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女學生奇譚

読んだ本の感想。

川瀬七緒著。2016年6月30日 初版。



2016年が舞台。読んではいけない本について取材する人々の話。

以下、ネタバレ含む。

女學生奇譚:
昭和三年六月発酵。発行所は日本橋の兎書館。

語り部の佐也子(17歳)が先輩である「蒼月の君」に騙されて、資産家の家に他の少女と監禁される筋書き。徐々に佐也子は狂って生き、逃亡を試みた道江という少女を裏切って捕らえさせる。昭和三年に実際にあった少女誘拐事件を版としているらしい。

【登場人物】
八坂駿:
34歳のフリーライター。ウルバッハ・ビーテ病であり、恐怖を感じない。そのために興味を持たれる。

芹澤聡:
八坂駿の一卵性双生児の弟。母の突き落として流産させた事で、両親が離婚して父に引き取られ、20歳の時に父と祖父母を殺して監禁されている。他人を操って自殺させたり、兄を調べたりしているらしい。

火野正夫:
オカルト雑誌の編集長。60歳。

篠宮由香里:
36歳の女性カメラマン。180㎝近い長身で、建築関係の写真を撮影していたが、不倫で会社の金を使い込み、オカルト系の仕事をしている。

竹里あやめ:
27歳。米国でボランティア活動をしていたが、悩みを相談した少年が、竹里あやめを悩ませる人間を殺した事で訴えられ六億円の借金がある。兄(曽根秋彦:34歳)の失踪とからめて、読んではいけない本を持ち込む。

臼井三郎:
60歳。昔は火野正夫と組んで、口裂け女の噂を流したりした。

勝浦民代:
昭和三年に失踪した友人を捜して新聞記事に掲載される。勝浦足袋(T・Kソックス社)の令嬢であり、105歳となった今でも存命で「蒼月の君」が実在した事を教える。

相原幸人:
法医学の専門家。潔癖症。『女學生奇譚』を鑑定し、インクの酸化具合から一年以内に作られたと断言する。

宍戸義隆:
子爵であり、鎌倉にある屋敷に少女を監禁していた。『女學生奇譚』執筆時には30歳前後。人肉食のためクールー病になる。

宍戸響子:
宍戸義隆の従姉妹。帝京タクシー経営者の娘。蒼月の君。ビオラ奏者で18歳でパリに留学。35歳で病死。人肉食のためクールー病になる。

火野小夜:
火野正夫の母。帝京タクシー支社長の娘。監禁されていたが、逃げ出し、『女學生奇譚』を著す。通報しようとしたが、金と地位で黙らせられたと推測される。昭和26年、38歳で処女作を出して50歳で亡くなるまでに七作品を書く。

【あらすじ】
オカルト系雑誌社に持ち込まれた「読んではいけない本」を調べる話。持ち込んだ人間の兄は失踪したとして、本の値札に使用された包装紙から、デパートの古本市、販売した古本屋を突き止める。

そこで、本が古い紙を使用しているものの、印刷方法や紙の裁断方法、糊等が新しいもので、一年以内に作成されたものである事を知る。

火野正夫の目的は、八坂駿の精神を動揺させて観察、実験する事にあったらしい。

失踪事件そのものは、実際にあり、女學生奇譚に書かれた屋敷の構造や、蝶の間という言葉から蝶の家紋を使用する家を調べ、監禁の目的が人肉食にある事を知る。

八坂駿が、屋敷を調査中に逃亡した実験の協力者 竹里あやめを篠宮由香里と一緒に米国に探しに行く事を決めたところで物語は終わる。

P126:
今の若い方はかわいそうね。自分たちで掴み取るものがないもの。すべて用意されて整えられて、誘導されて、決められた枠のなかで美しいまま生きているの。お池を泳ぐきれいな錦鯉みたいに。かわいそうに

P311:
情報というのは突き詰めなければ意味がない。たとえば駅に着いたら電車が止まっていたとする。非常停止ボタンが押されたらしい。なぜ?線路にだれかが落ちたから。なぜ?人に押されたから。なぜ?ホームが混んでいたから。なぜ?別の電車が止まって客が流れてきたから
(中略)
ほとんどの人間は、非常ボタンが押されたことがわかれば納得してしまうんだ。その先を考えない。別の目的があって電車が止められていたとしても、人は気づかないんだよ

P316~P317:
以前、人間行動学の論文を読んだことがある。嫌悪統制、選択行動、刺激性制御、協力行動、教示効果。まあ、もっといろんな分野を行動実験で細かく分析していくわけですよ。人間行動の法則発見が目的で、実社会の応用へ向けて研究されている
(中略)
恐怖を感じない人間に対する心理行動実験だ

