、中国の国家意識は農耕地帯と遊牧地との文化的差異に根差しているとする。中国の定住型農耕文明は、満州からチベットまでの三方を取り囲む乾燥高地の遊牧民との間に緩衝地帯を築く事に腐心するようになる。これはロシアも同様であるが、中国は相対的に人口が密集しており、ロシアよりは軍事的脅威が少なかっため、社会がロシアほどには軍事化する必要が無かったとする。

現代の中国は、世界人口の1/5を占める国民の生活水準向上を図るために大量の資源を確保しようとして海外に進出している。海外進出の目的が経済発展という中核的国益のため、社会的使命を重んじる米国や勢力圏が重なるロシアやインドとの衝突は避けられない。

シベリアや中央アジア、東南アジアや朝鮮半島への中国の影響力拡大で懸念されるのは、軍隊による侵略でなく、中国からの移住者や企業によって地域を乗っ取られる事である。

朝鮮再統一に関しては、韓国政府が主導権を握り、中国の経済力に頼るために中国寄りの政権が誕生すると考えている。朝鮮の敵意は日本に向かい、北東アジアにおいて米軍が縮小する中、日本の再軍備が促されるとする。

米国のアジアでの力は低下すると見られる。太平洋における米国の有利は第二次世界大戦で中国や日本が壊滅的打撃を受けたからであり、朝鮮半島での支配的立場は半島の分断による。

将来的には中国海軍と米国と同盟国の海軍の力が拮抗する?米ソ冷戦時は米国はソヴィエト連邦を封じ込める海軍力を持たなかっために大規模な陸軍を欧州に必要としたが、アジアでは米国海軍が優位を保つため、冷戦よりは安定した争いになるとする。

第一二章 インドのジレンマ
インドはリムランド国であり、米国と中国の競合時に重要な国になる。

インド洋沿岸帯の中心に位置するインドは、中東と中国による海洋進出の鍵の握る存在である。

インドには渭河流域や黄河流域のような人口が密集する地域は存在せず、そこから政治組織が拡大する事は無かった。ガンジス川以外にも多くの河川系があり、人口が分散していたために資源を動員する政治構造を築く必要が無かった。

北西部の地理的保護が弱く、歴史的に北西部からの侵入を受ける事が多い。パキスタンは、インドから見るとイスラム勢力による歴史的な侵入が具現化したものであるかもしれない。

以下の系譜。

アーリア人:
イラン高原?からインドに侵入し、紀元前1000年頃に北インドのガンジス平原に政治組織を作り上げた。紀元前八世紀~紀元前六世紀に多くの君主国が興る。

ハラッパー文明:
紀元前四世紀末~紀元前二世紀頃に存在した中央集権的族長連邦。シンド地方北部のインダス川下流の都市、モヘンジョダロ、ハラッパーを中心に、イランとアフガニスタン国境近くまでのパキスタン、インド北西部を支配。

ナンダ帝国:
紀元前四世紀頃にインド北部のパンジャブからベンガル湾に面するガンジス平原を支配した。

マウリヤ朝:
紀元前321年に、チャンドラグプタがナンダ朝のダナナンダ王を殺害して建国。インド亜大陸の南端部を除くほとんどを網羅し、政治実体としての「インド」の概念が南アジアと一致した。

多くの都市国家が一貫した体制に組み込まれたのは、以下の要因によるとする。

①アレキサンダー大王の脅威
紀元前326年に兵士の反乱が無ければ、アレキサンダー大王がガンジス川流域を征服していたかもしれない。

②新宗教
仏教やジャイナ教が商人に普及した。

マウリヤ朝の王達は仏教を受容し、ギリシアの慣習に従って王朝を運営した。マウリヤ朝は、インドを一つの政治体制が長期間に渡って運営出来る事を証明した。





その後、マウリヤ朝が衰退すると北西部のカイバル峠等から異民族が流入し、地方王朝が乱立する。グプタ帝国(320年~550年)がインド亜大陸の統一を回復するが、漢族の流入を受けて衰退すると、インドでは六世紀以上に渡って小国分立状態が続く。集権化と政治的統一を志向する傾向のある中国の違い。

七世紀から十六世紀にかけてはイスラム教徒が流入する。イスラム王朝は、ヒンドゥーとイスラムの中間であるデリーを根拠地にしたとする。

ムガル帝国:
1500年代初頭から1720年頃までインド全域と中央アジアの一部を支配。ムガルとは、インド北部の外国人イスラム教徒を指す(ペルシア語、アラビア語ではモンゴルを指す)。
インドでは北部が南部を支配する事は困難で、北部を単一の政治組織が支配し、南部の支配は不確かだったとする。

