易経入門-孔子がギリシア悲劇を読んだら

読んだ本の感想。

氷見野良三著。2011年8月20日 第1刷発行。



以下は、Wikipediaの「易経」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%93%E7%B5%8C

以下は、Wikipediaの「ソポクレス」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%9D%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9

以下は、「木を見る西洋人 森を見る東洋人」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-722.html

以下は、「易経について」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-1968.html

著者が、『易経講話』(公田連太郎著)を読んで考えた事。

易経とは、紀元前3000年頃に中国皇帝 伏羲が64の「卦」を作った事に始まる?「卦」は、陰陽を六つ組み合わせたもので、2の6乗で64通りの組み合わせがある。

紀元前1000年頃に、周の文王と周公旦が64通りの「卦」のそれぞれの意味を説明した経文を作る。さらに紀元前500年頃には、孔子が経文の注釈である十篇の文書「十翼」を書く。

原典の易経は、必ずしも占いの体裁になっておらず、特定状況下の主要登場人物六人の特性が、それぞれ陰か陽かを検討し、その組み合わせによって、状況の特性を判断する仕組みになっている。

****************

著者は、易経にてギリシア悲劇を分析する実験を行う。ギリシア悲劇も易経同様に複雑な現実の抽象化を行っており、現実世界の簡素な模型である。

古代ギリシアの詩人ソポクレスの作品は、六名程度の主要登場人物の相互作用によって運命事象を構成する点で易経との対話に適している。

ギリシア悲劇に当て嵌める事によって、易経の具体的イメージを得る。

第一章 対話の方法
一 易経の構成
陰陽を示す横線(爻)を三つ重ねて出来る八種類の「卦」は八卦(小成の卦)と呼ぶ。八卦を二つ重ねたのが、大成の卦である。

二 対話の方法
以下の手順でギリシア悲劇を易経に当て嵌める。

①登場する主要人物を六名に絞る
ソポクレスの物語は、主要登場人物を六名に絞り易い。

②六人を尊卑の順に並べる
以下のように考えるらしい。上に行くほど身分が尊くなる。

上爻一番上の横線位の無い尊い人
五爻下から五番目の横線天子
四爻下から四番目の横線公卿
三爻下から三番目の横線事務官上級
二爻下から二番目の横線低い位置の官吏
初爻一番下の横線平民


上表は絶対でなく、五爻を后、上爻を王と想定する場合や、上から2つずつ天・人・地を割り振る場合もある。基本想定に合わない場合も、権威や序列を基準として「卦」を当て嵌める事が出来るとする。

③各人について陰陽を判断する
積極と消極、明暗、剛柔等で判断する。物語において、人物間の相互作用に最も大きな役割を果たす特性を重視する。

④対応する「卦」を物語に当て嵌める
易経は、無限に多様な現実を抽象的な陰陽の関係に整理し、その関係に共通する特性を象徴的に表現する事により、現実への適用を可能にするとする。

三 「占いの書」か「義理の書」か
易経は占いの書として生まれ、孔子によって出処進退の道を説く義理の書として読み替えられた。人間が一度に動的に意識に保持出来る対象数の標準的限界は七であり、それより一つ少ない六つの対象を同時に把握する事で、様々な事象への応用が可能になる?

四 予言の力?後知恵?人類の共通感覚?
易を神秘的な予言と見るか、後知恵に過ぎないと見るか。易経とギリシア悲劇は、基本類型を共有しているかもしれず、人間の運命における典型的な展開について共通の感覚があるのかもしれない。

第二章 テーバイ王家の物語
一 オイディプス王
ソポクレス50歳代~60歳代の話。

以下は、Wikipediaの「オイディプス王」の記事へのリンク。父を殺し母を犯したオイディプス王の物語。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%97%E3%82%B9%E7%8E%8B

登場人物を以下のように整理。

上爻予言者テイレシアス
五爻オイディプス王
四爻王后イオカステ
三爻王后の弟クレオン
二爻長老団
初爻嘆願者


王から長老団まで、自らの主張を押し通して剛強であり、陽としている。嘆願者は跪いて嘆願する姿から陰とする。上が天の卦、下が風の卦となり、「天風姤」となる。

<天風姤>
女の勢いが強く、女を娶ってはならない。姤とは、思いがけない出会いであり、柔が剛に出会う。姤においては地上に風が吹き回っており、君主は、これにならって命令を天下四方に告げる。

