意外と会社は合理的

読んだ本の感想。

レイ・フィスマン、ティム・サイリバン著。2013年12月13日 1版1刷。



面白いけれど信頼性の低い内容だと思った。既存組織の管理体制を肯定的に捉えようとする先入観が混入している?現実の組織を扱った理論は、反証が困難であるため、偏見に満ちた内容になる?随所に強引な論理展開があるような気がする。

以下は、『パーキンソンの法則』について書いた記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-896.html

序章 なぜ会社はそんなに理不尽なのか
2008年の生活時間調査では、25歳~54歳までの子持ちの米国人労働者は、平均して一日に9時間を「仕事」に費やしている。多くの時間を費やしているのにも関わらず、不合理な組織体系に悩む人間は沢山いる。

組織が不条理である理由を考える。組織の内部構造を説明する組織経済学からのアプローチ。

組織の目的達成のために、従業員の意欲拡大と監視強化という2つの志向があるとしている?プリンシパル・エージェント問題 = どのように仕事を委任する者と実際に仕事をする者の利益を合致させるかという問題。

<ヘンリー・フォードの例>
自動車工場を運営していたヘンリー・フォードは、1914年に労働者の日給を2.3ドルから5ドルに引き上げた。労働者の意欲を向上させ、労働者の定着率向上を実現。
同時に、従業員の生活を監視するためにピーク時に200人の調査員を採用した。監視役を監視する人間が必要とされるため、監視部門は肥大化する運命にある。

<グーグルの例>
グーグルは高給と手厚い福利厚生で知られており、勤務時間の20%を自分の自由に使用して良い事になっている。しかし、他社からの引き抜きによる社員の退社が問題になっている?社員を引き留めるために、転職を意図する社員にカウンターオファーを出す事になる。それは裏切り行為に報酬を出す事になるのではないか?

⇒イノベーションと忠誠のバランスを取る事が難しい?

第1章 拡大を恐れるベンチャー企業―メガネ職人とHP
高級眼鏡フレームを作成する眼鏡職人スコット・アーバンが事業の大規模化を拒否している話と、HPで実行された社員管理手法HPウェイ(会社は指針を示し、後は現場の判断に任せるべきとした)が組織の大規模化によって崩壊した話。

大規模な組織は官僚的になる。

<ロナルド・コースの理論>
英国の経済学者 ロナルド・コースの理論。組織の境界線は、社内で生産するコストと市場での取引コストによって定まる。
コスト節約のための社内生産とコスト削減のための外注化は、市場取引に伴う「取引コスト」によって決定される?市場取引は探索や選別による手間が必要であり、不確実性が伴う。
組織コストの方が高くなる場合もある。組織が大規模化し従業員数が増加するほど管理職の数を増加し、調整費用が高騰する。
組織は、内部を管理するコストの上昇が、外部との取引コストを下回るまで社内に雇用を留め、それ以降は市場が雇用を引き受ける。組織と市場の均衡点は、費用によって決定される?

第2章 研修後に二〇〇〇ドルの退職金
     ―ボルチモア市警とザッポス

ボルチモア市警の組織構造を実際に警察官として勤務する事で観測した社会学者ピーター・モスコスの話。警察官の仕事は多岐に渡り、数値化や定義が困難。そのため、歩合給を導入すると矛盾に突き当たる事になる。例えば、警察官の勤務評価が逮捕件数によって決定される場合、人口4万5000人程度の地区で年間2万件の逮捕が発生した事例がある。無意味な逮捕が増加しただけであり、犯罪率は低下しない。

あらゆる警察業務を測定可能な要素に分解する事は困難であり、インセンティブの導入は難しい。インセンティブ維持のためには、職務体系をデザインする必要があり、スター(失敗を恐れず挑戦する)と番人(不正を監視する)が適正な割合で共存可能にする。

各分野において最適な人材を採用すべきであり、靴のインターネット通販を手掛けるザッポスでは、入社後の一週間が経過した新入社員に「退社すれば二〇〇〇ドル受け取れる」という選択肢を提示する。自信の無い社員が確実に辞めるよう仕向ける行為であり、10%の新入社員が退社するらしい。

そうした採用活動に関わらず、最適な人材を常に確保出来るとは限らないため、インセンティブの設計が重要となる。米国の警察に導入されたコンプスタット(犯罪取り締まりコンピュータ・システム)は、インセンティブと業務効率改善とのトレードオフの例なのかな?

