マルクスとハムレット

読んだ本の感想。

鈴木一策著。2014年4月30日 初版第1刷発行。



難しい本だった。

マルクスとハムレットには、ヘーラクレース(父性原理)とマーキュリー(母性原理)との間の揺らぎが見られるとする。

ハムレットは実在するか自らの願望を表すか分からない亡霊に悶え、マルクスは価格で表現し切れない商品の世界を、価格でしか表現出来ない事に悶えていたのかもしれない。


〇キドプロコ
無意識の取り違えという意味の演劇用語。ある物を掴んだつもりが、別の何かを掴まされる。マルクスは、商品を飼い慣らし難い「生皮」に喩えるが、これはシェイクスピアに由来する。『ヘンリー六世』では、ヨーク公がヘンリー六世の妻マーガレットの仮面を剥ごうとしつつも、それを生皮と表現してしまう。仮面の代りに生皮を掴まされ、それを相手のせいにしてしまう。

<ハムレット>
ハムレットは、父を殺した人間が叔父である事を確定していない。

①亡霊
元国王の亡霊は、30年前にノルウェーのフォーティンブラス王を決闘で殺害した時の甲冑姿で、中に誰が入っているか見えない。最初に学友ホレイシオが見た亡霊は甲冑姿だったにも関わらず、ホレイシオは見えないはずの銀混じりの髭の話をして、亡霊がホレイシオの想像の産物である事を示している。

→亡霊は、在るか無いか分からない

②対話
ハムレットが対話した父の亡霊は、弟に毒殺された真相を語っていない。生前の罪を自白し、弟クローディアスが「耳栓が詰まったワシの両耳に、ヘベノンのジュースを注いだ」と語るのみ。ジュースは噂の隠喩であり、噂を恐れる姿を示す。

③芝居
ハムレットが演出した芝居では、毒液を国王の両耳に注ごうとする役者を「あれはルシアーナス、王の甥だ」と注釈する事から、芝居の意味は国王の甥であるハムレットが、現国王クローディアスを毒殺し、母ガートルードとの近親相姦を犯す内容になる。クローディスの退出は怒りによるものであり、叔父の罪は確定していない。

ハムレットは、「在るのか無いのか分からない状態」に悶える王子。

同じようにマルクスは、資本や貨幣、商品の価値を計る尺度に悶えたとする。商品の価値尺度を人間労働(抽象的人間労働)としつつも、『資本論』ではそれ自体を価格で表示してしまっている。価格から分離したはずの価値尺度を、価格に依拠して論じる矛盾。

マルクスは、価値を『ハムレット』に登場する亡霊のように表現し、価値を「どこを、どう、掴んで良いか分からない対象」とまで言っている。これは、ハムレットの『ヘンリー4世』に登場するフォールスタッフのセリフ。

命がけの飛躍(マルクス):
商品を売り出すに先立って、価格や出荷量を決定する事。この場面では、抽象的人間労働を価格は無関係。

◉ヘーラクレース:
マルクスでは、ヘーラクレースが多く引用される。異界を征服し、分析的知性を持つ。産業革命は、母なる大地を捻じ伏せるヘーラクレース主義の本格化である。

◉マーキュリー:
『ハムレット』の三幕四場では、父王の姿をローマの神々に准えるが、その中に紋章官(王の伝令役)・マーキュリー(神々の使者)がある。ハムレットは父を侮辱しており、自分を逃亡するマーキュリーに喩えている?水銀には逃亡性がある(ユング)。

『ハムレット』一幕五場の亡霊との対話では、以下の言葉がある。

「この永遠の紋章は、生身の両耳・両穂にあってはならんのだ。聞け、聞け、ようく聞いてくれ。そなたがかつて父を本当に愛していたならば」

生身の両耳は、旧約聖書『創世記』四一章の「太った兄穂」、「やせ細った弟穂」という両国王であり、デンマークの紋章は元国王にも現国王にも相応しくなく、その屈折した息子の重いが投射されている。ハムレットは復讐に突き進まずに、オフィーリアへの恋心によって軌道をマーキュリーのように外れてしまう。

「そなたは忘却の川レーテの岸辺に安閑と根を張る太った雑草より愚鈍だということになろう(中略)わしは庭園で睡眠中に、蛇に刺された事になっておる」

『ハムレット』三幕四場で、ハムレットが叔父を「白黴の生えた麦の穂」に、父を弟穂によって「立ち枯れにされた健全な穂」に喩えており、これは旧約聖書『創世記』四一章のヨセフ物語で、エジプト王が見た夢を改作した比喩である。

その夢では、ナイル川の岸辺に根を張って太った兄穂を、やせ細った弟穂が飲み込む。だから、安閑と根を張る太った雑草は、兄穂 = 父だという事になる。

亡霊は、「獄舎の秘密を一言でも告げたなら…そなたの編まれ束ねられた巻き毛、発射装置はばらけ、その一本一本は、苛立つ山嵐の針のように、先の先まで立ってしまうであろう」と語っている。

だから、蛇に刺されたという亡霊の言葉は、蛇に変身したハムレットの巻き毛(山嵐の千本針)に刺されたという意味にもなる。デンマークの耳に噂をつたえるのは、発射装置としてのハムレットの巻き毛になる。

<アンリ4世>
アンリ4世(1553年~1610年)もマルクスで引用される。

「パリもミサに値する!」

アンリ4世は、ガリアのヘーラクレースを自称し、1593年にカトリックの儀式ミサに参列し、ユグノーからの改宗を偽装している。

シェイクスピアは、『恋の骨折り損(1595年上演?)』でアンリ4世のヘーラクレース主義を茶化している?さらに、『ハムレット』ではルターの創建した新教派のウィッテンブルク大学にハムレットを留学させ、ハムレットにプロテスタントのヘーラクレース主義を揶揄させている。

マルクスは、亜麻布と上着の価値関係を論じる部分でアンリ4世を引用しており、商品A(亜麻布、パリ)と商品B(上着、ミサ)は等値とする。マルクスは、商品の価値を価格に汚染されない抽象的人間労働で裏付けるため、亜麻布に自分の価値を独白ために、アンリ4世の言葉を引用した?

パリで表現された価値とは宗派に左右されない世界市民主義であり、同じように貨幣が国家を超えた世界貨幣に発展していく事を意味する?

本書の後半は、地産地消の紹介になっている。



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