各人の状況は以下の通り、陰爻は「六」、陽爻は「九」で表す。

①初六 嘆願者
小人の道に走る誘惑があるため、金属製の杭に繋いでおくべし。

②九二 長老団
人に見せられない何か?を包み隠すべし。

③九三 クレオン
落ち着かず、進む事も出来ず、危ない立場だが咎は無い。

④九四 イスカリオテ
隠されていた何かが表に出てしまい、凶を起こす。

⑤九五 オイディプス王
素晴らしい徳を秘めている。天から隕ちるのは、志が高くて、自分の運命を知ろうとして止めないからだ。

⑥上九 テイレシアス
剛強一点張りであり、狷隘さを恥じるべきだが、咎は無い。

【中の徳】
中庸の徳。下の卦の真中、上の卦の真中である二爻目と五爻目には、中の徳があるとする?

【正の徳】
初爻・三爻・五爻は、陽が正であり、二爻・四爻・上爻は陰が正とする。陽の位に陽爻が存在し、陰の位に陰爻が存在する事を正とする。

⇒易において出処進退の道理を説く上では、出過ぎず控え過ぎない「中」を重視し、次に立場に応じた特性を持つ「正」が大切とする。

******************

「オイディプス王」は、王が実父、実母、真実と思いがけない出会いをする物語である。易経が王に伝えた言葉は、娶るなであったが、包み隠した真実は暴かれた。オイディプス王は中正の素晴らしい徳を持っているが、自らの真実を突き止めようとして天から隕ちる事となる。

二 コロノスのオイディプス
ソポクレス最晩年の作品。「オイディプス王」の後日談。追放されたオイディプスが、アテナイ郊外のコロノスに至り、息子二人の王位争いを知る。

以下は、Wikipediaの「コロノスのオイディプス」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8E%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%97%E3%82%B9

登場人物を以下のように整理。

上爻廃王オイディプス
五爻アテナイ王テセウス
四爻義弟クレオン
三爻長男ポリュネイケス
二爻長女アンティゴネ
初爻次女イスメネ


オイディプスは、忍従を学んだとしており、『悲劇の誕生』(ニーチェ著)では、純受身的態度の内に最高の能動性を得たとされている。力強いテセウス、強引なクレオン、力強く意見するアンティゴネを陽とし、卑屈なポリュネイケス、主体的に動かないイスメネを陰とする。上が沢の卦、下が水の卦となり、「沢水困」となる。

<沢水困>
行き詰まり、苦しみ悩む状態。苦難の中にあっても自分の道徳を伸ばす者を君子とする。口舌に頼っても行き詰まるだけである。

各人の状況は以下の通り。

①初六 イスメネ
困窮しており、心が暗味で知恵が明らかでない。

②九二 アンティゴネ
飲食にも困るが、中庸の徳があるのでいずれ喜びがある。

③六三 ポリュネイケス
堅い石に阻まれ、棘のある実に悩まされる。自分の王宮に向かうが、妻に会う事は出来ない = 不吉の前兆。死期が迫っており、名誉を辱められる。

④クレオン
漸くやって来る = 志が低い。地位に見合う人物でないが徒党を組んでいる。

⑤テセウス
刑罰を下す = 未だに志を遂げていない。中正の徳があるため、その内に喜びがある。福を受けるために、祭祀をするのが良い。

⑥オイディプス
未だに正しい道に適っておらず、柵に雁字搦めになる。高く危ない地位で行き詰まり、苦しんでいる。今のあり方を悔悟するのは、吉を得られる進み方である。

オイディプスは、神々の予言を受容する事で、予言と戦っていた時よりも遥かに大きな自由を得たとする。純受身的な態度の内に得る最高の能動性。

三 アンティゴネ
ソポクレス50代半ばの作品で、製作年代は「オイディプス王」より早い。オイディプスの死後の物語。息子達は刺し違えて死に、義弟クレオンが王となる。娘であるアンティゴネは遺骸を埋葬しようとしたために洞窟に生き埋めにされ、赦免されようとするが自害する。

以下は、Wikipediaの「アンティゴネ」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B4%E3%83%8D_(%E3%82%BD%E3%83%9D%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9)