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島はぼくらと

読んだ本の感想。

辻村深月著。2013年6月4日 第一刷発行。



瀬戸内海に浮かぶ冴島を舞台にした物語。終戦から10年経過していない60年ほど前に火山が噴火し、三年で収まったらしい。

【登場人物】
池上朱里:
高校三年生。10年後は看護師になる。

榧野衣花:
島の網本の娘。10年後は村長になる。

矢野新:
脚本家志望。

青柳源樹:
リゾートホテル経営者の息子。両親は離婚し、父親と島にいる。母はデザイナーで、後輩デザイナーと不倫をしていた。

多葉田蕗子/未菜:
元水泳オリンピック選手の親子。

谷川ヨシノ:
島の女性を集めた会社『さえじま』の専門アドバイザーである30代前半の女性。

本木真斗:
三年前にIターンした28歳の男性。昔は医者だった。

〇伝説の脚本
冴島には、植埜喜久夫という劇作家が書いた小学校の劇の台本『見上げてごらん』が伝わる。火山の噴火で疎開している子供達のために、人数が少なくても出来る劇を作ったらしい。

霧崎ハイジという自称 作家が島に脚本を探しに現れたので、矢野新が書いた台本を「幻の脚本」と偽って渡し、帰ってもらう。矢野新の書いた脚本は、霧崎ハイジ作『水面の孤毒』として中央テレビのシナリオコンクールで最優秀賞を取る。

〇大矢村長の問題
『さえじま』がテレビで取材される事になり、国土交通省の名がテレビに出ると国の手柄になると大矢村長が反発。島に医者がいないのも、島の有力者 外波家の孫が医者として帰還するのを待っているためとされる。

〇島の外へ
池上家の祖母と仲が良かった縞野家の祖母が亡くなり、千船碧子という仲が良かった同級生が島外にいる事を知り、死を知らせるために修学旅行を利用して東京に行く。
引っ越していたが、近所に引っ越し先を知っている人がいて、修学旅行後に連絡が来る。小学校の教師をしていたが、一昨年、死んでいた。

P54~P55:
霧崎さん、分析しちゃうんだ。Iターンの飲み会でも、段階についての話をしてた
(中略)
無関心が一番悪い状態(中略)興味を示される段階、『不便なことはないか』と心配される段階……と移っていく。自分は、来る時に、おしゃれなスーツケースを『気取りやがって』って島の人に言われたから、脈があるって言ってた
(中略)
そういうのが上から目線だっていうのよ。そんな段階段階ごとに、現実がきれいに色分けできるわけないじゃない
(中略)
頭でそんなふうに考えちゃうんだとしたらつらいだろうなって思ったんだよ。ともかく、霧崎さんはそういう“考える人”だ

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リライトシリーズ

読んだ本の感想。

法条遥著。

タイムスリップを題材にする。著者が前著で書いた矛盾を解消しようとした結果、矛盾が拡大していく印象。

リライト
2012年4月20日 初版印刷。



2002年と1992年を往還する物語。

【登場人物】
石田(大槻)美雪:
2002年時点で、高峰文子として作家になっている。三歳下に妹の雪子がいる。新婚だが夫の石田章介は建築の仕事で南米に赴任している。N中学二年生だった1992年に、未来人 園田保彦と恋愛関係になる。1992年7月21日に、中学校旧校舎倒壊によって建物の下敷きになった園田保彦を助けるために、2002年にタイムスリップして携帯電話を入手して1992年に戻り、電話をかけて園田保彦の居場所を知る。
2002年になっても携帯電話を取りに戻る人間が来ないので当惑している。中学二年生時の実体験に基づいた『時を翔る少女』を出版しようとしている。

園田保彦:
2311年から1992年にやって来た未来人。ラベンダーの香りのする薬で時間旅行を行う。薬は園田保彦以外が使用すると、五秒しかタイムスリップ出来ない。1992年には、骨董品マニアの親が持っていた1990年代初めを舞台にする学校小説を探しに来た。

酒井茂:
二年四組の副委員長。園田保彦と一番親しかった。

桜井唯:
二年四組のクラス委員長をしていた。2000年時点で殺される。新聞社に在籍。中学生時に美少女だったが、成人したら野暮ったくなっていた。

林鈴子:
二年四組に在籍。

雨宮友恵:
二年四組の生徒。野暮ったい眼鏡をかけた田舎娘だったが、成人したら美人になっている。読書好きで、クラス中からいじめられている。

増田亜由美:
二年四組に在籍。2002年時点で暴漢から襲われるが生きている。小説家志望で居酒屋でアルバイトしていた。中学時代は美少女だったが、面皰だらけの顔になる。

