世界の99%を貧困にする経済

読んだ本の感想。

ジョゼフ・E・スティグリッツ著。第1刷―2012年7月31日。



著者の意見が矛盾していると思ったのは、市場が国家権力を利用して富裕層の利益を拡大しているとしながら、解決策として国家権力の強化を主張しているように読めるからかな。

多分、問題解決のためには、トップダウン型の方法論でなく、ネットワーク型の社会構造を構築する事が大切なのだと感じた。古い体制に戻す事は、同じ問題の繰り返しを意味するのだと思う。

それから、以下の記事に書いた『不平等について』と似ている内容だと思った。『不平等について』の第2章では、貧しい国から豊かな国への大量の移民が発生している様子が記述されており、スティグリッツ教授が主張する?ような労働市場の自由化は別の問題を生み出すかもしれない。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-1313.html

序 困窮から抜け出せないシステム
市場が不完全であるために不平等が蔓延しているという意見。
2008年~2010年で米国の中流階級の富の約40%が消失した。そして2010年に景気が好転した際の国民所得増加分の93%は、所得上位1%の人間のものとなった。

GDPが成長しても大多数の米国人の生活水準は低下している。

平等と公平が損なわれ、モラルが喪失しているとしている。金儲けのためならば違反や環境破壊も是とされる?民主主義は、そうした事態に対して機能不全に陥っている?

貧困層や中産階級の富を富裕層に移動させるシステムが構築された結果、全体としての経済も縮小する。

第1章 1%の上位が99%の富を吸い上げる
1980年~2010年で米国の一人当たりGDPは、3/4の増加を達成したが、所得増は主に上位1%の層で発生している。典型的な米国人男性就業者の所得は30年以上停滞している。

賃金格差以上に資本所得の不平等も拡大している。

賃金:
1980年頃から考えると、下位90%の賃金の伸びは15%、上位1%は約150%、上位0.1%は300%。

資本所得:
1979年以降、上位1%が資本所得増加分の7/8を取得し、下位95%の取り分は3%を下回っている。

下位層は、失業や年金の面でも不安定な状態にあり、階級が固定化されるリスクもある。米国の下位20%の層の2/3の子供は下位40%に留まるらしい。

第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方
市場の不平等は、政策によって形成されたとする意見。

西洋の前資本主義では、不平等を正当化するために宗教が使用された。不平等に異を唱える事は、神の意志に異を唱える事だった。

現代では、限界生産説が不平等の根拠になっている。生産性の高い人間が、高い所得を稼ぐ事で、社会貢献をするという思想。そうした思想の下で、政府が法を策定し、公教育や徴税を通じて所得調整を行う。

しかし、政治制度は上層者に過剰な力を与え、自分達の努力と無関係に生み出される富 = レントシーキングからの過剰な所得を取得出来るようにしている。

独占や規制、政府介入によって不当な富が蓄積されている?税制や政府資産の払い下げ、保護貿易等、政府から富裕層への大盤振る舞いは多い?

第3章 政治と私欲がゆがめた市場
所得の不平等を生んだ経済構造の変化について。

<技術進歩>
米国の労働市場では、1990年代から技術進歩や生産の海外移転によって製造業で必要とされる雇用者数が減少した。技術進歩は、熟練労働者に対する需要を高めたが、非熟練労働者の多くを機械に置き換えたとしている。

<グローバル化>
資本移動の自由化や貿易の自由化によって、資本家の労働者に対する優位性が高まった。賃金を低位安定させる事が出来る。さらに、企業は政府に対して税金の引き下げ等の有利な政策を提案出来る。受け入れられなければ外国に生産を移転させる。
労働者の賃金が低位安定している中で、経営陣に裁量権を与える企業統治法や富裕層に有利な税制によって階級は固定化される。

上層者は、自らの能力を高所得の根拠とするが、個人と他者の貢献を分離する事は困難。あらゆる成功は、制度設定やインフラ等の社会設備の利用可能性に依存している。

第4章 アメリカ経済は長期低迷する
不平等を放置する経済は成長し難いという意見。

消費の落ち込みや、総需要の不足に貧困層対策でなくバブルで対処する政策等。他に以下の要因がある?

①公共投資や公教育支援制度における支出削減
 富裕層は政府に頼る必要が無いため、共通のニーズに支出しない。
②歪んだ経済、法律、規制
 独占によって消費者からの搾取が発生する。
③労働者の士気低下
 貧困者が日々の生活に認知資源を使い果たし、
 不合理な決断をするようになる。

⇒ここに書いてあった、ストレスと不安が新しい技能や知識の獲得を阻むという意見は面白い。公正に扱われているという感覚が高い士気を育む。仕事を達成したという内因性の報酬は、金銭という外因性の報酬より良い動機である場合がある。

第5章 危機にさらされる民主主義
不平等によって人々が投票制度に幻滅した結果、民主主義が機能しなくなる可能性。

協力や信頼に基づく善良な行為は強制されてではなく、自発的に行われる事が多い。不公平感が増して信頼という社会資本が毀損された場合、規則や罰則が増加し、社会的費用が増加する。

多くの人間の意見が反映されると実感出来る政治制度の必要性。

第6章 大衆の認識はどのように操作されるか
人間の認識は、状況等の枠組み作りから影響を受ける。信念は脆く、影響を受け易い。

①均衡幻想
 人間は、保持している信念と矛盾しない情報を
 選択的に認知する
②行動経済学と現代の宣伝広告
 消費者の認識を形成し、行動を操作可能?
③認識と行動が市場の均衡に影響を及ぼす
 信念や認識は、行動に影響する
④不平等の認識と個人の行動
 不公平な扱いは、生産性を低下させる