登場人物を以下のように整理。

上爻予言者テイレシアス
五爻王クレオン
四爻長老団
三爻婚約者ハイモン
二爻姉アンティゴネ
初爻妹イスメネ


剛強なテイレシアス、クレオン、激しいアンティゴネを陽とし、王に従順な長老団、王に立ち向かい切れないハイモン、優しいイスメネを陰とする。上が風の卦、下が水の卦となり、「風水喚」となる。

<風水喚>
風が水を吹き散らす、水が風に散り乱れる様を示す。一国として見れば、人民の心が離散し、国内の情態がばらばらになっている。先祖の神霊を祭るべきとする。

⇒クレオンが一族の死者の埋葬を禁じた事が悲劇の出発点とする。

喚の状態で国を伸び育たせるには、下に在る剛強な九二が配慮を持って振る舞い、従順な六四が九五の王と心を一つにして振る舞うべきとする。思い切った手段には準備が必要。喚は国民再結集の機会である。

各人の状況は以下の通り。

①初六 イスメネ
勢いの良い馬(九二?)に頼って自分の身を救えば吉。

②九二 アンティゴネ
離散の時代であり、寄り掛かれる机に頼れば願いが実現する。力を合わせる事が大切。

③六三 ハイモン
志が上の卦にあるため一身を吹き散らしてしまうが、後悔する事は無い。才能が無く(陰爻)、向こう見ず(下の卦の一番上で、中でなく出過ぎがち)では玉砕を予言するだけ。それで思い残す事は無いとする。

④六四 長老団
自分の小集団を解散すれば、却って多くの人が集い、大勢力が糾合される。これは普通に思い付く案ではない。

⇒ドイツ表現主義の作家ハーゼンクレーヴァーが第一次世界大戦中に発表した「アンティゴネ」には、民衆が演説で目覚め、王に立ち向かうシーンがあるとする。王の助言者としての特権を開放し、市民を糾合して王に対すべきだった?

⑤九五 クレオン
離散の時代に大号令を喚発する。家庭はばらばらになり、王の地位は吹き飛ばされてしまう。しかし、王として為すべき事をしたのだから咎は無い。

⇒ヘーゲルは『宗教哲学講義』において、「アンティゴネ」では、家族愛の倫理と、国家の正義が衝突したとする。国法の尊重等を主張するクレオンは誤っていないとする。

⑥テイレシアス
害から遠ざかり、逃げ去る。咎は無い。

【「応」と「比」】
陰爻と陽爻が隣接している場合には、力を合わせる事が出来る。この関係を「比」と呼ぶ。上下の対応する爻(初爻と四爻、二爻と五爻、三爻と上爻)が陰陽の組み合わせである時は、身分を超えて協力し合う事が出来る。この関係を「応」と呼ぶ。「応」の方が「比」よりも働きが大きい。

⇒初爻のイスメネと四爻の長老団は陰同士であり、二爻のアンティゴネと五爻のクレオンは陽同士で「応」じていない。そのため、イスメネとアンティゴネで「比」していく事が重要となる。

⇒易では、時代環境(卦)、本人の徳(中、正)、他者との協力関係(応、比)等で運命が決まると考える。

***********

著者は、アンティゴネが運命の超越的な力と戦うからこそ、アンティゴネの物語は人間の自由の賛歌となっているとする。そうした運命と自由の関係についての認識は、易経における天命と出処進退の関係の認識と食い違っているように感じるらしい。「オイディプス王」においても、運命を誤魔化してすり抜けようとする易経と、人間としての誇りと自由を重視するギリシア悲劇の対比がある。

そして、ソポクレス90歳の時に作られた「コロヌスのオイディプス」では、ソポクレスの思想が易経の思想に極めて隣接したとしている。

第三章 ヘラクレス夫妻の最期
四 トラキスの女たち
ソポクレス50歳代の作品。英雄ヘラクレスの物語。一人の英雄が小人に取り囲まれた物語とする。

以下は、Wikipediaの「トラキスの女たち」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%A5%B3%E3%81%9F%E3%81%A1

登場人物を以下のように整理。

上爻ヘラクレス
五爻后デイアネイラ
四爻王子ヒュロス
三爻王女イオレ
二爻伝令役リカス
初爻トラキスの小娘達


剛強なヘラクレスは陽。側にいる者の言葉通りに動くデイアネイラ、小人の典型であるヒュロス、無言役のイオレ、嘘を吐ききれないリカス、無責任なトラキスの小娘は陰とする。上が山の卦、下が地の卦となり、「山地剥」となる。