インドのイスラム教徒は大半は、過去の侵入の入り口だった北西部と、ガンジス平原の端に位置する東ベンガルに住む。北西部に位置するパキスタンは地政学的脅威である。

パキスタンは4つの民族集団(北西部のパンジャブ人、南東部のシンド人、南西部のバローチ人、北西辺境部のパシュトゥーン人)を擁し、イスラムが団結を促進していない。

インド亜大陸のイスラム教徒の国として建国されたが、インドには多くのイスラム教徒がいるためイデオロギーは不完全である。パンジャブ人主体の軍が無ければ国は維持出来ないとする。

地域安定化のためにはアフガニスタンが安定化する必要があり、アフガニスタンでの戦乱が収まれば真のハートランドとなり、道路や鉄道、パイプラインの建設がパキスタン等でも進むとする。

近年になって問題が大きくなっているのは中国であり、自国国境の監視や国家としての一体性保持をするしかなかった軍隊が技術進歩によって互いを脅かすようになり問題が生じたとする。

第一三章 中軸国家イラン
イランはイラン高原に位置し、7400万人というサウジアラビアの2.5倍の人口を持つ中東最大の人口国である。人口増加率は1%台で、15歳未満が人口に占める割合が22%程度のため、安定している。

ハートランドの真南、リムランドの内部に位置し、ホルムズ海峡を支配する。歴史的にはペルシア帝国を受け継ぎ、中東で最も制度化が進んだ国である。

サファヴィー朝:
一六世紀にシーア派をイランの国教とする。黒海とカスピ海に挟まれた高原地帯を支配した騎馬民族により建国され、様々な民族で構成された。安定した国家を築くために、聖教者政権の核となる宗教を導入した?

イランにとってはイラクが重要な要素であり、イラクで民主的体制が確立されれば、イランでの平和的政権交代が促進されるかもしれない。

<サウジアラビア>
アラビア半島をほぼ占領している。人口2870万人で、半島全体の半分もないが、年率2%で増加しており、国民の40%が15歳未満で大きな不安定要因となっている。地理的な纏まりを欠くオアシスに人口が集中しているため、国家としての一体性維持には高速道路や国内航空網が欠かせない。

脅威は南方のイエメンにあり、イエメンの面積はサウジアラビアの1/4だが、人口は同等である。イエメンは本格的に植民地化された事が無いため、強力な官僚機構が発達しておらず、安定しない。この地から兵器や麻薬が流入しているとする。

第一四章 旧オスマン帝国
アナトリア半島の陸橋を網羅するトルコについて。

トルコとイランには一億5000万人の人口が住んでおり、アラビア半島等を構成する12のアラブ諸国よりも多い。

歴史的にはトルコの王朝が関心を向けたのは交易路がある北西の欧州で、人口も欧州の近くに集中したが、標高が高いアナトリアの地形に阻まれて、トルコに挑戦する部族同盟がカフカスや中東に生じる事は無かった。

アナトリア東部の社会が分裂していたため、セルジューク朝やオスマン帝国は東部を心配せずにアナトリア西部から帝国を支配した。無秩序に広がっているロシアとは異なり海で囲まれているトルコは周縁部を侵略される危険がロシアよりは小さい。

第一次世界大戦後に政権を握ったケマル・アタテュルクは、トルコを西洋化し、旧体制を一掃するために首都をアナトリアの中心であるアンカラに移したが、それがためにイスラム文明を重視する事になる。民主主義は、アナトリア奥地の敬虔なイスラム教徒にも選挙権を与えた。

2002年に政権を握ったエルドアンは、イスラム教徒の支持を集め、イスラム主義が台頭する。トルコは、パレスチナの人々を擁護する事でアラブ世界の支持を得た。

トルコはイランと拮抗する存在であり、NATOの一員である事と、イスラエルとの国交がある事を合わせて中東全体で重要な役割を果たす事が出来る。

<イラク>
イラクは政治的進化の過程にあり、3100万人の人口、石油埋蔵量(サウジアラビアに次いで世界第二位)、スンニ派とシーア派世界の合流点等の要因からアラブ世界全体に影響力を及ぼしている。

以下の3つの負の遺産。

①歴代の独裁が齎した歪んだ政治文化
②暴力的な歴史が育んだ辛辣で疑い深い国民性
③民族的・宗教的分裂

イラクは西方のシリアの砂漠や東方のイランのエラム高原からの攻撃に常にさらされている。メソポタミアが民族的に結合した国であった事はほとんどない。分裂的傾向を食い止めるには抑圧的な専制体制を敷くしかなかった。防護になる境界が無い河川沿いの人口密集地域での争い。
オスマン帝国の支配の最も弱い地域でもあり、北からモスル州(クルド人)、バグダード州(スンニ派)、バスラ州(シーア派)の三つに強制的に分断されていた。オスマン帝国崩壊後に英国が三州を委任統治領として、クルド人の分離主義、シーア派の部族主義、スンニ派の自己主張の混合物を作り出した。北部のクルディスタンの油田とペルシア湾の港を結ぶために無理に結合した国家。

