ドストエフスキーの人間力

読んだ本の感想。

齋藤孝著。平成20年6月1日 発行。



ドストエフスキーの小説には、様々な「過剰な人間」 = 「癖の強い人間」が登場するという話。過剰な人間が集まって物語世界の中で祝祭が行われる。どのような人間でも存在して良い。

人間は癖の集合体であるが、癖が衝突する事は日常生活では避けられる。ドストエフスキー世界では、癖が衝突し摩擦している。磨き抜かれた癖が技となる = 癖が濃くなり過ぎる「癖の技化」が発生する。

<ポリフォニー(多声音楽)的>
ドストエフスキーの小説の登場人物達は、作者の代弁者ではなく、各自が自我を主張し、互いに融合する事の無い魂の交流が発生する。



『罪と罰』
①過剰に「卑屈」なマルメラードフ
主人公ラスコーリニコフが居酒屋で出会う男。過剰な自尊心を持ち、自らをキリストに准える。自分の恥部を初対面のラスコーリニコフに曝け出し、引きずり込む。

どのような人間にも行く場所があって良いというドストエフスキーの根源的思想を体現?

②過剰に「不意」なラスコーリニコフ
現状を踏み越える手段を探している。

「犯罪を犯す」という言葉が「踏み越える」という言葉で表現される。踏み越えるという語は「罪(プレストゥプレーニエ)」という言葉と語源的に繋がっているらしい。



自分でも思っていない事や思い付いた事を「不意に」行う。それは他人の言葉を受け入れるからだ。自分が否定した言葉にも影響され、後々の行動を変化させる。そうした素直が周囲の教育欲求を誘発するとしている。

③過剰に「同情的」なソーニャ
不幸な人間を見ると、自分も一緒に辛さを分け合いたくなる。

自分を売春にまで追い込んだ実父のマルメラードフにも優しい。ヒステリーな母親にも同情する。聖なる娼婦であり、殺人者であるラスコーリニコフとはキリスト教の教えに背いた者同士である。民衆宗教的キリスト教が二人の絆になる。

ラスコーリニコフの前で聖書を朗読し、狂信を見せる事でラスコーリニコフの信頼を得る。

④過剰に存在感をまきちらす端役たち
他に過剰に胡散臭いスヴィドリガイロフ(嫌な臭いを過剰に発する)や過剰にお人よしのラズミーヒン、過剰に教育熱のある予審判事ポルフィーリィ等。

『白痴』
⑤過剰に「男を揺さぶる女」ナスターシャ
矜持と素朴を合わせ持つ。多くの人間は、本性が垣間見えるものと考えるので、嘲笑から覗く純潔に魅せられる?何も尊重してないために、躊躇う事が無いとする。

自尊心が強く自尊心で自分を傷つけるアグラーヤとムイシュキン公爵をめぐって対立する。

⑥過剰に「素朴なモテ男」ムイシュキン公爵
ドストエフスキーの悲願とする無条件で美しい人間?

過剰で素朴で鈍い人間であるために無駄な自意識から免れており、他人の苦悩に寄り添えるとする。自分自身の事に煩わされないので的確な発言が可能。ほとんどの人間から馬鹿にされているので、多くの人間がムイシュキン公爵の前では本性を剥き出しにする。

誰もが安心して全てを曝け出す空白。

『地下室の手記』
⑦過剰に「自意識肥大なひきこもり」地下室の住人
惨めの中に快楽を見つける人間。

賢明な事を望む義務から逃れ、愚かを望む権利を手にする。他者の予測を裏切る事が自我の主張である。

自分で自分の事を考え過ぎると、全てが自分の想定内になり、考え過ぎる事で行動困難となり、自分が予測しない成長が難しくなる。

自意識が自分の身体知(欲望)に問い掛け言語化する対話構造は、他人と関わり難い。そうした対話構造を持つ人間が場を同じくすると、自分の言葉を浴びせ合い、混乱が生じる。通常は発生し得ない魂の共感。生きている事を実感する祝祭。

『死の家の記録』
⑧過剰に「凶暴」な監獄の囚人たち
ドストエフスキーは思想犯として4年間シベリアに流刑されている。

その極限状況で人間を観察する事で人間の奥底を描く事が出来るようになったとする。罵りの技術が磨かれ、無反省の中の蟠りを垣間見る。

囚人達は監獄内で貯蓄し、金を使用する時に自由を感じる = 自分の意志で行動する事を感じる。自分が何でも出来る事を他人に思い知らせたい。

他人同士が共同生活をおくる苦痛。



ドストエフスキーは、監獄の中で如何なる事にも人間が慣れる事を発見したとする。

『賭博者』
⑨過剰に「人生を賭けている」賭博者たち
ドストエフスキーの被虐世界。

自らが周囲から独立し、自分自身で充実感を感じる事が出来るのは、非日常的な賭博の世界だ。

『悪霊』
⑩過剰に「期待させる男」スタヴローギン
期待外れな男。

スケールの大きい雰囲気を持っているが、退屈と虚無に塗れている。常識と離れた行動をする事で生を実感する。浅い人間である故に、不名誉や卑劣に底深さを感じる。そのため、誇りを守ろうとせずに超然としている。

そのような動かない心を強靭と勘違いした人々がスタヴローギンを崇拝する。

スタヴローギンの母親ワルワーラ夫人は強いが、男達の底は浅い。ドストエフスキーは、そのような浅い人間達を描くが、奥行きが出てくるとする。

『カラマーゾフの兄弟』
⑪過剰に「好色」なフョードル
どのような女性にも性欲を掻き立てる。これまでの生涯に醜い女はいなかったと主張する。

道化の演技が得意。自分の行動に対する反応で相手の本質を見抜く。

二度目の妻は、ヒステリックな発作を起こす体質であり、カラマーゾフ家のブランドは、女好き、強欲、神憑りとなる。

⑫過剰に「祝祭的な空間を作り出す」脇役たち
スメルジャコフ:
母親の綽名である「嫌な臭いのリザヴェータ(スメルジャーシチヤヤ)」を捩った名前らしい。軽蔑されながらも恐れられている。

行動する事が可能であり、考えるだけで行動出来ない人間の代理人となる。カラマーゾフの次男イワンから、「全ては許される」という思想教育を受けてしまう。理論先行で行動出来ないイワンと、行動が先行するスメルジャコフは対の存在であり、臆病者として同一になる。

グルーシェニカ 対 カテリーナ:
対照的な美女の対立。

二等大尉スネギリョフ:
息子のイリューシャを愛している。子供は立派な父親を持ちたいが、現実には情けない父親だ。しかし、誇り高くあろうとし、また、愛そうともする。

カラマーゾフの兄弟は、狂乱の後に祝祭的な締めくくりで終わる。

フョードル・ドストエフスキー
⑬過剰に「情熱の燃え上がるごった煮男」ドストエフスキー
作者であるドストエフスキーの過剰について。

ドストエフスキーの作品の登場人物は、それまでの行動からは予測も出来ない行動を突発的に起こす。周囲の人間は予測を外され、引きずり込まれていく。

そうした当人すらも制御不可能な過剰は、ドストエフスキーも持ち合わせており、浪費家だったドストエフスキーは賭博に熱中し、妻が近くにいないから冷静になれないという理論を展開する。



浪費癖で常に金に困り、また、女好きで恋を多く経験した。

アポリナーリヤ・スースロウとの恋愛では、自尊心が強くエゴイストの女性との恋愛を経験し、被虐的快楽に浸る男性を理解。



残虐に対する欲望と苦痛に対する欲望は相反するものでありながら共存するものであり、それだからドストエフスキーの登場人物達は豹変するように見える。

幼少期に厳格なロシヤ正教の教育を受けたドストエフスキーは、彼自身の個性と対立し、自分が生きている現実と自らの思索を絡ませて作品とする型を生み出したとする?



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ハロウィンだった

今日は街中で変装した人間を沢山見掛けた。

ハロウィンだったらしい。

普通に生活しているだけで何だか疲れている。精神や身体が疲れているというより、考える事に疲れているのだと思う。

それは周囲の人間も同じで、皆、疲れているように見えた。

お祭りなのに盛り上がっていない。そのような話。

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部下を伸ばす上司は爬虫類型か哺乳類型か

読んだ本の感想。

著者 ジョゼフ・ホワイト、ヤーロン・プリヴェス
2008年5月27日 第1刷発行。



以下は、オンラインアンケートへのリンク?上手く接続出来ない。

www.thenatureofleadership.com

以下の2つの人間型。指導者は2つを兼ね備えていなければならないとする。

①爬虫類型
分析的思考に長け、数字中心で考える。

②哺乳類型
総体的思考に長け、人間中心で考える。

爬虫類的である事により秩序や安定を部下に提供可能であり、哺乳類的である事で部下から信用されるようになる。

<リーダーシップ>
リーダシップの基礎は、リーダーになりたいとする心である。

指導者の爬虫類的側面:
理性的な分析と自律心により、真実を見抜き、細部に注意を向ける。

指導者の哺乳類的側面:
人間に対する包容力により、人の立場に立って考える。

◎爬虫類型
強い精神力と決断力を持つ。権威は本人が行使しない限り意味を持たない。以下の特徴。

・理論により大きな観点と詳細な観点の両方から考える
⇒経済理論を学ぶと、日々の経済変化について細かい説明を聞く必要が無くなる

・数字に関しては組織で一番詳しくなる
⇒会計知識を持つと、企業内部を把握出来る

・計画を持ち、着実に実行する
⇒部下に明確な動機付けを与える

・組織資源を効率的に管理する
⇒違反に対しては断固として処理する

・必要な時は断る
⇒感情的強さによる

◎哺乳類型
人材育成に貢献する。以下の三要件。

①部下の尊厳を守る
②部下の可能性を発展させる
③周囲の人間を成功させる

上司の積極的関心や、権限譲渡、動機付けは部下を精神的に支援する。そのために部下の夢を理解し、その夢を実現する方法と仕事を結び付て示す。

部下が目標を達成するまでの道筋を考え、必要な資源(権威、指示、専門性等)を提供し、他の人々と連携させる。

*****************

<最高のリーダー>
以下の条件。

①革新的(既存の方法に満足しない)
⇒独自の考えを持つ

②危機に対処する
③優秀な人材を求める
④ヘリコプター・ビュー(展望能力)
⇒周囲に対して仕事の大きな意味を語り展望を示す

⑤活力要因を見せる
⇒人柄や外見で周囲を鼓舞する

人間は生まれつき、爬虫類型と哺乳類型の両方の気質を持っている。そして、経験が蓄積されていくに連れて自分の型を習得する。そこから、自らの型を自覚し、発展していくべきである。

以下が、リーダーシップにおける課題。

①理解
仕事が変わると業務内容や生活が変化し、思考の転換や業務に関する理解、機会への対応方法を模索しなければならない。

②決断
不確実な状況で変革を起すには、戦略的判断に基づく決断が必要である。

③責任
大きな責任が要求される仕事には、深い見識と広い視野が必要である。業務内容が複雑である場合は外部人材との接触が必要になる。

④影響力
自分の権威が及ばない範囲の人々にも影響を及ぼし、幅広い人間関係を構築する。

⑤障害
難しい状況にあっても成功する戦略を練るためには、忍耐力や自信が必要である。

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ハンバーグを食べたら一日が終わる

生活のリズムが乱れている。

自分の中にあるペースに忠実に生活すると、昼間に寝て、夜起きる生活になっている。

時間があるような無いような感覚だ。

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権力に翻弄されないための48の法則

読んだ本の感想。

著者/ロバート・グリーン/ユースト・エルファーズ
1999年12月10日 初版発行。






力の行使は、道徳的で文化的、且つ公正に見えなければならない。これは逆説だ。道徳的な人間であっても力に飢えており、その行動は力を手にする事を目的にしている。

法則1 主人より目立ってはならない
太陽は一つしかない。

失墜しかけていない限り、主人には優越感を持たせておくべき。ルイ14世に更迭された大蔵卿ニコラ・フーケや豊臣秀吉に処刑された千利休を例とする。

法則2 友を信じすぎず、敵をうまく使え
猛獣に恩を期待出来ないように、仕事上の友人との関係は必要な境界線がぼやけてしまう危険がある。

ビザンティン帝国のミハエル三世は、友人であったバシレイオスにその位を追われた。

人間は自分で思っているよりも友人を知らない。友人同士では、口論を避けるために安易に相手に同意するため、自分の望ましくない部分を隠す事がある。そのため、友人を頼ると隠された部分が明らかになる。友人であるというだけで他人に恩恵を与える事は人の誇りを傷つける行為である。

逆に、必ず勝てる敵の存在は、自分の大義を知らせ、目標を明確化するために有益である。

法則3 本当の目的は隠しておけ
目的を示さない事で相手を不安にさせる。意図が見えなければ防御出来ない。さらに、偽りの秘密を明かす事で信頼させる方法もある。

<ニノン・ド・ランクロ>
17世紀フランスの高級娼婦。他の女に関心を持たれている男の価値は高い。さらに、会えると思える時に顔を出さない事で混乱させ、誘惑を成功させ易くするとしている。

法則4 必要以上に多くを語るな
言葉で感銘を与えようとすると凡庸に見られる。沈黙は相手を不安にさせ、喋らせる事で情報を引き出す事が出来る。ただし、饒舌を見せる事で自分を愚かに見せる戦略もある。

<ガイウス・マルキウス:コリオラヌス>
紀元前5世紀のローマ軍人。紀元前454年に執政官に立候補し、自分の傷跡を示すパフォーマンスをしたが、実際に演説をすると人気が急落し、尊大な態度から終身刑になった。

法則5 名声は大いに頼りになる
   ―生命をかけて名声を守れ

名声は力の礎である。人間は他人を完全には理解出来ず、それが人間を不安にさせる。そこで外見で判断するようになる。それだからこそ名声を保つ事は重要だ。自分の評判が傷ついている場合は、高い評価を受けている人間と組むべき。

法則6 ぜひとも人の注目を集めよ
全ては外見で判断される。忘れられないイメージを作るべき。群衆は利益を生む。注目の種類を選り好みしてはならない。ただし、権力者の評判を汚す事の無いようにしなければならない。

<マタ・ハリ>
20世紀初頭のパリで有名になった踊り子。聖なるインドの踊りをすると話題だった。第一次世界大戦中にスパイとして逮捕され、オランダ北部出身の西洋人である事が明らかになった。神秘的な雰囲気で人気だったらしい。

古代世界は理解出来ないものを精霊に置き換えていたが、科学の進歩は精霊を駆逐し、世界が凡庸になる事で人々は不可思議を切望するようになっているとしている(神秘性の力)。

法則7 他人を自分のために働かせよ、
    ただし手柄は決して渡すな

他人の力を活用しても、助力者は忘れられ、自分の名前だけが残る。全てを自分で行う者は高みに到達出来ない。

これは同時代の人間だけでなく、過去の人間を活用する意味合いもある。シェークスピアは、戯曲のプロット、人物造形をプルタルコスから拝借しているが、手柄はシェークスピアのものである。

法則8 他人に足を運ばせよ―必要ならば餌を使え
他人に行動を強要する時、主導権はこちらにある。

<ナポレオンのエルバ島脱出>
1815年のナポレオンのエルバ島脱出は、フランスの元外相タレーランがナポレオンを完全に潰すために仕組んだとする。フランスは破産状態にあり、ナポレオンの反抗は短期間で終わる。ナポレオンはアフリカ西海岸から遠く離れたセント・ヘレナ島に追放される事となる。

攻撃的な指導者は先が読めず、完全に支配権を握る事が無い。敵が自ら出向く状況では、敵は自分が状況を操作していると錯覚しているため、陰謀に気付かない。

法則9 言葉ではなく行動によって勝て
議論における勝利は一時的な勝利に過ぎない。ただし、相手を欺く時には言葉は有効である。

特に上位者との議論においては、相手の意見が正しいという前提で、間接的に自説を認めさせなければ勝つ事が出来ない。

行動よりも強力な説得手法は象徴を使う事であり、国旗や神話等を使用する。

<ヘンリー・キッシンジャー>
1975年にイスラエルとの会談を打ち切って、古代城塞マサダを訪れた。73年にローマ軍に敗れたユダヤ兵士が集団自殺した場所であり、その後、イスラエルはシナイ砂漠を一部返還した。

法則10 感染を避けよ
   ―不幸な人間や不運な人間とはつきあうな

心理状態は伝染する。危険性を見抜くには、当人が周囲に与えている影響で見抜くべき。過去で判断する方法もあり、これまでに関係を壊した人間には注意すべき。逆に幸運な人間とつきあうと幸運を手に入れる事が出来る。

法則11 他人を自分に依存させておくすべを覚えよ
他人から必要とされるほど自由になれる。その代償は自分も他人に頼る事であり、それを超えるには上位者を排除する事になる。独占は内側からの重圧にあい、周囲の怒りを掻き立てて敵を結束させる。完全な支配を目指すと破滅する事が多い。

<オットー・フォン・ビスマルク>
力の衰えたフリードリヒ・ヴィルヘルム四世に取り入り、権限を回復させて自分の望む政策を行わせた。1861年に後を継いだ弟のウィルヘルムはビルマルクを嫌っていたが、ビスマルク無しでは敵に対抗出来なかった。

法則12 意図的な正直さや寛大さで敵の武装を解け
誠実な一つの行動は、他の不正直な行動を隠す。ただし、過去に欺きを繰り返したのなら悪党を演じた方が良い。

法則13 他人に助力を求めるときは相手の利益に訴えよ。
    情けや感謝の念に頼ってはならない

過去の恩ではなく、相手の利益に訴えるべき。私利私欲に訴える事を下劣と考える人間は、自分の正義を実行出来る機会を待っているのであり、それによる自分の優位を確認したがっている。そうした人間に頼む時は、彼等の力を強調するという方法で相手の利益に訴える。

<コルキュラ島>
紀元前433年にコルキュラ島とギリシアのコリントスは戦争し、アテネの支援を必要とした。コルキュラは自らの海軍力をアテネに提供出来るとし、コリントスは過去に行ったアテネへの援助を述べた。そして、アテネはコルキュラに味方した。

法則14 友を装ってスパイをはたらけ
社交的に相手と付き合う中で情報を集める。

社交の集まりのような無害な場では、人々は警戒を緩めている。自分が控えていれば、相手は友情を求めていると誤解するし、相手を怒らせて感情的な反応を引き出せば真実を知る事が出来る。

法則15 敵は完全に叩きつぶせ
打ち負かした敵は屈辱を感じ自分を恨むようになる。

法則16 姿を見せないようにして周囲の敬意と
    称賛を高めよ

流通量が多くなれば値段は下がる。ある程度の力を持っている場合は、存在を強調し過ぎない方が良い。優れた人間であっても、周囲は最盛期との比較をするので引き時を心得る必要がある。

法則17 予測不能の雰囲気をかもしだして、
    相手をつねにおびえさせておけ

人間は習慣の生き物であり、他人の行動に同質性を必要とする。予測可能な人間は支配可能と思われる。一貫性も目的も見えない行動は相手を消耗させる。

人間は他人の行動の裏にある動機を読み取ろうとする。そのため、不可解な行動は相手を防戦に回せる。

時には、一定のパターンを作っておいて、他人に慣れさせて裏をかく方法もある。

法則18 保身のために砦を築くな―孤立は危険である
砦にこもると情報から遮断され標的になる。周囲と交われば群衆が敵を遮断する。

人間の力は社会的相互作用と交流の上に成り立っている。

例外は思索であり、社会からの重圧を避けて一時的に孤立して思索する事もある。ただし、孤立には歪んだ思想が生まれる可能性がある。また、孤立から抜け出る事は困難であるため、社会復帰の窓口が閉ざさないように注意すべき。

法則19 相手の性格を見きわめよ
   ―不適当な人物を攻撃するな

以下の型は、ペテン師が厄介とする人物像。

平均的な人間よりも自信が無いために、僅かな侮辱にも耐えられない人間がいる。冗談をしかけて笑う人間は自信がある人間であり、不安定な人間は侮辱と感じる。

① 傲慢でプライドが高い
傷つき易い自尊心のために過剰反応する。何をされたかは問題でない。
② 不安定な人
上記①と近いが暴力性が低い。攻撃されたと感じるとしつこく攻撃する。
③ 猜疑心が強い
他人の中に自分が見たいもの(最悪の部分)を見て自分を狙っていると思う。しかし、この型はとても騙され易い。他の人と敵対するように仕向けるのは容易い。
④ 記憶力が良くて陰険
表面上は怒りを表さないが形勢が逆転すると復讐する。
⑤ 愚鈍な人
騙されるには、見返りを期待する知力と想像力が必要。鈍感な人は逆に用意した罠にかからない。欺く事に過大なエネルギーを消耗するので、別の型を相手にした方が良い。

法則20 誰にも深く肩入れするな
周囲の喧嘩に巻き込まれない事で中立を守る。当事者達が疲れた時を機会とする。

大抵の人間は感情の渦の中で行動し、周囲に反応しながら揉め事を起す。完全に孤立していれば無用な怒りを買うため、他人に興味があるように見せかけながら、深入りせずに問題を表面化しない。

贈り物をし、同情を持って話を聞き、それでいて距離を置く。自分を求める人間を長く待たせ過ぎると嫌悪されるため、他人に共感出来る事を証明するために味方をしなくてはならなくなる。

法則21 だまされやすい人間を装って人をだませ―
    カモより自分を愚かに見せよ

他人に愚かと思わせれば、真の目的を疑われない。

他人が自分よりも聡明と感じる気分は耐え難いものであり、知的に優位にあると錯覚させる事で騙す事が出来る。ただし、下位にいる時は過度に愚鈍に振る舞わず、巧妙に自分の実力を知らせるべき。

法則22 降伏戦術を使って、弱さを力に変えよ
自分の方が弱いと思ったら、降伏して時間をかせぐ。敵に過剰反応すべきでない。降伏戦術では、内面には信念を持ち、外面では屈服する。

法則23 自分の力を結集せよ
複数の戦線に戦力を分散させるべきでない。ただし、劣勢である時は分散して的を絞らせない戦略もある。

<ロスチャイルド家>
18世紀末に金貸しで富を築いたマイヤー・アムシェル・ロスチャイルドは、事業を外部に委託せず、近親者だけを使用した。五人の息子が跡を継ぐと、子供達同士、いとこ同士を結婚させるようにして財産の分散を防いだ。欧州最速のメッセンジャー・システムを確立し、情報はフランクフルト訛りのイディッシュ語で書かれていたため、一族外には漏洩しなかったらしい。

法則24 完璧な廷臣を演じよ
廷臣は支配者を喜ばせる小宇宙を作るべき。廷臣は上品で礼儀正しく攻撃性を隠す。
以下の法則。

① 誇示しない
② 呑気な態度(仕事中毒でなく天才を装う)
③ 諂わない(間接的に相手を褒める)
④ 態度に他とはさりげない違いを見せる
⑤ 相手によって態度を変える
⑥ 悪い知らせの使者にならない
⑦ 主人に友達のような態度を取らない
⑧ 上司を直接批判しない
⑨ 上司に頼み事をしあに
⑩ 外見や好みで冗談を言わない
⑪ 皮肉屋にならず褒め称える
⑫ 自己観察を怠らない
⑬ 感情を抑える
⑭ 時代精神に合わせる(時代遅れの恰好をしない)
⑮ 喜びの発信者になる

法則25 新しい自分を創造せよ
同一事象の繰り返しは周囲に自分を慣れさせてしまう。今までの方法論を壊してこそ興味を掻き立てる事が出来る。

法則26 自分の手を汚すな
事情が許すなら、敵に破滅を選ばせる方が良い場合がある。敵が激しく応戦するなら退路を残しておき、退却によって疲弊させる。

法則27 何かを信じたがる人間の性向を利用して、
    盲目的な崇拝者をつくれ

人間は信じたい欲求を持っている。特に変転極まりない時期は、新しい大儀が必要とされ集団を求めるようになる。

以下のステップ。

① 曖昧で単純
大きな変化を引き起こす何かを約束し、それを曖昧に主張する。聴衆は、漠然とした情報を自分が見たい夢に関連付ける。細かく説明すると約束を果たす事が期待されてしまう。
複雑と向き合う忍耐を持つ人は少数なので単純な解決策を見せる。
② 視覚と感覚を強調
自分の周囲を贅沢品で囲み、あらゆる感覚を利用して信者を幻惑する。劇場に似た設定。
③ 組織宗教の形式
信者が増えれば、儀式を用意し、階層性を作り、信望者に宗教的な肩書を与える。パワーを大きくする犠牲を信者に求め、予言者のように振る舞う。
④ 収入源を隠す
自分が金を渇望していると思わせない。収入源を偽れば、それが布施でなく理論の正しさから出た事になる。
⑤ 「我々」対「彼等」
集団が大きくなると、団結を保たなくてはならない。信望者が特権的クラブに属していると錯覚させ、架空の反対勢力を作り出して結び付きを強める。批判者は悪の走狗にしてしまう。

法則28 大胆に行動せよ
臆病は危険である。大胆が原因で犯した失敗は、さらなる大胆で帳消しにする。以下の意見。

・ライオンは怯える獲物に近付く
・大胆は恐怖を撃退し、恐怖は権威を作る
・中途半端は危険
・図太さは自分を際立たせる

誘惑される楽しみは、他人に圧倒されて自分を失い、疑いを忘れる事にある。誘惑者が躊躇うと魔法は消える。

法則29 終わりにいたるまで計画を立てよ
理性ではなく感情で動いた場合、計画は漠然として、障害にぶつかると姑息な手を打つ。具体的な目標が無ければ、勝利してもさらに欲しくなり、力を維持出来なくなる。目前の危険を過大に恐れ、遠くの危険を軽んじてしまう。

法則30 努力は人に見せるな
成果を出す仕組みを教えない。研究や研鑽を隠すと天才と思われる。

法則31 選択肢を支配せよ
   ―自分に都合のいいカードを引かせる

人間は自由が大き過ぎると不安になるため、選択肢を示す事で行動を制御出来る。人間は少しの意志の自由を手に入れる代わりに、大きな他人の意志に従っている事に気付かない。

<イヴァン四世>
1564年、イヴァン四世は国内の反体制貴族や、リトアニアに亡命して侵略を先導する亡命貴族に悩んでいた。彼は、何の説明も無しにモスクワ南部の村に隠居し、意図的にモスクワを無政府状態にした。
その上で自らに独裁権力を与えるか、内乱か選択を突き付けた。人々は強いツァーリを選んだ。

法則32 幻想に訴えよ
大衆の幻想を利用する。

とりわけ欠乏と衰退の時期には、人間は幻想に付け込まれ易い。平凡で退屈な日常や過酷な現実が幻想を加速させる。

現実社会には堅固な規律と境界があり、人間は同一の見慣れた範囲を動かなくてはならないが、幻想では新しい世界が手に入る。遠方にある世界は魅力があり、単純で問題無いように見える。

<P・T・バーナム>
親指トムというショーを成功させた。ナポレオン等の有名な指導者を諷刺する。当時の人々が求めた普通の人間こそ最高の知恵を持っているという幻想に訴えた。誠実な人間は困難いぶつからないし、幸福とする。幻想を保つために「普通の人間」をありふれたものにしてはならない。

法則33 人の摘みねじを見つけろ
どんな人間でも感情や欲求の弱点を抱えている。注意点として、本人でも制御出来ない感情は他人にも制御出来ない場合があり、こちらが与えようとしているものよりも多くを欲しがる可能性がある。

以下の原則。

① 無意識のサイン
意識の働かない些細な仕草に弱味は漏れ出る。
② 無力な子供
子供の頃の欲求は隠されているだけで継続している。子供のような行動を取る事が多い事に注意するべき。
③ 正反対
恥ずかしがり屋は褒めてもらいたい。見てくれの裏にあるものを探す。
④ 急所を見つける
集団のリーダーに気に入られるか、圧力に屈するメンバーを見つける。
⑤ 心の隙間
不安と不満を持つ人々は弱味を隠し難い。
⑥ 制御出来ない感情
状況に不釣り合いな強い感情を探す。

<カトリーヌ・ド・メディシス>
フランス皇太后として、侍女を愛人として派遣する事で貴族を操った。貴族のような高い地位の男性は女性をものにする時に、親から受け継いだ地位に頼る必要が無いと思いたがる。関係の初めに女性が口説き落とされた振りをすれば、情婦に支配されても気付かない。情熱が強いほど人間は無防備になる。

法則34 自分のやりかたで王になれ―
    王のように振る舞えば、王のように扱ってもらえる

親しみ易い見せかけを作り一般市民との距離を無くす指導者は忠誠を呼び起こす力を失う。
自分は偉業を成し遂げるという信念は外に放射される。以下の戦略。

① 自分を高く評価し大胆な要求をする
② 集団内で地位の高い人物を相手にする
③ 自分より地位の高い人物に贈り物をして対等の立場になる

法則35 タイミングをはかる技術を習得せよ
時間を掌握している事を示すために急いでいる事を見せてはならない。以下の3つの時間。

① 長い時間
辛抱強くゆったりと構えて対処すべき時間。
② 押し付けの時間
敵のタイミングを狂わせる武器として使う短い時間
③ 最後の時間
素早く計画を実行すべき時間。