<山地剥>
陰爻が陽爻を変質させてしまう。小人の勢力が増長しており、進んで事を行うには良くない。情勢に従って、止まるべき所に止まるべき。山の止まる性格と、地の従順な性格。剥の卦は、五爻を后、上爻を君主と想定する。五爻が君主が本来いる場所だが、最上位に陽爻があり、下の五つの陰爻がこれを戴いて主人としている。

各人の状況は以下の通り。

①初六 トラキスの小娘達
ベッドを削り落とすのを足から始める。そうやって正しい人をも滅ぼす。

②六二 リカス
ベッドを削り落とすのに、ベッドの足と台の継ぎ目あたりを損なう。そうやって正しい人を滅ぼす。上に「応」じる陽爻が無いために適切な指導を受けられない。

③六三 イオレ
ベッドが削り落とされる原因だが、本人に責任は無い。それは周囲の小人の仲間にならないからである。

④六四 ヒュロス
災いに近付いており、ベッドの上にいる人の肌までを傷つけるに至る。凶。

⑤六五 デイアネイラ
宮中の妻妾達を引率していれば、それ故に咎めを受けず、王の寵愛を受ける事が出来る。

⑥上九 ヘラクレス
人々に担がれており、小人を用いてはならない。

*************

テーバイ王家の物語では、軌道修正の利かない人達が予定通りに行動する悲劇だったが、「トラキスの女たち」では他者に方針を委ねる人々によって悲劇が発生する。

『序卦伝』では、一つの卦が別の卦に移り変わる理が述べられ、「剥」の次に「復」の卦を示す。一番上の陽爻が消えて、一番下に陽爻が現れる。

第四章 トロイア戦争の物語
五 アイオス
ソポクレス50代前半の作品。トロイア戦争に参加した名将アイオスの物語。

以下は、Wikipediaの「アイオース」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B9_(%E3%82%BD%E3%83%9D%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9)

登場人物を以下のように整理。

上爻女神アテナ
五爻総司令官アガメムノン・メネラオス
四爻オデュッセウス
三爻アイアス
二爻弟テウクロス
初爻部下・愛妾・息子


オデュッセウスとアイアスは剛強であり、陽とする。陰険なアテナ、人物の小さいアガメムノン、テウクロス、存在の小さい部下達を陰とする。上が雷の卦、下が山の卦となり、「雷山小過」となる。

<雷山小過>
小人物の勢力が大人物の勢力よりも盛んな時代。正しい道を堅固に守るべきで、大事を図るには不適当。低く降りるのが大吉。64の卦の中で最後から三番目であり、その次が全てが行き詰まる「既済」、最後が、すべてが最初からやり直しになる「未済」である。

⇒猛将アキレウスが死に、アガメムノン、メネラオスといった小人が総司令官として伸び栄える時代。そうした状況で全軍一の勇士の名を求めた事にアイアスの悲劇があったとする。オデュッセウスは、アイアスを嘲笑せずに堅固に正しい道を守ったとする。

各人の状況は以下の通り。

①初六 部下・愛妾・息子
鳥が飛び去ってしまうので凶。これはどうしようもない。

②六二 テウクロス
六五の君主に会わず、九四の大臣に会うようにすれば良い。

③九三 アイアス
やり過ぎは避け、小人物の勢いから自らを防御するに留める。小人物を成敗しようとすると災いに陥る。下の卦の一番上にいるので、「中」でなくやり過ぎになりがち。

④九四 オデュッセウス
小人物と会う場合にも、思い通りに出来る位置にいないため、やり過ぎず、問題無い。自分の能力を発揮しようとせずに、正しい道を堅固に守るべき。上の卦の一番下にいるので、「中」でなく控え目になりがち。

⑤六五 アガメムノン、メネラオス
小人物が高い地位に上がったため、嫌な気風となる。

⑥上六 アテナ
上六が九三と会おうとしないのは、増上慢だからだ。凶。天災とも人災とも呼ぶ。

**************

易経は小人の時代と激突する「九三」と、時代に従う「九四」を対比させ、ソポクレスは名将アイオスと智将オデュッセウスを対比したとする。アイオスは変化から逃れるために死に、オデュッセウスの処世は易経に近い。「アイオス」は、現存する七作の中で最も早いとされるが、その後のソポクレスの作品では、中庸の士は脇役となり、アイオス的な登場人物が運命との激烈な闘争を展開する。