【インドで行われた実験】
以下の2つのパターンで実験を行う。
 パターン1:
  高いカースト出身者と低いカースト出身者を別々にして
  問題を解いてもらう
 パターン2:
  高いカースト出身者と低いカースト出身者を一つの集団に
  して、全員のカーストを公開した上で問題を解いてもらう
⇒低いカースト出身者の成績は、パターン2で有意に低下した
⇒社会的認識が成績に影響した可能性

思想や認識は社会的構築物であり、変化は遅い。周囲の人間の信念は、個人の信念に影響する。何らかの理由で多数の人間が特定の思想に魅力を感じた時に思想が転換するのかもしれない。

以下は、社会認識を操作する方法?

①教育とマスコミを利用する
②社会的距離を生み出す
 人的交流が限られるグループを特別視する等。
③政治家を利用する
 政治家は思想を売り込む商人だ。
 特定の思想を信じる人々を結集し、無党派層を説き伏せる?
 ⇒単純な話を繰り返す事が効果的
 ⇒レッテルを敵に貼り付ける手法

【銀行救済と住宅ローン再編成】
枠組み作りが富裕層の利益に繋がった例?

2008年の金融危機の際に、銀行の救済は国民の雇用を守る措置とされた。その結果、銀行家は無条件で多額の資金を入手した。
対して、住宅ローンを借りていた人々は、自己責任を理由に救済されなかった。経済危機を防ぐためには、住宅ローンの再編成を行う方が、金融業界の維持よりも確実であったという意見?

⇒銀行の救済に投じられた数千億ドルの一部を使用すれば、
 住宅ローンの再編成は簡単だった?
⇒多分、金融システムは抽象化されており、個人の責任が
 見えないのだと思う。
 住宅ローンの場合、借りていた個人が判別出来るから、
 自己責任が重視されてしまうのかな?

【GDPの問題点】
経済実績を測定する指標であるGDPの問題点について。
 ①医療と公共部門
  GDPが始めて測定された時よりも、医療の重要性は
  高まっているが、多くの人間が不健康になり、治療に
  お金を使用するとGDPが向上してしまう
 ②持続性
  バブル的な状況も肯定的に評価してしまう
 ③不平等
  国民の不平等を反映出来ない
 ④環境
  環境破壊を測定出来ない

GDPが重視すべき指標とされるため、認識が歪む可能性。例えば、発展途上国において外国資本による環境破壊的な生産活動が行われた場合、利益は外国資本の所得となり、現地の住人は損害を被るが、GDPは向上する。

第7章 お金を払える人々のための正義
富裕層が自らの利益になる法規制を確立する問題。

①略奪的貸付
 複雑で理解出来ない金融商品を販売する手法。
 消費者保護の規制は反対される
②破産法
 負債が簡単に免除されない法律にする
③抵当流れ手続き
 2008年の金融危機において、金融機関が住宅ローンの
 記録の精査を杜撰に行った問題。
 記録が複雑で確認が出来ない。

⇒この辺りの問題は、悪意の問題というより、法の支配が
 成立し難い状況が発生している事ではないか?
⇒複雑な問題を人間は処理出来ない。
 そうした状況下での自己責任は非現実的なのだと思う。

第8章 緊縮財政という名の神話
著者は米国の財政赤字の原因を以下の4つとしている?
 ①富裕層への減税
 ②イラクとアフガニスタンでの戦争
 ③メディケア処方薬給付金
  製薬会社の既得権?
 ④不況

著者は、キャピタルゲイン減税や、配当金課税(15%)が賃金への課税の半分しかない事を問題視している?賃料や環境破壊への課税、政府資産の安値での払い下げを止める。
上位1%が国民所得の20%を得ているのだから、上位1%への10%の課税は、GDPの2%に相当する歳入を生み出す。

単純な緊縮財政は、貧困層をより痛めつける事になる?

第9章 上位1%による上位1%のためのマクロ経済政策と中央銀行
現代のマクロ経済政策が、物価上昇率を低下させる事に注力した結果、失業率が上昇しているという意見。

中央銀行が物価上昇を警戒して金利を引き上げる事により、失業率が高いまま維持される?生産能力が余っている状態で金利を引き下げると、バブルが発生する?

第10章 ゆがみのない世界への指針
著者の考える基本方針。
 ①金融部門の抑制
  競争性や透明性を高め、特権を生み出さないようにする
 ②競争法と取り締まりの強化
  独占の排除
 ③企業統治の改善
  CEOが社内資源を私的流用しないようにする
 ④破産法の改革
  債務者が有利になる破産法とする事で、
  貸し手のモラルを高める
 ⑤政府の無償供与の打ち切り
  企業に対する無償供与を無くす
 ⑥企業助成の打ち切り
  不透明な補助金の停止
 ⑦法制度の改革
  富裕層以外の人間が司法制度を使用し易くする

他に税金の累進性を高める事や、高い相続税率等。

富裕層以外への支援は以下の通り。
 ①教育へのアクセス権向上
 ②貯蓄の推奨
 ③医療の普及
 ④社会保護制度の強化

基本的には、財政政策等で積極的に政府が援助するべきと言っているように読めた。

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