長谷川敦子:
二年四組一の美人。脚本家志望だったが2001年時点で殺される。モデルだったが鼻の整形に失敗。

P76
今は、私の『番』なのに

********************

【あらすじ】
主人公 石田美雪は、1992年に未来人 園田保彦との恋愛経験を持っており、2002年にタイムスリップして携帯電話を手にして、園田保彦を助けた記憶があるが、2002年になっても過去の自分が携帯電話を取りに戻って来ない事に当惑している。

当時の体験に基づいた小説『時を翔る少女』を書いているが、自分のかつてのクラスメイト達が二人殺され、自分の本名を調べるストーカがいる事を知る。中学校時代のアルバムには、7月21日に帰還したはずの園田保彦が運動会や剣道部で活動する写真が掲載され、卒業時の寄せ書きに『また、未来で』という園田保彦からのメッセージを見つける。

真相として提示される話は、園田保彦は担任を含むクラスメイト全員と小説探しをしており、記憶操作用具を使って、それが自分だけの記憶であると思い込ませていたというもの。

園田保彦は、自らの探す小説が、自分との小説探しを元に書かれた小説である事を知り、最初に一緒に小説探しをした石田美雪が小説を書くと思うが、石田美雪は小説家ではなかったため、未来に戻る事が出来ず、本当の著者が分からないために7月3日と7月21日を往復し、酒井茂の協力でクラスメイト全員と同じ現象を再現し、同じ記憶を植え付けていた。

カラクリに気付いた中学二年生時の雨宮友恵は、中学校旧校舎倒壊時にタイムスリップせず、『時を翔る少女』を2002年時点で手にすると1994年の自分に渡す。雨宮友恵は『時を翔る少女』を書く可能性がある人間を殺すと脅し、自分の夫になるよう言う。

石田美雪が『時を翔る少女』を書けたのは、中学生の時に雨宮友恵の部屋で『時を翔る少女』を読んだから。

タイムパラドックスが発生し、園田保彦は未来に帰る事が出来ないが、皆の記憶にも残らない状態になっているらしい。

リビジョン
2013年7月20日 印刷。



複雑で良く分からなかった。

未来視をする能力を持つ千秋霞(27歳)が主人公。1992年に書店員をしており、園田保彦が探す小説を未来視で探した結果、存在が不確かな小説を検索したためにタイムパラドックスに巻き込まれる。

千秋霞①
弟の千秋邦彦との間に保彦という子を作る。

千秋霞②
書店の同僚 坂口清と1995年に結婚し一男一女をもうける。

未来視をする鏡で過去や未来の自分と交流し、複雑なやり取りをする。どちらを選択しても不幸になるらしい。最終的に、ヤスヒコは鏡の力で一条家に送られ、一条保彦になる。

リアクト
2014年4月20日 印刷。



タイムスリップする薬を発明した園田保彦を探しに、3000年から1992年に来たホタルが主人公。

【矛盾した種明かし】
プロローグ2で、ホタルと保彦の辻褄合わせが行われる。『リライト』で園田保彦の写真が卒業アルバムにあったのは、園田保彦が1992年7月を繰り返す内に二年が経過した事で見た目が変わり、成長したように見えた = 過去が変わったように見えたためとする。写真は携帯電話のカメラ機能を使ったためとする。

⇒辻褄が合わない。携帯電話は7月21日に手にし、データを取り出す機材も無いのに写真に出来るはずがない。運動会や剣道部での活動とも整合しない

ホタルは1992年時点に行き、雨宮友恵の家に暮らす坂口穂足と入れ替わるように生活するようになる。

坂口穂足は、兄と結婚する義姉である坂口霞の姿が見えず、筆談で会話をしている。日常生活に支障をきたすために雨宮家で暮らす。雨宮友恵は『リライト』を書き、その原因を類推する。

すると本当に園部保彦が転校し、その通りに行動し始める。石田美雪にあたる生徒が存在しないため、ホタルは自らの記憶を改竄し、石田美雪として生きる事にする。

リライフ
2015年3月20日 印刷。



今までの辻褄合わせだが、ますます矛盾が拡大しているように思える。

小霧という転生を繰り返す盲目の女性が登場。国枝小霧として1992年に生れ、1998年に父の再婚で一条保彦という義兄が出来る。

一条保彦は、タイムパトロールのホタルから貰ったラベンダーの薬を使って未来に飛び、小霧の盲目を治そうとし、自らがタイムパトロールの創始者となる。小霧の盲目は治癒したらしい。

ラベンダーの花言葉:あなたを、待ってる

⇒回を追う毎に複雑になり、リビジョン以降の話は読んでも解らない。リライトも自信がない

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人とミルクの1万年

読んだ本の感想。

平田昌弘著。2014年11月20日 第1刷発行。



世界の陸地面積の約37%を占める乾燥地帯では、水資源の制約から家畜飼育の比重が高い。

1章 動物のミルクは人類に何をもたらしてきたか
ミルクの成分の多くは乳腺で血液から合成され、牛の場合、1ℓのミルクを生産するのに、約500ℓの血液を必要とする。牛等の反芻動物は、消化し難い食物繊維も消化出来るため、栄養化の低い食物に依存してミルクを生産可能。

動物は家畜化されると管理し易いように小型化し、角も蹄も退化し、多く出産するようになる。畜産には手間がかかるため、ミルクを利用する技術が無ければ狩猟の方が効率が良い(肉利用から乳利用への転換で食料を生み出す効率は3.7倍になる)?

ケニアのトゥルカナ族やマサイ遊牧民は食料の約60%をミルクに依存している。

2章 人類はいつからミルクを利用してきたか
西アジアでの出土遺跡等から、少なくとも紀元前7000年頃には羊、山羊が重要な家畜となり、牛や豚は紀元前6400年頃に家畜化されたと推測する。

<ミルクの科学>
牛乳の構成成分は、水分87.7%、蛋白質3.0%(2.3%はカゼイン、0.7%がホエイタンパク質)、糖質4.4%、脂質3.8%であり、脂質のほとんどはトリグリセリド(グリセリンに三つの脂肪酸が結合)の脂肪。

カゼインは熱に対して安定で、酸度が増すと沈殿する。チーズを造ると、ホエイ(乳清)という黄色い水が出るが、それにホエイタンパク質が含まれる。

スイギュウの乳脂肪率は7.4%、羊は7.2%あり、馬は1.9%と脂肪分が少ないが、乳糖が6.2%と高く(牛4.6%、水牛4.8%、羊4.8%)、微生物が発酵し易いため乳酒の原料となる。

乳脂肪はミルクの中に脂肪球膜に包まれて存在しており、静置して表面に浮上したものがクリームで、攪拌して脂肪球膜を破壊し、脂肪のみを集めたのがバターになる。チーズは、有機酸を加えてカゼインを凝集させ、塊にしたもの。

以下の四つの乳加工の系列群。

①発酵乳系列群:発酵乳のヨーグルトにしてから加工
②クリーム分離系列群:クリームを取り出し加工
③凝固剤使用系列群:凝固剤を入れてチーズにする
④加熱濃縮系列群:過熱して濃縮

3章 ミルクの利用は西アジアの乾燥地で始まった
乾燥した西アジアで、草原に自生する植物を利用出来る牧畜が発達した。

シリア内陸部のバッガーラ牧畜民は、ミルクをそのまま飲む事はほとんどせずにヨーグルト等に加工する。さらにヨーグルトからバターやチーズを作る(発酵乳系列)。

ヨーグルトにするだけで、夏場の炎天下で50℃近くなる気温でも数日は腐らなくなる。そのヨーグルトを羊の革袋に入れて揺らすとバターになる。バターを煮詰めたバターオイルは水分は少ないため数年間の長期保存に耐えるという。

攪拌したヨーグルトから、バターを掬い取った後に残るバターミルクを加熱して乾燥させるとチーズになる。バッガーラ牧畜民のチーズは熟成させない。

4章 都市文化がひらいた豊かな乳文化-インドを中心に
西アジアから南アジアに伝わった乳文化は、インドで発展した。

インドのミルク生産量は、1998年に米国を抜き、2012年で年間一億二0000万tと世界第一位。水牛(一日の乳量約15ℓ、乳脂肪率約7%)と在来種のゼブー(一日の乳量約10ℓ、乳脂肪率約4%)では水牛の方が多く飼育されるようになっている。

<チャイ>
沸騰した湯に、茶葉、ミルク(水牛)、砂糖、チャイ・マサラ(香辛料)、生姜を加えて出来る。インドの紅茶は、1839年に英国がインド北東部で野生の茶を発見し、アッサム種の紅茶を生産し手から始まる。ダージリン種の紅茶は19世紀中頃に中国から茶の木を持ち込んでから栽培される。

赤道に近いインドでは、家畜は季節的な繁殖をしないため、一年中搾乳する事が可能。さらに、熱い気候はミルクにヨーグルトの種菌を加え、一晩放置するだけで発酵させる事を可能にする。

新鮮なミルクを年中得られるために、インドの牧畜民はチーズの形で乳蛋白を保存しないらしい。豊富な豆類による蛋白質も乳蛋白保存の必要性を下げる。ヨーグルトやバターは嗜好品として作成される。

ただし、インドの都市部にはチーズ作りを含む様々な乳利用の文化があり、牛を殺せないために、有機酸として牛の胃の代りに、柑橘系の果汁を凝固剤として用いてチーズを作る伝統があったらしい(現在は酢酸等の有機酸)。

5章 ミルクで酒をつくる-寒く、乾燥した地域での乳加工
冷涼な気候を利用したモンゴルの乳文化。

大草原に暮らし、市場と頻繁に交易出来ないモンゴル遊牧民は肉を食べる割合が多く、家畜を去勢して雄でも手元に多く留めようとする。

家畜の交尾も管理しており、羊と山羊の種雄に前掛けを付けて、三月中旬から四月中旬に子畜が一斉に産まれるように、十月中旬から前掛けを外す(植物の生育は四月下旬から九月下旬であり、その期間で子畜を成長させる)。

モンゴルの乳加工の特徴は、クリームを大量に作る事にあり、それからバターを作る。ミルクを鍋で加熱してクリームを集めた後に残るスキムミルク(脱脂粉乳)はチーズにする(凝固剤としてヨーグルトを利用)。寒い気温を利用して、十月下旬から一一月下旬に搾乳したミルクを冷凍保存する技術もある。

熱い地域ではミルクを静置するとクリームが分離する前にヨーグルトになるか腐る。馬乳酒も14℃~16℃の低中温を保つ事が出来る寒冷な気温だから実現した文化かもしれない。

6章 ヨーロッパで開花した熟成チーズ
チーズの熟成が欧州の特徴。黴や酵母を利用したチーズは、最初は冷涼な冬においてのみ作られたとする。

水分が多いソフト系チーズは塩水に漬け、水分が少ないハード系チーズは湿度が70%~80%あれば熟成するので、夏でも冷涼で湿度が70%ある欧州の山岳地帯で熟成したハード系チーズの文化が発達した。

<パルメジャーノ・レッジャーノ>
13世紀末に作られ始める。パダノ・ヴェネタ平野に排水システムが調えられてから乳牛を大量に飼育出来るようになった事が契機で、レンネットを加えて凝乳とし、55℃まで加熱して水分を排出し、塩水に25日ほど漬ける。夏は暑くなり、湿度が低下するために熟成庫を建築士、湿度を保った。

<ウォッシュ系チーズ>
チーズの表面を塩水で洗うと、多種類の黴が表面に展開され、微生物の分解作用で熟成される。より高い湿度が必要で、平均気温が5℃を下回る冬に洞窟や地下室で製造されたとする。

1791年頃に誕生したカマンベールは表面に白黴を生やし、多忙な農家の副業として作られたとする?

7章 ミルクを利用してこなかった人びと
ミルクを必要としなかった文化。

①母子関係への介入
谷秦氏は、人間の管理の下で数百頭の群れを飼育すると、母子の相互認識が不安定化し、人間が哺乳を助ける必要があり、それが搾乳の切っ掛けだったとする。数百頭規模の群れを飼育しない東・東南アジアでは搾乳が発生しなかった?

②食文化
15歳~17歳の弾性のカルシウム摂取目標量は、一日当たり850㎎。ミルク以外にカルシウム供給源が無い地域と違い、海水魚や小松菜等のアブナラ科の濃緑色野菜を食す文化ではミルクの必要性がやや低い。

③アメリカ大陸
アンデス高原の人々のカロリー摂取量の約78%はジャガイモ由来で、カルシウムは石灰を穀物と煮込んで粥にしたり、穀物の灰を塊にして乾燥させたリプタを噛む事で摂取しているらしい。

日本に乳文化は、嗜好品、栄養補助食、西欧型の食文化、米との融合(チーズカレー、ドリア等)、発酵食品との融合(味噌や醤油等)という型で入り込んでいる。

8章 乳文化の一万年をたどり直す
今までのまとめ。

搾乳は難しい技術で、西アジアで発明されて周辺地域に伝播したと考える。南アジアの乳文化は、西アジア型発酵乳系列群からチーズ加工のみが欠落した体系であり、インドの都市において加熱濃縮系列群という独自の形態が発達した。

他にユーラシア北方のクリーム分離や、欧州の熟成チーズも特徴的である。

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