<シリア>
2000万人の人口があり、シリア北部のアレッポは、シリアの首都ダマスクスよりもイラクのモスルやバグダードと強い結び付きがあった。ダマスカスの勢力が衰えるとアレッポが輝く。

農耕地から生まれた国で、完全に人為的な国ではなく、民族的・宗教的アイデンティティが交易によって結ばれた世界の中心地である。

シリアが弱体化すると、ベイルートが大シリアの文化的・経済的首都になり、ベイルート南部のヒズボラに傾倒するシーア派が他勢力を人口で圧倒して政治的発言力を増すと見られる。

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アラブ世界の最大?の不安定要因は急増する人口であり、エジプトはアラブ有数の人口大国だが、エチオピアの人口は8300万人とエジプトより多く、スーダン、南スーダンの人口もそれぞれ4000万人超であるため、水資源をめぐる問題が発生する見込みである。

イスラエルではユダヤ人が少数派になる見込みで、イスラエルにおけるユダヤ人の人口増加率1.4%に対し、イスラエルのアラブ人の人口増加率は3.4%で、ユダヤ人の平均年齢は35歳だが、アラブ人は14歳となっている。合理的に考えると、イスラエルが占領地を返還して入植地を解体し、パレスチナ人が帰還の権利を放棄すべきだが、両者の心理的距離は遠いとする。

第三部 アメリカの大戦略
第一五章 岐路に立つメキシコ
米国が直面している地政学的ジレンマは以下の3つ。

①ユーラシアの中核地帯である中東
②台頭する中国
③メキシコ

<ローマ帝国の大戦略>
エドワード・N・ルトワックが提唱したローマの戦略。以下の三段階。

①ユリウス・クラウディウス体制
共和制帝国の体制。帝国が総合的な力を通してイタリア半島を取り囲む属国を威圧し、占領軍による強制は不必要だった。ローマ帝国の軍隊が帝国全体に配置されていたが、強制力の主体は外交術だった。軍隊は、兵力温存の方針に則って慎重に行使された。

②アントニヌス体制
一世紀~三世紀中頃。帝国の領域化が進行し、属国の忠誠を確保するために、属国内に軍隊を配備し、兵力温存の原則は失われた。ローマ化を通じて、異なる部族が連帯意識を持ち、結束してローマに対抗するようになる。

③ディオクレティアヌス体制
多層防御の体制。辺境の異民族が正式な同盟を結び、ローマに対抗するようになると、帝国全体が防御態勢に入り、緊急配備が日常的に行われた。上記②で維持されていた有事対応能力は失われた。

⇒現代の米国は、上記③の状況にあるとする

ローマが地中海沿岸の安定に貢献したのと同様に、米国軍は地球的公共領域を警備しており、過剰展開による疲弊が露呈している。

米国は、同盟国等に役割を肩代わりさせる必要がある。ローマ帝国が西部で衰退して滅亡した原因は、北部に成立した欧州近代国家の原型となる民族集団に対応出来なかったためであるが、滅亡の形を操作する事は出来た筈であるとする。名誉ある退場の仕組み。

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米国の弱点は南西部にあり、幅広く曖昧なメキシコとの国境によって一体性が脅かされている。メキシコの1億1100万人の人口と中米の4000万人の人口を合わせると米国の約半分になり、ラテン民族の北方移動によって社会不安が発生している。

メキシコは全体的に山がちで、地理的な一体性に欠ける。斜面の面積を合わせるとアジアほどの大きさになる。半島や中央部は地理的に分離している。

米国が移民国家であるという主張は部分的な真実であり、米国はアングロ・プロテスタントの入植者と移民の国であり、社会の哲学的、文化的根幹を支えるのはアングロ・プロテスタント文化である。米国の反骨精神、個人主義、共和主義はプロテスタンティズムに基盤があるとする。



メキシコからの移民はカソリックであり、米国南西部の特定地域に流入し、分散しない。2050年には、スペイン語を母語とする米国人が人口の1/3を占めるようになるとする。

著者の構想として、米国を東西志向の文明から南北志向の文明に変容させ、世界中から選良を集める国際商取引の重要な無関税区にすべきとする。世界から人的資産を集める事でメキシコ人の比重が高い移民人口を多様化する。

そのためにはメキシコが国家として破綻しない事が必須である。麻薬カルテルとの対立がその鍵となる。米国の世界戦略はメキシコとの文化的交流にかかっているとする。

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