コンプスタットは、地理情報システムや統計技術によって警察官に指示を出す管理ツールである。検挙率向上と同時に、警察官の意欲低下が問題視されている?シカゴ大学のキャニス・プレンダーガストは、気性の荒い警察官の方が治安維持に貢献しており、警官には免責を認めるべきとしている?

⇒粗暴な警察官の方が治安維持に貢献しているという思想は根深いのだと思う。乱暴な人間が存在する事で犯罪を未然に防いでいるという考えなのかな?その意見の正誤を検証する事は不可能。ボルチモア市における犯罪発生率が高くとも、粗暴な警察官が存在しなければ現在よりも悪化すると考える事が出来るからだ。

第3章 歩合給にすれば信者も増える
     ―マルティン・ルターとP&G

ルターがカトリック教会に対抗する組織としてプロテスタント教会を設立した話。教会の指導者は、傘下の聖職者への動機付けと、教会の目的との合致をしなくてはならない。

<中世カトリック教会の場合>
厳格な規則と監視によって組織を維持した?
ピラミッド型の組織構造であり、指導部が提示する信仰の中心教義に末端が従う。情報技術が未発達であった時代には、キリスト教世界を統括するのに役立つシステムであり、独創性の発揮は期待されなかった。

<メソジスト教会の場合>
組織の階層化を抑え、各地域の代表者が定期的に組織全体の問題について議論する。
牧師の報酬は、新たに獲得した信者数によって決定される。布教活動にインセンティブを与える。問題は、「羊の盗難」と呼ばれる近隣の教区からの信者の獲得。無宗教者を改宗させるよりも簡単に出来る。全体的な信者数が増えていないので、組織全体の利益とはならない。
昇進という別のインセンティブが「羊の盗難」を抑止している?大規模で報酬水準の高い教会へ昇進するためには、「新たな信者」を獲得しなくてはならない。

<P&Gの事例>
1830年代に石鹸の研究所として創業したP&Gは規模の拡大に伴う組織の複雑化に対応して新しい手法を模索し続けている。
ブランドマネジメント制(1930年代):
多事業部制(独立事業部に本社の干渉を受けずに行動出来る裁量を与える)をさらに進展させ、個々の製品マネージャーが自由に顧客セグメントを攻略可能にした。

マトリクス組織(1980年代半ば):
多事業部制の各部門間で重複している販売、財務、製造、研究開発等の機能別グループを統合する。P&Gでは、製品、機能、地域別に異なる指揮命令系統と階層が存在する「三次元マトリクス組織」が誕生した。
三つのグループ間調整のための会議や事務手続きが増えたとしている。

オーガニゼーション二〇〇五(1998年):
CEO ダーク・イエーガーが提唱した体制。意思決定ルールの簡素化を目指したが失敗した。各従業員が個人的なインセンティブのみを与えられ、チームとしてのインセンティブが無かった事が原因?

A・G・ラフリー:
新CEOであるA・G・ラフリーの施策。マトリクス組織に共感の要素を埋め込む。あらゆる部門が多様な基準で業績評価を受ける。相互依存を提唱する。

第4章 イノベーションは抑圧すべし
     ―アメリカ陸軍とマクドナルド

中央集権化とイノベーションは矛盾しており、規律と想像力の両立は困難。
マクドナルドにおいては、ブランドや規模の利益を追求するには、各店舗が同一の方針を堅持しなくてはならない。同時に新商品を生み出すイノベーションも必要とされる。マクドナルドは、研究開発拠点を使用して、官僚的なイノベーション・プロセスを生み出そうとしている?

