ジェノサイド

読んだ本の感想。

高野和明著。平成二十三年三月三十日 初版発行。



神殺し、親殺し、子殺しの物語なのだと思う。真正と見るか、風刺と見るかで受け取り方は違う。面白くはなかったけど、ある種の思考パターンを考える上では参考になると思った。

以下は、ネタバレ含む。

【用語】
GIFT:創薬ソフトウェア
ハイズマン・レポート:人類絶滅の要因に関する調査報告書。
           新人類による人類絶滅の可能性
新人類:四次元理解、複雑な全体を一瞬で把握する、
    旧人類の悟性には不可能な精神的特質

【登場人物】
古賀研人:主人公
古賀誠治:研人の父親。大学教授
菅井:新聞記者、スパイ
ジョナサン・ホーク・イエーガー:傭兵
ジャスティン:イエーガーの息子。肺胞上皮細胞硬化症
ミキヒコ・カシワバラ:傭兵
スコット・マイヤーズ:傭兵
ウォーレン・ギャレット:傭兵。元CIA
ナイジェル・ピアーズ:人類学教授
グレゴリー・S・バーンズ:米国大統領
メルヴィン・ガードナー博士:大統領補佐官
アーサー・ルーベンス:米国分析官
坂井友理:医学博士
李正勲:韓国人留学生
アキリ:新人類
エマ:新人類

【適当なストーリー】
<父親殺しの話>
日本の大学院生 古賀研人が、父親の遺品である創薬ソフトGIFTを用いて肺胞上皮細胞硬化症の治療薬を作る話。途中で警察から追われる事になり、アフリカの戦闘の補助等しながら、最終的には治療薬が出来上がる。

⇒主人公は、自分の父親が弱い事に劣等感を持っている。創薬に協力する韓国人留学生は理想的な父親の象徴なのだろう。不満のある父親を取り替える。

<子殺しの話>
傭兵であるジョナサン・ホーク・イエーガーが、アフリカで新人類暗殺計画に携わる話。息子の病気の治療薬と引き換えに、イエーガーは裏切る事になる。米軍や現地兵の追跡を振り切り、新人類を日本に連れて行く。

⇒イエーガーは、病気の息子の事で悩んでいる。反抗的なミキヒコ・カシワバラは、息子の問題の象徴と言える。途中でカシワバラを殺し、健康になった息子を手に入れる。

************

amazonの書評欄にも書かれている事だけれど、話の特徴は単純化された世界観であると思う。以下のP408、P433~P434の記述から、差別的思想が根底にあるのだと感じる。それを真正であると思うか、風刺であると思うかによって感想は異なる。

P408:
人間は、自分も異人種も同じ生物種であると認識する事ができない。肌の色や国籍、宗教、場合によっては地域社会や家族といった狭い分類の中に身を置いて、それこそが自分であると認識する。

⇒自分と自分の帰属する共同体を同一視する。

P433~P434:
己の暴力衝動を政治思想に仮託する似非右翼には、共通の心性がある。自尊心の歪んだ発露である。彼らは生育歴などの問題から自己を直接肯定できないため、自分の所属する集団を全肯定した上で、その集団の成員である自分は素晴らしいという論法を取る。しかし実際は、彼らの関心が自分自身にしか向けられていないのは明白で、その証拠に似非右翼の攻撃の矛先は主義主張に異を唱える同胞たち、全肯定してみせたはずの集団のメンバーにも向けられる。

⇒これは主人公側の心理特性であると思う。

P436:
全知全能の存在を夢想し、異教徒を敵だと見做すのは、ホモ・サピエンスに広く見られる習性だ。肌の色や言語の違いだけでなく、どんな神を信じるかも敵味方を識別するための装置として機能する。その上、神は悔い改めたと言いさえすれば、大量殺戮の罪悪すらも消し去ってくれる便利な存在なのだ。

⇒主人公側の思想。主人公は、新人類の作成した創薬ソフトを疑わない。通常であれば行うはずの実験や手続きを省略して新薬を見ず知らずの他人に投与する。そして結果を確認する事無く、自分が10万人を救済したと満足するのだ。

************

単純化された世界観である。人間は単純化しなければ世界を認識出来ないのではないか?

作品世界の中では米国大統領は強大な力を持っている。インターネットを監視し、警察や武装組織を操り、人工衛星や無人飛行機まで駆使する。神のような力だ。

神のような力を持つ存在がいるのに、世の中が悲劇で満ちているのは神が邪悪だからである。それだから、話のメインは神を殺し、新しい神 = 新人類に取り替える事なのだと思った。

古い神と新しい神を隔てるのは、善意や悪意の有無なのだと思う。絶対的な存在が悪事を為すのは悪意を持っているからである。だから善意を持つ神に取り換えれば良い。善意とは強烈に自覚出来るものであり、善意さえあれば全ての行動は肯定される。

作品世界の中では、主人公側が、異常に善意の有無に拘っているように感じられた。

単純化された世界観は、抽象的な思考に根差しているのだと感じる。驚くほど多くの人間が陰謀論を信じるのは、少数の人間の悪意によって全ての悲劇が発生する意見が納得感を与えるからなのではないか?

ビジネス本や経済の本でも神 = 絶対的存在に期待するような意見があると思う。そうした存在は存在しえないのではないか?

人気ブログランキングへ
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ABCDEFG

Author:ABCDEFG
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード