対称性人類学

読んだ本の感想。

中沢新一著。2004年2月10月第一刷発行。



難しかった。人間を構成する二つの論理という発想は面白いと思う。時間をおいてから再読すると思う。

対称性の思考:
物事の共通性や同質性を見い出す。

非対称性の思考:
物事の相違点を見い出す。

序章 対称性の方へ
神話は科学とは異なる二項操作を用いる(対称性の論理)。

科学ではアリストテレス論理を用いる。その特質は矛盾律であり、Aである事と非Aである事は両立出来ない。神話においては動物が人間のように話したりするなど、Aと非Aの混合が見られる。

神話は人間と動物の非対称的関係を覆し、同質性を伴う対称性の原理を作動させる。

第一章 夢と神話と分裂症
科学では完成型は非対称性の論理を用いるが、新しいアイディアが生まれる時には対称性の論理が用いられたりする。無意識領域で直観的に見つかったアイディアを、非対称性の論理に翻訳する。

言葉は抽象化能力が高いので、高次元を上手く表現出来ず、特に神話では圧縮した言葉での暗示が用いられる。

以下は、神話思考の特徴。

①対称性の論理を用いる
②三次元に収まらない高次元を圧縮や置き換えによって表現
③全体と部分が一つながりになるような思考

以下は、分裂症の研究から見出された無意識の原理(イグナシオ・マッテ・ブランコ)。

①一般化
アリストテレス論理は個体についての認識を出発点にするが、無意識は個体が含まれる「種」に関心を示す。一般化していく傾向。そのため、個人でなく「日本国民」や「人類」等の種を個体や個人のように扱う。
②対称
科学は、物事を分離し、矛盾を生み出す混じり合いが生じないようにするが、無意識は非対称を対象のように扱う。分裂症の例では、「ジョンはピーターの父である。だからピーターはジョンの父である」という思考が進められる。

対称の原理が適用される時、時間的継起はあり得ず、部分と全体は同一になる。

第二章 はじめに無意識ありき
人類に特徴的な象徴的思考力について。

他の生物は、装飾品等の意味を圧縮した象徴を作らない。

象徴的思考は無意識を必要としており、幾つもの意味を横断的に繋ぎ合わせる。それは自分内部を流れる流動的知性を必要とする。流動的知性によって、社会についての知識と動物についての知識が組み合わさる等して、動物が社会参加する神話が生まれる。

著者の仮定として、現生人類の言語には、①無意識の側から自律的な運動を通して突き上げる秩序、②出来上がった言語体系として既に構成された秩序があり、その二つがせめぎ合って具体的な言葉が語りだされるとする。

人間の心は二つの存在様式が同時作用するバイロジックである。

・同質的で不可分の全体
自己と他を同一と見做し個体は存在しない。
・分割し不均質にする存在様式
全現実を分割不能であるように扱う。



第三章 <一>の魔力
多次元的な価値を、単一の価値尺度に還元し、数えられるものとする<一>の原理について。



現生人類の経済は、『贈与』と『交換』という二つの原理(バイロジック)から成る。

贈与:
対称性の原理。贈る事による社会的信用や名誉等の多次元的価値が贈り物に圧縮される。

交換:
非対称性の原理。売り手と買い手の間に人格的絆が無い。

贈与は多次元的価値で構成されているが、交換は価格という一次元の価値で構成されているため、単一尺度で軽量可能。資本主義社会においては、『贈与』は私的領域で役割を果たし、『交換』が主となる。

***************

こうした非対象の論理の優位の端緒は、一神教の出現による<一>の出現であるかもしれない。

人間から絶対的距離で隔絶された一神教の神は、人間と精霊との対照的関係を、神と人間との圧倒的非対称関係に作り変える。

一神教世界の中で、キリスト教社会の中に資本主義が発達した理由は、「三位一体」の思想にあるとする。



キリスト教の神は、父と子と聖霊の三つの位格を持つ。聖霊は精神の仲間で、対称性の論理で動く無意識と直接結び付く心を神の本質に取り込んでいる。

そのため、キリスト教は対称性の論理と非対称性の論理のバイロジックとして作られた得意な一神教となっている。キリスト教の教義にはアリストテレス的論理を壊す反論理が組み込まれており、不条理を論理化出来る。

12世紀~13世紀頃にイスラム教が厳禁した利子を、キリスト教は承認する。聖霊の組み込みという形で、生産的な無意識は既に取り込まれている。

第四章 隠された知恵の系譜
現代社会においては、対称性の論理(無意識)は抑圧されるとする。

解決策は、流動的知性 = 無意識の中から出現する新しい知性の形態を創り出す事とする。

<アフリカのレレ族>
バンツー系部族の一種。

二項操作によって世界秩序を構成しており、人間と動物、男と女、右と左のように区別し、様々な儀式で差異を確認する。

儀式の中で特殊なのは穿山甲(アリクイ)を食べる儀式であり、鱗を持っていながら(魚の特徴)、気に登る(動物の特徴)。レレ族の動物分類学のどこにも所属出来ない怪物であり、それを食べる事により、自らの文化基礎にある分類原理が人工的虚構に過ぎない認識を与え、対称性の論理に接続する。