米国陸軍においても、従順な人材と指導力のある人材の両方が必要とされている。

組織の一部を分離し、多少の抑制を働かせる事が解決策なのか?巨大な製薬会社が小規模なバイオテック・ベンチャーに出資するように、管理主義と新たな発想を両立させる。

第5章 マネジメントは命も救う―インドの繊維工場と心臓外科
<インドの繊維工場における実験>
世界銀行とスタンフォード大学の共同研究。インドの企業17社が保有する20の繊維工場に、25万ドル相当のコンサルティングサービスを施す。
近代的な標準ルールを導入した結果、不良品率が半減し、生産5%増、在庫20%減となった。一工場では年間20万ドルの利益増となった。新しい管理の仕組みは大量の情報を生み出し、工場ではコンピューターを活用するようになった。個々の工場の運営状況を経営者が詳しく把握出来るようになったため、現場への権限移譲が進んだ。異変が発生した場合、コンピューターからの情報によって察知出来るため、常に監視しておく必要が無くなる。

信頼性の欠如により権限委譲が進まないと、企業の規模が抑制されるという意見。経営者が親族しか信用しない場合、身内の数によって企業規模が決定してしまう。

産業史研究家 アルフレッド・D・チャンドラーは、『経営者の時代』の中で、先進国では1850年頃を境目に家族経営からの脱却が見られたとしている。
当時、導入が進んでいた鉄道事業が近代的経営原則に基づく事業体である。家族経営では維持出来ない規模の管理を実施するためプロの経営者が雇用される。職務の定義、地域別ユニット、指揮系統を示す組織図、etc。

こうした組織形態は他の産業にも応用され、商取引のシステムは複雑化し、相互依存的になった。

さらに産業規模が巨大化すると「中間管理職」が必要とされるようになる。経営者が戦略的問題に専念出来るように、現場の細かい情報を抽象化して伝達する役割が生み出される。人間の認知能力には限界があるため、詳細な情報を全て把握する事は出来ない。

<ペンシルベニア大学 イーサン・モリックの調査>
854のコンピューターゲーム会社を調べ、製品の成功に最も寄与する部分を検証。プロジェクト毎にデザイナー、プロデューサー、プログラムチームが異なる組み合わせで作業する。
調査結果では、プロデューサーとデザイナーが違うだけでコンピューターゲームの売上は30%変化するが、そのほとんどはプロデューサーによって決まるとしている。

プロデューサー = 中間管理職によって業績に影響が出る証拠?

スタンフォード大学 ニック・ブルームが実施した調査では、経営のチェックリストで高い得点を記録した病院では心臓発作後の生存率が高く、待ち時間が短く、手術後の経過も順調だった。

第6章 会議こそ最も大事なCEOの仕事
     ―スティーブ・ジョブズとジェイミー・ダイモン

ハーバード・ビジネススクール ラファエル・サダンの研究では、100人以上のイタリア人CEOの活動の半分は9分以内に終了しており、1時間以上継続した活動は10%程度で、その多くは会議だった。
CEOの必要とする情報の大半は他者との対話によって齎され、経営情報システムは活用されていなかった。

著者の意見では、CEOは組織情報の最終的な受け手であり、一人の人間の頭脳には収まらない情報を相手にしているとしている?そのため、加工された総合的な情報を受け取る必要があり、そうした情報は書面に纏める事が出来ないため、会議等で総合的な情報を取得しているとしている?

そうではなくて、現実の組織経営はCEOではなく、末端の人間が司っているという事なのではないか?
以下は、『ピーターの法則』について書いた記事へのリンク。CEOが受け取る情報が人間の限界を超えているなら、全てのCEOは無能に達しているのではないか?

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-898.html

また、著者は総合的な情報を受け取る方法は会議のみであるとしたがっているように思えるけれど、他のシステムもあり得るのではないか?

以下は、『会議なんてやめちまえ!』について書いた記事へのリンク。現状を肯定するのでなく、他の見方も大切な気がする。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-1426.html

全体として、第6章の記述は強引であるように思える。ピラミッド型の組織形態に拘る事もないし、組織が巨大化した結果、機能不全に陥っている可能性について考えても良い気がする。

第7章 組織文化を守るのは高コスト
     ―サモアの交通とBCG

2009年9月8日のサモアにおいて、右側通行の交通ルールが左側通行に変更された事例について。それまでのルールを変えた事によって混乱が発生したが、2009年の9月半ばには正常化した。世界標準の交通ルールを導入したため、サモアにおける自動車の購入費用が低下した。

サモアの事例を使用して、文化を変更する事が難しい事を伝えようとしている。組織文化 = 正式な契約や明文化されたルールが無い時に、どのような行動をするべきか決定する。

心理実験では、2人の人間が共同作業する場合でも、共通の用語等の「文化」が発生するらしい。「文化」が確立された後で、不慣れな新人が共同作業に加わると、最初から参加しているメンバーよりも低い評価を受ける傾向がある。

信頼関係は非常に脆く、一度の失敗によって失われる可能性がある。協力関係を維持するにはトリガー戦略(非協力には報復する戦略)が有効?

しかし、報復を基盤にした信頼関係は脆く、また、利己に徹する事は困難という実験結果もある。

集団への帰属意識が有効である可能性もある。

<ヘンリ・ダジフェルの実験>
被験者に画面上の点の数を見積もらせ、実際の数より多く見つもったグループと、少なく見積もったグループに分ける。単に画面上の点の数を見積もっただけなのに、自分と同じグループの人間を贔屓する傾向が見られた。
ミニマル・グループ・パラダイム:
小さな刺激によって集団のアイデンティティが形成される。

⇒職場への帰属意識は、より容易く醸成されると考えられる。

著者は、職場の文化を変えるのはリーダーシップの役割りとしているけれど、本当にそうなのか?

第8章 犯罪捜査とテロ防止は両立できない
     ―FBIとBP

<石油会社 BP(ブリティッシュ・ペトロニウム)の事例>
合理化を進め、利益を増やした結果、安全性が疎かになったとしている。この件は興味深かった。
1992年に年間10億ドル近い赤字をだしていたBPは、1997年末には年間50億ドル近い利益を出すようになる。そのために12万9000人の従業員を5万3000人に減らす等の合理化を行っている。
そして、2005年にはテキサスシティの精製施設で事故が発生、2006年にはプルドーベイ油田で大規模な原油漏れが発生、2010年には海底油田ディープウォーター・ホライズンで爆発事故が発生。

⇒利益の拡大と安全性の低下はトレード・オフなのか?
⇒BPでは、バランススコアカードという業績評価手法を導入。
 業績を様々な観点から評価する。
 負傷率の引き下げが評価されたため、小さな事故は減少し、
 2004年の負傷率は業界平均の1/3であったとしている。
⇒最新の業績評価手法であっても、重大事故のリスクを計測不可。

安全性を確保する手法が存在したとしても、赤字が常態化していたBPは利益の極大化を目指したのではないか?個人の意志は環境によって規定される。

<FBIについて>
FBIは、1908年に司法省の一部門として誕生した。34人の特別捜査官を捜査局の配属として、犯罪者の操作、逮捕、訴追を行った。
1924年にディレクターとなったJ・エドガー・フーバーは、パフォーマンス評価や支局の査察、研修を制度化した。FBIの任務は拡大し、共産主義勢力への諜報活動も担うようになる。
FBIは、犯罪捜査と諜報活動という2つの目的を持つようになる。2001年のテロ以降、FBIの諜報能力の低さが批判されるようになる。

犯罪対策と諜報活動は評価基準が異なる。諜報活動では発生確率の低い大災害を防止しなくてはならず、許容出来るリスクの発生率も定かではない。

FBIは分権的な組織であり、国境を超える脅威に対するには異なる組織文化が必要とされる。しかし、集権化された組織では、トップに届く情報が極小化する可能性が高い。完璧な組織はあり得ない事を念頭に置くべきである。

結論 アルカイダは究極の組織なのか―未来の組織
組織改革には、以下の2つの考え方があるとしている?

①経営科学
監視カメラ、コンピューター、分析能力、etcによって組織の問題を解決する。組織の構成要素は社会科学の法則に従って予測可能な行動をしており、洞察力のある観測者には組織経営を管理可能と考える?

②夢想
組織インフラを取り去って労働者を開放し、個人の能力を最大限に引き出すと考える?

上記の2つの思想が対立しているが、情報技術の普及が変化を引き起こす可能性がある。ハーバード・ビジネススクール ジュリー・ウルフの調査では、上場企業300社において1986年~1998年に管理職の階層が25%減少し、CEOに直接報告する経営幹部が1986年の平均3.8人から1998年の平均8.2人に増加した。

技術は組織の境界を変える。しかし、イノベーションや主体性だけでなく、調整やルールも必要であると考える。

ヒエラルキーの無い「ネットワーク型組織」の代表であるアルカイダにおいても、部下に出張報告書の提出を義務付けている例があり、管理費用が発生しているようだ。

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