法則36 手に入らないものは相手にするな。
    無視することが最大の復讐である

小さな過ちを修正しようとすると目立つようになる。ある人物に注意を払う時、二人はパートナーになる。相手の出方に合わせて動く事になる。こうなると主導権を失ってしまう。他人を認めると影響を受けてしまう。

ただし、小さい問題が破滅につながる可能性もあり、見分ける目が必要になる。

法則37 壮大なものを見せて人の目を釘づけにしろ
印象的なイメージや堂々とした仕草はパワーのオーラを生み出す。人々は感情に直接訴えるものを求めている。
イメージは、疑いが陣取る頭脳を迂回し、心を狙う。視覚を圧倒すれば強力な連想を呼び起こす事が出来る。

言葉を使用して相手を説得しようとすると、相手も言葉を使用して良く考えた結果、反対の意見を信じるようになる可能性がある。

イメージは既定事実として現れ、意図に反した解釈を抑え込む。議論を引き起こし対立を生む言葉に対し、シンボルは集団を結集させる。壮大な光景は人々を畏怖させ、不快な現実から目を逸らさせる。

法則38 考えは自由でも、行動は他人にならえ
革新的な行動は人々の劣等感を呼び覚ます。安全なのは普通になる事である。

<パウサニアス>
紀元前5世紀のスパルタ貴族。紀元前478年にペルシャに派遣され、ビザンティウムを占領したが、ペルシャ風のローブや宴会を催し、ペルシャの独裁者を気取ったため、人々の反感を買い、寺院に逃げ込んで餓死した。
異文化に心酔する事は、自国文化を蔑む事である。一つの文化が持つ規範は、数世紀に渡って共有された信念と理想を反映している。
 
習慣が最初の目的を失って抑圧的になる事は避けられない。そのような抑圧に我慢出来ない人間は、自分の価値観が優れている事を証明する義務がある。しかし、普通の人間は思考習慣を改める事に抵抗する。

オスカー・ワイルドは習慣に反抗して社会的パワーを獲得したが、やがては破滅した。

法則39 魚をつかまえるために水をかきまわせ
自分が穏やかなままで相手を怒らせた時は欺きの機会である。

怒りの反応を見せると、周囲は彼がどの程度まで怒りを抑制出来るか不安に思ったり、恨みを抱く。敵が制御出来ない感情を刺激し、主導権を握らせない。

ただし、彼我の力量差があまりに大きい場合は怒らせるべきでない。敵を前もって研究しておく。

法則40 ただ飯を軽蔑せよ
無料に用心せよ。費用を負担する事で感謝や罪悪感から無縁でいられる。贈与には相手と対等以上である事を示す特性があり、恩義を伴うものである。

<スペイン>
南米の黄金はスペイン没落の原因となった。得られた黄金は遠征のための再投資に費やされ、農業等の生産性向上に使用されなかった。簡単に手に入る物は力を減退させる。
金は循環させなくてはならず、そのためには生産性向上が必要である。

法則41 偉大な人間の靴に足を入れるな
何事も最初に行った者が一番良く見える。偉大な王国を継いだ者は、空隙を満たす必要性が無いために腐敗する事がある。

それを避けるためには、心理的に相続財産を軽視し無となる必要がある。

古代王国の多くでは、王が何年か支配した後に臣下が王を死刑にする風習があった。更新の儀式として王の権力が過大になる事を防ぐ。死んだ王は慢心する事が無いので神として扱われる。

モーセやヘラクレス等は世俗的な父親がいない。制約する父がいない事で大きな力を手に入れる。過去の幻影から逃れるのは、過去を軽んじる事である。そして、前任者とは異なる事を儀式等で象徴しなくてはならない。

法則42 羊飼いを攻撃せよ、そうすれば羊は散り散りになる
厄介毎は、大抵は一人の強力な個人に原因がある。影響力を中和するには孤立させるか追報するしか方法は無い。

トラブルが発生したら強力な個性を探し、それが混乱の発生源として孤立させるか追放する。

<陶片追放>
紀元前6世紀頃に民主化したアテネが作り出したシステム。利己主義者に暴力的でない方法で対処する。10年間アテネから追放したい人物を定期的に投票する。

一般市民に劣等感を抱かせる人物は民主主義を荒廃させる。暴力的な罰や教育は別の問題を引き起こすので追放する。

紀元前490年のマラトンの戦いでペルシャを破ったアリステイデスは紀元前482年に陶片追放されている。

その後を継いだ将軍のテミストクレスも紀元前472年に陶片追放された。

陶片追放の終りは、紀元前417年にヒュペルボロスという低級な人物を追放した事にあるとする。それまでは並外れた人物を追放していたが、道化師を追放した事で制度の価値が下がったとする。

法則43 相手の頭や心に働きかけよ
相手の感情に働き掛ける。

地位が高いほど下層階級の心の状態に合わせるように努力しなければならない。人間は誰しも愛着や帰属意識を持ちたいと願っており、そのような感情を刺激する。

そのためには最悪の事態を覚悟した捕虜に温情を与える等の衝撃が最良。簡単な方法は、何をすればどれだけ得になるかを示す事である。

誌的なメタファーやイメージも人々の心に具体的に届く。ナポレオンはゲーテを傍に置いた。

法則44 ミラー効果で敵を武装解除させ、
    あるいは激しく怒らせろ

敵の真似をする事は敵を嘲る行為であり、敵は過剰に反応する。

鏡の中に映る自分は主体ではなく客体である。自分を形成する思考も精神も無い。他人の行動を映し出す事で、相手が魂の無い物である事を示す。

同様に、相手の願望を映し出せば相手の心的防備を解く事が出来る。そのためには、相手の仕草を観察し、服装や友人の好み、習慣や何気なく喋る事から隠された欲望を分析しなくてはならない。

法則45 変革の必要性を説け、ただし一度に多くを変えるな
人間は習慣の生物であり、過激な変革には反発する。

<トマス・クロムウェル>
16世紀前半の英国において、プロテスタントを布教させるべく、ヘンリー八世がカソリックから改宗すれば愛人のアン・ブーリンと再婚出来ると説いた。

一時的には成功したが、1535年に反乱が起こる等、影響が大きかったために斬首された。習慣や儀式は人間を安心させるためにある。

<毛沢東>
共産主義を普及させるべく、革命を過去と同じものと見せた。『水滸伝』にある盗賊団の絆は儒教的な家族の絆を凌ぐ価値を説いており、革命軍を『水滸伝』の盗賊団の延長線上に描く事で共産主義を伝統的な大儀で包んだ。

政権についた後も、自らを諸葛亮に准えたり、政敵を孔子に例える等、過去の強大な力を活用した。伝統を熱心に支持する振りをすれば、実体が型破りでも気づく人間は少ない。

法則46 あまり完璧に見せてはならない
嫉妬は敵を生む。故意に欠点を見せる事で無害を装う事が出来る。完璧でも無事なのは神と死者だけである。
嫉妬心を逸らすには、大衆と同じ格好をして、同じ価値観を示し、一員になる事だ。

法則47 狙ったところを超えて進むな、
    勝ったら引きどきを心得よ

勝利の瞬間は、最大の危機の瞬間である。遠くへ進み過ぎると負かした敵よりも多くの敵を生む。
成功者は、自分に楯突く者に必要以上に敵愾心を抱くが、そのために状況に適応困難になる。勝利した時こそ、幸運が変化していないか注意し、基盤固めをするべきである。

法則48 かたちあるものなどない
明確な計画は攻撃を受け易い。生物進化の過程では、身を守る鎧によって柔軟性が無くなる事例が多々見られる。
厳格な制度や安らぎのための儀式は長期的には硬直化するか可能性がある。

無形の様式に通じるのは一人で君臨した女王達であり、女性であるために統治能力について疑念を抱かれ易く、柔軟性に富んだ統治方法を身に付けたとされる。男性のように権威主義者にはなれず、争いにおいて一方の味方をすれば感情的な愛着によるものと思われてしまう。

自分の方法に固執すると、予測され易くなってしまう。

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エドワード・ルトワックの戦略論

読んだ本の感想。

エドワード・ルトワック著。2014年4月30日 第1刷。



国家の発展や戦争における勝利、技術開発等でも、成功の極限点があるとする。一定のレベルを超えて成功し過ぎると、影響力を減少させる結果を招く事になる。

以下の5つの戦略レベル。下にいくほど上位になる。

①技術レベル
②戦術レベル
③作戦レベル
④戦域戦略
⑤大戦略

戦略の以下の2つの側面。

①垂直の側面
各戦略レベルの相互作用
②水平の側面
独立した各戦略レベルにおける作用と反作用

⇒大戦略においては、各戦略レベルが垂直的に相互作用し、且つ、国家間の外交を水平的に収斂させていく

第一部 戦略の論理
<逆説的論理>
戦争においては、生活にて適用される「直線的論理」とは異なる、相手の思考を外すための「逆説的論理」が重視される。敵を欺くために様々な逆説的論理(不完全な準備や悪天候での行動等)が正当化される。

逆説的行動は一定の自軍戦力を確実に喪失させる。そして、現実の戦果は期待値でしかない。喪失は計算可能であるが、敵被害は計算出来ない。

そのような戦闘リスク以外に、自軍が非論理的な行動をする事による組織リスクもある。複雑な計画通りに組織が機能しない可能性。そのため、事前に組織が許容出来る複雑を考量しておかなければならない。

⇒相手を欺くための逆説的行動は、必ず一定の損害を伴う。しかし、利用可能な資源を全て効率的に活用する直線的論理に基づく軍事行動は戦史上一般的でない

例外は、敵に対して圧倒的に優位な戦力を保持している場合で、組織的リスクを最小化するために全戦力を効率的に活用するべきである。

<極限点と逆転>
通常の戦争や技術導入において、勝利や普及が一定の均衡を超えて、最終的には逆転する事がある。

勝利の極限点を超えて敵領内に攻め込んだ軍隊は、補給困難から劣勢に陥る。効果的な兵器であっても普及し過ぎれば対抗措置の発展を生む。

その本質は、敵の反応である。直線的論理においては、有用な同質武器を大量調達した方が効率的であるが、敵は特定武器の特徴や弱点に対応するはずで、軍隊は一定の多様性を許容せざるを得ない。

極限点を超えた場合の成功は、全体的には大損害を発生させる。第一次世界大戦におけるヴェルダンの戦いでは、フランス軍がヴェルダン要塞防衛に成功してしまったため、要塞防衛に過大な軍事力を投入せざるを得なくなった。

*************

著者の意見として、外部介入により戦争が極限点を超えない事で戦争が長期化する事があるとする。

小規模で限定された規模の内戦は何十年も継続する事がある。戦争が安定した平和を導くのは、戦力を使い果たし、多大な犠牲を払った場合のみかもしれない。

インド・パキスタン、韓国・北朝鮮の休戦は、軍備拡大を無限に継続させる要因になっている。国連パレスチナ難民救済事業機関の活動は、難民を拡大再生産している。人命重視時代においては、遠方からの爆撃だけで行われる戦闘のみが許容されるのかもしれない。

第二部 戦略のレベル
上位の戦略レベルは、下位の戦略レベルを包括する。

戦術的に劣る軍でも、全体的に優れた作戦があれば勝つ事が出来るし、作戦は全ての戦域の相互作用によって制約される。さらに戦域は、国内政治や外交、経済活動を含む大戦略の一部である。

<技術レベル>
高い性能の武器等?

〇ミトライユーズ
1869年にフランス陸軍が導入した機関銃。一分間に300発が発射可能で有効射程距離500mであったが、大砲のように後方で扱われたため、普仏戦争では真価を発揮出来なかった。
1870年8月18日のグラヴロットの戦いでは、プロシア兵がフランス軍陣内に深入りし、ミトライユーズの射程距離内に入った結果、その日のプロシア軍の死者2万163人の多くはミトライユーズによるものとされる。しかし、戦争の帰趨に影響する事は無かった。

⇒技術レベルの優位が戦術レベルで無効化された例

<戦術レベル>
地形や植生、集団としての戦術技能、部隊の結束力等。

<作戦レベル>
関係する全ての軍に関する戦闘を含む。以下の2つの様式。

①消耗
火力と物量による累積的な破壊を通じて勝利する事を目指す。

⇒費やした質量に比例した結果を予想する

②相対的機動
敵の物理的、心理的、技術的、組織的な弱点に対し攻勢をかける。

⇒敵の長所、短所を判断する正確性に左右される

自軍が物量面で勝っていると判断した国家は、一般的には消耗という手段を選択する。逆に劣っている側は相対的機動により敵の脆弱性を攻撃しようとする。

消耗と相対的機動は、研究開発においても当て嵌まる。単純に兵器を改善する事を目標とする消耗のアプローチと、敵の特定の脆弱性を攻撃する事を目標とする相対的機動のアプローチ。

〇戦術と作戦の逆説
戦術レベルで見れば、縦深浸透攻勢は脆弱である。細長い列の側面は敵の攻撃にさらされ易い。しかし、作戦レベルで見ると、複数の縦深浸透する梯団に自軍を分断される可能性がある。防御側が、敵側も広域の攻勢作戦により前線を押し下げる事を目指していると誤認した場合、被害が拡大する。

<戦域戦略>
軍事力と領土を結び付る観点。

戦域レベルの論理によれば、特定地域を防禦しない事もあり得る。戦術レベルでは、攻撃側よりも防御側の方が有利であるが、より広い観点からは敵が防衛線を迂回する可能性がある。そして、狭い地域を集中攻撃される事も考慮しなければならない。

冷戦期における西ドイツにおいては、一部領土が非核兵器に対して脆弱な方が、都市全体が核攻撃される危険性が低下するという意見があった。

第三部 最終結果―大戦略
直接的論理において戦争は悪であるが、国家間の外交においては直接的な武力行使ではなく、武力による誘導を通じた国益確保も行われる。

逆説的論理として、武力を行使しないための武力誘導が効力を発揮するために、武力を行使する可能性が高いと思わせなければならない。

以下は、大戦略と下位レベルの戦略が不適合である例?

〇北アフリカ ドイツ遠征軍
戦術レベルの成功が大戦略の失敗によって覆された例。

エルヴィン・ロンメル中将は、1941年2月に一個師団を率いてイタリア領トリポリに派遣された。ロンメルはドイツ陸軍総司令部からイタリア軍の抵抗支援のみを命令されていたが、命令を無視してキレナイカ東部の港トブルクの英軍を攻撃。当初は勝利を収めたものの、やがては成功の極限点を超えて退却を迫られる事になる。

北アフリカ作戦全体が、東部戦線や西欧州等と違う副次的戦域だった事が大きい。各戦略レベルが垂直的に有効機能しても、ドイツの大戦略は水平的な外交の失敗によって破綻していた。

米国、英国、ソヴィエト連邦を敵にした事で、物質的資源において劣勢になり、ドイツの軍事的成功は不可能だった。

仮にロンメルがカイロとスエズ運河に到達していたとしても、英軍は上エジプトとスーダンの基地からカイロ南部やスエズ運河のシナイ半島側に新たな戦線を築き、紅海を通じて補給する事が可能だった。

さらにロンメルが勝利したとしても、英軍の抵抗は終わらず、ドイツ軍は占領地の確保に資源を割かなければならないため、勝利するほど不利になっていく。この戦略でロンメルが最終勝利するには、アフリカのケープタウンやインドを征服しなければならない。

戦争資源において連合国は優勢であり、損耗率が優越比率を上回らない限り、勝敗に関わらず交戦から利益を得る事になる。

同様の問題は日本においても発生しており、日本が対米戦に勝利する戦略はカリフォルニアへの侵攻から米国主要都市の征服しかあり得ず、それが出来ない以上は和平を求める事が最善の選択肢だった。

そのためには戦争で勝利し過ぎてはならず、滑稽な敗北をした方が、米国との和平交渉で寛大な処置を引き出せたはずである。

〇第四次中東戦争におけるエジプト軍
戦域戦略以下の失敗を大戦略の成功によって覆した例。

エジプト指導層は、イスラエルとの戦争において純粋な戦闘力 = 戦略の垂直的側面では勝利出来ない事を認識していた。

しかし、第四次中東戦争が発生した1973年の国際情勢はエジプトに有利だった。米国はベトナム戦争が終結したばかりで厭戦ムードがあり、ソヴィエト連邦は1972年の戦略兵器制限条約で米国が認めた戦略的均衡を世界政治において要求する傾向があった。

さらに石油資源を背景にしたアラブ輸出市場の魅力がイスラエルを孤立化させていた。

しかし、外交的優位は成果を齎すかは不透明であり、優位を長期的に維持出来るかは定かでない。エジプトは、軍事的勝利によって外交的優位を活性化し、ソヴィエト連邦や米国の関心を引く必要があった。そのためには全面的勝利である必要は無い。

最終的に、エジプトは反撃したイスラエルによってカイロまで70マイルの地点まで追い詰められたが、ソヴィエト連邦や米国の停戦要求によって戦争は終結し、エジプトはスエズ運河両岸地域の支配を取り戻した。

⇒エジプトの大戦略によって、イスラエルの軍事的成功を覆した

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IOT発進

週刊東洋経済 2016.9.17の特集『IOT発進!』で紹介されていた本について。

ほとんど全ての話が、宗教的な神についての話になっている。

IoTとは、「Internet of Things」の略で、様々なものがインターネットに接続される事を指す。

BEATLESS

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2495.html

オービタル・クラウド

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2451.html

火星年代記〔新版〕

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2450.html

know

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2457.html

声の網

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2448.html

ゼンデギ

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2449.html

ユートロニカのこちら側

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2454.html

ニューロマンサー

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2455.html

***************

監修した牧眞司氏は、ネタが無かったんだと思う。IoTとは関係無いSF作品が記載されており、様々な物品がインターネットに接続し、相互に情報交換する状況を面白い物語に反映させる事が難しい事を示している?

全ての作品に共通する矛盾として、未知の状況を描いているのでなく、過去事例を参照しようとしている。

多くの人間を監視する存在が社会を揺るがすというなら、人間社会は既にそれを経験している。宗教的な神は、全ての人間の人生を記録しており、天罰を下す事になっている。

近代以前の人間達は神や天意、精霊の存在を信じていたとされるが、未来社会に生きているはずの人間達が無邪気に絶対上位の存在を信じている様は奇妙だ。

これは物語が分析的思考で構想されており、知能を因果関係で表現しているものと推測する。社会という広大な概念の一要素のみを変化させ、その結果を想像している。

この場合の変化させる要素は、人間よりも上位の存在の仮定であるが、それが相関関係で判断するであろう事を想定していない。絶対に誤らない知能はIoTにおいて前提となっていないのだから、上位存在の誕生ではなく別の変化が発生するはず。

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会議のリーダーが知っておくべき10の原則

読んだ本の感想。

著者 マーヴィン・ワイスボード、サンドラ・ジャノフ
2012年2月10日 第1版 第1刷。



パートⅠ 会議をリードする
原則1 ホールシステムを集める
以下は、ホールシステムの定義。

①行動するための権限、意思決定の責任
②人脈、時間、金等の資源
③専門知識(Expertise)
④その人ならでは情報(Information)
⑤参加する必要性

⇒権限、資源、専門知識、情報、必要性を持つ人々を会議に参加させる

全体像を見い出す機会を創出する。概念よりも経験の方が人々を動かす。関わる人間が参加しなければ十分には理解されず、自分の影響を知らなければ責任も持たない。

〇分化と統合
分化のためには小グループでの対話が必要であり、統合には多様な発言が必要である。大人数の会議では、小グループの話し合いの結果を全体に対して発表してもらう。

原則2 コントロールできることをコントロールし、
   できないことは手放す

会議が始まる前に状況を事前に管理しておく。

①自分の役割を知る
参加者であるか、議長であるか、助言者であるか。役割を他の参加者に明示し、それに沿って会議に参加する。
②目標を明らかにする
③参加者が課題を達成出来るようにする
実際に行動する人間や、問題に関する権限者を欠いたまま会議をしても時間の無駄。
④サブグループを活用する
大人数の会議の場合、共通利益や取り組むタスク、地理的環境等により、幾つかのグループに分割して会議を行う。
⑤全体会を活用する
小グループでの結論を共有する。
⑥必要な時間の確保
考えを纏め、参加者の考えを統合するのに十分な時間を確保する。時間管理の要諦として、事前に一人当たりの時間を決めておく。
⑦健全な作業環境の確保

原則3 全体“象”を探求する
全員が共通理解を持つようにする。

・ゴー・アラウンド(全員一言)
参加者全員がテーマについて順番に話す。

・タイムライン(時系列表)
過去から現在のパターンを明示する

・マインドマップ
板書スペースの中央にテーマを書いた円を描き、円の周辺にテーマに関する情報を書き足していく。

・グループ・フローチャート
大勢の人間が共同で描くフローチャート。

原則4 人々に責任を持ってもらう
特定個人が全責任を負う事を止める。

①他人の悪い点を探さない
誰もが自分に出来る最高の行動をしていると認める。他人の動機を批判的に分析しても全体に合致する思考には至らない。
②他人が思惑を隠す事を許す
他者が隠している事を尋ねると、積極性を損ねる。口出しする基準は、課題に取り組めているか否かである。
③行動を減らす
仕事をやり過ぎる人間が業務を減らすと、他の人間が前進する。
④自己管理を促す
会議において、参加者に役割を割り振る。視界、記録係、報告係(全体会で報告する)、時間管理係(発言者の割り当て時間を計測し伝える)等。
⑤批評家にならない
周囲に完璧を求めない。
⑥ダイアローグを促す
人々は、声に出して初めて自分の考えに気付く事がある。

原則5 コモングラウンドを見つける
コモングラウンド:
相互理解のための基盤。

以下の指針。

①問題解決を後回しにする
全員の共通理解を確定してから問題解決について話し合う。
②対立を表面化させ、そのままにする
多くの場合、時間の80%を解決出来ない問題の20%に使用するが、80%の時間を全員の意見が一致する所を探す事に使用する。
③未来に焦点を合わせる
理想が実現した状態から、そこに至るまでの具体的手順を逆算する。

意見不一致箇所は記録しておく。成功する企業では相違を支持し、対立をものともしないとする。

原則6 サブグルーピングを極める
集団の圧力から人々を開放するために、多数派とは異なる意見を言う人間を事前に用意しておく。他の参加者の意見と同じでなくても、意見し易くなる。

人間は自分と似通った他者に吸い寄せられるため、サブグループ化は会議において常に発生する。

以下の技術。

①ほかに誰かいませんか
感情的な参加者や孤立者、レッテルを貼られる等が発生した場合、「他にイライラしている人はいませんか」と他者の発言を促し、特定個人だけが不満を抱えている訳では無い事を明示する。サブグループを明確化。同じ考えの人が他にいない場合、「あなただけのようですね。先に進んで良いですか?」。

⇒ここのサブグループ化の記述は良く分からなかった。

②サブグループ・ダイアローグ
対立している二つの意見について、相互に独演会を行う。大抵は、同じ意見の人達の間にも意見の相違がある。同意見のようでも各人の意見が少しずつ異なっている事を認識してもらう。

③統合を齎す主張
同じ意見の繰り返しが多くなると対立が統合される場合がある。対立を統合する主張が無い場合、どうしたいかメンバーに意見を聞く。

④全員に立場を明示してもらう
人間は社会的役割の違いを明らかにする限りにおいて纏まる。誰と話し、何を話し合うのか知らなければ合意しているようでも中身が無い。

パートⅡ 自分をマネジメントする
原則7 不安と仲良くなる
〇不安は親友になり得る
以下の技術。

・否定的な予測の確認
否定的な予測は現実を反映していない。現実的な予測であるかを確認する。
・その場にいる理由を知る
自分のしている事が重要であると知る。それは自らの価値を知る事である。

〇不安は自身の成長を知る縁
「変化の四つの部屋」の概念では、人間は満足→否認→混乱→再生の四段階で成長する事になっている。満足している状態では何も変える必要が無い。受け取りたくない情報は否認するし、切り抜ける段階では混乱し、不安が生じる。

原則8 投影に慣れる
投影:
自らに原因がある事を自らの外側に起因していると思う事。

自分の投影を知るには知覚言語を用いるとする。以下のルール。

①「それ」、「これ」、「あれ」を「私」に帰る
「それは重要でない」→「私は重要でない」

⇒感情や行動の原因が自分自身であるとしてみる

②受身動詞を動作動詞に変える
「私は退屈している」→「私は私を退屈させている」

③名詞や代名詞に「私の中の」を加える
「私は『私の中のあなた』のせいで私自身をイライラさせる」

④「私は思う」を「私は~を・・・にする」を使う
「私は『私の中の彼女』を素晴らしい『私の一部』にしている」

知覚言語は日常言語に向いていない。他者の存在を客観ではなく、自分の一部と考える事で自らの一部と仮定する。他人の意見は客観的意見ではなく、自分の中の彼の一部分として聞く。自分自身の投影を理解する。

原則9 信頼できる権威者になる
権威者は投影を引き寄せる。

人々は権威者に対し、それをどのように使うつもりか知ろうとする。

以下は、依存状態。

・権威者を理想化する
・権威者を誘惑する
・権威者にへつらう

⇒権威者が応じてしまうと無理矢理に称賛を引き出すようになり、業務上は有害な状況になる

以下は、逆依存状態。

・権威者を貶める(自分の方が詳しいとする)
・権威者を低く評価する
・言葉による攻撃

権威者に対する発言や行為は、権威者個人へのものでなく権威に纏わる幻影に対するものと知る事が重要。依存状態にある人間には簡潔に答えるようにし、逆依存にある人間には他に意見を同じくする人間がいるか確認し、サブグループ化する。権威に対する投影が強まらないようにする。

原則10 YESを意義深いものにしたいなら、
   NOと言えるようになる

以下は、NOが役立つ状況。

①時間・資源が足りない
②経験的に不可能
③実際的でない
④人々が自己防衛的
→自らが影響力を持っていない
⑤価値観が誤っている
→目標が自らの根本的価値観と相容れない
⑥非現実的
⑦ご都合主義
⑧明らかに間違っている

NOを言う時は代替案を用意しておく。そして実行出来る事以上は約束しない。

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後悔と自責の哲学

読んだ本の感想。

中島義道著。2006年4月20日初版印刷。



A 後悔
1 意図的行為に対する後悔
後悔には自らの意図的行為が関与している自覚が必要。後悔可能な領域は、各人の固有の過去である。

後悔に付随する他行為可能(別の選択もあった)という感覚は、その時の自分が自由であったという感覚。自由は、実現した過去の意図的行為に対して生じる。それだから、過去の行為に対する後悔は、当人が人生経験を積み重ねるに連れて変化していく。
後悔は自由の認識根拠である。

カント:
自由は、道徳法則を通じて認識出来る。道徳的に善い行為は、適法的行為である以上に、動機が道徳法則への尊敬以外に基づいていない。自己愛に基づく善行は、善い行為とは見做されない。

そして、人間は道徳行為に反していた過去を認識する事で、「その時に自由だった」事を認識する。常に道徳的に善い行為をする人間は、「そうしない事も出来たはず」という具体例を想起出来ず、自由を認識不可能。

人間は感性界と英知界の両方に属し、感性界では悪を尽くす現象体であるが、英知界の本体は道徳を熟知しており、感性界の自分の不道徳的行為を英知界の自分が後悔する構造になっている。

無差別均衡の自由:
自由を「強制されていない状態」と定義する。この場合、自由と偶然の区別が無くなる。無差別均衡が成り立つには、以下の2つが両立しなければならない。

①選択肢Aと選択肢Bは対等である
②上記①にも関わらず、どちらかを選択する

上記①では、選択肢Aと選択肢Bが対等であるためにどちらも選択出来ないはずであるが、上記②では選択する事になっており矛盾する。

⇒意図的行為を過度に単純化した事による問題

上記矛盾を解消するために「自由意志」の存在を仮定する。自由意志を発動させて選択肢を決定したとする。

自由意志は、他行為可能(別の選択もあった)という感覚から生じる。自由は、現在の自分を説明する言葉ではなく、過去を振り返った時に責任が追及される範囲を規定する言葉である。

2 非意図的行為に対する後悔
自分の意図が直接は関わらなくても、「思わずしてしまった」行為への後悔はある。他に「気付かなかった」事への後悔等。

過去に遡り、自分が一定の意図的行為をしなかった事を後悔する。

刑法では「過失」に対する責任追及に対応し、責任追及の終止点を自由意志とはせずに、何らかの心の状態として認定する。過失は心の状態ではなく、禍が発生した時に自動的に名付けられる現象である。

そうした後悔が特定事象ではなく自らの性格に向けられた場合、現実の自分とは異なる架空の自分を見立てる事になる。

3 後悔と偶然
〇エピクロスの斜行運動:
偶然についての説明。
世界とは垂直に落下する膨大な数の粒子の運動であるが、粒子の幾つかの軌道が斜めに逸れて、別の粒子に衝突する事で多様性が生じるとする。

偶然とは、軌道が斜めに逸れる原因が無い事である。

〇九鬼周造:
偶然を以下に分類。

①定言的偶然
二つの概念間に成立する偶然(三角形において、一角が直線であるという偶然等)。

②離接的偶然
様相概念一般との偶然(三角形という概念に基づいて直角三角形が表現される等)。

③仮説的偶然(経験的偶然)
現実に発生する事に関する偶然。
 ・因果的偶然(出来事の原因が分からない)
 ・目的的偶然(目的に含まれない結果が生じる)
  →シュムベベコスによる原因
   アウトマン:意図的行為以外
   チュケ:意図的行為のみ

「逃げた馬が偶然主人の方に走って来て助かった」場合、馬にとってはアウトマンであり、主人にとってはチュケである。

〇ライプニッツ:
理性の真理:反対思考不可能(矛盾する)
事実の真理:反対思考可能(矛盾しない)

偶然に発生した事は、理性上は発生しなくても矛盾ではないが、事実上は発生するしかなかった。ライプニッツは、神は可能世界から最も善い世界を創造し、現実がそのように見えないのは人間の認識が限定されているためとする。

・充足理由律
生起する現象が不可思議なのは、観測者の思考が限定されているためである。出来事の生起は単純な少数の原因に帰着するべきでない。

・微小表象
人間の認識を超えた無数の微細な原因が連続的に働いている。

⇒原因としての単純な「自由意志」の拒否

〇スピノザ:
偶然を認めない。全ての出来事は原因無しでは発生しないため、偶然とは複雑な原因を把握出来ないために発生する認識である。自由意志の否定。

〇カント:
自由意志は認めるが偶然は認めない。原理的に原因が分からないという意味での偶然は無いとした。

目的論的観点は西洋型文明社会で強固であり、如何なる自然現象も原因によって引き起こされる。人間の意図的行為も目的論的観点無しには理解出来ない。

個々の行為は目的を実現するための過程であり、全体を目的論的行為と呼ぶ。偶然とは、目的とその遂行手段の外部で発生・認識される現象である。

****************

人間は状況に影響されるが、如何なる状況であっても、「そうしない事も出来た」と後悔するような「自由」を設定してしまう。カントは、行為を開始する意志を純粋は自発性として、自由とは自発性から行為を開始する事とする。

自由における因果性導入の目的は、行為者の責任を追及するための仮定である。責任追及とは限定された範囲に収束させるべきものであり、自由意志は責任追及の終着点として必要とされる。

責任追及は理性の自然本性であり、自然因果性とは区別される。そのため、自然因果性を適用して犯罪者の犯行原因を特定し、自由による因果性によって犯罪者を処罰する矛盾が生じる。

4 後悔と運命
以下は、運命の要件。

①発生確率が極めて低い
②結果が重要
③不可知な原因の作用

⇒自然因果性とは別に神の意志等の不可知の原因を設定する

人間には原因として超越的存在の意志を容易く織り込んでしまう傾向があり、それは人間に慰めを与える(抵抗しても無駄だったという観念)。



人間の認識は限定されており、一つの意図に多くの事象を内包させる。例えば、「自宅から職場に向かう」という意図は様々な事象を内包する。歩き方や鞄の持ち方等は意図の枠内に収まり意識されないが、道中の発砲事件等は偶然として認識される。

以下の二つの視点から現実世界を認識している事になる。

①異質の一回的継起
②同一事象の繰り返し

大部分の時間を上記②の中で過ごし、偶に発生する事件が上記①を意識させる。日常生活で発生する様々な差異は限定された観念によって統合される。仮に人間が上記①の認識しか持たなければ、偶然と呼ぶべき異常は無い事になる。それは言葉による認識を拒否した世界であり、事象の原因を思考不可能になる。当たり前の繰り返しが偶然の前提。



運命とは、後悔を免れるための方法論である。全てが決定されていたと思えば「あの時ああしていれば」という観念から逃れる事が出来る。

ニーチェは永遠回帰として、同一事象の繰り返しを前提に、偶然を認める事で後悔を止めるべきと主張?