人間の知性は三次元より高い次元を思い描けず、高次元を理解する事は不可能。メキシコのウィチョル族は、幻覚性植物等により高次元に接続しようとする。

男性が参加する儀式によって手に入る秘密智は、女性が対称性無意識のままに日常生活を送る中で自然智として浮かび上がるものかもしれない。

第五章 完成された無意識-仏教<1>
レヴィ=ストロースの構造人類学と仏教の類似性。

仏教では輪廻によって人間と動物の隔たりを無くす対称性原理が作動しているかもしれない。仏教における布施は、贈る者が送っているという感覚を持たずに、贈る者と贈られる者の区別が発生しない状況での純粋贈与が理想とされる。

フロイトの見い出した無意識は、自己と他者の区別を行わず、個体はそれより大きな実在の中に発生した結び目である。仏教も同じように自己が実在せず、無限の連鎖の結節点に存在する結び目とする。

全ては広大な縁起の相互作用の中にあり、自己が実在すると錯覚する人間は、自己の外にあるものを欲望対象として執着する。それは妄想によって作られた非対称の世界であり、妄想を吹き払う事で正しい認識を取り戻すべきとする。

第六章 原初的抑圧の彼方へ-仏教<2>
仏教は、言葉を発生させるために一次刺激を抑圧する原初的抑圧の向こう側にある流動的知性の働きを全面的に開花させ、世界を変える思想?

『般若経』では仏教の主題は流動的知性にあるとし、その後に登場した『華厳経』では流動的知性の作動する論理(空の内部構造)が主題となる。

心を無限集合として理解する。流動的知性は言語的知性よりも濃度が高い無限集合。

粗大知性:
非対称性論理。言語と一体になって意識の働きを生み出す。

微細知性:
対称性論理。流動的知性を表す。

粗大知性はしばしば自らを全体的真理であると思うが、国家を持たない社会では力の源泉が精霊が管理する微細権力としてしか作動しない。人間社会に力の源泉が持ち込まれると、粗大権力が国家を組織化していく。

華厳経では、ものに自性は無いが、他との関係性の中から独自性の感覚が備わるとする。

第七章 ホモサピエンスの幸福
仏教における幸福は、抑圧されない無意識(大楽)を体験する事?

幸福感は、対称性原理の一環として、時間的継起を伴わないまま無限に続き、同質性を持った感情によって繋がり合う事を理想とする。

それは宗教的愉悦や性的愉悦と同等であり、宗教が社会的影響力を喪失した19世紀以降のモダン芸術においては高次元無意識への通路を開く事が主題となっていく。

印象派では輪郭の消失という現象が発生し、光や色彩が画面全体に浸透していく。風景を描く画家の位置までが同一性を失って揺れ動く。それによって対称性無意識の作動が始まるとする。

キュビズムにおいては三次元以上を思い描く事の出来ない人間知性の外の現実を表す。

資本主義社会においては全てに値段が付けられるが、対称性の論理で作動する人間の無意識は順序付けたり数えられるものでないため、無意識の領域に商品化が及ぶと、無意識は抑圧されてしまう。

第八章 よみがえる普遍経済学
合理性や功利性にのみ基づく「限定経済学」に対抗する「普遍経済学」。

人間の欲求には、非対称性の論理に従って順序性を保ち、諸段階に応じて媒介が挿入される「生の衝動」と、順序性を無視して一気に最終地点まで雪崩れ込もうとする「死の衝動」があるとする。

「死の衝動」は対称性の原理で動く無意識そのものである。

その中で『贈与』は合理主義を超えた無意識の論理で動く。原初的抑圧の前にある心の大陸において行われる活動で、価格によって抑圧されない。



終章 形而上学革命への道案内
国家以前の社会では、権威は自然の中にあった。

国家以後は精霊達は世界の表面から見えなくなり、ハイデッガーはこうした現象を「形而上学化」と呼んだ。経済活動は価格によって一元化され、商品の集積場としての資本主義社会が生み出される。



かつての王はシャーマンとして自然の源泉を力の本質としたが、近代においては力の観念を形而上学化するため、具体的な肉体が死んでも変化する事の無い「法人」という観念が作り出される。



しかし、人間の本質である対称性無意識は変化しないため、人間は理性的な形而上学だけでは満足出来ない。

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