六 ピロクテテス
ソポクレス87歳の年に上演された。最晩年に「コノヌスのオイディプス」の直前に執筆されたとする。ヘラクレスから弓矢を譲り受けたメリスの国の王子ピロクテテスの物語。置き去りにされた恨みからトロイア戦争への従軍を拒むピロクテテスを神となったヘラクレスが説得する。

以下は、Wikipediaの「ピロクテテス」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%AD%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%86%E3%82%B9_(%E3%82%BD%E3%83%9D%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9)

登場人物を以下のように整理。

上爻神ヘラクレス
五爻策士オデュッセウス
四爻弓の名人ピロクテテス
三爻青年ネオプトレモス
二爻青年の部下の船乗り達
初爻オデュッセウスの部下の偽船乗り達


物語を国家目的のために手段を選ばない現実主義の「曲」と、正義人道に生きる「直」の対比となっている事から、曲を陰、直を陽とする。陰謀と無縁のヘラクレス、ピロクテテスとネオプトレモスを陽とする。オデュッセウスとオデュッセウスの部下、青年の部下達を陰とする。上が火の卦、下が山の卦となり、「火山旅」となる。

<火山旅>
旅にあっては、柔軟な考え方をして他者から中庸を得た意見を聴いて、剛強な者に対しては従順に振る舞い、落ち着いて明るい知恵に従えば伸び育つ道を切り開く事が出来るとする。また、君子は事件を解明して慎重に刑罰を行うべきとする。

各人の状況は以下の通り。

①初六 オッデュセウスの部下
旅先で瑣末な振る舞いをした事が災難を受ける原因となる。

②六二 船乗り達
旅先で数日間滞在する。旅費は持っており、正しい道を守っている。

③九三 ネオプトレモス
自分の落ち着き先を焼いてしまった上、卑劣な計画に与して大儀を失っている。

④九四 ピロクテテス
旅に出てここに落ち着いているが、自分に相応しい地位を得ていないため、生活の質や武具を得ても不愉快な気持ちのままである。

⑤六五 オデュッセウス
雉を射たけれど、雉と一緒に矢がな無くなってしまった。しかし、最後は名誉も得れば、地位にも任命される。それは上にいる上九が力を及ぼしたからである。

⇒オッデュセウスは、雉(ピロクテテス)を取るために、矢(ネオプトレモス)を放ち、命中したものの、ネオプトレモスがピロクテテスの側についてしまう。結局はヘラクレスが収拾に乗り出してくれたので任務を完遂出来た。

⑥上九 ヘラクレス
旅先で傍若無人に振る舞っていると自分が焼かれる。大事にしていたものを自分の傍で失ってしまい、二度と取り戻す事が出来ない。

⇒この物語には当てはまらない。「トラキスの女たち」の遠征にあたる昔の旅の方に当て嵌まる。女一人を手に入れるために国を一つ滅ぼした結果、命も女も失って火葬に付される。

************

火山旅については、朱子が『朱子語類』の中で、聖人が旅を一個の卦として詳説している事を謎としている?安岡正篤は『易学入門』のP197にて、「射雉一矢亡」を古代の占辞で後になって止むを得ないとしている。

これらは具体的な状況に当て嵌める事で生きてくるとする。

ピロクテテスは、不正の側に屈しまいと戦うが、最後には運命に従う事で大きな働きをする自由を手にする。

七 エレクトラ
ソポクレス80歳代の作品。ミュケナイ王アガメムノンの王女の物語。

以下は、Wikipediaの「エレクトラ」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%A9_(%E3%82%BD%E3%83%9D%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9)

登場人物を以下のように整理。

上爻叔父アイギストス
五爻母クリュタイメストラ
四爻弟オレステス
三爻エレクトラ
二爻妹クリュソテミス
初爻守役の老人


母が叔父を立てる様子から、叔父を陽、母を陰とする。弟は疑念無く決行する陽。エレクトラと妹は対比を考えて、それぞれ陽と陰とする。決行を冷静に案内する守役は陽。上が火の卦、下が火の卦となり、「離為火」となる。

<離為火>
離とは独立自立しないで付着する事。太陽や月は天に付き、草木は大地に付く。適切なものに付く働きが、天下の全てを伸び育たせる。
離の状況下では、正しい道を堅固に守るのが良い。牡牛のように従順な徳を養えば吉。従順な者が、中庸と正道を兼ね備えた者に付く事で伸び育つ。

⇒一人で信念を貫徹しようとするエレクトラに対し、一人きりにならずに従順に何かに付けと説く?