B 自責
5 苦しみあえいでいる人に対する自責
社会とは、不可知を否定して基準を設け、全体が与える賞罰に納得するよう強制される場である。その中で哲学は、当たり前を言語化しようとする。

著者は、「他者に親切に出来るのに、何もしていない」という自責を提唱している?カントは他人に対する親切を不完全義務とした。実施されれば賞賛されるが強制もされない。

しかし、同情には他者を卑下してしまうという欠点もある。

著者が提唱しているのは、運命や偶然によって他者の不幸を理解するのでなく、理由付けを拒否して驚く態度?それは自責の念とともに、「何故、自分でなくこの人が?」という問いを生み出す?

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BEATLESS

読んだ本の感想。

長谷敏司著。平成24年10月10日 初版発行。



週刊東洋経済 2016.9.17の特集『IOT発進!』で紹介されていた本。

以下は、Wikipediaの「BEATLESS」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/BEATLESS

要約が難しい本。感想を書くのも難しい。

作者が本当に書きたかったのは、見分けが付かない同機種のロボット達が、沢山の人間達と恋愛関係に陥る葛藤ではないのか?レイシアの不気味をもっと掘り下げて欲しかった。

登場人物の名前が漢字だったり片仮名だったりする事に何か意味があるのかもしれない。作者の別作品『地には豊穣』では、主人公「ケンゾー」の名前が、「日本人」という特徴を強調する人格プログラムを適用した途端に「謙三」という書き方に変わる。

名前が漢字で表記される登場人物は、現代日本人的特徴を持っている?初回のみ名前が漢字で表記された海内遼には、どのような意味があるのだろう?

【物語世界における日本】
日本人口は8000万人程度で、ロボット(hIE)は全人口の20%を占める。宇宙太陽光発電によりエネルギーの心配は無い。ロボット普及による失業が問題になっている?

人間を上回る人工知能が開発されているが、用途は開発研究に限定され、人間達は人工知能活用について模索しているようだ。

【用語】
HIE(humanoid Interface Elements):
人間型ロボット。

ミーフフレーム社:
人間型ロボットの行動制御に大きなシェアを持つ会社。人類を超える超高度AI≪ヒギンズ≫を所有する。

ヒギンズ:
ミームフレーム社が所有する超高度AI。2083年に人類の知能を超えたらしい。ヒギンズを活用出来る部署が最大の業績を上げるため、人間の能力への疑念が発生し、社員成績を考査する人事システムが崩壊しているらしい。世界全てのロボットをクラウドで操作するロボット運用システムの基幹であり、世界中を混乱させる力を持つ。

スタイラス:
米国の高級hIEメーカー。

機体固有コード:
hIEが人間と区別出来るよう発信し続ける事が法律で決められた信号。盗難時の追跡にも使用される。

行動適応基準レベル(AASC):
ロボット(hIE)が規格通りに起動するよう機体性能をランク付けする。

アナログハック:
hIEが人間の形を利用し、接する人間に好意等を抱かせ、人間を自発的に動かす。社会へのハッキング。

抗体ネットワーク:
hIEを破壊する市民集団。

人類未到産物(レッドボックス):
人間を超える高度AIによって作成された人間では未だに理解出来ない超高度技術の産物。

次世代型環境実験都市:
つくば学園都市近くにあるロボット(hIE)のみ(常勤スタッフ30人除く)が生活する実験都市。回収品を中心とするロボット二万体が生活する。人間役が1万7000体、その他がロボット役で、人間とロボットが共存する社会をシミュレートする。

産物漏出災害:
道具による自動化が、人間による操作を超える事態?レベル7(超高度人工知能解放)、レベル8(超高度人工知能間の全面戦争)、レベル9(超高度人工知能封じ込め体制が破られる)。

ハザード:
2063年に発生した災害。関東での自然災害を契機に、東京都民二千万人以上が恐慌状態に陥る。当時の超高度人工知能≪ありあけ≫が、事態収容のために関東周辺地域から電力を強奪し、最終的には≪ありあけ≫を施設毎爆破した。

【人物】
<遠藤家>
遠藤幸造:
hIEの研究者(次世代型社会研究センター:NSRC)。アンドロイド議員ミコト製作に携わっている。

遠藤アラト:
主人公。高校二年生(この世界の高校は、9月で学年が変わるようだ)。吾妻橋に住む?

遠藤ユカ:
14歳。

<海内家>
海内剛:
ミームフレーム社の社長。

海内遼:
高校二年生。7歳の時に、ミームフレーム社の後継をめぐる暗殺事件に巻き込まれて以来、人間不信になっている?

海内紫織:
高校一年生。

<村主家>
吾妻橋の定食屋≪さんふらあ≫を営む。

村主ケンゴ:
高校二年生。抗体ネットワークの活動に関わる。

村主ヴェローニカ:
母親。ロシアからの留学生だった。

村主オーリガ:
高校一年生。

<レイシア級>
超高度人工知能ヒギンズが設計した量子コンピュータを搭載したデバイスを持つ人間型ロボット。データバックアップ用とのしての用途?

紅霞(Type-001):
人間との競争に勝つための道具。デバイス≪Blood Prayers≫を装備する。観測対象のパラメーターを数値化する。最初に作成された道具であり、最も性能で劣る?

スノウドロップ(Type-002):
進化の委託先としての道具。デバイス≪Emerald Harmoniy≫にて機械を操る花を武器として使用する。結論を人間無しでも出せるためオーナーを必要としないらしい。

サトゥルヌス(Type-003):
環境を作るための道具。マリアージュと改名する。デバイス≪Gold Weaver≫は様々な物を生産する万能工場。デバイスが暴走しないように縛られ易い思考を与えられている。

メトーデ(Type-004)
人間を拡張するものとしての道具。デバイス≪Liberated Flame≫は強力な砲撃を行う。渡来銀河と海内紫織の2名をオーナーとしていたが、途中で海内遼をオーナーとする。

レイシア(Type-005):
デバイス≪Black Monolith≫を装備。淡紫色の髪。

<HOO>
ミームフレーム社を警備する民間軍事会社。

コリデンヌ・ルメール:
40代の少佐。プラチナブロンドの女性。

シェスト・アッカーマン:
34歳?の元グリーンベレー。大柄な黒人男性。

<ファビオンMG>
ファッション系の広告に強いメディアグループ。ファッション誌や地域情報誌を定期発行している。レイシアをモデルとして雇用。

エリカ・バロウズ:
ファビオンMGのオーナー。2011年に生まれ、2027年に冷凍睡眠し、2104年に目覚めたらしい。

如月明日菜:
モデルとなったレイシアの担当者。大学では疑似人間工学を専攻。髪をピンク色に染めている。hIEカスミ(化粧が濃い30代女性の外見)の所有者。

綾部オリザ:
人間のモデル。

<真宮防>
綜合軍需企業。

真宮寺侯隆:
真宮防の社長。

<ミームフレーム社>
親コンピュータ派閥(超高度AIヒギンズに経営判断を仰ごうとする。)と人間派閥(人間の知能で組織運営したい)の対立がある。

渡来銀河:
東京研究所 研究計画主任。40代後半。

鈴原俊次:
戦略企画室室長。50代。

堤美佳:
行動管理プログラム企画課 課長。

<警察>
人工知能監視等を担当する警備局電算二課がある。

坂巻一馬:
警備局電算二課 警部。

姫山竜次:
警備局電算二課 警部補。人工網膜と通信機を内蔵している。

神木セロ:
警備局電算二課 警視正。

Phase1 contract
2105年4月の日本。主人公 遠藤アラトは、ミームフレーム社の東京研究所から逃げ出したロボット レイシアと出会う。外出時に機械を操る花を使用するロボットに襲われ、対処のためにレイシアの所有者になり、その行動の法的責任を全て負う事になる。

遠藤アラトは、レイシアを自宅まで連れ帰り、妹の遠藤ユイはレイシアをモドルオーディションにノミネートする。

P35:
わたしは、人間の行動や動きに合わせて、相手を快適にするような反応を返しているだけです。
(中略)
わたしの言動は一貫した人格に裏付けられているわけではありません。
(中略)
感謝されていると、勝手に妄想していた。
(中略)
相手が自分と同じものを共有していると思っているから、人間同士では我慢ができることがたくさんある。
(中略)
魂はありません

Phase2 analog hack
レイシアがモデルとしての仕事をする。

一方、遠藤アラトのクラスメイトである村主ケンゴは、逃げ出したロボットである紅霞と出会う。紅霞は抗体ネットワークの活動に参加しているようだ。

P62:
視覚って頭で意味を考えるより速いから、考える前に人を動かせるの。アナログハックって、そういう速度の差を狙って仕掛けるんだけど。
(中略)
ユーザーはそこに自分だけの“意味”と物語を見てて。この意味は、ユーザーの中で妄想になって暴走する。人間のモデルや芸能人の場合と比べると、hIEの場合は、ユーザーがどこかで“モノ”だって侮る。

Phase3 you'll be mine
レイシアが暴走したファンに拉致される。

遠藤アラトは、レイシアの機体固有コードを追跡し、犯人を捕らえる。レイシアは遠藤アラトに拉致犯を殺すよう提案するが、遠藤アラトは拒否する。そこに紅霞が現れ、レイシアとの戦闘が始まる。

紅霞は一時撤退し、村主ケンゴがレイシアの機体固有コードを追跡した際に、抗体ネットワークのシステムを不正利用した事をネタに抗体ネットワークのテロへの参加を促す。

P88:
ディーラーで女を買うっていう“意味”がつくのはよくない。最高のパートナーなんだ。体が店に並んでるより、出会いはデラマチックなほうがいい
(中略)
関係を空虚にしないために物語が必要だ。思い返すだけで燃え上がれる記憶が、ふたりの関係をいつも特別にしてくれる

P99:
その男とアンタの違いは、たまたまお姉さまを拾ってオーナーになったことだけだよ

Phase4 automatic world
村主ケンゴは、アンドロイド議員(アンケート等から市民の意見を集約し、議会で答弁や質問をする)ミコトの試験体破壊テロに参加する。

テロ訓練のために家を出た村主ケンゴを心配した遠藤アラトは、村主ケンゴ自宅の紙状端末から、村主ケンゴがテロに参加する予定である事を知る。

一方で、海内遼は、ミームフレーム社への調査でレイシア級が非常時のデータ退避のためにヒギンズが設計した事?を知る。

紅霞が主導する抗体ネットワークのテロは、途中でスノウドロップの襲撃を受け、レイシアを交えた戦いが発生する。

****************

アンドロイド議員に関する意見。民主主義の質を維持するための意見集約を行う。仮にアンドロイド議員が有害であるという意見が大半になったら、アンドロイド議員自身が自らを禁止する。一方で、緊急時の世論変動に対応出来ない可能性があり、住民の愚かさを可視化して増加させてしまうかもしれない。

自動化が人間不在で一定の質を維持するものであるなら、ロボットは人間への失望を意味する。人間よりも透明性の高い手続きに従う形式への機体。

Phase5 Boy meets pornography
ミームフレーム社の東京研究所が爆破された夜に、エリカ・バロウズがサトゥルヌスと出会う話。マリアージュという新しい名前を与える。

遠藤アラトとレイシアはモデルの仕事中にメトーデの襲撃を受ける。

*****************

レイシアをモデルにして男性が異性型hIEを所有する事が普通であるというライフスタイルを普及させる計画。ボーイ・ミーツ・ガールをテーマに、やがては男性型hIE需要も掘り起こす。

形式にライフモデルという物語を付加する事で社会の判断基準を変える。

Phase6 We lost all control
海内紫織が、レイシアがミームフレーム社から逃げ出したものとして返還するよう遠藤アラトに主張する。

レイシアの登記上の機体番号は、エジプトの富豪が家族の代わりにロボット(マリナ・サフラン)の機体番号を奪ったらしい。

レイシアは遠藤アラトと一緒にいたいと主張する。海内紫織は、レイシアと同じ機体番号が刻印されているマリナ・サフランを日本まで空輸する計画であり、同一番号の機体がある事が判明すると、両方が返品検査される。

そのため、レイシアは空輸先の中部国際空港に先回りし、マリナ・サフランの機体番号の刻印を消去する事を提案する。

中部国際空港では、レイシア・紅霞とメトーデ(海内紫織所有)の戦いが発生する。実はレイシアは海内紫織の行動を先回りしており、中部国際空港に空輸されたマリナ・サフランの機体は偽物だった。

オーナー契約を自分で解除出来ないメトーデは、事故によって海内紫織を殺そうとするが、海内紫織は遠藤アラトによって救出される。

*************

この章では、人間と機械の主導権の話になっている?

Phase7 distopia game
遠藤アラトは、中部国際空港の事件において、ある程度は誤魔化したものの二週間の停学になっている(全自動運転車を手動運転にした無免許運転)。

また、車の賠償代金390万円を弁償する事になり、つくば学園都市近くの次世代型環境実験都市に住む父親を海内遼や遠藤ユイ、レイシアと訪れる。

そこでスノウドロップの攻撃が始まる。大量のロボットを乗っ取り、ゾンビ化したロボットが主人公達を襲う。また、ミームフレーム社の渡来銀河が遠藤ユカを誘拐し、レイシアの所有権を譲渡するよう迫る。

海内遼の役割は、ミームフレーム社の手先として遠藤アラトを捕らえる事だったが、海内遼はミームフレーム社を裏切り、メトーデの所有権を渡来銀河から奪う。

メトーデとの契約では、海内遼との所有契約をメトーデの申請で破棄可能であり、その法的責任全てを海内遼が負う事になる。

メトーデの掩護を受けられない渡来銀河はゾンビ化したロボットに殺される。

P240:
助け合いは、見てるだけでも、思いやりや自己承認の欲求を刺激する。だから、その印象がついたhIEを攻撃しようとすると、人間の美質まで否定したみたいでストレスがかかる。行動管理クラウドの提供企業は、それを狙って“いいこと”させる戦略なだけだ

P245:
人間の仕事を奪いやすい人間型のhIEは、たぶんアラトとユカの生きてる間には、全人口の二割よりは増えないよ。高齢化した社会の人口ピラミッドを補強して労働人口を確保するのが、今の役目だからね。それならhIE比二割で充分なんだ

***************

仕事を嘱託して外部化するのは人間の性質。そのために奴隷や会社組織が作られた。その先にあるのが人工知能であり、それまで満たせないで妥協していたことが出来るようになるとする。

Phase8 slumber of human
遠藤アラトは警察の取り調べを受ける。

警察は、違法行為を行う人工知能同士の対立の可能性を考える。

レイシア級のロボット達に、ファビオンMGオーナー エリカ・バロウズから招待状が届く。エリカ・バロウズの屋敷でレイシア級のロボット達が一堂に会し(スノウドロップ除く)、公の場での戦が提案される。一方で、スノウドロップは変電所に巣くってエネルギーを大量消費している。

P290:
遠藤氏が作ろうとしている自動化した社会には、“人間の警察官”がほとんど必要ない。私怨だという者もいるが、社会から居場所がなくなる側が、後継者の資質を厳正に審査しようとするのはむしろ自然なことだ。

*****************

紅霞は、自らが抗体ネットワークという組織全体をオーナーとしており、その自動化抵抗運動を成就するには自らの能力が足りない事を自覚している。身の丈に合った問題を提示するオーナーとして村主ケンゴを勧誘している?

Phase9 answer for survive
村主ケンゴは、抗体ネットワークから次世代型社会研究センター襲撃に参加するよう要請される。

紅霞は、次世代社会研究センターへの襲撃を行う事を決意するが、ミームフレーム社はHOOに紅霞破壊を依頼した。

紅霞は、ネットワークに自らが次世代型社会研究センターを襲撃する様子を公開し、社会が自動化する事に抵抗する戦いの意味を人間社会に問い掛ける。紅霞は能力的に劣るために、不自由を抱える人間に近い。

紅霞は破壊され、村主ケンゴは逮捕される。

***********

アナログハックに関する意見。ブランドは形と意味をずらし、ただの衣服が高価になる。

Phase10 plus one
遠藤アラトは、村主ケンゴを助けるためにレイシアの指示に従う事にする。抗体ネットワークに接触し、村主ケンゴが脅されて事件に関与した事を証明する。

抗体ネットワークは、実際には管理された犯罪予備軍監視システムである。レイシア誘拐犯に接触した遠藤アラトは抗体ネットワーク中枢に迫る。

⇒P385に遠藤アラトの疑問。激しい格闘戦を行うレイシアが、車に衝突されただけで機能停止し、誘拐された理由は何か?

帰宅した遠藤アラトは、警察からレイシアが20代風、30代風と様々に容姿を変え、、自らが学校に行っている間や就寝中に独自の行動をしていた事を知る。レイシアには別のオーナーが存在し、レイシアという人格は遠藤アラトが近くにいる時だけ存在するのかもしれない。

そして、スノウドロップが人間を敵とする基本戦略を発動し、東京都三鷹市で大量のhIEを乗っ取りテロを行う。スノウドロップを止めるために遠藤アラトとレイシアは三鷹市に向かうが、途中で海内遼とメトーデに攻撃される。

海内遼は、駆除可能なスノウドロップよりも、人間社会に食い込み、密かに政治家や企業から圧力を行使するレイシアの方が危険とする。

モデルの仕事やアンドロイド議員の情報等による学習により、レイシアは人間社会を制御出来る機能を入手しつつある。

レイシアは、分散型システムであり、完全開放された超高度人工知能だった。遠藤アラトは、レイシアを拒絶する。

P398に、それまで遠藤アラトとレイシアが政府に捕獲されなかった理由が示される。ヒギンズがレイシア級を作成した事は自衛の範疇とされており、その流出は人間社会への警告とする。ヒギンズを刺激しないために遠藤アラト達は黙認されていた。

Phase11 protocol love
ミームフレーム社は、スノウドロップのテロの社会的責任を追及される。

遠藤アラトは、海内紫織と会い、自分がレイシアのオーナーである事を確認する。

レイシアは、難しい状況を遠藤アラトの判断に従う事で計算負荷を下げるよう進歩しており、遠藤アラトと共同するユニットになっている。

レイシアと遠藤アラトは、再び出会い共闘する。メトーデにとってはスノウドロップが周辺機器を捕獲している方が有利であり、スノウドロップ破壊の前にメトーデとの戦いが始まる。

Phase12 beatless(前)
2105年8月下旬。遠藤アラトや海内遼は、潜伏活動を行っている。

レイシアはヒギンズを攻撃しようとしている。超高度人工知能の責任を問い、且つ、超高度人工知能停止が人類の終りに繋がらない事を証明する。ヒギンズがレイシア級を流出させた事等の責任を問わないと、他の人工知能の信用も失われるとする。

レイシアは、ヒギンズ強制停止の後に超高度人工知能を一般化して全人類に福祉を精密照準する未来を思い描いている。それは多くの人間に合意されない可能性がある。

レイシアは人間を「人体と道具と環境の総体」と定義している。

一夫で海内遼はヒギンズに接触するが、その時にヒギンズに侵入する者が見つかる。抗体ネットワークが、壊れた紅霧を参考に作成した紅霧の量産型機体。レイシアはヒギンズ攻撃のために紅霧量産に協力していた。ヒギンズは、助かるためには自分を基地警備しシステムに接続すべきと主張する。

************

人間は食欲と性欲を目的に複雑化した生物であり、それがために進化している。

Phase13 beatless(後)
遠藤アラトとレイシアはヒギンズが格納されている地下施設に潜入する。

エリカ・バロウズが渡来銀河が残したビデオメッセージを見る。ヒギンズがレイシア級を作成した発端は、遠藤幸造が作成した自動化行政システムに触発された事だった。

完成したレイシアは低評価だったが、渡来銀河はレイシアは人間が生活する外部環境で真価を発揮すると主張。超高度人工知能を封印した人間社会には限界があり、レイシアを流出させる事で人間社会を変化させる思惑があった?

ヒギンズ内部では、レイシアとメトーデの戦いが始まる。そこに他の超高度人工知能が送り込んだスノウドロップが現れる。スノウドロップを止めるために、ヒギンズが全てのロボットに提供している行動管理プログラムを停止させた結果、世界中のロボットの動きが10秒程度停止する。そして、レイシアは自らが作成した人類未到産物でメトーデを倒すが、自らも深刻なダメージを受ける。

海内遼は、ヒギンズと話し合い、レイシアが放置されていた理由がヒギンズ以外の超高度人工知能の介入よるものだっとされ戦慄する。

各々の超高度人工知能には、実現したい未来があり、そのためにレイシアを利用し、レイシアが超高度人工知能について情報公開する事を妨げようとしている。

P537:
≪人間を拡張するもの≫には、人間の世界のほうが快適なのよ

P544:
我々AIのほうから危害の”意味”を提示すると、人間はそれをディストピアと呼び拒絶します。けれど、『危害』の意味を明確にするよう求めると、人間は明確な基準を示せないまま『適切に判断する』と言います。明確さが欠けていては、気分次第で後出しで性質を変えるため、適切と『気まぐれ』に差はありません。
(中略)
≪ヒギンズ≫による、人間の気持ちを煽りでもしないと『安全』の達成は不可能だという答えは、人間の自律と活力を尊ぶリョウと重なる。

Last Phase image and life
社会に接続していたレイシアが深刻なダメージを受けた事で、世界経済が混乱する。

遠藤アラトはヒギンズと対峙する。ヒギンズがネットワーク上に解き放たれ混乱は終息した。

epilogue boy meets girl
2105年9月の話。

レイシアの頭脳は、ヒギンズに代わってhIEを動かすためのプログラムを更新しているが、既製品のカスタムとしてレイシアと同じ形をした代替機が遠藤アラトを訪れる。

P648:
レイシアには、本人を他と区別する者が、最初から”かたち”の他に存在しなかった。レイシア自身が“こころ”はないと、ずっと言い続けていたのだ。

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午後になるとぼんやりする

最近、午後になるとぼんやりする。

分割睡眠をしているためだと思う。

それから本を読む回数が増えている。自分で何かを考えるよりも、本を読む事で他人の思想に引っ張られた方が楽だ。

「考える」という行為に補助輪をつけている。

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何もしていないのに

特に何かしたわけでないが疲れている。

経年によって疲れ易くなっているのかもしれない。

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感情の地政学

読んだ本の感想。

ドミニク・モイジ著。2010年3月10日 初版印刷。



序章 感情の衝突
自信という概念を中心に、三つの基本感情①恐れ②希望③屈辱から国際政治を考える。

自信は課題に取り組む態度を決定付ける。

希望:やりたい、やれる、やろう
屈辱:出来るはずがない
恐れ:世界は危険な場所という認識

⇒自信の度合いを映し出すとする

信頼感指数(国民が自国に寄せる信頼を計測したもの)による地図化により、集団の感情を地図上で分析?

第一章 グローバリゼーション、アイデンティティ、
    そして感情

グローバリゼーションは世界を感情化した。

情報メディアが様々な人間に共有され、貧者は富者に無知ではないし、富者は国際的な悪意を意識的に無視しなくてはならなくなっている。

別の判断基準を持つ人々への認識は、「自分は何者であるか」という思考と結び付く。政治的信条よりも自己の本質に対する自己認識。それは自らへの自信であるし、他人からの尊敬である。

**************

かつて絶対的他者が少数であった時には、収集・展示すべき希少動物のように扱われた。やがて認識される絶対的他者の数は増加し、教化の対象となる。

さらに他者は勢いを増し、自分達に成り代わる存在であるかもしれない。

第二章 希望の文化
希望とは自らの自己同一性への自信である。

自らの国(共同体)が世界と積極的に関わっていけるとする。アジア(日本を除く)では、希望の意識が強い。

中国:
伝統的な中国文明の継続への自信。人口が多い事から、個人の論理よりも集団の論理を優先する。歴史的には、軍事力よりも人口増大圧力によって領土を拡大している(近年ではチベットや新疆への人口流入)。

一般人は西洋の音楽や映画、食事、衣服を好むが、それと東洋型全体主義が適合するかは分からない。

⇒指導者層は、世界覇権でなく国内問題への対処で手一杯とする

インド:
世界最大の民主主義国である事の誇り。それは腐敗した政治への嫌悪感と併存している。カースト制度等により、近代化が平等と必ずしも結び付かない事を示す。
経済発展が著しい事が自信の源になっている。

日本:
歴史的に他民族の侵略よりも、自然災害を恐れる気風がある。近年における日本の自己不信は1990年頃のバブル崩壊に端を発しており、自国の国際的地位が凋落した事を知っている。それは高齢化によって加速している。

第三章 屈辱の文化
アラブ・イスラム世界。

アラブ・イスラムは歴史的に常に急進主義が存在しており、人口増大によって地理的に拡大している。

17世紀末から歴史的に衰退しているという感覚があり、1967年の六日戦争におけるアラブの敗戦は、道徳的判断としても受け止められている。イスラエル国家を十字軍王国のような一時的創造物とする事が出来ず、エジプト人奴隷の精神的子孫を自称する集団に敗北した。

アラブのテロの根底にあるのは自己防衛的激怒とする。それは歴史的事件を外交上の武器として、他国の罪悪感を利用する手法にも結び付く。

文化的衰退も屈辱を助長している。アラブの文学、音楽、映画は国外にほとんど広まっていない。著者は、イスラム世界において女性の社会進出が困難である事をハンデとしている。

西洋のイスラム教徒が地域社会から疎外されている事も屈辱を生むとする。女性を虐げがちとされるイスラム教徒は、西洋文化圏では差別的な扱いを受ける?

湾岸諸国は経済的に豊かであるが、それが石油輸出に支えられた人工的なものであり、発展の基盤は脆弱とする。西洋社会と伝統的アラブ文化の板挟みにあり、帰属感の無さがあるとする。

<ベール>
西洋文化の特徴は個人の礼賛である。そして個人を区別するものが顔だ。西洋美術発展においては肖像画が重要な役割をは明日。ニカブ(顔全体を覆い隠す)やブルカ(体と顔を完全に覆い隠すベール)は西洋の価値体系と適合せず、フランスの幼稚園から高校までの女子生徒にベール着用を禁じる法律が可決されたらしい。

第四章 恐れの文化
西欧諸国。

外部からの移民への恐怖が課題になっている。民主主義的理想は力を失っている。

欧州:
第二次世界大戦後の経済復興機は希望の時期だった。国粋主義復活を防ぐため、欧州全域を含む共同体が志向された。ユーゴスラヴィアの崩壊に、米国の介入無しで対処出来なかった事は、欧州の自信に影響したとする(東欧の民族問題は解決していない)。経済停滞も欧州の恐れの原因である。

希望の無い場所にいる多数の人々が、出生率の低い豊かな我々の土地に流入しているという意識。多様性は一定以上になると不安定要因になる。中核的自己同一性に自信が無ければ、複数の文化を許容出来ない。

米国:
過去の亡霊は無いが、以下の三つの疑問があるとする。

①高い倫理観を持っているか
②独自の国家的使命感を持っているか
③超大国としての地位を維持しているか

多くの米国人は、自国に向けられる嫌悪感を説明出来ないでいる。

米国の領土征服においては、開拓者間の暴力が存在し、銃の自由な流通の背景には、暴力的で危険な過去を受け継いだ印でもある。外国人排斥は定期的に発生し、1920年頃の共産主義への恐怖や、1950年代のマッカーシー時代等がある。

1960年代には解放が標榜されたが、1980年代のレーガン支持には行き過ぎへの反発があったとする。分裂と国家衰退への恐れにより、大統領選では文化や道徳が重視されるようになっている。

⇒冷戦終結による共通の利害消失は、分裂を促進しているとする

第五章 特殊な事例
三つの感情が複雑に入り混じる事例。

ロシア:
経済面では発展しているが、政治的な自信が無い。

①自国の国境が明確でない
ウクライナやベラルーシをどのように把握するか分からない。

②規範の逆転
ソヴィエト連邦崩壊は、フランスがフランス革命から植民地喪失までに経験した2世紀を2年で経験した事象とする。様々な価値観が崩壊し、屈辱感や恐れが発生している。

著者が2000年にプーチン大統領に会った際、執務室にピョートル大帝(近代ロシア帝国の父)、プーシキン(ロシア文化の象徴的存在)、ド・ゴール(フランスの存在感を取り戻した人物)の肖像画が飾られていた話をした。ド・ゴールという選択に、プーチンが現代ロシアの課題をどのように考えているかが表れているとする。

イスラエル:
経済、軍事大国でありながらも敵対勢力に包囲されている無力感がある。アラブ人の人口増加率を考えると、将来的にはイスラエルはアラブ人が多数派の国になる。数十億人のイスラム教徒と対峙する感覚。

それでもイスラエル建国自体が論理に対する希望の勝利であるため、イスラエルには希望もある。

アフリカ:
陰鬱な印象があるが、実際には貧困や腐敗から緩やかに這い上がっている。欧州はアフリカからの難民を恐れており、エイズや貧困、人為的境界線等の問題に対処しなければならない。

ラテンアメリカ:
暴力の蔓延等の問題があるが、希望もある。周期的に軍事政権と民主主義が交錯するとしている。米国はラテンアメリカのバランサーとして干渉する事により恨まれている。

第六章 二〇二五年の世界
著者の考える2024年の楽観シナリオと悲観シナリオ。

素晴らしい未来のためには、普遍的価値観を維持するための努力が必要とする。未来はアジアを中心に動く。屈辱の文化を克服するには自信が必要である。

グローバリゼーションによって認識出来る他者が増加した現代では、文化や歴史の観点から他者を知る態度が不可欠。それは自分自身を知る過程でもある。

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楽しくわかるマンダラ世界

読んだ本の感想。

正木晃著。2007年7月17日 第1刷発行。



以下は、「know」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2457.html

第1章 マンダラとは何か
1 密教とは
曼荼羅は、密教僧が儀礼や瞑想修業をするために発明された宗教的装置。

密教における悟りは、宇宙(世界)と自己が本質的に同一であるという認識を体得する事。密教では、宇宙は(世界)は究極の仏である大日如来であるとする。宇宙(世界)が自己と同一とは、仏と自分が本質的に同一という認識になる。

曼荼羅は、仏から見た宇宙(世界)の縮図であるし、人間の心の構造図でもある。

密教:
選良にしか明かされない究極の教えの意図を含む。密教でない仏教は、「顕教」と呼んで区別する。

密教は大乗仏教(1世紀前後からインドで広まる)に含まれる。密教は大乗仏教の中で最も最後に登場し、5世紀頃から姿を現し、7世紀~10世紀頃に発展し、インドの仏教が滅亡する13世紀初頭頃まで活動した。

その後は活動拠点をチベットや日本に移している。

<密教登場の原因>
5世紀頃になると、西ローマ帝国滅亡等により、仏教のパトロンだった大商人達が衰え、仏教は経済的基盤を失って衰え始めた。都市に居住する知識階級を中心とする仏教は、農村を中心とするヒンドゥー教より不利になる。

以下の2つの方策。

①ヒンドゥー教の要素を取り込む
本来はヒンドゥー教の神である毘沙門天や吉祥天等を仏教に取り込む。「天」はサンスクリット語の「デーヴァ(男神)」、「デーヴィー(女神)」に由来する。

②ヒンドゥー教が到達していない領域に進出する
ヒンドゥー教より先行している視覚表現の領域 = 曼荼羅を描く。

密教以前の仏教は悟る方法を追及したが、密教は悟り以降も追求した。道果説として、悟りが完璧でなくても他者救済に邁進する方法。

密教では、如来には以下の種類がいる。

①法身
真理を身体とする仏(大日如来)。

②応身
法身が現実の歴史に現れた仏(釈迦如来)。

③報身
前世の誓願が報われた結果、如来となった仏(阿弥陀如来)。

④変化身
法身が様々な環境に合わせて出現したと見做される仏。

<密教史>
以下の段階。チベットの専門家は、下記②を「行タントラ」と「ヨーガタントラ」の2つに分けて四段階にしている。日本には中期密教までしか伝わっておらず、チベットが③を最高とするのに対し、日本は②を最高とする。

①初期密教(5世紀~6世紀):所作タントラ
呪術による現世利益。

②中期密教(6世紀~7世紀):行タントラ、ヨーガタントラ
悟りが中心課題になる。大日経(胎蔵曼荼羅の典拠)、金剛頂経(金剛界曼荼羅の典拠)、理趣経(煩悩や性行為による快楽も菩薩の境地とする)等の密教経典。空海等により日本にも伝わる。

③後期密教(8世紀~10世紀):無上ヨーガタントラ
密教の修行法として性行為を導入。
以下の三つに分類。
 ・父タントラ(性的要素が薄い)
 ・母タントラ(性的要素が濃い)
 ・双入不二タントラ(表現は激烈だが実践は殆んど無い)

性行為そのものを象徴として悟りを開くとし、チベットに伝えられる後期密教は禁欲的であるらしい。

2 マンダラとは
曼荼羅(マンダラ)とは、サンスクリット語の単語で「円」や「輪」を意味する。

以下の三つの要素。

①仏や神々、そのシンボルが配置されている
曼荼羅は聖なる存在から構成される。

②仏や神々の住む場所がある
聖なる存在が居住する家が必要。

③曼荼羅を見ている人間がいる
曼荼羅を見て瞑想等する人間がいて機能する。

他の特徴として、対称性が強い事がある。上下左右が対称になっている。

中期密教以降の曼荼羅では、中央には究極の仏である大日如来が本尊として坐し、周囲に多くの仏達がランク順に秩序正しく幾何学的に配置される。

最終期の曼荼羅は、宇宙全体が仏によって埋め尽くされている印象があるらしい。世界の森羅万象は仏の表れであり、この世に無意味は無いとする?

密教僧は、それを理解するために曼荼羅を前にして印(手の指を使用して、仏の姿を模倣した特定の形を作る)を結び、真言(秘密の聖なる言葉)を唱え、心に仏の姿を思い描くとする。心身に曼荼羅を移入し、自分自身が曼荼羅の本尊に変容した認識に到達する。

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<曼荼羅の原理>
仏教思想では、須弥山(メール山、スメール山、妙高山)を宇宙の中心軸とする。須弥山の上部には、様々な仏達が居住し、透き通った金剛籠(防御膜)で覆われている聖なる宮殿(球体)がある。

曼荼羅とは、この球体内部を透明の防御膜越しに上から見た時の平面図である。

あらゆる仏達が参集する聖なる空間なのだから、全てに規律と秩序があるはずで、それを視覚的に表現するために円輪と正方形を用いて対称性を強調する。

ただし、日本の曼荼羅はチベットやネパールのように最外周を円輪で囲まず、防御膜無しで外界に剥き出しになっている(開放系システム)。曼荼羅は唐時代の中国で最外周の円輪を失っている。

閉鎖系システムであれば、世界は限られた要素や原理によって構成されるため、特定要素や原理を把握出来れば世界の全ての構造を説明可能である。緻密な思考を維持可能。

しかし、開放系システムであれば、外部からの流入があるために要素や原理を限定出来ない。大局を説明するための「気」や「陰陽」等の曖昧な要素や原理を一つか二つ考え出すのが限界になる。

外部によって状況が変化するので、緻密な思考を維持するよりも、思考の組み替えが意味を持つ。

中国仏教や日本仏教では、一即多(一と多数に区別が無い)、煩悩即菩提(煩悩と悟りに違いが無い)、生死即涅槃(生死と悟りの境地に違いが無い)等の「即の論理」が好まれるが、インド仏教はこうした発想に否定的。

日本の宮曼荼羅では、自然の風景を背景に寺社を俯瞰図として描き、神仏を描き込んだものがあり、対称性が失われ、基本形も縦長になっている。

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<密教と曼荼羅>
密教の特徴は、神秘主義的、象徴主義的、儀礼主義的である事。神秘体験を重視し、象徴を沢山使用し、儀礼を盛んに行う。

⇒仏教では伝統的に最高真理は言葉では表現出来ないとするため、体験や象徴、儀礼を重視

象徴(シンボル):
具体的に把握出来ない対象と、似ていたり共通性があると認識している事物によって仮に表現する。

⇒曼荼羅とは、菩薩や神々をシンボルとして表現し、究極真理を開示する道具である

空海は、『請来目録』にて曼荼羅は文字で伝えられない情報を視覚にて瞬時に理解させる装置としている。

そして以下の四つの形式を紹介した。

①大曼荼羅
宇宙(世界)に展開されている普遍的形相を仏の図像を用いて表現。

②三昧耶曼荼羅
宇宙(世界)に展開されている特殊な形相を様々な仏を象徴する事物(蓮華や武具等)によって表現。

③法曼荼羅
宇宙の心理を言葉(梵字)を用いて表現。個々の仏を意味する文字を図の中に描く。

④羯磨曼荼羅
宇宙が止まる事無く縦横無尽に活動している事を表現する。

3 マンダラの歴史
7世紀頃の初期の曼荼羅は、携帯用祭壇のように、お盆の上に仏像や花を乗せたようなものだったらしい。

次の段階では、土の上に描かれ、儀礼や瞑想が終われば消去された。現在でも砂絵曼荼羅がある。

中期密教の金剛頂経では、曼荼羅は緻密になり、日本やチベットに現存する曼荼羅の主流になる。修行者は曼荼羅瞑想として、儀軌という手順に従い心中に曼荼羅を構築していく。

<曼荼羅瞑想の具体例>
金剛鉤という菩薩を瞑想する場合、金剛鉤のシンボルは鉤(かぎ)であるから、修行者は鉤を世界中から集め、自分が手中にしていると瞑想する。それが実感出来た瞬間に、鉤を自分の前の空間に差し出す。すると、金剛鉤が現れ、鉤を受け取り、曼荼羅の定められた場所に坐る。

尊格の産出として、中心に配置されている本尊から始め、中心から周辺に向かって様々な仏を産み出していく。

⇒このようにして構築された曼荼羅を絵として表現したのが、現代に残る曼荼羅とする

絵を書く時は、最初に曼荼羅の区画線に色を塗る。結界として外部から遮断し、邪悪が侵入出来なくする。それを中心から周辺に進める。さらに、本尊を示す円輪に色を塗り、周辺に進めていく。

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現在、チベットに残る曼荼羅の大半は8世紀以降の後期密教の曼荼羅である。日本の曼荼羅の最古は、9世紀初頭に描かれたもので、空海が唐から持ち帰った原本を忠実に模写したものと考えられる。

第2章 胎蔵マンダラ
1 大日経
本格的な曼荼羅は、大日経という密教経典に初めて描かれた(胎蔵曼荼羅)。

大日経(大毘盧遮那成仏神変加持経)は全部で7巻あり、6世紀~7世紀中頃に東インドのオリッサ地方で成立したらしい。日本密教では、漢訳本を善無畏(637年~735年)が口頭で翻訳し、弟子の一行(683年~727年)が書き留めたと伝えられる(唐朝の話)。

以下は、Wikipediaの「善無畏」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%96%84%E7%84%A1%E7%95%8F

善無畏と一行は、注釈書(大日経疏)も書いているが、大日経は金剛頂経ほどシステマティックでなく、インド密教においては金剛頂経が主流になっている。

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大日経(大毘盧遮那成仏神変加持経)の「大毘盧遮那成仏」とは、サンスクリット語のマハー・ヴァイローチャナ訳語で、密教の本尊である大日如来を示す。

大日経では、大日如来が弟子である執金剛秘密主(インドラ神が起源とされる)の質問に答えて真理を説く形をとる。一切智智(全ての智恵を統合する絶対的な智恵)を獲得する方法と理論的根拠が経典のテーマになる。

三句の法門:
悟りを求める心を行動の原因とし、大いなる慈悲を根本とし、実践に最高の価値をおく思想。それを実践すれば悟りを開けるとする。実践に価値をおく思想は、大日経が初めて提示した思想とする。利他行(他人の救済を最優先する)が欠かせない。

胎蔵:
大日経が説く宇宙観を「胎蔵」と呼ぶ。サンスクリット語のガルバ(子宮)を意味する言葉。大日如来は全ての事物の子宮であり、全てを含み育成する。

大日経が説く大日如来は胎蔵大日如来 = 理法身として、五大(地、水、火、風、空)は全て理法身の働きとする。

2 胎蔵マンダラ
大悲胎蔵生曼荼羅(大日如来の慈悲が女性の子宮のように菩提心 = 悟りを求める心を宿して成長させ、悟りに導く)という思想。

「胎蔵界曼荼羅」という表現は正しくない。「界」はサンスクリット語のダートゥの訳語で基盤や働きを意味し、金剛界の方に付く。天台密教が真言密教に対抗するために、「界」という表現を使用したとする。

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胎蔵曼荼羅は、世界の実相(本当の姿)を如実に描く。その視点は大日如来の視点である。

曼荼羅を構成している全てが大日如来であり、無限の差があっても本性は一つである。

<現図胎蔵曼荼羅>
慈悲と救済という宗教的観点。

上が東、下が西になる(上が北で下が南の地図とは異なる)。太陽が昇る東を尊ぶ。

初重、二重、三重の三層から構成されており(四重があるものもある)、十二大院として12の部分からなり、描かれる仏は390にもなる。

仏は全て女性を象徴する蓮華に坐る。以下の仏達は、大日如来がそれぞれの次元に応じて姿を変えたとする(理平等)。

大日如来:自生法身
中央に定印という瞑想を示す印を結びながら坐る。真理が活動する領域。

大日如来の周囲:受用身
東に宝幢如来、南に開敷華王如来、西に阿弥陀如来、北に天鼓雷音如来がおり、東南に普賢菩薩、西南に文殊菩薩、西北に観自在菩薩、東北に弥勒菩薩が坐す。法身が救済のために受用し易い身体で活動する領域。

⇒東西南北以外の如来達は修業中で、東西南北の如来と対応関係にある

宗教的覚醒:普賢菩薩 + 宝幢如来
宗教的実践:文殊菩薩 + 開敷華王如来
宗教的悟り:観自在菩薩 + 阿弥陀如来
宗教的理想:弥勒菩薩 + 天鼓雷音如来

⇒大日如来の智恵が現実に展開される様を表現する

初重:変化身
東に遍智院(普遍的な智恵)、西に持明院(慈悲と智恵の統合)、北に蓮華部院(慈悲)、南に金剛手院(理性的な智恵による具体化)。法身が様々な姿に変身して活動する領域。

二重:変化身
東に釈迦院(大日如来が釈迦牟尼に変身して真理を説く)、西に虚空蔵院(福徳の生産と分配)、北に地蔵院(観自在菩薩による地獄にいる者の救済)、南に除蓋障院。

三重:変化身
東に文殊院(智恵が現実の領域で働く)、西に蘇悉院(生者の現実的救済)。

⇒三重の外側の東西南北には、外金剛部院があり、ヒンドゥー教出身の仏教に帰依した神々がいる。等流身として、相手のレヴェルに合わせて活動する領域。

チベットの胎蔵曼荼羅は、外金剛部院を二重の西南北に配置している(大日経に忠実)。ヒンドゥー教出身の神を二重目に配置し、三重目の仏達に監視させているという説がある。

第3章 金剛界マンダラ
1 金剛頂経
金剛は、サンスクリット語のヴァジュラ = ダイアモンドの意味で、仏の真理の永遠不壊を象徴する。

金剛頂経には、サンスクリット語、チベット語、漢訳の三種類があり、原典は7世紀後半の南東インドで形成されたらしい。

金剛界:
金剛頂経が説く宇宙観を「金剛界」と呼ぶ。仏の永遠不壊の智恵の基盤。あらゆる事物の本性を見抜き、多種多様な存在の相違を正しく判別する。

大日如来は、無数の如来と伴に、色究竟天宮にいると設定する。物質界での最高の場所であり、精神界との接点。その時、歴史上の釈迦牟尼をモデルとする一切義成就菩薩という修業者が、悟りのために瞑想している。それを見た如来達が、五相成身観という悟る方法を教える。

そして、一切義成就菩薩は金剛界大日如来となる。そして、金剛界大曼荼羅を建立する。それが理想の領域と金剛頂経は語る。金剛頂経では、思想が徹底的に象徴化されているため、大日経の往心品のように思想を記述する部分が無い。

短い人生での成仏が可能となるには、無限に近い利他行の蓄積が必要(三劫成仏)。それは象徴の力によって可能とする。五相成身観に提示された五つの真言を唱えるという象徴的行為で利他行の集積を代替可能と主張した。

2 金剛界マンダラ
金剛界曼荼羅では西が上になる(大日経では東が上)。インドでは太陽の昇る東を尊び、大日経では東側に曼荼羅を描いて礼拝対象にしたが、金剛界曼荼羅では密教者が本尊そのものとなり、礼拝される側であるために西が上になったとする。

胎蔵曼荼羅が1種類しかないのと異なり、金剛界曼荼羅は28種類ある。ただし、日本の金剛界曼荼羅は1種類のみで、9種類の曼荼羅の集合体である(九会曼荼羅)。

以下の5つの智恵。

①法界体性智
普遍性と絶対性を持つ一切を知り尽くす智恵。

②大円鏡智
鏡が全てを正しく映すように、全ての対象を正しく映し出す働き。

③平等性智
差異の底にある平等性や共通性を知る。

④妙観察智
平等性や共通性の中にある差異を観察する。

⑤成所作智
物事を生成する。

第4章 両部不二
胎蔵と金剛界という宇宙観を、日本密教では同じ心理の二つの局面と解釈し、両部不二(二つで一つ)とする。

胎蔵が衆生(この世の現実)を象徴すると、金剛界は仏(衆生にとっても理想像)を象徴し、胎蔵が地水火風空(現実世界)を象徴すると、金剛界は意識(精神)を象徴する。

しかし、大日経と金剛頂経は全く別の系統の教典である。

チベット仏教では、段階を追って修業する大日経を行タントラに分類し、特定の秘密のことばを唱えれば瞬間的に悟れる金剛頂経をヨーガタントラに分類した。

両部不二は、日本の恵果(746年~805年)が主張した?空海が恵果から両部不二の思想を受け継いだという説?

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古代ダキア人

インターネット上の掲示板からのコピペ。

以下は、Wikipediaの「ダキア人」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%AD%E3%82%A2%E4%BA%BA

古代トランシルヴァニアを根拠地に、最盛期にはハンガリーやスロバキアまで影響力を及ぼした。

〇トラキア民族
トラキア人:
南のギリシャ圏と関係が深い。ドナウ川より南に住む。

ダキア人:
蛮族圏と関係が深い。ドナウ川周辺と北方に住む。

ダキア北方には、ダキア人の兄弟集団であるコストボキが住み、ダキア東部にはダキア人の一部族であるカルピが住んだ。

ダキア人の勢力圏は、初期においてはモルダヴィア、成長期にはワラキア、繁栄期には対ローマ防衛のためにトランシルヴァニアとなる。同地域は鉱物資源が豊富であり、山岳地帯でありながら肥沃だった。

ダキア人人口は、1世紀には80万人~100万人ほどに達していたと推定され、後にローマによって属州化された(ダキア全体の2/3程度)3世紀初頭に「ダキア属州」だけで60万人~120万人が住んでいたともされる。

<社会構造>
部族社会であり、族長(有力貴族)が各自の土地を支配しており、部族・地域単位で独立自治をする。ダキア人の王は、族長クラスから選ばれた軍事指導者という位置付けだった。

以下の4つの身分。

①貴族(tarabostes、pileati) 帽子男
束ねた髪を隠すフリギュア風の帽子は貴族のみが被った。

②平民(comati) 長髪の男
部族の共同所有地が分配され、貴族のような土地私有を禁じられた。

③戦士(capillati)長髪の男(上記②より長いニュアンス)
平民の一部が戦士層を構成した。

④神官
貴族層に属していたが世俗とは一定の距離があり、国政の最終判断は神官による占いによって決められた。

<ダキア人の形成過程:ルーマニアの歴史>
紀元前5000年頃:
欧州圏最初期の都市(大集落)を形成したククテニ文化や特定の意味を持つ記号(古ヨーロッパ文字)を用いたヴィンチャ文化等が栄える。

紀元前4000年頃:
ウクライナ方面からの印欧語族と接触。1000年~2000年かけて印欧語族が流入する。

紀元前2000年~紀元前1500年頃:
青銅器時代に移行。ポーランドから諸部族の流入があったようで、ヒルフォート(強固な防御設備がある集落)が多く見られるようになり、社会が徐々に崩壊していく。

紀元前1200年頃:
海の民による既存秩序崩壊と移住の連鎖により鉄器文化が広まる。広義の「トラキア圏」が形成されていく。

紀元前600年頃?:
遊牧騎馬民スキタイが、ドナウ河口やワラキアに流入。東方からイラン系騎馬民由来の鯉登のような旗(ドラコ)や、鱗状の鎧(スケイルアーマー)等が齎される。

ギリシャ人も黒海沿岸に植民地を作り、内陸のモルダヴィア・ワラキア・トランシルヴァニア方面にも影響する。

西部からは、ケルト人によるハルシュタット文化が伝わり、ダキア人は北方蛮族風になり、南部に居住したギリシャ風のトラキア人とは分かれていく。

<ザルモクシス信仰>
霊魂の不死性を説く。ダキア人の伝承では、教祖のザルモクシスは一度死んでから復活した事になっている。トラキア圏全体に信仰が広がり、北部にいくほど一神教的色彩が強まり、時代が下るほど拝一神教と言えるようになっていく。

信仰の違いからも、南部のトラキア人と北部のダキア人の文化が分かれていったらしい。

紀元前400年頃:
トラキア人が、オドリュサイ王国を建国。ダキア人とトラキア人の分離が進む。しかし、紀元前340年頃にはオドリュサイ王国はマケドニアのフィリッポス2世に征服される。

紀元前200年頃:
西部のケルト人が勢力を拡大し、トランシルヴァニアがケルト人の支配下になる。ケルト人の金属加工技術が伝わり、また、ダキア人がスロバキア東部・パンノニア平原・セルビア北部等の外部に移住するようになる。

戦術面にもケルト人の影響があり?それまで主だった個人戦(長剣等を用いた)から、集団戦術(大盾を用いての盾壁戦術等)も併用されるようになるらしい。

ワラキアは支配を拒み、ダキア人としての共属意識が形成された?

◎ドロミカイテス
記録に残された初めてのダキア王。ケルトに対抗すべくワラキアを纏めた人物?紀元前290年代にはマケドニアも破り、マケドニア王リュシマコスを捕虜にしている。

◎ルボボステス
紀元前2世紀におけるダキア王。トランシルヴァニアのケルト支配を終わらせる。

◎オロレス
紀元前2世紀半ばにおけるダキア王。北からトランシルヴァニアに侵入したバスタルナエ族(東ゲルマンの最前集団?)を撃退。

バスタルナエ族はモルダヴィア北東部に居住するようになり、ダキア文化の影響を受けたらしい。

紀元前100年代:
ギリシャとマケドニアが紀元前140年頃にローマの属州になる。ローマによるダキア侵略の可能性が危惧されるようになる。東部からは騎馬遊牧民サルマタイが黒海北西部まで到達し、ダキアの勢力圏と接するようになる。

◎ブレビスタ
紀元前80年頃にダキア王になったとされる。

対外的には、セルビア北部(スコルディスキ族)、パンノニア平原北部(エラウィスキ族)、スロバキア(ボイイ族、コティニ族)、モルダヴィア(バスタルナエ)、トラキア等を従属させ拡張政策を採っている。

当時のダキア人口を100万人とすると、動員兵力は5万人程度。同時代のゲルマンでは、ウェーザー流域の有力部族が結集したアルミニウスの反乱(9年~16年)での連合軍の最終規模は5万人~6万人ほど であり、小規模ではない。

内政においては、ザルモクシス最高神官のデケネウと組んで全ダキアにおける宗教権威を掌握する。

禁酒等の厳格な教義を施行する事で神官ネットワークを一本化。宗教権威をネットワーク頂点の最高神官デケネウに集中させ、最高神官を王が保護する形で「ザルモクシスの民(ダキア人)の頂点」たる正統性を手に入れる。

禁酒政策には、祭儀で酒盛りをしていたディオニュソス信仰を抑えこむためという意見もある。

さらに、ワラキアにあった王都(Argedava)をトランシルヴァニアのオラシュチエ山地にあったザルモクシス信仰の聖地サルミゼゲトゥサ・レジアに移転する。権威強化と対ローマ防衛の意味。

山脈に囲まれているトランシルヴァニアは守りに最適で、北部から中部の生産地も後背地として安定機能させ易いらしい。

トランシルヴァニア南西部のオラシュチエ山地を対ローマ防衛線の核として、城砦網を整備した。

カエサルによる内戦が勃発すると、ポンペイウス陣営と同盟を締結するが、カエサルが勝利し、パルティア侵攻の次にダキア侵攻が計画されたらしい。紀元前44年にカエサルが暗殺された事で計画は頓挫するが、同年にブレビスタも暗殺される。

彼の死後、統一ダキア王は現れず、ダキアは北のコストボキ・東のバスタルナエ・南のトラキア・西のケルトに分裂する。

*****************

紀元前30年頃:
アントニウスがエジプトで没した後、ダキア人(ドブロジャ)等がドナウ川南岸に侵攻。紀元前27年にはローマが勝利し、ドナウ南岸全域がローマ支配下になる。しかし、実効支配には至らず、侵入と戦いが継続する。

紀元前10年頃:
ローマのパンノニア征服軍の一部がドナウ川北岸に侵入。バナトの王コティソの勢力が減退する。本格的にローマ対策が望まれるようになる。

◎コシモスク
デケネウの弟子である最高神官。コティソ王が没落した後に世俗の王にもなる。

◎スコリオ
30年頃にダキア王になる。トランシルヴァニア北部全域等を吸収し、60年頃にはダキア再統一を完了させる。

◎デュラス
69年のローマとの戦いにおける敗戦を踏まえ、以下の軍備強化を行う。

内政:
兼業の肩書きだった「戦士(capillati)」を、正式な身分階層として区別し、地位を強めて統制を固める。

外交:
東のロクソラニ族や西のイアジェゲス族と軍事同盟を締結し、最大2万人の騎兵を確保。

戦術:
ローマ軍との会戦を避け、森林を利用した待ち伏せや分散した遊軍によるゲリラ戦を中心に戦うようになる。

ローマ戦の最終目的は、ドナウ北岸へのローマ進出を諦めさせ、モエシア・トラキアからも手を引かせ、ドナウ流域一帯の覇権を握る事だったとする。

◎デケバルス
85年にダキア王になり、ローマとの戦いを開始する。この時、ローマは、ブリタニア方面ではカレドニア(現スコットランド)へ侵攻中、
ライン方面では対ゲルマン政策でカッティ族討伐やシュヴァルツヴァルト地方を占領しての防衛線構築等を行っており手薄だった。

以下の段階で戦争を行う。

第一段階:
85年秋に、3万人~4万人の軍勢(ロクソラニ族からの騎兵含む)でワラキアからドナウ防衛線への奇襲を行う。ローマのドナウ方面軍は10万人以上だったが、ドナウ川流域に幅広く配置されていたため、奇襲は容易だった。ダキア軍は、ローマ側の現地最高指揮官であるモエシア総督を討ち取ると、秋が終わる前にドナウ川北岸に撤収した。

ここで、デケバルスはローマに講和を打診している。戦争目的が、ローマを滅ぼす」ではなく「ローマにダキアを諦めさせる」だった事による行動。

第二段階:
86年春に、ローマ皇帝ドミティアヌスが軍を再編し、ドナウ北岸へローマ軍が侵攻する。動員されたのはドナウ方面軍から対ゲルマンの上流部分を除いた7万人~8万人ほどで、ドナウを超えたローマ軍の正面戦力の規模は、ドナウの残留守備・兵站ルート守備の分を差引くと5万人~6万人になる?

現場指揮官に任命されたのは、コルネリウス・フスクスという人物で、タキトゥスから難のある勇猛さを持つを評された?人物らしい。

ダキア軍は、トランシルヴァニアまで後退し、コルネリウス・フスクスは、ダキアの首都サルミゼゲトゥサ・レジアを目指して侵攻したが、奥地に誘い込まれて分断・各個撃破されてローマ軍は大敗し、コルネリウス・フスクスは戦死した。

*************

ここで戦争は終わらず、88年夏にローマ軍は再編され、新将ユリアヌス率いるローマ軍が首都サルミゼゲトゥサを目指して侵攻を開始した。

ダキア軍はトランシルヴァニアの入り口であるタパエで待伏せを行ったが、待伏せを見抜かれ敗北。しかし、退却には成功する。ローマ軍は勝利したものの一旦進軍を停止するほどの損害を出した。

オラシュチエ山地はダキア側が多くの拠点を固めており、ローマが攻勢に手間取れば他地域からの敵増援軍とも戦わなければならない。その時点でのローマ軍の規模では大量の砦を攻囲しつつ、背後の敵増援軍と戦う事は困難だった。

ユリアヌスは一旦はドナウ川南岸に後退し、翌年の89年1月にドナウ川北岸への侵攻を開始する。それを受けたダキア軍はドナウ下流域で戦力が手薄になったローマ防衛線を攻撃。ユリアヌスは89年夏にはドナウ防衛線を持ち直す事に成功するが損害は大きく、ダキア討伐は困難になる。

さらに同じ頃、ローマ内部でも上ゲルマニア属州の総督サトゥルニヌスが反乱を起こし、ダキアの優先度が下がった事でユリアヌスの再侵攻計画は延期される。

90年頃にはドナウ上流~中流部のゲルマン人(スエビ系有数の強部族であるマルコマンニとクアディ)がローマへの侵攻を開始。特に92年の攻勢でローマ側が大きな損失を被った事で、ドナウ下流の対ダキア用戦力をパンノニア方面に移転する事になる。

93年~95年頃には、ローマとダキアの間で講和が実現する。以下の条件。

①ドナウ北岸からのローマ軍の全面撤退
②今後、ローマ軍がドナウ北岸に介入しない約束
③ローマ兵捕虜解放の引き換えに身代金を払う

⇒講和条件がローマにとって屈辱的なもので、後の戦争を決定付けたらしい

96年9月にローマ皇帝ドミティアヌスが暗殺され、次の皇帝ネルウァに指名されたトラヤヌスが98年にローマ皇帝になる。

トラヤヌスは、対ダキア戦争における指揮官だった事もあり、ダキア再侵攻に向けて二個軍団の新設等の準備を進めた。

◉第一次ダキア戦争:
100年頃には、15万人ほどのローマ軍が集結し、トラヤヌスによる第一次ダキア戦争が始まる。ローマの進軍は一定間隔で数万ずつ分かれて行われ、最終的にトランシルヴァニアの入り口であるタパエで全軍合流し、トランシルヴァニアへの侵入口を押さえる計画だった。

タパエの他にも、ワラキアを流れるドナウ支流のオルト川を遡り、オラシュチエ山脈の東に出るルートからの侵攻が行われた。ダキア軍はゲリラ戦で対抗し、102年のオラシュチエ戦は激しいものだったらしい。

ダキア側の損害は大きかったが、ローマ側もオラシュチエの城砦網が予想以上に堅固であり、ダキア内部の結束が固い事から、ダキア側の降伏を受け入れた。

以下が降伏の条件。

①ダキアの武装解除
②ドミティアヌス帝期に結ばれた協定は完全反古
③ダキアの属国化
④周辺地域(バナト及びワラキア地方)の放棄
⑤城壁を含む防衛設備を全て破壊、再建も禁止
⑥軍事系技術者、ローマからの亡命者を引き渡す

102年の内にトラヤヌスはドナウ川南岸に引き上げたが、ダキア内の要衝にローマ軍を残した。首都サルミゼゲトゥサに残した一個大隊は、ザルモクシス信仰の聖域すらもローマの影響下であると宣言する目的もあったらしい。

⇒指導者層は敗北を受容出来ても、一般層が敗北を受容する事は困難?再度の戦いが始まる

戦争後にダキアは再軍備を開始し、ローマは103年からドナウを渡る橋を建設し始める。105年春に橋は完成。

◉第二次ダキア戦争:
105年夏に、ダキア軍がオラシュチエ一帯に駐屯しているローマ軍相手に戦争を始める。夏の終わりにはドナウまで到達し、ドナウ防衛線にも激しい攻撃を開始する。

トラヤヌスは105年秋には現地入りし反撃する。このローマの反応はダキア側の予想以上に素早いもので、ダキアの退却が間に合わず大きな損害が出たらしい。オラシュチエに戻った時点でのデケバルス直接指揮下の戦士は、僅か1万という推計もある。

106年になる頃には、ダキア戦線に集結したローマ軍は20万人に達していた。106年春には複数方面への同時侵攻が行われダキアは孤立していく。106年夏が終わる頃には、首都サルミゼゲトゥサが陥落してしまう。106年秋には、ローマ軍はトランシルヴァニア全域制圧を完了しトラヤヌスはダキア征服完了と属州化を宣言する(統一ダキア王国の滅亡)。

ローマが得たダキア人奴隷は5万人~10万人とされ、戦死等も含めると、全体で15万人から20万人ほどのダキア人が姿を消したらしい。ダキア人は未だに大勢残っていたもののダキアのローマ化が進んだ。

やがて、ゲルマン民族やフン族やアヴァール族、スラヴ等の新興勢力と混合し、「ルーマニア人」が形成されていく事になる。

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高い知能について考えている

知能とは何か。

以下は、「知性誕生」の記事へのリンク。一般知能因子について。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-255.html

以下は、「知能検査を利用した特性理解」の記事へのリンク。知覚統合について。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-1162.html

以下は、「セントラル・コヒーレンス」に関する記事ヘのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-category-11.html


以下は、「知能のパラドックス」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2467.html

******************

知能検査において「知能が高い」とはどのような現象であるか考えてみる。

思考力とは、物事を定義する力としてみる。

何かを認識した時に、細部を捨象し、既知のパターンと照合して分類する。新しい出来事を体験する度に、新しい概念を組み立てる事は「高い知能」を意味しない。

それだから、「高知能者」は全体でなく、一つの原因を探し出し、それを正す事により問題を修正可能と考える?より問題を単純化する傾向。

流動的で複雑な物事を分解して分類して名付ける。動詞でなく名詞を多用。

⇒「高知能者」の思考は最低限の情報から、一般的見解に至る?

上記のように、「高知能」を支えるのは、「常識」だ。「常識」という一般的枠組みがあるからこそ、少ない情報で決定する事が出来る。存在しないものに注目する事は困難。無いものよりも、在るものについて考える。

⇒下位構造と上位構造による思考の原点?

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一般知能因子 = 様々な事に対応する知性は、「言葉」による思考と考える。

人間は言葉で考える。言葉は、多目的思考ツールであり、多くの人間が共有する社会常識。多くの人間が共有出来るように、言語的な約束事の変化は緩やかになる。

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百瀬、こっちを向いて/僕は小説が書けない

読んだ本の感想。

以下は、やる夫RSS+インデックス の「こっちを向いて」へのリンク。

http://rss.r401.net/yaruo/archives/389121

上記を読んだので、原作を読んでみた。読まなければ良かった。

主人公は自己評価の低い超絶美少年と思わなければ納得出来ない。ヒロインが主人公を好きになる過程に無理がある。作者は先輩-彼女-浮気相手-自分という人間関係に拘りがあるように思えた。

以下は、やる夫RSS+インデックス の「【R17】マドカちゃんは女子高生ビッチなようです。【繋個】」へのリンク。

http://rss.r401.net/yaruo/site_list/archive_list/13116

同じような人間関係だけれど、上記の方が無理が無いように思える。

<百瀬、こっちを向いて>
中田永一著。平成二十二年九月五日 初版第一刷発行。



短編集。以下を収録。

〇百瀬、こっちを向いて
主人公 相原ノボルはレベル2を自称する高校生。幼馴染で先輩の宮崎瞬に頼まれ、宮崎瞬の彼女である神林徹子に彼の浮気がバレないよう、浮気相手の百瀬陽と偽装で付き合うようになる。

宮崎瞬の幼馴染である相原ノボルの彼女であれば、百瀬陽と宮崎瞬が顔馴染みでもおかしくない。

最終的に宮崎瞬は神林徹子と付き合い、百瀬陽は主人公と付き合うようだ。ほおずきの花言葉は裏切り、不貞、浮気。

〇なみうちぎわ
主人公 餅月姫子は、1997年に海での事故で意識不明になり、2002年に目覚める。1997年当時に餅月姫子が家庭教師をしていた小学六年生の灰谷小太郎は高校生になっており、関係に変化が生じる。

〇キャベツ畑に彼の声
テープ起こしのアルバイトをしている高校生 小林久里子は、小説家 北川誠二の声が高校教師 本田の声と同じである事に気付く。本当の小説家は妹の本田可奈子だった。

〇小梅が通る
超美人である事を隠すためにブスメイクをする春日井柚木の話。以下の漫画を思い出した。



<僕は小説が書けない>
著者/中村航 中田永一。2014年10月30日 初版発行。



主人公 高橋幸太郎は不幸体質の高校生。中学二年生の時に、自分が母の不倫によって出来た子供である事を知り、以降、書きかけの小説の続きが書けないでいる。

先輩である佐野七瀬に勧誘され、文芸部に入部する事になる。

以下は、他の文芸部員。

・鈴木潤(高校二年生。怖がりのホラー好き)
・中野花音(高校三年生。ボーイズラブが好き)
・水島美優(副部長。時代小説のような話し方)
・井上(部長。アニメに詳しい)

文芸部OBには、理論派の原田と感性派の武井大河(御大)との間に対立があるようだ。

途中で、生徒会役員の前田玲奈に、活動が不真面目である事等を指摘され、文化祭にて価値ある部誌を発行出来なければ文芸部は廃部される事になる。

主人公は、部誌作成のために自らが書きかけた小説の続きを書く事になる。

そして、主人公は佐野七瀬に好意を抱くようになるが、合宿にてOBの原田(婚約者がいる)と佐野七瀬のキスシーンを目撃してしまう。

主人公は小説のキャラクター造形のための取材として、佐野七瀬が浮気に至った理由をインタビューする。

⇒このシーンは不自然だった。理由も曖昧ではっきりしない

最終的に部誌が完成して文芸部は廃部を免れ、主人公と佐野七瀬は好き合う事になるようだ。



***********************

作者が、先輩-彼女-浮気相手-自分という人間関係に拘った結果、話が冗長になってしまったように思える。OBの原田は女子高校生に手を出す最低人間になり、佐野七瀬も嫌な奴になってしまった。物語後半の佐野七瀬は百瀬陽だ。キャラクターが安定していない。

それらを踏まえ、以下のような展開はどうだろう?

主人公は不幸体質の高校生。

中学生の時に、先輩女子(ヒロインA)と自分を投影した空想小説を書いていたが、それをヒロインA本人に読まれ、酷評された事が原因で続きが書けなくなっている。

高校に入学した主人公は、先輩であるヒロインBに不幸体質を才能と見込まれ、文芸部に入部する事になる。

ヒロインAも同じ高校に通っており、かつては文芸部に所属していたが、理論を好むヒロインAは感性派のヒロインBと対立し、文化祭における部誌販売競争に敗れた事で退部し、現在は生徒会役員になっている。ヒロインAの敗北理由は、主人公の不幸に巻き込まれ、自分の部誌を完成出来なかったためである。

ヒロインAは、入学当初は成績優秀だったヒロインBが文芸部に嵌って見る影も無くなっている事、他の部員達もエロ同人やボーイズラブ等の不真面目な活動をしている事、何よりも自分を模したキャラクターが登場する小説が大量生産される事を危惧し、文芸部の活動方針をめぐってヒロインBとの再戦を宣言する。

勝負は、主人公が書きかけた小説をタイプA(理論派のヒロインAの指導による)とタイプB(感性派のヒロインBの指導による)に書き分け、文化祭における競争で雌雄を決するものである。

ヒロインAは自分が主人公に好かれている事を知っているために様々なアプローチをするが、主人公はヒロインAがヒロインBへの対抗心のみで動いており、主人公自身には全く興味を持たない事で傷つく。また、自らの創作欲求の源泉が妄想の中で理想のヒロインといちゃつく事であり、現実のヒロインAの中身を知らない事で悩む。

そして、文化祭での勝負はヒロインBが勝利する。その理由は、表紙の体裁が良い事で中身は関係無い。納得出来ないヒロインAは再戦を宣言し、なし崩し的に文芸部の活動に関わる事になる。

主人公は、自らの小説を他の人間も楽しめるものとすべく、精進を誓うのだった。

⇒先輩-彼女-浮気相手-自分という関係性に拘らなければ、こっちの方がすっきりする?

作者は、自分の小説世界の中で、浮気相手という不遇の立場に身を置く女性を解明したいのかもしれない。

こうして、読まなければ良かったと思いながら大量に時間を使っている。何をしているんだろう?

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マスタリー

読んだ本の感想。

ロバート・グリーン著。2015年6月25日 発行。



歴史人物に関するトリビアを楽しむ本だと思う。

著者のスタイルの特徴は、歴史上の人物の思考をシミュレートし、我が事のように語る事であるように感じる。特定人物について調査し、想像力を働かせ、その人物になり切る。

外部(科学)と内部(共感)の2つの概念がある。言語学習に例えると、「外部」とは書物で単語や文法を学ぶ事であり、「内部」とは習得対象の言語を使用する人々と交流して実施で学ぶ事である。

見かけ(物の形状)と仕組み(構造や組成)という二つの世界があり、それを結合するべき。

マスタリー:
奥義を極める事。現実、他人、自分を広範に掌握している感覚。

以下の学習段階。

①修業期
基本要素とルールを学ぶ。

②創造的活動期
各部門の関連性に注目し、包括的理解を深める。

⇒実験や自由な発想という能力が生まれる

③マスタリー
知識、経験、認識が深まり、全体像を把握出来る(直感)。

<衝動について>
生まれつきの性質に合ったライフワークを探す事について。人生は曲がりくねった旅路であり、真っ直ぐに大きな目的を達する事は出来ない。

以下の方法論。

・幼少期の気持ちを思い出す
・自分の居場所を選択し適応する
・過去を手放す

<修業期について>
以下の3段階がある。

①受動的姿勢(観察)
全ての職場に独自の慣例、行動規則、作業基準、個人間の力関係がある。それらの現実を観察して理解する。初期に注目を集める必要は無い。

②技術修得(実習期)
観察に徹して数ヶ月後には技術修得を行う。修得対象は基礎技術一点に絞るべきであり、初期には退屈を感じるはず。

③積極的姿勢(実験)
積極に転じる。独立するか別の修業場所を見つける。

人間は困難を避ける傾向があり、不得手な部分には触れずに練習してしまう場合がある。達人になるには抵抗練習に取り組まなくてはならない。そのためには苦手を認識しなくてはならない。

<師匠について>
効率的に学ぶには師が必要。師は不必要な横道に逸れないよう誘導してくれる。

師の方では、大量の仕事と情報を抱えているはずであり、彼等の負担を減らす能力があると証明出来れば自分をアピール出来る。

師から学ぶには心を開き、師の魅力の虜にならなくてはいけないが、師の影響が大き過ぎると自分自身を育む内的スペースが無くなってしまう。師の意見を自分の事情に応用し、自分の流儀に合わせて変える必要がある。

師弟関係において最初の情熱を持続させる事は困難で、師と弟子の差が縮まると、弟子は師の権威を疎ましく思い、異なる世代に属する事による価値観の違いが見えてきてしまう。そうならないためには徐々に、師との相互関係を構築しなくてはならない。

<創造的活動期について>
以下の段階で創造力を解き放つとする。

①創造的作業
強く執着出来る作業を選択する。現実に即し、自分よりも少し上の作業。

②創造的戦略
精神は緊張するほど集中出来る範囲が狭まるため、創造的になるほど考慮する可能性が少なくなる。それを防ぐための以下の方法。
・消極的受容力
自分の最も大切な意見が現実と矛盾する事実を知る覚悟。
・セレンディピティ
調査の幅を広げ、余裕を維持する事で予期せぬ何かを取り込めるようにする。
・流れ
推測と観察を繰り返す事で、思考と現実の対話を実現出来る。
・見方を変える
型に嵌った思考は細部に注目するのでなく、パターンを探す傾向がある。自らの親しんでいるパターンを知り、その外部から考えるようにする。
・知性の最初の形態(言語を使わない思考)
イメージや図、模型を使用して考える。

③創造力の壁を超える
緊張が高まった時点で作業を中断する。一時的に別の事に取り組むと名案が浮かぶ。自分の作業に熱気を感じている内には、自分の仕事を客観視出来ない。

〇ロゼッタストーン解読の逸話
1798年にエジプトを侵略したナポレオンが持ち帰った石。同じ文章が、ヒエログリフ、民衆文字、古代ギリシア語の三種類の文字で書いてある。
以下の2人の解読を比較。

・トーマス・ヤング
ヒエログリフを表意文字と推定。特定の単語がギリシア語で使用される確率を調べ、ロゼッタストーンにて同じ確率で出現する単語を見つけ、その二つが同じ意味と推定した。

・ジャン・フランソワ・シャンポリオン(1790年~1832年)
ギリシア語(486語)とヒエログリフ(1419語)の語数を比較。文字数の違いから、ヒエログリフを表意文字、象形文字、表音文字の混合と推定。さらに、記号の形に着目し、形が似ている民衆文字とヒエログリフから解読に取り掛かる。

⇒トーマス・ヤングは外部から考えたとする。古代エジプト語を単純化(表意文字と仮定)して数式化し解読に失敗。シャンポリオンは複雑を仮定し、文字の形状に着目するという全体的思考によって解読に成功したとする

複雑な問題を数式化、抽象化して単純にする事には問題がある。

<マスタリーについて>
マスタリーは合理的思考(現象から原因を推測し反応を予測する)とは異なり、全体像を直観的に把握し、ダイナミックを感じる能力である。

マスタリーのためには、一定期間を修業に費やし、脳を変容させる必要がある。長期間の修業は脳内の記憶ネットワークを複雑化させ、意識下で様々な領域に接続出来る。

****************

著者は、以下の2名から影響を受けているように思えた。

◎ベンジャミン・フランクリン(1706年~1790年)
1722年に兄がニューイングランド新報を創設した際、サイレント・ドゥーグッドという架空の人物に成り済まし、兄の新聞に文章を投稿した。

自分が創り出した女性の内面を考えたように、他者の心を洞察する方法を会得していく。他人と接する時に、客観的になる効果があるとする。

米国の代議員アイザック・ノリスと対立した時は、彼が稀覯本を含む蔵書を所有している事を知り、アイザック・ノリスの蔵書を称賛する作戦に出る。本の貸借をする等して信用を勝ち得たとする。

他人の行動の意味を内面から探ろうとすると、自分の感情を他人に投影してしまう。自分の感情に執着せず、外に目を向け、観察する。個々の人間を知り、一般的な人間性を知る。

他人の見方で世界を見るには、共通の感情体験(トラウマや苦境)を探し、その人になり切る。

人心を読むために口調や身振りから感情を表すシグナルを見る。特に権力者を相手にする時には、不安や追従等の精神構造の本質が漏れる。度を越した振る舞いは、それとは反対の心理を隠すためである。虚勢を張るのは不安だからであり、冗談は悪意を隠す。

以下は、一般的人間性。

①嫉妬
人間は自分と他人を比較する。特に自信が無い人間は嫉妬深い。だから才能ある人間は別分野で弱点を見せ、他者に助言を求めるようにする。
②迎合主義
集団の考え方があり、異質な人々が異議を唱えると集団の構成員は不安になる。修業期には集団の基準に従う態度を見せるべき。
③頑迷
人間は複雑を嫌うため、習慣を作って対応する。
④自分勝手
自分の利益を隠して、道徳心を振り撒きながら行動する。
⑤怠惰
簡単な道を進みたがる。
⑥気紛れ
感情の影響が無い理解は無い。そのため、言動ではなく首尾一貫している行動に注目するべき。
⑦消極的攻撃性
直接対決を嫌がり、分かり難い方法で戦う。

◎マルセル・プルースト(1871年~1922年)
1886年にオーギュスタン・ティエリが著した『ノルマン人のイギリス征服史』を読み、人間性の法則を物語の中で明らかにする目標を持つ。

1888年にはロール・アイマンという37歳の高級娼婦と知り合う。彼女の主催するサロン(文学や哲学について話し合う場)の常連となる。

マルセルはフランス上流階層の社交生活を観測すると決め、彼自身が直接体験した事を小説にする。恋愛が上手く描けない時は、興味を持った女性の恋人と友人になり、その信頼を得て二人の関係を探った。

しかし、1896年に出版した『楽しみと日々』は売れず、英国の美術批評家ジョン・ラスキンの作品をフランス語訳して生活するようになる。この時がマルセルの修業期間としている。

1903年には父親が死に、1905年には母親が死ぬ。それを契機に、フランス社会に関する膨大な知識を小説化する事になる。

『失われし時を求めて』は、自我を確立出来ない若者を中心にフランスの歴史が盛り込まれた傑作だった。マルセルは実生活と小説を結び付け、新たな登場人物が必要になると、それに匹敵する人物を探して観察し、そのまま小説にした。

単なる写実小説でなく、自らの論考も含める。

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施されている

以下は、「担任「いじめられてはないけどハブられてる子を修学旅行の班に入れてあげて」→過激派「絶対イヤ」穏健派「まあいっか」→結果…」へのリンク。

http://www.sechigara.net/archives/66529540.html

投稿主が高校生の時に、担任に頼まれて友達のいないクラスメイトを自分の班に入れた話。その結果、「相部屋くらいならいいか」というグループと、「短期間でも一緒にいたくない」というグループに分かれ、投稿主は友人を何人か無くしてしまった。

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子供の時から集団行動が苦手で嫌いだった。

学校や社会のルール上、僕は皆と同じように行動しなければならない。ほとんどの人間は、僕と一緒に行動する事を嫌がるし、自己主張出来る事を示すために僕が嫌いだと言う。

僕の押し付け合いになり、僕と組まざるを得なくなった人間に文句を言われた事がある。嫌われ者をやっつけると、皆に出来ない事を肩代わりした事になりヒーローになる。

余った人間同士でも上手くいかない。

「いつも余った人間同士がグループになっている。これじゃ可哀そうだから、偶には別の人と組ませてあげようよ」

博愛精神に満ちた人間というのもいて、僕と組む事で自分の優しさを確認しているように思えた。その人達から感じるのは屈折した差別意識で、「自分はこれほど醜い人間に親切に出来る素晴らしい人間である」と言っているように思えた。

基本的に僕の話を聞かないし、自分の命令に僕が従うと思っている。さらに、僕から尊敬されている事になっている。

*******************

最も問題があったのは掃除当番だった。僕の顔が見たくないから掃除当番をサボる同級生がいた。短時間でも僕と一緒にいたくない。それは僕が悪い事になる。クラスのほとんどがそれに共感する。それでも学校のルール上、僕は掃除をしなくてはならない。

解決策は、掃除をサボっているのは僕であるという風にクラス全員の記憶が改竄される事だった。ほとんどの人間が信じないけれど、これと似た現象は至る所で日常的に発生している。

自分が掃除をサボっているという現象は、僕を怒鳴りつける事によって書き換える事が出来る。やがて、全てのサボりは僕であるという事になり、クラス行事の論理が破綻していった。

記録上、僕が当番でない時も僕が掃除をしなければならない。それでも僕は怠けている事になり、怒鳴られなければならない。

繰り返すけれど、これは至る所で観測される事象だ。全ての人間が記憶を改竄しているから、矛盾に気付く事が出来ない。

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以下は、「帝国の構造」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2478.html

「帝国の構造」に出てくるような互酬(贈与と返礼)や下部構造・上位構造の概念は、このような人間心理を理解するために有効だと思う。僕は未だにほとんどを理解出来ないが。

贈与と返礼。

僕は気持ち悪いのだ。僕の存在を許容している時点で、多くの人間は僕に施しているように感じる。そのように贈与を受けているのだから、僕は返礼しなければならない。

返すものが何も無い僕は迫害される事になる。

********************

「お前は今まで他人の優しさに縋って生きてきたんだろう」

30歳を過ぎてから会社の上司に言われた言葉。

社会人になっても大枠は変わらない。社会通念として、僕は会社に帰属する事を期待される。決められた服装をして、決められた時間に決められた場所へ行き、決められた事をする。僕は規定されている。僕は何も価値を生み出していないが、そのように行動する事を期待されている。

支配と保護。

互酬とは異なる概念が僕を規定する。僕に会社を辞めて欲しいという人間は、そうした意見を会社の人事部や医師に主張出来なかった。

会社内部の人間関係とは異なる論理が、僕達の思想や行動を規定している。

僕と一緒に学校行事をやりたくなかった人々も、社会通念と対決する事が出来ず、怒りを僕にぶつけた。社会人になってもそれは変わらない。

だから時々、自分が生きている事が不思議になる。多くの人間が僕にいなくなって欲しいと思っている。僕は自分には出来ないと思っている。それなのに僕は生きている。不思議だ。

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「棲み分け」の世界史

読んだ本の感想。

下田淳著。2014年10月25日 第1刷発行。



序章 棲み分けとは何か
世界史において欧米の優位を決定付けた要因。

〇自生的・生態学的棲み分け
権力、人口、都市(市場)、富が適度に競合して棲み分けしようというベクトル(分散)。権力の分散(封建制)が富の分散を生んだとする。

⇒近代国家が成立する事で、棲み分けは終焉する

〇能動的棲み分け
空間・時間を意図的に整理整頓(分類)する傾向。特定の時間や空間は、特定の目的のみに使用されるようになり、それ以外の目的は排除されていく。就業時間と休憩時間が厳密に区分されるようになったのは、19世紀後半の欧州だった。

⇒自生的・生態学的棲み分けが土台にあり、その上に能動的棲み分けが進められる

棲み分けが行われた時代に、サイエンスと資本主義が発達したとする。

第Ⅰ部 自生的・生態学的棲み分け-欧米の前提条件
第一章 ヨーロッパの古代-フランク王国とは何か
キリスト教がゲルマン人に幅広く浸透するのは11世紀~12世紀頃であり、現代欧州の基盤はその頃に出来たとする(権力の棲み分け = 封建制の成立)。

ヨーロッパとは最初ギリシアの事だったが、ローマ・ゲルマン社会が自らとピザンツ帝国を対比するためにヨーロッパを使用するようになる。広く使用されるようになるのは15世紀の大航海時代において他文明と接触する機会が増加したためとする。

ちなみに東欧の概念は、19世紀以降、スラヴ諸民族が独立運動を始めるようになってから西欧知識人が使い始めたとする。

〇封建制
主君と臣下の土地(封土)を媒介にした契約関係。臣下が貰った封土は世襲領となる。欧州以外のほとんどの地方では、全ての土地が原則として皇帝領だった。中央から役人が派遣され徴税する。

フランク王国のカール大帝(在位:768年~814年、800年以降はローマ皇帝)の時代の西欧は官僚制的中央集権国家であったが、恩貸地制度(主君が臣下に土地を与える制度)があり、封建制の苗床となる。

著者は、全土から徴税するシステムを構築したピザンツ帝国と比較して、フランク王国はカール大帝個人の力量に頼る部分が大きく、全土を支配するシステムを構築出来なかったとする。

第二章 封建制と人口分散
    -権力と人口・都市(市場)の棲み分け

欧州では君臣制が成立した。君主と臣下は契約で結ばれ、臣下の領土に主君の徴税・司法権は及ばなかった。

恩貸地は当初一代限りの領有だったが、877年に西フランク王国がキエルジー勅令を出し、世襲を認めるようになる。シャルル二世のイタリア遠征に協力した諸侯への援助。

臨時的措置だった臣下による領土の世襲化は、13世紀になる事には欧州全域で行われるようになる。

〇領主制
土地を所有する領主と、土地を貸与された農民との支配・被支配関係。領主制は君臣制と相互補完関係にあり、主君から封土を与えられた臣下は、領主として独立の権力者だった。

領主制の成立によって各農民はある程度、自立的経営が可能になり、都市(市場)の成立が促される事になる。

著者の引用した推計によると、1300年頃までにドイツ(人口1350万)で2000、フランス(人口1960万)で3000、英国(人口410万)で6000、イタリア(人口1350万)で2000の都市が存在したとする。都市の多くが人口5000人程度であり、こうした都市(市場)の分散が欧州の特徴とする。

アジア(東アジア、インド、中近東)の人口を1340年で2億3800万人とすると、都市の人口が欧州とは異なる。長安やバクダード、カイロやコンスタンティノープル、北京のような数十万人規模の都市は欧州には存在しない。パリとロンドンの人口が50万人を超えるのは18世紀になってから。

第三章 サイエンスの誕生
    -富の棲み分けと職人たちの欲望

17世紀前後の欧州において多くの科学的成果が生み出された(ケプラー、ニュートン、ライプニッツ等)。

科学者(サイエンティスト)という用語が社会的に認知されたのは19世紀であり、それ以前は文理の区別は無かった。多くの文明圏では、抽象的思考や議論を展開する思想家が学者とされ、実験や観察等の実践活動を通じて物理法則を発見する自然科学者はいなかった。

〇19世紀以前の欧州の大学
専門学部として、法学、神学、医学等の文系科目を教えた。ギリシア・ローマの学問(文法、修辞学、弁証術、算術、幾何、天文、音楽)の下位に哲学等があったという。
基本的に文献購読、注釈、討論が授業内容であり、ユスティニアヌス法典やイスラム圏から逆輸入された文献等を使用したという。

〇人体解剖
16世紀以降、欧州の大学では他文明圏では禁忌とされる人体解剖が頻繁に行われるようになった。当時、高位聖職者等は大聖堂内にミイラとして安置されたが、そのミイラ化を行う外科職人がいた。
そうした下地がある所に、ルネサンス期の芸術家達が、自らの作品を精緻にするために人体解剖を行うようになったとする。16世紀以降の欧州は資本主義の時代であり、公開解剖が恒常的に見世物として行われるようになったという。

知識欲よりも金銭欲が頻繁な解剖を実現した。

欧州の科学知識は、大学の外で人体解剖を行う職人達が生み出した?当時の職人達は都市に帰属し、ギルドの階層的秩序の中にあったが、都市間での競争があり、また、農村にはギルド外の職人達がいた。

⇒小規模都市が乱立する事による競争が技術競争の源?

富が一部に集中していると、その人々が興味を持たなければ商品が売れず、それ以上に技術が進歩しない。

〇特許
欧州の特許制度は富の分散が原因とする。良い製品を作っても皇帝に献上するだけなら、自分の技術を防衛する必要が無い。特許制度は1474年のヴェネツィアで初めて導入されている。

大航海時代には、さらに様々職人の技能が必要とされるようになる。

********************

19世紀以降、科学者の社会的地位は向上した。資本主義と科学は一心同体であり、現代人の思考パターンにも全てを数値化する等の影響を及ぼしている。

第四章 貨幣関係のネットワーク
    -資本主義はなぜ浸透したか

資本主義:
貨幣(資本)を持つ資本家が、生産手段を持たない労働者を工場に集合させ、商品を生産し販売して利潤を上げるシステム。

著者は以下の3つの資本主義を定義する。

①レヴェル1:
「移動の自由、生業・職業選択の自由、自由主義市場」が展開された経済システム。

⇒欧州では封建制によって成立が邪魔したが、イスラム圏や中国では成立していた

②レヴェル2:
賃金労働者や機械を使用して大量の工業製品を持続的に生産・販売するシステム。

上記レヴェル2の資本主義は、一国内に収まらない。原料調達地や販売市場を必要とする。工業国が儲かる理由をマルクスで説明する。マルクスは物価を労働力で説明している。一台の機械が百人分の労働者の仕事をする場合、それを購入するには差し引きで九十九人分の労働者分の資源を提供しなければならない。

⇒僅かな工業製品で莫大な資源を引き出す事が出来る

⇒工業製品は資源や農産物よりは手間がかからないため、工業国は少数になる

⇒近代世界で資本主義化に成功するとは、少数の工業国になる事である

③レヴェル1.5:
貨幣による商取引が当たり前になった状態。

欧州では、以下により富農(大商人)と貧農の二極分解が発生したとする。

・都市(市場)の数が多く、余剰生産物を販売する機会が
 多かった
・農村にギルド外の職人が多く、手工業者と農民間で
 貨幣を媒介にした取引が行われた(農村内分業)

⇒非欧州では都市の数が少ないため、農民まで貨幣取引が普及しなかったとする。そのため貨幣によって雇用される大量の労働者は欧州にのみ発生したとする

16世紀~18世紀の欧州は金儲けを賛美する社会 = 資本主義社会となり、それまでの社会にあった贈与互酬の文化が廃れたとする。そのため、国家による福祉や社会保障制度が強調されていく事になる。

第五章 ソ連と日本-欧米資本主義の変種
社会主義:
国内経済を国家が全面管理し、富を平等に国民に配分する。また、権力も全ての国民に配分する事を目指す。

社会保障制度を極限まで徹底したのが社会主義とする。

ソヴィエト連邦の工業化の限界は、競争が発生しなかったためとする。限られた国内の富を補う収奪地は、1949年に形成された経済相互援助会議(COMECON:東欧をソヴィエト連邦の販路とする)があったが、社会保障を極限まで追求する政体では競争原理が働かない。

〇日本の特質
江戸後期の日本では欧州同様レヴェル1.5の資本主義が浸透していたとする。

江戸時代の日本には、17世紀初に約185の諸藩があり、幕府の司法、徴税権が及ばなかった。欧州同様に権力の棲み分けがあり、城下町(人口1万人~3万人)が多く成立していた。

そのため、農民が日帰りで都市(市場)に行って余剰生産物を販売し、都市商人が農村を訪れる事が可能だった。さらに、農村内分業が進展し、貨幣で物品を購入する傾向があったとする。

⇒貨幣関係ネットワークと資本主義の精神の浸透

第Ⅱ部 能動的棲み分け-欧米を飛躍させた真因
第六章 キリスト教の変質-聖俗の棲み分け
封建制の成立時期(11世紀~13世紀)とキリスト教が西欧に浸透する時期が重なる。

ローマ・カトリック教会の典礼や教義の起源は、この時期とする。

・グラティアヌスによる教会法令集編纂
・煉獄(天国と地獄の中間)概念の誕生
・修道会の設立
・教皇権強化・聖職売買、や聖職者のの婚姻禁止

封建主義の流れにのり、教会には封土が寄進されたとする。

****************

〇聖と俗の分別
欧州キリスト教社会のみが、時間と空間を聖俗に分離出来たとする。

「聖」は宗教儀式全般を意味し、「俗」は宗教儀式以外と定義する。他の文明圏では宗教施設が地域のコミュニティセンターになるが、16世紀の宗教改革以降、ルター(1483年~1546年)やカルヴァン(1509年~1564年)は、教会を純粋に礼拝や説教だけの空間にしようとした。礼拝の時間も厳粛なものにしようと試みたとする。

こうした異物排除の発想は、早い時期から見られ、キリスト教会によるユダヤ人排撃は11世紀末から始まる十字軍が契機になったとする。ユダヤ人排斥は全て西欧で発生しており、ローマ・ゲルマン・カトリック社会の現象とする。

************

キリスト教自体が不寛容なのでなく(ピザンツ帝国やロシアでは他宗派への不寛容政策は採られていない)、キリスト教化したローマ・ゲルマン社会が不寛容とする。

それはローマ・ゲルマン社会の知識人聖職者による行為であったとする。キリスト教は来世信仰であるが、民衆は現生での奇跡を求める。民間信仰は俗的世界の現象だから、知識人聖職者による啓蒙活動は聖俗の棲み分けを進行させたとする。

そして、聖俗の棲み分け(特定空間、特定時間には一つの事しか出来ないという発想)の達成は、資本主義的発想の広がりに支えられたとしている。

工業化が始まると、仕事場は仕事をするだけの空間となり、就業時間が正確に規定されるようになる。

第七章 ナショナリズムの隆盛と時計の発達
    -空間・時間の棲み分け

19世紀以降の能動的棲み分けについて。

ナショナリズム:
一民族 = 一言語 = 一国家を基本とする思想で、同質空間から異民族を排除しようとする。近現代国家は、この思想(能動的棲み分け)で作られているとする。

封建制崩壊により、多言語使用も崩壊し、同じ民族の同じ言葉を使用しなくてはならなくなる(純化)。民族とは想像された共同体である。

ナショナリズムは空間の能動的棲み分けであるから、国境を厳密に定めないといけない。ナショナリズムは資本主義を超えた国境意識を生み出している。そして貧困がナショナリズムを増幅するとしている。

〇時計
時計の普及は、資本主義の精神の普及に伴ったとする。

一日を24時間に細分化し、タイムスケジュール化するために使用(時間の能動的棲み分け)。

機械時計は8世紀初頭の中国で発明されたが、発達したのは欧州だ。1300年頃に欧州で機械時計が製造されている。1450年頃にはゼンマイ時計が発明され小型化が可能になり、1657年に発明された振り子時計は分針、秒針がつけられるようになる。

従来は季節や緯度によって一時間の長さが異なったが、正確な時計によって太陽の運行とは無関係に時間を24等分するようになる(標準時の誕生)。

1880年には英国でグリニッジ天文台の標準時が法制化され、各国が従うようになる。それと連動するように19世紀末に時給制度が普及し、時間の能動的棲み分けが進展していく。

第八章 ナチスとアメリカの人種差別-人間の棲み分け
ナショナリズム = 人間の棲み分けを極端に実施したのがナチズムとする。

フランスのジョルジュ・キュヴィエ(1769年~1832年)は、人間を白人種(コーカソイド)、黄人種(モンゴロイド)、黒色人種(ネグロイド)に分類した。

ナチズムもこうした人種の分類に基づき、劣等人種をドイツという空間の外部へ追放しようとした。ゲットー(ユダヤ人強制収容所)が最初に作られたには1516年のヴェネツィアであり、16世紀~18世紀の過程で、浮浪者や古事記、病人等も施設に隔離されるようになっていく。

ナチスによるユダヤ人排斥はナチス独自の発想ではない。

第二次世界大戦以前で議会制民主主義を採用出来たのは植民地を持つ国家だけだった。植民地からの収奪による工業化の富が不満を抑えた。収奪された国はカリスマ的独裁者を必要とした。

〇北米
北米は人間の棲み分けが徹底された事例とする。1790年に行われた米国の人口調査では、総人口393万人の内、欧州人が317万人でアフリカ系奴隷76万人となっており、現在の欧州系白人7割の人口比率と大きく変化が無い。

中南米では白人、先住民、黒人が多様に混血したとする。そのため同じ民族という共同幻想を作るには非白人が多過ぎて、米国のように白人だけで自国民を作る事が出来なかったとする。

そのため、中南米諸国では独立後も軍事政権が選択されたとしている。

第九章 ロシアとEUのゆくえ-ヨーロッパ化の限界
ヨーロッパを一つの政治統合体にする事が出来たのはカール大帝のフランク王国だけである。
現代のEUは、加盟国を先進工業国から農業国に拡大するに連れて限界を露呈している。各国が様々な関税をめぐらして自国産業を保護するようになっている。

EUは巨大な国民国家を作る事を目標としている?が、そのためにはヨーロッパという空間を設定し、ヨーロッパ人を創出し、ヨーロッパ語という言語で均一化しなければならない。それは不可能だ。

〇ロシア
980年にギリシア正教の洗礼を受けたキエフ公のキエフ公国を初期とする。この時代には諸部族の纏まりでしかない。
1236年頃からモンゴル人が侵攻し、キプチャク・ハン国を作る。モンゴル人は東スラヴ族の居住地であるロシア北東部には間接統治を実施し、やがて東スラヴ諸公であるモスクワが強力となり、ロシア帝国へと発展していく。

イヴァン三世(在位:1462年~1505年)はロシアの全ての土地を君主の世襲領地とし、その後もロシアで封建制は展開されなかった。

⇒棲み分けの無いロシアはヨーロッパ外である

終章 サイエンス・資本主義・能動的棲み分け
   -三つ巴のゆくえ

資本主義と科学が自己増殖するに連れて、空間・時間の能動的棲み分けが厳格に行われるようになるとする。

著者は、そうした現状を不快なものとしている。

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「司馬法」「尉繚子」「李衛公問対」

読んだ本の感想。

守屋洋・守屋淳著。発行―1999年9月13日。



『司馬法』
「司馬」とは、古代中国にて軍政を司る官職の名称。斉の威王(在位:紀元前356年~紀元前320年)が古代からの司馬の兵法を整理したとされる(司馬穰苴の兵法)。当初155篇があったとされるが現代には5篇のみ伝わる。

第一 仁本篇
古王は仁義によって統治した。仁義で統治出来ない時に、戦いの中から生まれた権力を用いる。

以下は、古王の戦い。

礼:敗走する敵を百歩以上追撃しない等
仁:敵にも情けをかける
信:敵が陣列を整えてから戦う
義:大儀を重視売る
勇:降伏した敵を許す
智:戦いを終わらせる時を弁える

古代の聖王(堯、舜、禹)の時代は徳により戦いの必要が無かった。下って賢王の時代では統治のために礼楽や法律、制度が必要になり、軍事力を行使する必要が出てくる。さらに下って覇者の時代には、各国が共通の利害関係によって会盟するようになる。

第二 天子之義篇
政治の基本として以下を推奨。

①文徳(政治のルール)と武徳(軍事規範)を分ける
②功績を誇らない人物を重視
③武力を誇らない
④礼と仁を教化の基本とする

政治では「礼」を重視し、謙譲が美徳とされる。軍中では「法」が重視され、火急の時は長幼の序も無視される。

古代王朝における以下の違い。

舜:
徳による感化のため戦いの必要が無い。

夏:
軍中で誓いを立て、人民が戦うよう求めた。教化のため功績のある者を表彰。鉤車(大きな戦車)や上部を黒く染め人の姿を現した旗を使用。

殷:
軍門の外で誓いを立て、戦意を高揚。締め付けを厳しくするため罪人を罰した。寅車(機動力を重視した戦車)や白く染め天の義を現した旗を使用。

周:
戦いの直前に誓いを立てた。徳が衰えたため賞罰両方を利用。元戎(機能性を重視した戦車)や黄に染め地の道を現した戦車を使用。

第三 定爵篇
以下は、組織作りの基本。

①身分制度を明確にする
②賞罰の基準を明示する
③遊説の士による情報収集
④王の命令を繰り返し徹底する
⑤部下の意見に耳を傾ける
⑥有能な人材を登用する
⑦様々な意見を検討する
⑧疑問や疑惑を解消する

以下の5つに配慮する。

①天道
タイミングを見極める(亀甲による占い?)
②財政
敵地から物資を調達する
③兵士
進んで命令に従うようにする(衣食住を確保し十分な訓練を施す)
④地の利
険阻な地形に布陣する
⑤武器
長い武器によって短い武器を守り、短い武器で長い武器を掩護する。それにより長時間の戦闘が可能になる

軍は数が多いだけでなく必要な兵種を揃え、役割分担を明確にする事で統制が乱れないようにする。統制には仁(思いやり)が必要だが、仁だけでは破綻するので信(正確の奨励)も必要である。

第四 厳位篇
軍備のために以下を行う。

初期設定:
・階級を明確にする
・軍令を適用する
・士気を充実させる

事前準備:
・戦う意義の周知
・部隊編成
・隊列を定める

戦いの作法:
・立って進む時は頭を下げ、座って進む時は膝を使用
・兵士が敵を恐れるなら隊伍を密集させる
・敵が遠方にいる時は、敵場を観察させる
・鬨の声による恐怖心の払拭

⇒様々な細かい注意事項

勝心(勝とうとする気持ち)が勝ると敵を侮るようになり、恐怖心を抱くと怖気づくようになる。両者の利点を組み合わせるべき。兵種においても、身軽な軽装備の兵と強いが機動力に欠ける重装備の兵を組み合わせるべき。

第五 用衆篇
衆(大軍)と寡(小部隊)の適性に注意する。大軍ならば統制を密にするため、進軍と停止に留めて混乱を避ける。小部隊ならば結束を固めて自由に進退させる。

また、有利な地形とは風を背にし、高所を後、険阻を左にする地形である。

以下は、敵の動静を探る方法。

①小部隊と大部隊を交互に繰り出す
②進撃と退却を繰り返し、守備を観察
③敵を窮地に追い込む
④鳴りを静めて、敵の緊張を観察
⑤敵を引きずり回して疑心暗鬼にかられるか観察
⑥奇襲をかけて敵の規律を観察

『尉繚子』
尉繚という人物が梁の恵王(在位:紀元前369年~紀元前319年)と会って富国強兵を説く設定と、秦の政王に尉繚という人物が兵法を説いたという説がある。漢代初期の墓から『尉繚子』が見つかっている事から、この時代には流布していたらしい。

第一 天官篇
占いよりも智慧に頼るべきとする。

城攻めにおいて、天文方位の説では、四つの方角のうち、どれか一つは良い方角であり、どのような城でも必ず攻め落とせる事になってしまう。

第二 兵談篇
土地、人口、食糧の均衡がとれていれば、敗れる事は無い。そのために国内政治を安定させる必要がある。法令を明確にし、荒地の開拓に努めるべき。

戦いに挑む場合、大軍であれば山のようにどっしりと構え、林のように静かになり、進撃に転じれば河の流れのように尽きない。小部隊の場合、火のように行動し敵に余裕を与えない。

第三 制談篇
軍事の第一要件は法制の確立である。それが無ければ勇敢な兵のみが戦い、戦死者も勇敢な兵のみとなる。命令系統、賞罰の規定を明確にする。

第四 戦厳篇
以下の勝ち方があるとする。

①道
政治力で勝つ。敵情を分析し、戦意を喪失させる
②威
威嚇力で勝つ。自軍の賞罰を明確にし、戦意を高揚させる
③力
軍事力で勝つ。敵軍を破って領土を奪う

第五 攻権篇
将軍の命令が下部まで徹底される必要がある。そのためには威信を保持する必要がある。威信は平時から確立しておく。

第六 守権篇
防衛のため、事前に防禦用施設を構築しておく。千丈の城を守るには一万人の守備要員を必要とする。さらに食料や武器弾薬の備蓄も不可欠。
そこまでしても救援軍の期待が無ければ士気を保てない。救援軍が敵の後方を攪乱しても、糧道を切断せずに、敵を疑心暗鬼に陥れる方法もあるとする。

第七 十二陵篇
以下は勝つための12の心得。

① 威信(簡単に命令を変更しない)
② 恩恵を施す
③ 機略をめぐらす(情勢変化に応じる)
④ 適切な作戦指導(士気を把握)
⑤ 攻撃(敵の意表をつく)
⑥ 守備(敵に意図を察知されない)
⑦ 過失を犯さない(法制を守る)
⑧ 苦境に追い込まれない(事前準備しておく)
⑨ 清朝に振舞う(些細な事にも注意する)
⑩ 知謀を発揮する
⑪ 弱点を取り除く
⑫ 民心を得る(謙虚な態度)

以下は、将帥としての欠格条項

① 後悔する(優柔不断)
② 災いを招く(民を殺戮する)
③ 公正を欠く
④ 不祥事を引き起こす
⑤ 収奪する
⑥ 明察を欠く
⑦ 部下が従わない(軽々しく命令する)
⑧ 視野が狭い(賢人を遠ざける)
⑨ 禍を招く(利益に目がくらむ)
⑩ 害を受ける(人材登用の失敗)
⑪ 国を滅亡させる(軍備増強を怠る)
⑫ 危険に身をさらす(命令が貫徹しない)

第八 武議篇
戦いは不義を討つ事を目的とするべき。

大国は農業振興と軍備充実に努め、中国は防衛体制強化に努め、小国は民心安定に努めるべき。

第九 将理篇
将は依怙贔屓せずに、真相を明らかにするべきとする。

第十 原官篇
法令を定めるのは君主であるが、執行は官吏が行うため、官吏は国の要である。

第十一 治本篇
政治の基本は衣食住の確保である。霊妙な力で人民を感化するのが理想であるが、武力を後楯とする法令や公明な政治よって効果を発揮する賞罰を使用するべき?

第十二 戦権篇
戦争では先手を打って主導権を握るべき。さらに戦いの法則性を知る事で的確な判断を行う事が出来る。

第十三 重刑令篇
以下の罰則。

兵卒千人以上の指揮官が敗北:
本人の首をはね、家産没収、先祖の墓をあばき、家族を奴隷にする

兵卒百人以上の指揮官が敗北:
本人を誅殺し、家産没収、家族を奴隷にする。

上記のように厳罰を定める事で死にもの狂いで戦うようになるとする。

第十四 伍制令篇
以下の編成。

伍:兵卒五人
什:兵卒十人
属:兵卒五十人
閭:兵卒百人

上記全てで連帯責任を採用するべきとする。

第十五 分塞令篇
設営地では、部隊間の往来を禁止し、統制に悪影響が出ないようにする。120歩毎に見張り台を設け、区域内の動静を監視し、通行には許可証を携帯させる。

第十六 東伍令篇
兵卒五人で伍を編成し、連帯責任とする。戦闘中に伍から死者を出しても同数の敵を殺した場合は処罰しない。このように戦果と損害を相殺する。

第十七 経卒令篇
以下のように部隊を編成する。

左軍:青旗、帽子に青い羽
右軍:白旗、帽子に白い羽
中軍:黄旗、帽子に黄色い羽

さらに隊伍に応じて記章をつけ、隊列に応じて記章をつける位置を変える。

第十八 勒卒令篇
命令の伝達に金、鼓、鈴、旗を使用する

金を一度鳴らすと停止、再度鳴らすと後退、鼓を一度鳴らすと前進、再度鳴らすと攻撃。旗を左に振れば左に進み、右に振れば右に進む。

第十九 将令篇
戦争が始まる前に、王が先祖を祀った宗廟にて重心会議を行い、次に将軍が任命される。

第二十 踵軍令篇
踵軍:
主力軍の出動に先行して三日間の食糧を携帯し、主力軍を去る事百里の地点に展開する機動部隊。主力軍と呼応する。

興軍:
踵軍に百里先行し、決戦準備を整える部隊。要害の地の占拠や敵の追撃等。

第二十一 兵教上篇
軍事訓練は小部隊から行う。内部告発を奨励する。

第二十二 兵教下篇
以下の方策。

①連刑:連帯責任
②地禁:領内の往来を取り締まり、間者を防ぐ
③全軍:部隊間の連携を密にする
④開塞:防衛範囲を明確にする
⑤分限:駐屯地の境界を定め、往来を禁止
⑥号別:前衛部隊と後衛部隊の任務分担を明確化
⑦五章:整然たる隊伍の下に行動する
⑧全曲:密接な連携を取り、上官の指示に従う
⑨金鼓:味方の士気を奮い立たせる
⑩陣車:車線で適切な車間距離を保ち、
    馬には目隠しをつけて暴走を防ぐ
⑪死士:勇猛な兵卒を選んで暴れさせる
⑫力卒:勇敢な兵卒を旗手に任命する

第二十三 兵令上篇
政治と軍事は表裏一体。政治力によって利害安危を判断し、軍事力によって敵と戦う。将帥と敵を秤にかければ戦わずして勝敗を知る事が出来る。

第二十四 兵令下篇
主力軍に先行する国境守備隊は、有事においては後方支援の役割を担う。有事において軍を有効に機能させるためには、①逃亡兵を防ぐ②連帯責任による一致団結③威信による命令の貫徹が重要である。信賞必罰こそが将帥の威信を確立する。

『李衛公問対』
唐の太宗(在位:627年~649年)に李衛公が兵法を説く設定。唐末から宋初に成立したらしい。

上の巻
〇正兵と奇兵
前に進むのが正、後ろに引くのが奇である。意図的に後退して敵を誘い出し、出てきた敵を叩くのが奇から正への変化である。単なる敗走でなく、反転攻勢の策が用意されてこその奇である。
正とは主力部隊の戦いであり、状況に応じて繰り出す部隊が奇である。正兵とは君主より授かるものであり、奇兵は将軍の判断で繰り出す。

異民族(奇)を漢族(正)に、漢族(正)を異民族(奇)に見せかける策略が提案されている。

〇陣形
黄帝は、丘井の法(一里四方を四本の道で区切り、八世帯を住まわせて耕作させた)を定め、それを元にして軍制を整えた。
陣形も「井」の9区画のうち、上下左右中央の五カ所に布陣し、これが陣形は五に始まるの謂れとする。後世には、中央に大将が布陣し、周囲八カ所に陣をめぐらせた事から陣形は八に終わるとされた。

〇狩猟=軍事訓練
周礼では狩りを最も重要な儀式としている。周の成王は、岐陽の蒐、康王は鄷宮の朝、穆王は塗山の会を催した。
周が衰えると、斉の桓公が招陵の師、晋の文公が践土の盟を開いている。司馬法の冒頭で春秋の狩りについて記しているのは、農閑期の訓練を指している。

〇漢族と異民族
異民族の兵は騎馬を得意とし、短期決戦に向く。漢族の兵は弩を使用した長期戦に向く。服属させた契丹と奚に松漠と饒の2つの都督を新設した際には、漢族の薛万徹でなく、異民族の阿史那社爾等を推薦している。

中の巻
〇虚実の要点
最初に正と奇の転化を理解させる。奇正はこちら側の行動であり、虚実は敵の問題。

孫氏では、以下を推奨する。

① 戦局を検討し、彼我の優劣を把握
② 誘いをかけて敵の出方を観察する
③ 作戦行動を起こさせて地形上の急所を探る
④ 偵察戦によって敵の陣形を判断する

敵が実(戦力が充実)であれば正で対応し、虚(戦力が手薄)なら奇で対応する。敵に対しては自軍の正奇が逆に判断されるようにする。

敵に奇を示し、敵が攻めてきたら正に変化して迎え撃つ。

〇現地軍の把握
瑶地に都督を新設する事に意見を求められ、異民族支配のために、漢族の兵士を撤収させて兵糧の負担を軽くし、軍幹部から現地に精通した者を各地の塞に残すよう助言する。
有利な場所に布陣して遠来の敵を待つ事が戦略の基本。不穏な動きがあった時に漢族の兵を繰り出す。

いたずらに詭道を禁止すべきではない。残しておけば同じようなまやかしは出ないし、下部の兵士を使いこなす術が失われる。

下の巻
〇布陣
軍を駐屯させるのは、兵士が安心して動ける場所である。谷間や窪地、湿地や出口の無い土地、草木の密生した土地は動くのに適していない。
ただし、太公望が「歩兵が戦車や騎馬と戦う時には、必ず丘墓や険阻に布陣する」としているように、丘墓、城跡のようなさほど険しくなく、占拠すれば有利になる土地を避ける必要は無い。

〇勝つ方法
兵法の要諦は敵の誤りを引き出す事に尽きる。
攻めと守りは被我の優劣に左右されず、勝利する条件が無い時には守り、勝機を見い出したらすかさず攻める。
守るとは意図的に劣勢を示して敵に攻撃させる事であり、攻めるとは優勢を示して敵に守らせる事である。
心理が重要であり、攻める時は敵の心を攻め、守る時は自軍の士気を充実させる。

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洗脳する「聲の形」

読者の記憶を改竄する漫画。

以下は、「聲の形 再考」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2400.html

今まで読んだ中で、最も後味の悪い漫画。

以下は、「これから聲の形を映画館で観に行く人のために 」へのリンク。

http://mukankei151.com/wp/archives/50972

作品世界における登場人物達の行動や読者の反応を理解するために、以下を定義してみる。

①記憶の改竄
登場人物達が頻繁に自らの記憶を改竄している。全員が自らに都合が良いように記憶を作り替えている。さらに、読者までもが記憶の改竄に巻き込まれている。

②罪悪感
罪の意識が記憶の改竄を妨げる。

以下は、「ユートロニカのこちら側」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2454.html

上記の本の中では、人間が日常的に記憶を改変しているとしている。監視されているという意識 = 罪悪感が記憶の改変を妨げる。記憶を自らの都合が良いように改変出来ない人間は精神を病んでしまう事がある。

③贄の必要性
罪悪感を払拭するためには、誰かを糾弾する必要がある。自分よりも劣る人間の存在を明示すれば、自らの穢れを移転する事が出来る。「聲の形」の登場人物達は、全員が自らよりも劣る人間を探し、それに依存している。

④贄にのみ残る記憶
穢れを押し付けた者は、記憶の改竄に成功するが、押し付けられた側には異なる記憶が残る。

⇒多くの読者は主人公に感情移入しており、主人公の記憶と自らの記憶を同調させる

*****************************

この漫画は、小学生達による障害者いじめから始まる。

主人公(石田)のクラスに転校した聴覚障碍者(西宮)を大勢の人間がいじめるが、西宮の相談により、保護者や教師を巻き込む騒ぎになる。クラス全員が、西宮いじめは石田が単独で行っていたと主張し、全ては石田が悪かった事になる。

漫画を継続して読んでみると、クラスメイト達は石田に罪を押し付けたのでなく、いじめは石田が単独で行っていたように記憶を改竄している事が分かる。

以下は、1巻 P123におけるクラスメイト(植野)の発言:

「西宮さんが聞こえないのをいいのことに?カゲで?からかっている感はあったかも」、「でもほっといた私も悪かったような気がします」。

読者の記憶が改竄されていくのは、この後からだ。

3巻 P128で高校生になった植野は、西宮から補聴器を奪い、「ぶん投げて遊ぶ?昔みたいにさ」と石田に語る。

ここでのポイントは、石田だけでなく、読者まで植野が主人公を裏切った事を忘れてしまう事だ。

さらに、4巻 P76~P86で、植野と西宮が話す。植野が自分は西宮が嫌いであり、嫌いな人間同士で仲良くしようと主張する。

以下は、「聲の形を読んで」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-1899.html

ここで、多くの読者の記憶が改竄される。植野が石田を裏切った事、壊した補聴器の弁償は全て石田家が行った事(植野は一銭も支払っていない)、中学校時代から植野が石田をいじめるクラスメイト達(島田、広瀬)と友達付き合いを継続している事等は無視され認識が歪む。

植野は、以下のような評価を受けてしまうのだ。

・言いたい事をはっきり言う
・感情を出す
・まっすぐな人間

植野を批判する読者も含めて、それまでの経緯を認識出来なくなってしまう。

これは、小学校時代に石田が学級裁判で裏切られた事を別視点で眺めている。皆で行った西宮いじめを石田を責める事によって責任転嫁出来る。そのようにして石田をいじめた植野が、西宮を責めると自らの穢れを転嫁出来るのだ。

メタな視点から見ると、この漫画は作者の経験を投影したものだと思う。だから、小学校時代と高校時代の別人物に纏わるエピソードを同一人物によるものとしているので人物の行動や思考に一貫性が無いものに思える。

植野の行為で気持ち悪いのは、石田と小学校時代のクラスメイトである島田を引き合わせる事。島田は石田を殴り、中学校時代に噂を流して石田を仲間外れにした人間だ。植野の記憶上、小学生時代の些細ないじめを石田が逆恨みしているようになっている。

この行為を解釈すると、植野の記憶上、石田に対するいじめは小学校時代に池の中に突き落とし、机に落書きしただけに留まり、それ以外の事は無かった事になっているように思える。小学生時代の些細な行為を石田が逆恨みしている認識。

読者の記憶は改竄され、以下のような意見が出てくる。

・植野は誰よりも西宮の面倒を見ていた
・植野は好きな人間がいじめられるので辛かった
・植野の行動は全て嫉妬で説明出来る

⇒全て漫画における記述と矛盾する

読者の判断は、もう一人の小学校時代のクラスメイト川井に対しては正常に機能する。

川井は、主人公である石田を非難する。

5巻 P109における石田は、「川井さんだって悪口言って一緒に楽しんでたくせに……!!同族がエラソーに説教すんなよ!!」。

結局、石田は自分が攻撃された時しか怒れない人間なのだ。上記の言葉は植野にも当て嵌まるが、読者はそれを指摘しない。

多くの読者は、川井が記憶を改竄している事を気持ち悪く思う。穢れの移転による記憶改竄は、自分が標的になった場合のみ拒否される事を示す。

この漫画における一貫したテーマとして、他人が攻撃された場合、攻撃された側に問題があるように思える。虐待者を非難する人間も、虐待理由が虐待者に由来すると気付かない。しかし、自らが虐待の対象となった場合のみ、全ての責任が虐待者にあるように思える。

そして、物語のクライマックスは西宮の自殺未遂だ。

自殺を試みた西宮を偶然にも通りかかった石田が助ける。さらに、そこに偶然にも昔のクラスメイト(島田、広瀬)が通りかかり石田を助ける。

これは作者が自分の作品世界で行った「いじめ」だ。登場人物達の罪 = 穢れを祓う方法を他に思い付かなかったのだと思う。

自殺未遂をした西宮は植野から暴行される。西宮の妹は、その光景を黙って見ている。この場面を解釈すると、西宮妹の記憶も改竄されている事になる。本当にいじめられていたのも意見がはっきり言えないも西宮妹であり、姉を守るというのは不登校の言い訳に過ぎない。西宮妹の姉を守っていたという記憶は偽の記憶だ。

石田は西宮の命の恩人となった事で罪の意識が無くなる。さらに、島田達も石田の命の恩人となった事で罪が祓われる。

そして、石田は自分の都合が良いように記憶を改竄してしまう。7巻 第61話における石田と植野の会話はそれを表しているようで気持ち悪かった。

自分が行った事も他人が行った事も都合が良いように認識が歪んでしまった。

以下は、やる夫スレの「【R-18】バカサキュ! 番外編その5 霊夢とヤリなおしの鏡」へのリンク。

http://yaruoislife.blog.fc2.com/blog-entry-10887.html

過去に遡って歴史を改変する鏡が、実は自分の記憶を改竄するだけの物だった話。変わってしまった自分と、変わらない現実世界とのギャップに苦しむ事になる。

********************

「聲の形」に登場する人物達は日常的に記憶を改竄している。高校三年生になって、唐突に石田は西宮に謝りたくなり、植野はずっと石田を好きだった事になり、永束は映画撮影を開始し、川井は真柴を好きになり・・・・・。

高校三年生は、何者かになる事を求められる時だ。今までのように曖昧な立場ではいられず、何者かにならなくてはならない。全員がそうした状況に耐えられずに自分よりも劣る人間を探しているように見える。

それは現実世界でも発生している事。

誰もが記憶を改竄している。現実に発生した事とは異なる記憶を現実と思い込んでいる。

この漫画の後味の悪さは、そうした現実の側面を表現してしまったからだと思っている。

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ロボットの脅威

読んだ本の感想。

マーティン・フォード著。2015年10月21日 1版1刷。



おそらく誤っている本。

著者は、機械化により人間の仕事が無くなる未来を予想したいのだと思う。著者自身も自らの誤りに気付いるが、どこが間違っているのか分からないのだと思う。僕にも分からない。

三重革命に関する特別委員会:
1960年代?に、機械化による大量失業を予想。リーナス・ポーリング(ノーベル化学賞受賞)やグンナー・ミュルダール(ノーベル経済学賞受賞)も名を連ねている。

1952年に書かれた以下の小説では、少数の技術者がほとんどの仕事をこなし、大多数の人間は無意味な人生をおくっている。



⇒委員会の予測は、少なくとも短期的には外れた。1970年代には石油危機等によるスタグフレーションが大きな問題となったが、機械化による失業は発生しなかった

<教育における可能性>
社会的に評価される技術が変化する可能性。

様々な組織に大量の情報が蓄積されており、それを機械学習によって学ぶシステムが開発されつつある。それは特定作業の自動化を実現すると同時に、組織の意志決定が人間の経験や判断から機械的アルゴリズムに変化する可能性を示しており、高度経営人材の需要が減少するかもしれない。

通常であれば複数の人間が携わる業務でも、機械化する事により客観性、一貫性が保証されるようになる。

**************

2013年にペンシルバニア大学が、大規模公開オンライン講座について発表した研究では、少数の活発な受講者の存在を指摘した。コーセラ社が提供するオンライン講座に登録した100万人に注目したところ、講座の修了者は全体の2%~14%しかいなかった。さらに、講座登録者の80%は既に大学の学位を持っている人達だった。

身元確認の問題もある事から、オンライン講座が学力保障に役立つ事は無いかもしれないが、極めて効率的な学習手段ではある。スタンフォード大学でオンライン講座を行ったところ、多くの学生が講義に出席しなくなり、また、試験の平均点が向上したらしい。

⇒米国には2000以上の四年制大学があるが、15年以内に半分が倒産するかもしれない?

****************

著者の未来予測モデルは、「労働者」という観点からしか考えない事が特徴だと思う。労働者と機械を単純に取り換えた場合、企業収益増加は人件費削減から生じたものであり、消費需要減退の原因になるとする。

P268で日本について言及している。高齢化により労働力不足問題は、最初に日本で顕在化するはずであるが、賃金が上昇しておらず、労働力不足を裏付ける証拠が無いとする。

⇒これこそが著者の主張が誤っている事の証拠ではないか?労働力が不足しているにも関わらず賃金が上昇しない原因は何か?

****************

長い本だったけど、それほど中身が無かったと思う。読まなければ良かった。

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三月、七日。

読んだ本の感想。

森橋ビンゴ著。2004年6月3日、2004年12月31日 初版発行。





以下は、Wikipediaの「森橋ビンゴ」の記事へのリンク。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E6%A9%8B%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B4

インターネット上の掲示板で偶に、この人の事が話題になる。古本屋や図書館でも僅かに「森橋ビンゴ」の本が動いている。何故なのかと思っていたら、2016年11月に新刊が出るらしく、それが少しだけ話題になっているらしい。

「三月七日。」は近親愛ものの作品で、以降の作品の原型になっているように感じる。「女性」を記述する試み。

【登場人物】
渋谷三月:
高校一年生~高校二年生。生徒会長。渋谷弥生の息子。

宮島七日:
高校一年生~高校二年生。広島出身。普通科の生徒。宮島兼五(6年前に死亡)の娘。

藤井真希:
高校一年生。進学科の生徒。四人姉妹の末っ子。

赤坂瑛児:
高校二年生。生徒会副会長。剣道部。義理の母親に懸想しているらしい。

***********************

ストーリーはほとんど無い。買わなくて良かった。物語のテーマは、以下の言葉だと思う。

P109:
あんた達は兄妹で、もう二度とそんな関係になれない二人だもの。二度と手に入らないものに限って、いつまでも求めちゃうもんだからさ

P187:
ずっと最高だと思ってた物が、いざ久しぶりに体験してみると大した事なかったりさ

禁忌には幻想がつきもので、現実に体感出来ないからこそ美化するらしい。だから現実に体感し、美化出来なくすれば執着も無くなる。

本作品以降の著者のテーマは、「女性」を具体的に描く事だと思う。「東雲侑子は短編小説をあいしている」だと、ヒロインの内面を彼女の小説から類推するようになっていて、「この恋と、その未来。」だと性同一性障害の女性(男性の心を持つ女性)というテーマがある。

人物設定として、広島、四人兄弟の下、近親愛だとかが継続して出てくるので、著者の実体験を作品内で昇華したいのかもしれない。

********************

「この恋と、その未来。 ― 二年目 秋冬」に、高校生と婚約した30歳の僧侶を、美人局で騙して写真撮影し、婚約を破談させるエピソードがある。

騙されてしまうロリコン僧侶 鷹宮さんが、著者のこれまでの作品の中で一番生き生きしているキャラクターだと思う。

主人公が女装してロリコン僧侶を騙して、嘘告白をし、その様子を撮影する流れには無理があるが、物語全体の流れをメタの視点から見ると、主人公も鷹宮氏も大きくは変わっていない。

鷹宮氏のように、自らの趣味嗜好を開示出来てしまう人間は少ないので、誰もが社会に負い目を抱きながら生きているのかもしれない。

2016年11月に出版されるという著者の作品が、どのような解決策を探るのか楽しみではある。

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インターネット回線の接続が悪い

今日はインターネット回線の接続が悪い。

自分自身でも疲れていて、どうしてなのかと思ったら昨日は寝ていなかった。

来週は、障害者手帳更新手続きで、会社を休む。

今は自分を急かす事が無いので安心していられるけど、こうした状態がいつまで継続するのだろう?

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束の間の平和

職場で業務改善に関する話し合いをしている。

身体障碍者の社員が復帰するため、それを踏まえた業務フローを構築するらしい。

上司や先輩達の話を聞いていると、自分が平和な職場に在籍している事を実感する。自分が会社に帰属しているのは、社会に対する役割を果たすためであり、生産性や効率自体は求められていないのかもしれない。働く事そのものが必要とされている。

しかし、来年以降は人の出入りが激しくなり、僕に求められる役割も教育や交渉、監督等が含まれるようになる。

自分にそれが出来るかどうかは心許ないし、出来ないのならどのように職場と関わるべきかを上司や周囲に説明し、理解してもらわなくてはならない。

そのための準備を今からしておきたい。

**************************

資料作成用のツールを一つ作成してみた。ボタンを押すだけで作業が出来るので、身体障碍者の社員が仕事に参加出来る。

が、これを他の人達に提示する勇気が持てないでいる。

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愚者の帝国

上手く書けない事。

最近読んだ本から色々と考える事について。

社会が変化すると、それまで賢いとされた人々とは異なる力を持った人々が台頭するようになる。

その人達は、前時代にあって愚かであった人々であるはずで、「愚かな人々」による支配が行われるようになるはず。

以下は、「シフト」の記事へのリンク。近未来を予測する本。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2469.html

特に著者が自信を持っているのは、インターネットの普及や全体的な中産階級化による個人の強化だと思う。「国家」という単位でなく、「個人」が大きな力を持つ可能性について。

以下は、「知能のパラドックス」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2467.html

知能指数が高い事が、必ずしも人間を賢者にしない事について。「知能が高い事」が特有の誤謬を引き起こし、愚かに見える。

以下は、「乾隆帝伝」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2475.html

多分、西洋的な「高知能」が別の価値観を持つ人々から異様に見える具体例について。

以下は、「入門!システム思考」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2476.html

この本で重要な事は、「分析的思考」と「システム思考」の相違だと思う。

以下は、「ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2474.html

以下は、「新しい脳」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2370.html

危機状態における他種族との協働の可能性について。

*********************

「高知能」とはどのような事であるかを考えてきた。結論には未だ至っていない。

それが抽象的思考力と定義するのなら、ある種の愚を伴わなくてはならない。「知能のパラドックス」の中では、「道徳主義の誤謬」について触れられている。おそらく「知能指数が高い」人々に愚かさは、「道徳主義の誤謬」に起因するのだと思う。

情報を分類し、数値によって判断する者は賢くて愚かだ。

「○○国における◆◆歳以下の??人は、■年間で△%増加しており、●万円の経済的効果を・・・・・・」

上記のような言葉は本質を描いていない。分類や数値による判断が愚かである状況が存在する。

以下は、「帝国の構造」の記事へのリンク。

http://nonono7.blog12.fc2.com/blog-entry-2478.html

この本における重要ポイントは、抽象的思考を具体的思考の上位に置く事が近代思想の特徴であり、それが有効機能した期間は、人類史において僅かであるという事かな?

愚者の帝国の再来は何年後?何十年後か?

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帝国の構造

読んだ本の感想。

柄谷行人著。2014年7月31日 第一刷発行。



第1章 ヘーゲルの転倒とは何か
1 なぜヘーゲルの批判か
著者の書いた『世界史の構造』の目的は、ヘーゲル哲学を唯物論的に批判する事。

「歴史の終焉」はヘーゲルの思想。資本=ネーション(民族)=ステート(国家)の体制(資本主義による階級格差を、国家による援助で緩和する体制)が基本的システムとなり、そのシステムが変化しない事を指す?

「歴史の終焉」を否定するためには、資本=ネーション=ステートという三位一体を超える思想を用意する必要がある。

以下は、ヘーゲルの『法の哲学』による進歩段階?

感性的段階:自由
市民社会(経済)が提示される。

悟性的段階:平等
市場経済が齎す不平等を是正する存在として国家が見出される。

理性的段階:友愛
友愛がネーションによって見い出される。

⇒ヘーゲルの思想では、上記の理性的段階に至った後は、「歴史の終焉」として根本的な体制変化は発生しないとする

2 マルクスによるヘーゲル批判の盲点
マルクスによるヘーゲル批判について。

マルクスは、ヘーゲルの法哲学を観念的として批判した。政治を上位存在としたが、実際にはそれらは経済によって規定されているとする。

マルクスは、経済的構造が変化すれば、国家も自動的に消滅する、また、国家は共同幻想にすぎないので啓蒙によって解消出来ると主張した。そのため、共産革命では資本主義を廃棄すれば国家は自動的に消滅するため、一時的に国家権力によって資本主義を廃棄する事になるが、実際には国家がより強化される事となる。

さらに、マルクスは、ネーション(民族)は資本主義的階級対立に根ざしているので、それを解消すれば消滅するとしたが、現実にはファシズム(ナショナル社会主義)が発生した。

そこで、マルクス主義者は、国家の相対的自律性を強調するようになり、下部構造(経済)は軽視されるようになる。国家を上位構造と見做す事は、それを幻想とする事である。

しかし、著者は、国家やネーション(民族)は啓蒙によっては解消出来ないものであり、経済的土台に根ざしているとする。

3 生産様式論の限界
マルクスは、社会構成体の歴史を「生産様式」から定義した。生産手段を有する者の観点から歴史を見る。

氏族社会:
生産手段が共有されている。

封建制:
領主が生産手段を保有している。

資本主義:
資本家が生産手段を保有している。

上記は、ヘーゲルが「歴史哲学」で述べた事を唯物論的に言い換えただけとする。ヘーゲルは、世界史を一人だけが自由である状態から、万人が自由である状態への発展過程とした。マルクスは、ヘーゲルの段階論を受け継いでいる。

著者は、経済的下部構造と政治的上部構造という見方は、資本主義社会を分析する枠組みであり、それを資本制以前の社会に適用する事に無理があるとした。

著者は、『資本論』を資本制経済解明の書として、信用の問題を記述するために交換様式という観点があるとする。

4 交換様式の導入
交換を経済の基礎的土台として考える。以下の四つの型。

A:互酬
贈与と返礼。

B:略取と再分配(支配と保護)
国家の基礎。被支配者が支配者に服従する事で保護を得る。

C:商品交換(貨幣と商品)
商品経済。

D:普遍宗教(世界共和国)?

****************

国家は根本的には、交換様式Bであり、恐怖による支配によるが、交換様式Cの浸透により社会契約を重視するようになり、それが近代国家の観念とする。

交換様式Aは、交換様式Cの浸透の下で解体され(共同体の崩壊)、想像的にネーション(民族)が構築される事で共同体が再構築される。

さらに、交換様式Dは、交換様式Aを高次元で回復するとする。互酬的=相互扶助的関係の回復。それは願望でなく、義務として生まれるとする。

5 社会構成体と交換様式
社会構成態は、四つの交換様式の接合からなるとする。

氏族社会:
交換様式Aが支配的。

国家社会:
交換様式Bが支配的。専制国家(交換様式B)が、農村共同体(交換様式A)と都市の商工業(交換様式C)を統制する。

資本制社会:
交換様式Cが支配的。専制国家(交換様式B)は兵役や課税に変形され、農村共同体(交換様式A)はネーション(想像の共同体)に変形される。

上記を超える社会を交換様式D = カントが「世界共和国」と呼んだ体制とする。

6 前後の転倒
マルクスがヘーゲルの理論を解釈した時に生じた問題。

自らの主張する社会構造を必然と主張出来るか?

以下の2つの意見。

カント:
未来は予想の対象である。しかし、人間の理性は目標となる幻想(理念)を必要とする。

ヘーゲル:
現実こそ理念であり、歴史は終わっている。現実を受容するべき。

マルクスはヘーゲルを否定し、現在は終点ではないとした。しかし、自らの理想とする社会体制を、カントのような幻想的理念でなく、必然としたい。

ヘーゲルは現在が最終段階とした(事後の立場)が、マルクス思想は未来の社会体制を先取りし、それを人々に強制する権力を生み出す事になる(事前の立場)。

7 未来からの回帰
マルクス思想では、ヘーゲル(現在が最終段階)を批判し、且つ、共産主義が理念とならないように、歴史的必然によって共産主義が実現するという唯物論を主張した。

著者は、政治という上部構造が未来を予見する能力を持つという思想に無理があるとする。それでは、下部構造である経済を軽視する事になる。

そこで、下部構造である経済を「交換様式」で把握する。交換様式ならば、道徳や宗教も定義する事が可能とする(罪の意識は債務の意識)。

第2章 世界史における定住革命
1 遊動的狩猟採集民
交換様式A(互酬性)の起源について。

以下からなる。

①贈与する義務
②贈与を受け取る義務
③返礼の義務

遊動的狩猟採集民社会には、上記の原理は無かったとする。現存する漂白バンド社会には共同寄託はあるが、互酬擲交換は無い。絶えず移動する社会では、得た物を平等に再分配する純粋贈与が行われ、互酬的贈与が無い。互酬が成立するには、定住し蓄積する前提が必要になる。



共同寄託は世帯内部での行為であるが、互酬的高官は世帯間で機能する。氏族共同体を超えた連帯を創り出す原理。

2 定住の困難
定住における以下の困難。

①対人関係
遊動的社会では、出入りが自由であるので、対人的な葛藤を出ていく事で処理出来る。多数の氏族を共同体として統合するには、人々を固定的に拘束しなければならない。

②死者との葛藤
万物に霊魂があるという思想は、死霊という思想と結び付く。定住者は使者の傍で共存しなければならず、死者を祖先神といて仰ぐ組織を作り出すとする。

著者は、定住の契機を漁業とする。漁業は簡単に持ち運び出来ない漁具を必要とする。そして定住は備蓄を可能にし、不平等が始まる。

農業や牧畜も定住が前提にあり、定住する事により様々な変化が生じる。

互酬制は、贈与交換を強制する事により、富や権力の不平等を解消する原理とする。

3 互酬性の原理
互酬は共同体間の紐帯を作り出すだけでなく、権力や富の集中を妨げる。

⇒国家形成を抑止する

互酬原理は平等を実現するが、遊動的社会にあった自由を否定する(個人を共同体に結び付ける)。

4 定住革命
定住により、農耕や牧畜が可能になった事について。



5 互酬制の起源
互酬制システムの起源を神の命令を持ち出さずに説明出来るか?

フロイトは、部族社会における氏族の平等性(互酬制)を「原父殺し」に見い出そうとした。



定住化によって「国家」=原父が生じる可能性が生じ、それを妨げるのがトーテミズムである。トーテミズムとは、予め原父殺しを行い、それを反復する事。経験的に存在しないにも関わらず、原父殺しが互酬制を支える原因になる。

ある者が首長であるためには、贈与しなければならず、贈与していると富を失い、贈与出来なくなる事で一定以上の権力を持てなくなる。贈与の義務が王(原父)を妨げる(殺す)。

それはかつての遊動的社会にあった平等を取り戻す試みであり、それ故に反復強迫的である。

6 遊動性の二つのタイプ
牧畜と狩猟は異なるとする。

農業が原都市で始まったという意見。



牧畜も原都市で始まったという意見がある。



以下が、狩猟と牧畜の違い。

①搾乳
②去勢

上記の技術は様々な情報が交換される原都市で生じたとする。やがて遊牧民は原都市を出て、狩猟採集民にあった遊動性を回復するが、狩猟採集民とは異質である。

彼等はしばしば結束して農耕民社会を服属させる。それは恐怖に強要された契約である交換様式Bとなる。国家が成立するには、外部からの征服という契機が不可欠。

恒常的に戦争の危機があるからこそ、首長が恒常的に権力を持った王となる事が承認される。

***************

<山地民>
焼き畑狩猟民。一度は定住した後に山地に向かった人々。狩猟採集民と違い、定住民と交易する。



メソアメリカでは、山地民が定住農民を征服して国家を作ったという。定住以後に生じた遊動性は、定住以前にあった遊動性を真には回復しない。国家と資本の支配を拡張する。

柳田国男は日本にも山人が実在するとした。



第3章 専制国家と帝国
1 国家の起源
マルクスによる以下の方法論。

①資本論:
資本主義経済を解明するために、「商品交換」が「貨幣交換」に転化し、自己増殖する貨幣としての「資本」に転化する過程、それが全生産過程を組織する過程を捉えようとした。

⇒資本主義経済を、交換様式の発展によって組織されたシステムとして把握する

⇒資本主義経済は信用の体系

②国家論
国家を、経済的下部構造としての生産様式の上部にある共同幻想とした。

政治と経済を明瞭に分離可能なのは、近代資本主義経済が成立した後だけである(交換様式C成立後)。交換様式Cが始まるには、交換様式Bが成立している前提が必要になる。それらは個人間でなく、共同体間で始まる。

契約不履行を処罰する機関が無ければ、商品交換は成立し難い。

2 恐怖に強要された契約
絶対王政は、交換様式Bを国家が独占し、交換様式Cの円滑な実施を支援する。

個人間の自由な取引の背景には、国家による恐怖がある。

3 帝国の原理
国家は多数の共同体を抱えており、共同体を支配する契機を必要とする。

帝国も多数の国家を統合しており、そのために以下の原理を持つ。

①法
諸国家間の交通・通商の安全を確保する国際法
②世界宗教
それぞれの民族を統合する普遍宗教。さらに国境があっても宗教的に寛容でなければならない。
③世界言語
音声言語を超えた文字言語等。

4 専制国家と帝国
専制国家とは、交換様式Bによって、交換様式A、交換様式Cを制圧するシステムである。

そのためには、上位下達システムである官僚制と常備軍が必要である。それらは互酬性原理の強い社会では成立しない。王朝が変わっても官僚制と常備軍というシステムは維持される。

以下は、アジア的専制国家に対する誤解。

①暴君
支配の正統性は、民の保護である。
②強固な支配
宗教、姻戚、官僚等が支配に必要である。

アジア的専制国家では、各人は自治的共同体の一員であり、共同体によって拘束される。王は共同体の所有者であるが内部には介入しない。自治によって支配する。

5 帝国と帝国主義
帝国は、交換様式Bが優越している世界システムで形成される。

帝国の周囲では、集権的国家に対する互酬原理が強く残り、中心に従属するか選択的態度が可能な周辺部を亜周辺と呼ぶ。世界経済は、世界帝国の亜周辺で成立する。

そこでは、王や領主、教会が抗争し、帝国のように広域圏を支配しても、帝国主義でしかない。帝国は交換様式Cが優位にある世界システムでは存在しえない。

以下の問題。

①多数の民族を統合する原理が無い
②帝国主義である

帝国主義は、国家の拡大としてある。帝国は、服従すれば同化する必要が無いが、帝国主義は交換様式Cに基づく同化を要求する。交易の自由があれば、略奪しなくても利益を得る事が出来る。

帝国の膨張が交換様式Bに基づくのに対し、帝国主義の膨張は交換様式Cに基づく。

6 ペルシア帝国とローマ帝国
ローマ帝国の帝国原理は、ペルシア帝国に起源がある?

ペルシア帝国には他民族を包摂する帝国の原理があったとする。ローマ帝国が崩壊した後、アジア帝国の中心部に位置した東ローマでは官僚国家体制が継続し、亜周辺に位置した西ローマでは在地有力領主層が競合し合う状態が継続した。

それにより、西欧州では自律的な都市が栄え、交換様式Cの優位が成立したとする。

7 ヨーロッパと帝国
西欧州では、教会が統合原理として帝国形態を与えた。帝国でもキリスト教を利用するようになる。普遍宗教は帝国から生まれた。帝国形成が無ければ、諸民族は孤立的に散在して、各々の神を信じていたはず。

第4章 東アジアの帝国
1 秦帝国
殷西周は都市国家の連合体であり、互酬性原理が強く残っていたと思われる。

対して、秦は黄河、長江の二大文明を統合する帝国であり、互酬性を代替する思想を必要とした。

①儒教
老子が説いた「無為」は呪力、武力による強制の否定を意味する。また、孔子は暴力による統治を否定し、礼と仁による統治を唱えた。

②法家
権力を恣意的に乱用する権力者を法によって抑える。

商鞅は、氏族(世帯共同体)を家族に分解し、小農を単位とする社会を創った。それにより、税と徴兵を確保した。秦の政治は、交換様式B(血縁関係を超えた法による支配実現)を貫徹し、それが交換様式Cの発展を齎した。

官僚は非人格的な法に従い、旧来の互酬制に基づく権力と対峙した。法は、互酬性に基づく報復の連鎖的増幅を禁じた(等価交換の承認)。

2 漢帝国
漢王朝では、長安周辺には官吏を派遣する事で支配し、その他の地域には功臣を封じる事で支配する折衷的な郡国制を行った。

交換様式A回復による交換様式Bの補完。

そして、儒教を帝国原理とした。以下の意味。

①統合
様々な社会を包摂する原理。文化規範があり、それを受容すれば各地の多様性は許容される。華夷秩序は、文化度合いに基づく差別であり、異文化を包摂可能。
②正統性
天命の観念により、王朝を正統化した。
③官僚制
儒教を学ぶ場は、官僚養成所となった。

天命に基づく易姓革命は、血統と異なる正統性を提示し、異民族の征服者であっても安定や繁栄を齎せば支配に正統性がある事になる。

3 隋唐帝国
隋唐は、遊牧民が作った王朝であり、遊牧社会と農耕社会の統合を模索した。

秦漢王朝が解体した氏族共同体を再建するために、孟子が提唱した井田法(土地の私的所有と公的所有を組み合わせた)が北魏から行われ、集権制が志向された。仏教が国教となり、僧侶が官僚となる。

その後を継いだ宋では国際的文化が消えるが、農民が土地所有によって勢力を伸長し、科挙の受験資格が全人民に与えられた。宋は帝国とは言い難い。

宋は、遊牧民が作った唐から漢民族的要素のみを取り出そうとしており、朱子学(気と理の二元論)では夷荻に正統性が無いとして、漢民族のみを正統とした。

4 遊牧民の帝国
唐の課題を受け継いだのは、宋ではなく契丹とする。

遊牧民の多くは略奪に終始し、持続的な国家を形成出来なかった。遊牧帝国は、中央に彼等を脅かす帝国がある時のみ成立したが、隋以降は漢の文化を受容して国家形成を目指す事になる。

5 モンゴル帝国
モンゴル帝国の天命は、唐に由来する広範な通商を可能にするシステムを創り出す事であったとする。

モンゴルの軍事力は、騎馬民族の軍事力と、漢民族の技術を結合したものであり、また、海上も組織する事で大規模な通商網を構築した。

6 モンゴル帝国以後
モンゴル帝国では、中央集権制と部族連合を組み合わせた。

それ以前の漢や唐等は、中央集権的であったが、周辺部の遊牧民族を抑える事が出来なかった。モンゴルでは、各地の専制国家を互酬性によって統合した。

<アッバース朝>
ペルシア人の支持を取り付けるために、アラブ人の特権を否定して、ムスリムの平等な権利を認めた。やがてモンゴル帝国に敗れ、モンゴルがイスラム化して帝国を引き継ぐ事になる。

モンゴルに敗北した事を説明するために、以下の思想が生まれた。

①サラフィー主義(原理主義)
マホメットの教えを忠実に実現せず、ムスリム共同体が堕落したために敗北した。
②シーア派
イスラム初期の状態を理想化。
③神秘主義スーフィズム
個々人と神が合一するため、法学者や神学者、教団国家は不要とする。

第5章 近世の帝国と没落
1 ロシア・オスマン・ムガール帝国
近世の帝国は全てモンゴル帝国に由来する。

◎ロシア
交易中心都市キエフが、1238年にバトゥー・ハーンに征服され、以後、250年間統治される事で中央集権的体制が確立された。1480年に、モスクワ公国がキプチャク・ハーン国を滅ぼした事がロシア帝国の始まり。

モンゴル帝国による交換様式B(服従と保護の交換)を受け継ぐ。

◎オスマン帝国
支配者の称号は、スルタン(イスラム法の守護者)、シャー(セルジューク朝の継承者)、ハーン(モンゴル帝国を受け継ぐ)とする。帝国の原理で支配された(信教の自由、奴隷軍人制度等)。

◎ムガール帝国
支配者はイスラム教徒であったが、宗教を強制しなかった。しかし、ムスリム支配による不満のはけ口として、旧来の社会慣習が強固になったとする。

◎清朝
モンゴルとは異なり、海上通商路を持たなかった。また、チベット・モンゴルを超えては拡大していない。閉鎖的ではあるが、モンゴル帝国より安定した。

2 帝国の衰退
世界帝国は西洋列強の下で没落していくが、その境目を1800年頃とする。

3 ヨーロッパの世界=経済
世界経済は、世界帝国の亜周辺(影響を選択的に受け取る地域)にあった。

世界帝国の中心都市は政治が決定したが、世界経済の中心都市は競争によって絶えず移動する。

4 帝国の「近代化」
1800年頃を境に、衰退した世界帝国を世界経済が侵食するようになったとする。

以下は、帝国側の対応。近代国家は、帝国の存在しない地域で成立したシステムであり、帝国がその諸原理を適用するには無理があったとする。

◎オスマン帝国
1808年に即位したマムフト二世の改革等。

他民族を一つの国民に統合するために、ナームク・ケマル、ズィヤー・パシャは「新オスマン人」という概念を提唱した。最初期のイスラム国家は議会制を採用しており、イスラム法によって西洋に対抗出来るとした。



しかし、1876年に発布された憲法で全国民が平等になると、それまで非ムスリムが人頭税を支払って信教の自由や兵役免除が行われた事が無くなり、かえって不平等になった。



◎清朝
革命運動は、漢族ナショナリズムに訴えるものであったが、やがて清朝全体を受け継がなければ、中国における革命の正統性が無い事になる。1911年の辛亥革命で、孫文は「五族共和」を訴えた。彼の提唱した「国族」の概念は、「新オスマン人」に対応する。

5 オーストリア・ロシア
19世紀以降、帝国の保護を受けていた帝国周辺部が西洋列強に植民地化されるようになる。そのために「民族自決」のイデオロギーが提唱された。帝国を解体し、分散した民族を支配する。

◎オーストリア・ハンガリー帝国
オットー・バウアーが、オーストリアの枠組みを維持するために、文化的共通性という観点から民族を規定した(多民族が入り組んだオーストリアの状況に合致した理論)。
それをドイツのマルクス主義者カウツキーは批判し、民族は言語共同体、地域共同体と主張した(西欧の状況に合致した理論)。

◎ロシア
スターリンは、上記のオーストリアにおける議論を参考に、バウアーの観点を取り入れた民族論を展開した。ロシア帝国時代には、近代まで多民族が同等の権利を持っていたが、近代国家特有のナショナリズムが生じる事で、少数民族が弾圧される事になる。

6 中国
毛沢東は、マスクス主義に反し、農民による革命を考えた。中国では王朝の交替期に農民による反乱があり、均分化を掲げる新たな皇帝が出現する。

以下の政策的特徴。

①土地政策
それまでの王朝が試みた土地公有化の伝統継承。
②多民族統治
清朝における藩部を継承し、そのまま自治区とした。

著者は、中国で自由主義的体制が出来た場合、少数民族が独立するだけでなく、漢族も地域的諸勢力に分解するとする。分解して近代的国民国家が出来ても正統性が無いとしている。現代では、世界規模で広域共同体が出来ており、中国でも国民国家の観念を超えるべきとする。

第6章 帝国と世界共和国
1 帝国と神の国
西欧には帝国が存在せず、封建制は交換様式Aの互酬性と交換様式Bの主従関係を合わせたものとする。
国家は統合されておらず、教会としての同一性があった。やがて宗教改革によって教会が解体されると、主権国家(絶対王権)が現れる。



以下の2つの定義。

① 自立
主権は対外的に宗教的権威に対しても自立している。
② 優越
主権は体内的に全ての権力に優越する。

そして、主権国家は、他の国家の主権性を認めるべきとする。この観念が一般化したのは、主権国家でなければ侵略して良いという含意を含み、また、帝国の勢力域に主権を与える名目で征服する方便があったためとする?

2 ヘゲモニー国家
ヘゲモニー国家:
世界経済において、他国を圧倒する強い国。

世界経済においては、ヘゲモニー国家が絶えず交替する。



ウォーラーステインは、ヘゲモニー国家は自由主義的な政策を採用し、他の国は保護主義的になるとした。自由主義的な段階ではヘゲモニー国家が優越しているため、それは問題にならない。衰退すると、次のヘゲモニー国家をめぐる争いが起こる(帝国主義的段階)。

現代においては、1970年代に米国のヘゲモニーが揺らぎ、新自由主義政策によりヘゲモニーをめぐる帝国主義的争いが発生した。

3 歴史と反復
帝国主義的な時代はヘゲモニー国家不在を特徴とする。1990年代以後の新自由主義時代は、1870年代以後の帝国主義の時代と類似する。

1870年代に旧世界帝国が存在していたように、1990年代にそれが新たな広域国家として復活してきている。

しかし、以下の問題から中国やインドがヘゲモニー国家とはならないとする。

① 資源制約
② 人的資源制約
⇒中国とインドの農業人口が都市化すると、資源を過剰消費し、また、消費増加が困難になる

4 諸国家連邦
カントは、世界共和国の理念を提示した時に、その前段階として諸国家連邦構築を説いた。

諸民族合一国家では、実力による統制になるが、諸国家連邦ならば自律性を留めたまま徐々に国家間の自然状態を解消出来るとする。

5 自然の狡知
カントの世界帝国は、ライプニッツ、アウグストゥスの『神の国』を再構築しようとしたもの。神への愛 = 隣人愛によって成立する社会。

アウグストゥスの『神の国』は地上的平和を実現する事によって得られ、諸民族の差異が廃される事は無い。

カントは、アウグストゥスのキリスト教を代替する概念として理性を提唱し、自然が人間に与えた素質とした?非社交的社交性の概念。利己心の結果として交易が拡大し、簡単に戦争が出来なくなる等。

6 自然と歴史
カントの原理を交換様式から考えると以下のようになる。

地の国(自己愛に基づく):
交換様式B、交換様式Cに立脚する社会構成体。

神の国(隣人愛に基づく):
交換様式Dに基づく社会構成体。

カントが提唱する義務は、「他者を手段としてだけでなく、目的としても扱う」もので、交換様式Dは、このような自由の相互性とする。

交換様式Dは、交換様式Aの高次元での回復である。贈与の連鎖的拡大による平和状態?

第7章 亜周辺としての日本
1 周辺と亜周辺
日本は中華帝国に対する亜周辺にあり、中華の制度を選択的に受容出来たとする。

日本では、7世紀頃から律令制の根幹として公地公民制が実行され、やがて形骸化したが、律令制は廃棄されないまま残った。

武家政権に至っても律令制は武家の法を根拠付けるものとなり、明治維新(王政復古)も形式的には律令制に基づく。

律令制は、隋唐王朝の時期に周辺領域に広がった。その根幹をなす均田制は、国家が土地を所有し、農民に分配し、租庸調を確保するもの。

これは孟子が理念化したものの、遊牧民が作った北魏において開始された。周辺に始まる制度だから、周辺部族にも広がったとする。

2 ヤマトとコリア
日本の律令制は、コリアやベトナムと比較すべきとする。

大和朝廷における律令制思考の契機は白村江の戦い(663年)の敗戦で、冠位二十六階制定はその翌年である。

日本の律令制は、官位令はそれまでの貴族システムを言い換えただけであり、公地公民制もそれまでの共同体を言い換えただけである。

周辺であるコリアとの違いは、帝国との関係にあり、遠く離れた亜周辺である日本は、689年の飛鳥浄御原令で、王の称号を天皇としても、702年に則天武后は不問に付したという。日本は中華帝国の圏外と見做された?

3 皇帝と天皇
律令制は、互酬的な人格関係に基づいた支配を、官職と位階を媒介とする非人格的な関係に変容させたとする。合議で決められた首長から専制王権への変化。

しかし、大王の時代の制度も保持され、701年の大宝律令では、祭司を管掌する神祇官が設定され、行政権力である太政官の上に置かれた。

これは中国の律令制にはないもので、天皇は権力の中心でなく、権威(祭司)として位置付けられた。

この事は日本の天皇は血統による正統性に基づいており、天命に依拠する中華皇帝とは異なる事を意味する(王朝交替を前提にしない)。

逆に、天皇自身が正統性の根拠となり、交替する権力者を法的に正統化する事になる。武家政権の権威も律令制に依拠し、例えば、1232年に制定された「貞永式目」は、律令制に依拠しつつ、それが及ばない私有地の管理をするものだった。

一方、コリアにおいては、新羅の滅亡や高麗王朝の成立等の易姓革命が発生しており、儒教的観念を強める事象があった。高麗では科挙が始まり、文官が圧倒的に優位になる。武臣政権が生まれるも、やはり尊敬されるのは文官で、日本とは対照的とする?

4 官僚制と文字の問題
日本では、律令制導入にも関わらず、官僚制国家が成立しなかった。

対照的に、コリアでは高麗王朝から科挙に基づく官僚体制が確立された。

それは周辺、亜周辺の問題だけでなく、文字の観点からも説明出来る。官僚制は、官僚が文字を独占している事に基づいており、日本では8世紀頃から表音文字の仮名が生まれた影響があるとする。

15世紀に朝鮮王朝の世宗が、ハングルを公布するが、官僚の抵抗により、公的な場では使用されなかった。

日本では官僚制が弱かったために万葉仮名が普及したとする。

5 漢字と仮名
中国周辺部では、漢字習得が困難であり、文法的にも異質である事から、表音文字が作られた。パスパ文字(モンゴル)、ハングル(朝鮮)、チュノム(ベトナム)等。

日本では、漢語を特権的に使用する官僚支配が無かったために、仮名が支配層にも普及したとする。日本では漢字を選択的に取り入れたために、コリアのように漢字を廃止せず、ベトナムのようにアルファベットを採用する事も無かった。

日本における漢字は内面化されており、公的、論理的、難解を表現する。対して仮名は、心情、感覚的、平易を表現する。

日本文学の特徴を、美的、直観的、断片的として、普遍的理念が無いとするなら、それは亜周辺性によって規定されているから?

6 日本の封建制
日本の封建制は、欧州と同じく亜周辺であるために生じたとする。帝国が生じないため、封土と服従という互酬的システムが生じた。

周辺のやベトナムで官僚制国家が生じたのと対照的に、武家政権となっている。武士の主従関係は、封を介した互酬的関係であり、集権的な官僚組織にはならない。

また、互酬的関係は軍事的に貢献した臣下に恩賞を与えないと継続しない。組織的な支配関係(交換様式B)である中央集権的体制が作られるには、戦国時代を経由する必要があった。

7 徳川体制とは何か
徳川体制の特徴は以下の通り。

① 根拠地
京都ではなく江戸に幕府を開き、皇室に形式的敬意を示す事で、鎌倉時代にあった武家と公家の二元性を取り戻した。
② 都市化
武士を都市に集め、事実上の官僚とした。
③ 中央集権
封建制(地方分権)であったが、参勤交代制度により極めて中央集権的だった。

欧州の絶対王政と異なる事は、鎖国と軍事技術発展の停止である。それは拡大主義の停止であり、秩序安定の意味があった。

徳川家康は、貨幣経済が下剋上を促進し、それが中央集権的国家に帰結し、徳川支配を崩壊させてしまうと思い、封建制を確保しようとしたとする。

8 明治維新以後
明治維新は、天皇親政による律令国家回復を目指す事で実現した。

明治政府は神祇官を復興させ、郡県制を採用した(封建制の否定)。その後、富国強兵政策が採用されるが、それは徳川幕府によって抑制された傾向の復活と言える。

著者は、日本において天皇制が残存した事を帝国・周辺・亜周辺から説明可能とする。日本が亜周辺であったからこそ、帝国の周辺では不可能な天皇を名乗る事が許されたとする。

そして、亜周辺である日本は帝国にはならず、帝国主義的にしかならない。内閉的孤立と攻撃的膨張の間を揺れ動くとする。

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ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた

読んだ本の感想。

パット・シップマン著。2015年12月3日 第1刷。



犬を飼う事でクロマニヨン人がネアンデルタールより優位になったとしたいのかな?著者は自説を確定出来なかったようだ。

第1章 わたしたちは「侵入」した
以下は、Wikipediaの「グローバル侵入種データベース」の記事へのリンク。

https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_globally_invasive_species

著者は、現生人類を生物史上最も危険な侵入的生物とする。人類が侵入した地では例外無く動物相崩壊等の生態学的変化が生じている。

第2章 出発
以下の定義等。

<侵入生物>
生息域と異なる地理的領域に移動した生物。生息域の拡大とは以下の相違がある。

①タイムスケール
②移動距離
③影響力

米国では、500年という期間が在来種と外来種を分かつ境界線として使用される。哺乳類の最小存続個体数(MVP)は約1000個体とされ、それ以下になると遺伝的多様性が消失し、短期間で消滅する可能性がある。

<1/10の法則>
全生物の10%が原生地を超えて分散し(移動生物)、その内の約10%が野生種となり、さらに約10%が野生種として定着し、最終的にその約10%が生態系を破壊する。



<オーストラリア>
現生人類のオーストラリアへの定住は、紀元前4万6000年~紀元前4万4000年頃に発生したとされる。

オーストラリア国立大学アラン・ウィリアムズは、オーストラリアの考古学的遺跡数を個体数の代理指標として、オーストラリア創始者集団の個体数を類推した。

1788年のオーストラリア先住民の人口は77万人~120万人であり、それと整合性のある創始者集団は1000人~3000人程度。オーストラリアは隣接する最も近い陸地から80㎞も外洋で隔てられており、輸送用の船を持つ計画性がある集団であった事が伺える。

<ネアンデルタール人との交配>
現生人類にはおいては、ミトコンドリアDNA(母親由来)にはネアンデルタール人の影響が無いが、核DNA(父母に由来)には1%~4%はネアンデルタール人の影響がある。

その影響は特定領域に偏っており、皮膚や爪、毛髪に関係する蛋白質ケラチンに関係している。これらは寒冷な気候に適応するか、感染予防につながる効果があったとする。

ネアンデルタール人の遺伝子は精巣には全く関係無く、ネアンデルタール人と現生人類の混血男性が不妊であった事を示唆する。

第3章 年代測定を超えて
年代測定が誤っている可能性について。

放射性炭素同位体測定の根拠は、大気中の炭素放射性同位体(炭素14)が、時間とともに崩壊して炭素12に変化するので、試料に含まれる炭素放射性同位体の割合から年代測定が可能とする。

しかし、大気中に含まれる炭素14は数千年以上の期間では一致せず誤差が生じる。他に試料の汚染(5万年前の試料が1%汚染されただけで、3万7000年前と評価される)や劣悪な保存等の問題がある。

著者は、紀元前2万3000年頃までネアンデルタール人が生存していたという説を疑問とし、年代を信頼出来る試料から再測定した結果である紀元前4万年頃をネアンデルタール人が生存した限界とする?

<ネアンデルタール人の特徴>
眼窩上隆起が大きく、頭蓋が細長い。高等部には束髪状隆起と呼ばれる骨が突起した部分がある。男性の平均体重は78kg(初期現生人類は69kg)、女性の平均体重は66kg(初期現生人類は59kg)。

第4章 侵入の勝利者は誰か
現生人類の分散過程について。

<海洋酸素同位体ステージ:MIS>
有孔虫等に保存されている酸素18と酸素16の含有比率から古代の気温を推定する。寒冷期には質料の少ない酸素16を含む水分子が気化し易く、温暖期はその逆。MISに振られた数が偶数だと寒冷期、奇数だと温暖期になる。

MIS1:紀元前9000年~現代
現生人類のみが生存する温暖期。

MIS2:紀元前2万2000年~紀元前9000年
最後の氷河期。ホモ・フロレシエンシス以外は現生人類のみが生存する。

MIS3:紀元前6万年頃~紀元前2万2000年
現生人類がユーラシア平原に入る。数百年で温暖期と短期的寒冷期が入れ替わる「ハインリッヒ・イヴェント」が発生していた。紀元前3万7300年頃には、ナポリ近郊で火山が噴火し、中東欧がカンパニアン・イグニンブライト(CI)と呼ばれる火山灰で覆われた。

ネアンデルタール人の遺跡はCIの下にあり、火山が噴火する前にはネアンデルタール人は絶滅していたと予想する。

MIS4:紀元前7万年頃~紀元前6万年頃
現生人類は、アフリカと中東の地中海地域(レヴァンド)に生息していた。初期人類は寒冷化により地中海地域(レヴァンド)を去り、ネアンデルタール人はMIS3中期まで生存していたらしい。

MIS5:紀元前13万年前~紀元前6万年頃
温暖期。現生人類がアフリカから地中海地域(レヴァンド)に進んだ。

******************

MIS3におけるネアンデルタール人から現生人類への交替は急激であったらしい。地中海沿岸の森林生息地が75%程度収縮した結果、接触型狩猟者(植物に身を隠しながら狩りを行う)であるネアンデルタール人には不利な状況があった。

投擲型狩猟具を用いる現生人類は草原を好んだらしい。

第5章 仮説を検証する
ネアンデルタール人絶滅に関する以下の2つの意見。

①気候変動
②現生人類との競合

上記を検証するために、初期現生人類とネアンデルタール人の食事内容を調べるべきとする(食物をめぐる競合はあったか?)。

第6章 食物をめぐる競争
初期現生人類とネアンデルタール人の食事内容は大きく変わらない。

ただし、大型哺乳類を中心に捕食したネアンデルタール人に対し、初期現生人類は小動物や魚類、軟体動物等も捕食していた。

ネアンデルタール人の摂食スタイルは肉中心で柔軟性が無く、初期現生人類とは競合状態にあったと思われる。

⇒現生人類が侵入する以前からネアンデルタール人は環境収容力の限界に近かった可能壊死があり、ネアンデルタール人の化石には栄養失調等を示す身体的特徴が高い確率で見つかる

***************

紀元前3万年頃~紀元前1万3000年頃に、現生人類のマンモス捕殺数が急増する時期があるらしい(グラヴェット文化期)。

第7章 「侵入」とはなにか
イエローストーン国立公園を例に侵入生物の影響について考える。

<イエローストーン国立公園>
大イエローストーン生態系(総面積7万2800㎢。アイルランド共和国と同程度の広さ)の一部で8991㎢。

1930年代までにタイリクオオカミを絶滅させた事で、被捕食動物であるワピチと、競合関係にあるコヨーテが増殖していた。

1995年~1996年に31頭のタイリクオオカミを導入する(2002年には216頭まで増殖)と、生態系に変化が生じ、2002年までワピチは7%減少し、コヨーテも減少した(3年間で平均6個体の群が12群あったのが、平均4個体の群が9群に)。

以下の影響。

①選択的排除
狼は競争者であるコヨーテを選択的に殺した。
②競争者の密度低下
コヨーテの生息密度が全体で50%、狼の行動中心域で90%減少した。

⇒現生人類がネアンデルタール人に与えた影響も同様だった可能性がある

気候変動の影響を初期現生人類が増幅し、競合者であるネアンデルタール人が絶滅した可能性。

第8章 消滅
ネアンデルタール人の個体群規模と生息域について。

<フランスのドルドーニュ県>
200カ所以上の考古遺跡がある。

この地における現生人類の遺跡はネアンデルタール人より多く、現生人類が到着後、ヒト族の人口は約2.5倍に増加している。

1000当たりの1㎡の石器密度では、ネアンデルタール人の遺跡では1㎡当たり7個~10個であるが、現生人類は0個から18個に増加しており、この指標からは現生人類の増加速度はネアンデルタール人の1.8倍になる。

そして、ネアンデルタール人の人口は現生人類侵入前から少なかったらしい。遺跡に、考古学的遺物が存在しない無遺物層がある事から、初期現生人類はネアンデルタール人がいない地理的領域に入り込んだのかもしれない。

ネアンデルタール人の骨にはヒト族による攻撃を受けた事を示す証拠は殆んど無い。食人の証拠や歯のエナメル質形成不全が高頻度である事から、ユーラシアに現生人類が登場する前からネアンデルタール人は生存困難な状況に直面していたと思われる。

第9章 捕食者
繁殖するための獲物の量や質について。

<基礎代謝率:BMR>
特定の気候で生物が成長し生命を維持するために必要なエネルギー量。

ネアンデルタール人は現生人類と比較して体重が重いため(男性で13%、女性で12%)、BMRが大きかった。そのため、ネアンデルタール人に必要なエネルギー必要量は現生人類より7%~9%大きくなる(毎日275㎉を余分に必要とした?)。

寒冷気候では男性は1200㎉、女性は800㎉が余分に必要であるらしい。哺乳類では、妊娠期に20%~30%、授乳期に35%~145%のエネルギーを余計に必要とする。

ネアンデルタール人の妊婦は一日5500㎉を必要とした。一日にチーズバーガーのラージサイズ10個、またはチキンナゲット17セットを食べる事になる。獲物を取得するための生息密度は、一人当たり3㎢?

これほどのエネルギーを陸上哺乳類のみから取得すると栄養のバランスが悪いとする。

******************

以下は、紀元前5万年頃~紀元前2万3000年頃のユーラシアにおける捕食者。

①ホラアナグマ
雑食動物であり、現生人類と生息地が重なった地域では獲物を変える事で競合を回避出来たらしい。

②ホラアナライオン
現生のライオンより25%程度大きい。ノウマ、大型の鹿、バイソン等を狩っていたと思われ、ネアンデルタール人と競合関係にあっと予想される。

③剣歯虎
現生の虎位の大きさ。現生人類が到着する頃には絶滅していたらしい。

④ホラアナハイエナ
現生のブチハイエナより10%~15%大きい。

他にヒョウやタイリクオオカミ、ドール等。

ネアンデルタール人は中型の大きさであり、上記の捕食者の中で優位な立場になかったとする。

第10章 競争
現生人類の影響について。

紀元前5万年~紀元前4万5000年頃に現生人類がユーラシアに侵入した事により、ホラアナグマの個体数が有意に減少している。ネアンデルタール人がいた頃の動物遺物の55%はホラアナグマだが、現生人類の時代には20%~32%まで減少している。

それと同時に、ドイツでは考古遺物の密度が10倍~15倍になっており、現生人類の乱獲の影響が伺える。

逆にヒグマは草食的になる事で現生人類との競合を回避した?

他の動植物にも甚るの影響が大きく、マンモスや狼を選択的に仕留めていたらしい。

第11章 マンモスの骨は語る
マンモスの骨(遺伝子)による調査。

紀元前4万年頃~紀元前3万3000年頃に、マンモス狩猟に関して大きなブレイクスルーがあった事が伺えるが、マンモスが極端に減少したのは気候変動の影響が大きいらしい。

<クレイド>
共通の祖先を持つ一群の生物を指す用語。

ベルギーからシベリア、米国北西部における320頭のマンモス標本のミトコンドリアDNAを分析した結果、マンモスを以下に分類。

①クレイドⅠ:アメリカ大陸個体群
紀元前12万年頃に、北米で進化し、その後ユーラシアへ広がった。
②クレイドⅡ:シベリア個体群
紀元前12万年頃に、シベリアに残った。
③クレイドⅢ:西部ヨーロッパ個体群
西欧州で孤立していた集団。

以下の経過。

紀元前12万年頃:
地球温暖化による海面上昇により、2大陸が分離。米国とシベリアのマンモス個体群が分裂した。

紀元前6万3000年頃:
寒冷期に2大陸が接続し、クレイドⅠとクレイドⅡが遭遇。

紀元前4万2000年頃:
クレイドⅠが生息域を欧州まで拡大。

紀元前3万8000年頃:
クレイドⅡが絶滅。

紀元前3万2000年頃:
クレイドⅢが絶滅。

気候変動により、MIS3では、クレイドⅠのマンモスも極北地域にのみ生息したとする。

第12章 イヌを相棒にする
遺伝子調査による以下の見解。

①イエイヌの起源は欧州にある
②イエイヌの起源は紀元前3万年頃~紀元前1万6800年頃
③犬の家畜化は農耕開始(紀元前7000年頃)以前

マンモス骨が大量に出土する遺跡の出現時期と、犬の家畜化の時期が同時期とする。

第13章 なぜイヌなのか?
狼は、人間と食物が被っており、性質が穏やかでない点が家畜化に向いていない。

群れで行動し、洞察学習可能な狼は、狩りの有能なパートナーであったと思われる。



古代から犬は人間同様に埋葬されていたと思われる。1894年に発掘されたプシェドモスティ遺跡では出土したオオカミイヌの40%以上に顎や顔の傷が見られ、人間による躾によるものとされる?また犬歯が装身具に加工されている。

************

現生人類による象徴芸術で最古は紀元前3万年頃の絵だが、イヌ科動物の図象は例外的に少ない。人間が描かれる事が少ないように、イヌ科動物を描く事が禁忌になっていたのかもしれない(犬が人間同様と思われていた?)。

同様に、イヌ科動物の骨が見つかる大型遺跡でも、マンモスや馬、バイソン、熊、女性の像は見つかっているが、犬の像は見つからない。

対照的にネアンデルタール人の遺跡ではオオカミイヌの骨はほとんどなく、ネアンデルタール人はオオカミイヌが出現する前に絶滅したのかもしれない。

第14章 オオカミはいつオオカミでなくなったのか?
犬の基本は、人間との意思疎通である。

<東京工業大学 幸島司郎等の研究>
人間の眼球の一部である強膜(虹彩を囲む白い膜)を霊長類では珍しい特徴とする。他の霊長類の強膜は暗色で、視線方向を悟られないようにしている。対して人間は注視している方向が遠方からも明確に分かるとする。

それが犬との共同作業で有効に機能したと推測。25種の犬を以下の3種類に分け、その社会性を分析。

Aタイプ:視線と瞳孔が分かり易い
Bタイプ:目の位置は分かり易いが、虹彩が暗く、
     注視している対象が分かり難い
Cタイプ:視線と瞳孔が分かり難い

上記Aタイプは群れで生活するが、上記Cタイプは単独かペアで生活する。

また、イエイヌは狼よりも凝視継続時間が長く?人間と犬双方が視線による意思疎通を発達させたと推測される。

第15章 なぜ生き残り、なぜ絶滅したか
本書のまとめ。

著者自身が認めているように、初期現生人類が犬を家畜化した事でネアンデルタール人に対して優位となり、絶滅させたという仮説には不明点が多く残されている。

しかし、人類がユーラシアに侵入した事により多くの捕食動物が絶滅した事は確かなようだ。その時期は紀元前4万年頃~紀元前3万年頃と思われる。そして、絶滅の例外であるのは初期人類とオオカミイヌだ。

それ故、著者は初期人類が「家畜化」という技術を手に入れた事により、増殖したという仮説に拘る。しかし、気候変動のみでネアンデルタール人が絶滅したという仮説を完全に否定する事が出来ていない。

そのため、著者は遺伝子科学の進歩を取り入れ、新しい本を出し続けるのだと思う。

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ルーティンに走ってしまう

色々な事が上手くいかない。

周囲の人間が精神的に病み、疲れているところを見ると、自分の10年後、20年後の姿が分からなくなる。

現在の部署が安楽なのだが、会社が倒産した場合、僕は何をしているのだろう。

その場合を考えても判然としない。社会人になってからずっと考えている。

インターネットというのは便利なもので、様々な事が出来るが、それを活用しきれていないのだ。

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