孔子は、明るい火の卦が二つ重なっている事から、仙台の明らかな徳を継ぐに自らの明らかな徳をもってして天下四方を照らすとしている。母と叔父が父を殺し、娘と息子が母と叔父を殺す暗い因果を継ぐ「エレクトラ」の物語とは正反対に見える。

各人の状況は以下の通り。

①初九 守役の老人
錯綜し混乱している所を踏み行っていったりせずに、慎重に遠ざければ失敗しない。

⇒アトレウス家に単身乗り込み、オレステスを導く物語とは正反対。

②六二 クリュソテミス
中正従順で徳があり、福を得られる。

⇒エレクトラのアンチテーゼである妹を絶賛している。

③九三 エレクトラ
盛りを過ぎた状態で先も長く無い。耄碌を嘆く不幸な有様となる。

⇒青春と婚期を逃しつつあるエレクトラへの警告?

④九四 オレステス
いきなりやって来ても、焼かれて、死んで、棄てられるだけだ。

⇒物語では、思いがけずやって来たオレステスは、無事に宿願を果たす。物語と真逆。

⑤六五 クリュタイメストラ
九四のような剛強暴悪なる人間が位を奪おうとするので、深く憂えて、適当な処置をするので、禍を福と為す。

⇒物語では、見知らぬ老人を宮殿に入れて、オレステスを宮殿に入れないための警備も行わないが、易経では持てる力を警戒に使うはずであり、オレステスを捕らえて福を得る筈とする。警戒している権力者の本拠に単身乗り込む作戦等成功するはずがない。

⑥上九 アイギストス
六五の王が上九を用いて出撃する。敵の首級を得るが、敵の一族までは手に入らない。とはいえ、それで問題が生じるわけではない。

⇒王后クリュタイメストラは、愛人であるアイギストスを用いてアガメムノンを討つ。アガメムノンの息子であるオレステスまでは始末しなかった。易経ではオレステスの復讐は成功しないと見ているので問題無いとする。孔子は、王が上九を用いて出撃し、国を正すとしており、クリュタイメストラのアガメムノン殺しを正義としている。

**************

「エレクトラ」の物語では、不正な権力に絶望的な抵抗を続けるエレクトラの高貴と、明哲保身を説く妹との対比を描く。妹の思想は易経の思想に近い。ソポクレスは、そうした思想を否定し、エレクトラを勝利させる。

第五章 ソポクレスと孔子
ソポクレス50代の作品「アンティゴネ」では、ソポクレスと易経の思想の違いが見え隠れし、80歳代の作品「エレクトラ」では、違いが露頭し、90歳での「コロノスのオイディプス」では、易経の教えそのままのような作品になっているとする。

ソポクレスの現存する作品で最も新しい「アイオス」では、易経的な節度を備えたオデュッセウスと、権力に屈しようとしないアイオスが対比される。アイオスを哀惜しながらも、オデュッセウスを新しい理想とする。

その後の作品では、現実と妥協せずに真実を明らかにするオイディプス王や、屈しないエレクトラを偉大とする。易経的思想の持主達は、現実に全面的に追従するだけの存在として矮小化される。

「ピロクテテス」では、極限的な悲惨でも屈しない人物が、神に命じられて運命を受け入れて、非道な現実を乗り越える道を知る。

一身の安全を計る事と、身を捨てて義を成す事のどちらが大切か?

易経を奉じた孔子は、各国を渡り歩いた後に、50歳で天命を知り、思想を後世に伝える事で現実と戦う事を学んだ。孔子の実人生はソポクレス的悲劇に近く、アイオスやアンティゴネ、エレクトラのように生きて、オイディプスのような放浪の末、天命を知った。

対して、ソポクレスの人生は、易経の教えに近い。富豪に生まれつき、16歳でサラミスの海戦の祝勝歌の指揮を取り、28歳で悲劇作家となる。生涯で31回コンクールに出場し、20回優勝した。90歳まで生きて、死後は英雄神となる。悲劇作家ソポクレスは、満たされた人生を歩んだのかもしれない。

人気ブログランキングへ
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ABCDEFG

Author:ABCDEFG
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード